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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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笑う火種達



■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「お、おい……。お前ら、大丈夫か?」


「「…………」」


 元々、そこまで元気ではなかったが……ヴァイオレットの病室から出てきたラートとバレットは、酷い顔をしていた。


 バフォメットの野郎、やってくれたな。コイツらに何か余計なこと言ったな?


 舌打ちした後、抗議のためにバフォメットに呼びかけたが……返事はない。自分が言いたい事だけ言って、あとは病室内でだんまりか。まったく……。


 顔色悪い2人に事情を聞く。バレットは答えてくれなかったが、ラートは「ヴァイオレットが目を覚ましました」と教えてくれた。


 どういう話をしたかは、詳しく教えてくれなかったが――。


「……まあ、とりあえず……戻るか」


 2人を宿泊所まで送ろう。……まともに話が聞ける状況じゃねえ。


 2人を連れて歩いていると、「ぎゃあああああ」と叫び声が聞こえてきた。


「――いまの声」


「あぁ。ついでだ、見ていくか?」


 面白い見世物(・・・・・・)があるぞ、と言い、ラート達を誘う。


 2人共最悪の気分みたいだが、アレを見たら少しは気が晴れるかもしれない。


 声の聞こえてきた場所に行くと、解放軍の兵士達が集まっていた。


 獣用の檻を囲んで集まり、その傍には火鉢が置かれている。火鉢には熱した焼きごてが置かれており、それを使った「見世物」が開催されていた。


「やめろ! やめろっ! きさまら! ボクが誰か――ギャアアアアアッ!!」


「く、久常中佐っ……!?」


 檻の中で、判子サイズの焼きごてを押しつけられている全裸の男。


 その久常中佐(おとこ)を見て、ラートが声を漏らした。


 俯いたまま無反応のバレットと違い、驚いた表情でいる。


 それどころか、檻に近づこうとした。さすがに止めておく。


「おいおい、アレに参加したいなら解放軍に加入しなきゃダメだぞ」


「何を言ってるんですか……! あれ、明らかな拷問でしょう!?」


「手加減はしているさ」


 久常中佐は、バフォメットが繊一号で起こした戦闘で大きな役割を果たした。


 バフォメットは久常中佐を操り、ネウロン旅団の指揮系統を混乱させた。バカで無能な久常中佐は、ネウロン旅団を敗北に追いやった。


 それより前からずっと無能な指揮を続けていた。バフォメットに操られなくても、こいつは迷惑な存在だった。


 交国軍に潜伏していた解放軍の兵士も相当鬱憤が溜まっている。交国に対しても、「無能」な久常中佐に対しても鬱憤が溜まっている。


「医者に診せながら、丁寧に拷問している。奴は解放軍の捕虜で……オレ達に散々クソ命令をしてきた敵だからな」


 泣き叫びながらキレる久常中佐を見つつ、そう言ってやる。


 解放軍の兵士達も盛り上がっている。無能中佐以上にキレている奴もいて、無能中佐の様子を見てキャッキャと騒ぐ奴もいる。


「因果応報ってヤツだ」


「本気で言ってるんですか……!?」


「ラート。お前だってあのクズに……たくさん苦しめられただろう」


 ラートがネウロンに来る前、あのクズにどんな目にあわされたかは知っている。


 ラートはあまり多くを語らないが、オレだって自前の情報網がある。久常中佐の噂は色々と流れてくるし、ラートと実際に接していれば……やらかしたのは久常中佐だって察するさ。


「解放軍に入ったら、あのクズに復讐できるぞ」


「副長達がやっているのは、ただの捕虜虐待です!」


 ラートの言葉が聞こえちまったのか、数人の解放軍兵士がこっちを見てきた。


 愛想笑いを浮かべつつ、「気にせず続けてくれ」と勧める。


 そんな中、久常中佐もこっちを見てきた。ギョッとした様子で――。


「…………! 貴様! おい! 貴様(ラート)!! 貴様の所為で、ボクはこんな……! こんな目に! 助けろぉっ!! さっさと助け――――」


「うるせえよ、玉帝の犬ッ!!」


「ひピぃッ?!!」


 ラートを見つつ、吠えていた中佐が犬のような悲鳴を上げた。


 判子サイズの焼きごてが「ジュッ!」と音を立て、尻に押しつけられた。あまりにも滑稽で、他の兵士達と一緒に笑ってしまう。


 ……ラートは笑ってない。やれやれ……あんまり気晴らしにならないか?


 真面目だねぇ。お前はオレらよりずっと、あの中佐が憎いはずだろ。


「ネウロンはド辺境の後進世界だ。こういう娯楽もないとな」


「娯楽…………?」


「久常中佐は無能だが、腐っても玉帝の息子だ。敵の親玉の息子だから……良いサンドバッグになる」


 出来るだけ、長持ちするようメンテナンスしてやってる。


 皆に可愛がられているよ。色んな方法で。


「アイツ、面白いぞ。自分の所為でこんな状態に陥ってんのに、相変わらず人の所為にするんだ。『ぼくはわるくな~い』『いまならまだゆるしてやる~!』『あぎゃああ~』ってなぁ!」


「…………」


「……奴はオレ達(オーク)の敵だ。そんな相手に、お前が優しくする必要はない。解放軍に入れば、交国の階級なんざ関係なくなる!」


 一発殴りに行っていいんだぞ。


 もちろん、その前に解放軍に入ってほしい。


 解放軍に入ったら……もっと鬱憤を晴らせるぞ。




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:死にたがりのラート


「ラート。憎しみを隠さなくていい。正直になれよ」


「副長……」


 この人は、本当に副長なのか?


 アンタら、自分達が何をやっているか……自覚してないのか?


 捕虜の虐待だぞ。


 憎いからって……理性を捨てて、あそこまで出来るのか?


「副長達は、ケダモノだ」


「は?」


「軍を名乗るなら、国際法(ルール)ぐらい守れよ……!」


 久常中佐が捕虜なら、それ相応の扱いをしろよ!


 そうしなきゃ、アンタら自身に返ってくるぞ!?


 思わず、そう叫んだ。


 さっき以上に、周囲の視線が突き刺さってきた。


「…………」


 副長も、オレを睨んでいる。


 オレの胸ぐらを掴みながら、「国際法など知ったことか」と言った。


「それは、横暴を働いている奴らが勝手に決めたルールだ!」


「っ…………」


「悪いのは交国だ! オレ達は、そこの無能中佐がされていることより! よっぽど酷い目にあってんだぞ!? 人間扱いされてないんだぞ!?」


「相手がしたから、こっちもしていいって言うなら! 憎み合い続けるなら……何も止まらない! アンタらも、檻の中に入れられるぞ!?」


 いま、解放軍の兵士は「檻の外」にいる。


 けど、それが逆転しない保証があるのか?


 あるわけない。解放軍に勝ち目なんか――。


「ははっ! 素晴らしい御高説(きれいごと)だなぁ! 勇気あるね、キミ!」


「――ドライバ大尉」


 拍手しつつ近づいてきた人の名前を呼ぶ。


 ドライバ大尉。時雨隊の隊長。


 元交国軍人の解放軍兵士が、拍手しながら俺に近づいてきた。





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