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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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力の接ぎ木



■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:肉嫌いのチェーン


『とにかく、私は復讐を歓迎する』


「そ、そうか……」


 バフォメットとフェルグス、双方が納得しているのなら……別にいいのか。


 その後も訓練を見学させてもらったが、フェルグスは真面目に訓練を続けていた。バフォメット相手でも妙なことはせず、訓練を続けている。


 その瞳は……濁っているようにみえたが、アイツは大義を優先してくれたって事だろう。アイツも理性的に動いてくれているようだ。


 正直、少し意外だ。


 前はもっとワガママというか、年相応にガキだったのに――。


「まあ……助かるよ。巫術師達にとって、アンタは良い教官だ」


 バフォメットの横で見学を続けつつ、そんな言葉を投げかける。


 教えるのが上手い――と言ったが、バフォメットは「大した指導はしていない」と言った。謙遜しなくていいのに。


「実際、フェルグスの動きは格段に良くなっている。流体甲冑だけであれだけ出来るなんて……アンタの指導のおかげだろ?」


『アレはあの子自身の力だ。私は大した助言は出来ていない』


 バフォメットは本気で言っているらしい。謙遜ではないようだ。


『ほんの数日で、あの少年は一気に成長した。<曙>の艦内で相対した時よりも強くなっている。正確には巫術(イド)の力が増している』


「巫術の力って……そんな数日で強くなるものなのか?」


『普通は無理だ』


「じゃあ、何で? フェルグスがコツを掴んだとか?」


『おそらく、輸血(・・)の影響だ』


 スアルタウが死んだ時、フェルグスは輸血を受けた。


 その輸血によって生かされ、スアルタウだけが死んだ。


『輸血の際に、死んだ弟の力が継承(・・)された可能性がある。それによって概ね1.5倍の強化が発生している』


「巫術って、そんなこと出来るのか?」


『私も初めて見る事例だ。だが、似た事例は知っている』


 巫術の力は「最初の巫術師(バフォメット)」が源になっている。


 <真白の魔神>っていう魔神が、バフォメットの体液を材料にした加工血液を作り、それをネウロン人に与えた事で巫術師が増えていった。


『私の血が、被験者達の巫術師覚醒を引き起こした――とも言える』


「まあ、それも一種の輸血か……。確かに似ている。フェルグスの場合は……弟の力をそっくりそのまま受け継いだ、って感じか」


『そっくりそのままではない。半分程度だ』


 どっちにしろ、フェルグスは強化された。


 バフォメットの見立てが確かなら、輸血によって強化された。


「それって、再現できるものなのか?」


『巫術師を潰して、1人に力を集約させる――とでも言う気か?』


「いや、さすがにそんな非人道的なことはさせねえよ……」


『…………。再現は難しいな。巫術師から巫術師の輸血自体は、以前も行われた事がある。その時、今回のような強化は行われなかった』


 フェルグスとスアルタウの場合、特殊な条件が奇跡的にかみ合った強化だった可能性が高いらしい。……兄弟だから、なのかね?


 バフォメットは『ほぼ同時期に覚醒した巫術師だから、という事情もあるのかもしれん』と言いつつ、どちらにせよ再現は難しいだろう――と結論づけた。


『私は科学者ではない。真白の魔神(マスター)なら少年の事例を元に再現してみせただろう。そしたら『強化巫術師』が量産出来たかもしれんな』


「へー……」


『強化されたといっても、私並みにはなっていない。解放軍(きさまら)の浅知恵で手を出すのは推奨しない』


「ヴァイオレットには、アンタの主みたいな事は出来ないのか?」


 どうも、ヴァイオレットは特別な知識を持っている様子だ。


 元々、アイツはどこかおかしかった。記憶喪失のくせに混沌機関の整備方法を知っていたり、ヤドリギなんて代物を作っていた。


 巫術と親和性の高いヤドリギの存在から察するに、ヴァイオレットと真白の魔神は何らかの関わりがあるはずだ。……そいつの代わりは出来ないのか?


「ああ、いや、ヴァイオレットじゃなくて……スミレ嬢だっけ?」


『……あの子はスミレではない。ヴァイオレットだ』


 巫術師の訓練風景を見つつ、喋っていたバフォメットがチラリとこちらを見た。


 どうやら癇に障る発言だったらしい。謝ると、バフォメットが言葉を続けた。


『彼女だろうと、スミレだろうと、マスターの真似事は出来ん。スミレはとても優秀な子だったが……マスターのようなイカれた天才ではない』


「アンタの主がマッド……もとい、手段を選ばない天才だったって話か?」


『マスターにはそういう一面もあったが、私が言いたいのはそういう話ではない。マスターはただの天才ではなく、異能持ち(・・・・)の天才という話だ』


 意味がわからないが、丁寧に説明してくれる気は無いらしい。


 とにかく、真白の魔神並みの仕事をヴァイオレットに望むのは酷らしい。


 まあ、真白の魔神は結構スゴいことをしたらしいから……そこまでは望まない。近い成果さえあればいいんだ。……正義のための力が必要なんだ。


 交国を倒すためには、力が必要だ。


「……何度も人体実験を行えば、巫術師も強化できるんじゃないのか?」


『…………』


「もちろん、実験台にするのは巫術師じゃない。オレだ」


『貴様が……?』


「オレは交国への復讐を望んでいる。どんな手段を使ってでも、交国政府を倒したい。……そのための力が必要なんだ。まずは……オレを巫術師にしてみないか?」


 巫術師は有用だ。


 弱点があろうと、もう少し増やしておきたい。


「オレは交国のオークだ。痛みを感じない。巫術師の弱点も踏み倒せる」


『貴様の場合、痛覚の有無に関係なく……ネウロン人のような頭痛を感じることはない。アレは巫術起因のものではないからな』


「あぁ、そうなのか。まあ、どっちでもいいんだが……巫術の力の源泉はアンタなんだろ? アンタの血なり体液を、オレにブチ込んだら巫術師になれるんだろ?」


 オレを巫術師にしてくれ。


 オレに力をくれ。


 そう頼んだが、バフォメットは首を横に振った。


「出し惜しみするってことか?」


『巫術師を作るために必要な<覚醒血晶(グリモア)>の作り方は――私の知る限りでは――マスターしか知らん。ヴァイオレットに聞いても無駄だぞ』


 単に体液を貰うだけじゃダメらしい。


 ……そこらの巫術師の血、少しわけてもらったら覚醒しねえかな、オレも。


『……そこらの巫術師の血をわけてもらっても、覚醒はしないぞ』


「何でオレが考えてることわかるんだよ……」


『その程度の浅知恵ということだ』


 フェルグスの「強化」は、かなり特殊な事例らしい。


 似たような事は真白の魔神さえいたら、出来るかもしれない。けど、少なくともバフォメットやヴァイオレットには無理らしい。


 オレも力を手に入れられると思ったんだが……そう簡単にはいかないか。


『仮にマスターがいたところで、貴様らを巫術師にするのは難しいだろう。適正のあるネウロン人ですら、覚醒者は限られるのだ』


 バフォメットの主がネウロンに来たのは、ネウロン人が「巫術」への適正を持っていたから。ネウロン人ですらないオレには、適性を持つ可能性は乏しいらしい。


「けど、可能性ゼロってわけじゃあないんだろ?」


『ああ。ネウロン人以外も、巫術師になる可能性はある』


「試すだけ試してみないか? オレは力が手に入るなら、死んでもいいんだ。巫術師の血を適当に入れてみてくれよ」


『死ねば復讐の機会もなくなるぞ』


「オレの死体が『オークの巫術師化』の礎になるなら、悪くない」


 出来れば自分の手で玉帝を殺したい。


 けど、オレが……交国との戦いで生き残れる保証はない。


 その辺で犬死にするより、礎になれた方がマシだ。


 オレの死体が……交国打倒の力になるなら本望だ。意味のある死なら悪くない。……それならアイツもオレを許してくれるはずだ。


『必死だな』


「交国は強大なんだ。力はどれだけあっても困らねえ」


『仮に解放軍が巫術師を量産したところで、交国が犬塚銀を使って作り上げた流れは、そうそう覆せないだろう』


「…………なんでお前がそれを知っている」


 通信障害は解消されたとはいえ、界外の情報はまだ伏せられている。


 ドライバ少将が段階的に明かすはずの情報を、何で「解放軍の協力者」に過ぎないバフォメットが知っているんだ……?


『ドライバ達は必死に隠しているが、私に隠せる話ではない。隠したいならせめて、私が憑依可能な方舟の外で話せ。盗聴は用意だったぞ』


「良い趣味してんなぁ……!」


『安心しろ。吹聴するつもりはない』


 バフォメットは心強い戦力だが、あくまで「協力者」だ。


 オークじゃない。オレ達と志を共有できる同胞じゃない。


 今は手を取り合えるが……あんまり、油断できないな。


 最悪……どこかのタイミングで殺し合う必要もあるかもしれない。


 コイツはあくまで「人捜し」のために交国と敵対しているらしい。それが終わったら解放軍から逃げ出しかねないし、下手したら……交国に寝返る危険もある。


 もし、コイツまで敵に回ったら……ネウロンの解放軍は蹴散らされかねない。タルタリカとバフォメットが裏切ってきたら、オレ達は終わりだ。


 ……コイツの弱点も探さなきゃダメかもな。


 一騎当千の力を持つコイツを、コロリと倒せる都合の良い方法でもあればいいんだが……。そんなもの、転がってないか。


『情報統制は私にとっても都合が良い。界外の情報は解放軍上層部の判断で好きにコントロールすればいい。今のところ、口出しするつもりはない』


「今のところ……ね」


『それはさておき、巫術師用の鎮痛剤補充を何とかしろ。アレばかりは私にはどうしようもない。兵器なら敵から奪えばいいが、薬は簡単にはいかんぞ』


「わかってるよ。そういう物資も……ちゃんと手配している」


 手配しているはずだ。


 ドライバ少将と、同志イヌガラシが手配しているはずだ。


 ……けど、本当にあの人達に任せて大丈夫なのか?


 オレにどうこう出来る話じゃないが……鎮痛剤が切れたら、巫術師の弱点をカバーしきれなくなる。ヤドリギだけじゃ無理のはずだ。


「…………」


 一瞬、フェルグス達が薬なしで戦っている光景が脳裏を過った。


 奴らが、血を吐きながら戦っている光景が過った。


 ……でも、それは……オレ如きが、どうにか出来る話じゃない。


 少将達が……なんとかしてくれる……はずだ。


 まあ、巫術師は重要な戦力だから……鎮痛剤の在庫が少なくなったら後方に回されるだろう。ヤドリギがあれば、巫術師は後方でも十分仕事が出来る。


 フェルグス達のようなガキが死ぬとしたら、オレより後のはずだ。


 解放軍の先輩として、死ぬならアイツらより先に死んでやる。アイツらよりずっと危険な場所に飛び込んでやる。それがオレの果たすべき責任だ。


「ああ、そういえば巫術師の弱点についてなんだが――」


 アレって、お前の方で何とか出来ないのか?


 巫術はそのまま。弱点だけ消せないのか?


 それさえ出来れば、巫術師用の鎮痛剤はいらなくなる。


 そう思って聞いたんだが――。


『――――』


 バフォメットは基地の一角を見つめたまま、流体で武器を作り出した。


 視線の先にいるのは……雪の眼(・・・)か?


 ラプラスって史書官と、その護衛が巫術師の訓練風景を見学している。


 オレ達とは離れたところで見ているが……バフォメットがそれを気にしている。


「どうかしたのか?」


『巫術師共を連れ、方舟に逃げ込め』


「は?」


『急げ。早くしろ』


 バフォメットはそう言い、動き出した。


 雪の眼の2人に向けて走り出し――護衛(エノク)に向け、武器を振り下ろした。





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