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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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主人気取りの奴隷達



■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:死にたがりのラート


「…………」


 俺は異物だ。星屑隊(おれたち)が異物なんだ。


 ネウロンに来て、フェルグス達に会って「侵略者」として睨まれた。


 あの件も解決していないが、今は解放軍にとっての異物になっている。


 久常中佐のような拷問されずに済んでいるのは、副長のおかげだ。


 副長に守られている事はわかる。わかるけど――。


「ところで少将、そろそろ会議が~……」


「おっと! そうだった! まあ、もう少し待ってくれよ同志イヌガラシ!」


 イヌガラシと名乗ったドワーフが、揉み手しながらドライバに話しかけた。


 ドライバはそれに応じつつ、副長の肩を叩きながら言葉を吐いた。


「そういえばアラシア、キミの解放軍幹部入りがほぼ内定したぞ!」


「かっ、幹部ですか……!?」


「キミはバフォメットという大きな協力者を引っ張ってきた逸材だ! 階級の階段を飛ばし、一気に幹部になっても誰も文句は言わまい!」


 そう言われた副長は戸惑った様子でいる。


 さすがに、異例の話らしい。


「いや、オレは……あくまで勧誘しただけで……。大したことは……」


「我々は交国軍のような古い軍隊ではない! 解放軍はこれからもっと大きな組織になるからな! 幹部も増員しなければならないんだよ」


「あ、あぁ、なるほど……?」


通信障害(・・・・)が終わったら、幹部会で提言する予定だ。ビフロスト側の復旧作業が遅れているようだが、奴らもいい加減、障害を終わらせてくれるだろう」


 驚きつつも嬉しそうにしている副長が、「幹部会後、キミは大佐に昇進するだろう」と言われ、さらに笑顔を見せた。


「キミが仲間にしたのはバフォメットだけではない。巫術師(ドルイド)の協力が得られたのも、キミのおかげだ。バフォメットが起こした騒動で一時はどうなる事かと思ったが……キミのおかげで何とかなった!」


「子供達まで、戦いに巻き込むつもりなんですか!?」


 無視できない言葉を聞き、問いかける。


 ドライバは「交国のオークの離反」じゃ満足しない。


 解放軍にもっと多くの戦力を引き込もうとしている。


 その中には、巫術師の皆も含まれている。


 こいつは、巫術師を……テロリストに仕立て上げるつもりだ。


「巻き込む? そんな事はしない!」


「あの子達が、自分の意志で戦うと?」


「その通り! だって、悪いのは交国(・・・・・・)なんだよ?」


 彼らも復讐を望んでいる。


 ドライバは笑顔でそう言った。


 副長にとって、ドライバの笑顔はとても親しみ深いものなんだろう。


 俺にはそう見えない。……コイツは、詐欺師の笑顔だ。


 そもそも、ドライバは……繊三号奪還作戦で自分達だけ助かろうとした。


 機兵乗りの部下は生け贄に捧げつつ、自分達は「雪の眼の護衛」の名目で逃げようとした。副長だってそれを知っていたし、あの時はドライバを批判していた。


 それなのに、隊長に向けるような視線をドライバ相手に……!


「子供達を返してくれっ! あの子達は、絶対、復讐なんて望まないっ!!」


 皆、優しい子なんだ。


 俺達は皆、それを知っている。


 繊三号奪還のために実質的な特攻を行わざるを得なかった時……第8の皆は、残ってくれた。何だかんだいいつつ、俺達を助けようとしてくれたんだ!


 あの子達だけは、逃げる事が出来たのに……。それなのに残ってくれた。


 本当に……本当に、優しい子達なんだ!


 他の巫術師達もきっと、扇動されているだけで――。


「やれやれ、僕を奴隷商か何かだと思っているのかい?」


 ドライバは大げさな仕草で呆れつつ、笑みを浮かべ続けている。


 その胸ぐらを掴もうにも、俺を睨み付ける副長が阻んできた。


 ドライバは副長の肩越しに、「いいだろう」と言ってきた。


「会わせてあげよう。キミが会いたがっている巫術師達に」


「…………!」


「けど、それは明日にしてくれ! 僕はキミと違って、色々と忙しくてねぇ。ちょうど、明日良いイベントがあるしさ!」


「イベント……?」


「スアルタウ・マクロイヒの告別式さ!」


「――――」


「可哀想な巫術師の少年……! 彼は交国の所為で死んだ! 交国軍相手に勇敢に戦って、兄を守って散っていった我々の同志だ!」


 違う。そんなんじゃねえ。


 アルは、お前らの同志じゃない。


「告別式には彼の仲間達も参加する! そこにキミ達も招待してあげよう! 特別だよ? 本来は解放軍の兵士しか参加できないんだからねっ!」




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:解放軍幹部・ドライバ少将


「よろしいのですか?」


「んんっ? 何がだ?」


「巫術師と、さっきのオーク達を引き合わせる事ですよ」


 アラシア達と別れて歩いていると、イヌガラシが心配そうに声をかけてきた。


 余計な心配だが……まあ、そう言いたくなる気持ちもわかる。


「心配するな。説得(・・)はもう終わったし、手術(・・)も終わった」


 彼らも理解した。自分達がやるべき事を理解した。


 手術は、その証だ。


 ネウロンでの蜂起は前々から予定していたが……思わぬ収穫があった。バフォメットの所為で解放軍の兵士もいくらか減ったが、まあ奴で補填できる。


 巫術師という戦力も、悪くない。


 アラシアが「巫術師はなかなか使えます」と報告を上げてきた時は、あまり信じていなかった。巫術師の弱点は、本当に致命的だからね。


 だが、アラシアが情報をもたらし、バフォメットが実際に譲ってくれた<ヤドリギ>を使えば巫術師も随分と使い勝手(・・・・)がよくなる。


 必要な薬も交国軍の備蓄がある。戦闘が続けば尽きるが……まあ、イヌガラシ達が上手くやってくれれば薬も補充できる。足りなければ気合いでカバーさせる。


 巫術師達も、交国に復讐心を抱いている。


 真実という劇薬を飲み干し、実に便利な駒になってくれた。そこらの巫術師はバフォメットほどではないが……運用次第でかなり役立つはずだ。


「告別式で、涙の別れと再会を同時に済ませよう、効率的だろう?」


「なるほどぉ。いやぁ、悪い御方ですなぁ」


「失礼な。僕は正義の使者だよ?」


 悪いのは交国だ。


 おかげで、馬鹿共を動かし易くて助かるよ。


「それよりイヌガラシ、大事なことを聞きたいんだが――」


「はい?」


「キミの会社の社長が、交国本土で死んだという情報が入ってきた」


 僕にとっては、信用できるツテで手に入れた情報だ。


 だが、イヌガラシは苦笑し、「事実無根です」と言った。


「実際、我が社は問題無く動いているでしょう? 解放軍が欲しているものは、物資も情報も全て用意できているでしょう?」


「それはそうだがねぇ……」


「仮に社長が死んだところで、泥縄商事(・・・・)は永久に不滅です。解放軍の皆様に変わらぬ支援を約束しますよ」


 イヌガラシはどうにも胡散臭いが、便利なのは確かだ。


 コイツも泥縄商事も――犯罪者達とはいえ――安く(・・)使える。コイツら無しでは交国が隠していた真実もわからなかったし、軍備も整わなかった。


 蜂起の後押しをしてもらったのは事実だ。……本当に社長が死んでいても、泥縄商事が支援し続けてくれるなら……まあいいだろう。


 社長の首程度、好きにすげ替えればいい。


 いっそのこと……解放軍(こちら)から誰か出向させ、泥縄商事すらも解放軍の一部にしてしまうのもアリかもしれないなぁ。


「支援の代わりに、出世払い……お願いしますよ? ブロセリアンド解放軍が築く新たな経済圏で泥縄商事を重用してください。工場も沢山作らせてください」


「わかっている。そういう約束で割引してもらっているからな」


「人身売買への協力も――」


「おっと。その話は、もっとコソコソやろうね」


 今回の蜂起で、ネウロンは取った。


 通信障害で連絡が取れないが、他の世界も上手くいっているはずだ。


 元帥達の予想通り(・・・・)、通信障害が起こるとは驚きだが……障害が発生しても「蜂起を断行しろ」と言われているからなぁ。


 この程度では狼狽えん。


 まあ、どうせ、元帥達が裏で回した結果なのだろう……。この通信障害は。


「あ、そうそう、星屑隊の憲兵はどうしますか?」


「適当なタイミングで処刑する。軍事委員会の犬に、相応しい末路を与える」


 だが、それは今ではない。


 もう少し、様子を見たい。




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:玉帝一家の汚点・久常竹


「ぁ、ぅぅウウウウ……ァァアァ…………」


 痛い。火傷痕に塗りたくられた医療用のジェルが、痛い痛い痛い痛い痛い。


 痛い。やつら、塩まで塗り込んだ。痛い痛い痛い痛い痛い。


「ゆ、ゆるさな……。許さんッ……! オズワルド・ラートォ……!!」


 奴の所為だ。


 全部、奴の所為だ。


 いや、解放軍も悪い。無能な部下達も全員悪い。痛い痛い痛い痛い痛い。


 奴らの所為で、ボクの人生(シナリオ)はメチャクチャだ。


 ぜったい……絶対、許さない。


「ふくしゅう……してやるッ……! 必ず、ころすッ……!!」


「なぁに、ブツブツ言ってんだ! うるせえぞッ!!」


「ぎギーーーーッ?!! いだぁぃぃぃいいいいイッ!!」


 なんで、ボクが、こんな目に……!


 なんでなんでなんでっ……!!




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