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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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正気と狂気の狭間



■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「真白の魔神は、復活の度に……正気と狂気の間を行き来していました」


 しかも、ただ狂うだけじゃない。


 マスターは、常軌を逸した発明を出来る天才だった。


 その力が悪用された場合、大変なことになる。


「正気の時は……自分の狂気に恐怖していました。だからこそ『まともな自分』に拘ったんです。正気のままでいたら、最悪、自分で真白の魔神(じぶん)を止めることも可能ですから」


「バックアップを造っておけば――」


「『まともな自分』を保存できる。自分の死後も、正気の自分に引き継げる」


 真白の魔神自身が、自分に絶望していた。


 正気だからこそ、狂気に墜ちた自分を恐れていた。


 悪気がなかろうと、死と復活をトリガーに狂う危険性をよく認識していた。だからいくつか対策を考え、その1つとして須臾学習(バックアップ)を進めた。


 スミレさんの身体がここにある以上、実際は使わなかったんだろうけど――。


「けど、そこまでして……対策する必要あるのか? 記憶を失っていくなら、真白の魔神も弱体化していくんじゃないのか? 頭が良かろうと、死にまくったら天才じゃあなくなるだろ……?」


『確かに、ただの馬鹿になる可能性もある。だが、たとえそうなったとしても、真白の魔神はいつか元の天才性を取り戻す。アレはそういう存在(・・・・・・)なのだ』


 マスターは自分自身の封印も検討した。


 狂気に墜ちた自分が大虐殺を行う危険を恐れ、「まともなうちに自分を封じよう」と考えた事もあったらしい。


 ただ……マスターの持つ知識は多くの勢力が密かに求めている。皆、マスターの力を恐れながら、マスターの力に惹かれている。


 混沌の海のどこかで眠りについても、いつか誰かに見つかりかねない。その「誰か」がプレーローマだったら、真白の魔神を悪用されてしまう。


 最悪の形で――。


『真白の魔神は、今も死と復活を繰り返しているだろう』


 雪の眼も、真白の魔神を追っている。


 それでも最近は見失っているらしいのは、転生(それ)が原因だろう。


 いまどこにいるかどころか、「誰」なのかすらわかりづらいから。


 けど、真白の魔神は必ずどこかに現れる。


 どこかで「力」を発揮し、世界を揺るがす。


『転生を繰り返せば繰り返すほど、狂気に墜ちる可能性が高まるらしい。今はもう、1000年前とはまるで違う存在になっているだろうな』


「でも、正気のままだったら人類を救うために尽力しているはずです!」


 マスターは、ホントは良い人なんです。


 良い人だからこそ苦しんで、苦しみながら人類を救おうとしていた。


 救おうとしていた人類に刃を向けられても、それでも――。


「マスターが、復活の対価を克服している可能性だってあるはずです。あの人は本物の天才で、人類の救世主と呼ぶに相応しい御方ですから……!」


『そうだな。そうかもしれん』


 バフォメットさんが「だが、」と言いながら私に語りかけてきた。


『アレはキミの(・・・)「マスター」ではない。キミは奴の使徒(どれい)ではない』


「あっ…………」


『キミはスミレではないが、多少……スミレの記憶に引っ張られているようだな』


 真白の魔神は、私の創造主(マスター)


 ただ、正確には「私」を造った人じゃない。スミレさんを造った人だ。


 真白の魔神に仕えていたのは、スミレさんやバフォメットさんだ。


『言葉1つでも気をつけた方がいい。真白の魔神は……危険な存在だ。キミは奴を「マスター」などと呼ばず、一線を引いた方がいい』


「は、はい……」


 私はヴァイオレットだけど……スミレさんの記憶も持っている。


 スミレさんの記憶は「他人事」だけど、どうしても意識してしまう。


 凄く感情移入してしまう「映画」を見たような気分になっちゃうから……。


「気をつけます。…………」


 真白の魔神は、危険な存在だ。


 ネウロンに滞在していた彼の魔神は、比較的善良だった。


 けど、あくまで「比較的」に過ぎない。


 真白の魔神はバフォメットさんを騙し、スミレさんを造った。


 バックアップとして造って、手元に置いていた。


 スミレさん自身、その事を知っていた。けど……それでも、あの人は――。




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:死にたがりのラート


 真白の魔神は、想像していたよりずっとヤバい奴らしい。


 ただ、それでも「天才」なのは確かだ。


 高度な技術を持っていた。


 という事は――。


「真白の魔神が天才なら……本当に、死者蘇生が出来たんだな!?」


「『…………?』」


「だって、ほら、シオン教の伝承に『死者蘇生』の話が残ってんだろ!?」


 死者蘇生なんて、普通は出来ない。


 交国でも出来ない。


 プレーローマには死者蘇生技術があるが、それも条件付きのものだ。


 でも、真白の魔神なら……完璧な死者蘇生技術を持っていてもおかしくない。


 アルを蘇生(・・・・・)出来るかも……!!


『伝承は伝承だ。あれはただの宣伝工作(プロパガンダ)だ』


「え?」


『私が仕えていた真白の魔神が辿り着いた「蘇生」は、あくまで「記憶の保存と定着」による疑似蘇生技術だ。本物の蘇生は出来ない』


「御自身は復活できますが……それは自分でもコントロールできないものなので、他者に対して使うのも……無理ですね」


『その通り。死者蘇生伝承は、<シオン教>の立ち上げを指示された使徒が<叡智神>の箔付け(・・・)に作った嘘だ』


「――――」


 視界が歪む感覚がした。


 壁に手をつき、自分を支える。


 箔付け? うそ? 死者蘇生なんてできない?


『マスターが死者蘇生に成功した事は、自身を除けば一度も無い。……新たに生命を作ることは出来るが、復活に成功したことは無い』


 ただ、死者蘇生技術に拘っている節はあったらしい。


 拘っていようと、その技術に辿り着いてなきゃ……意味がない。


 スアルタウは、もう死んでいて……。


 蘇生手段が無いなら……ウソなら……どう、したら…………。


「――――」


「ら、ラートさん……? どうかしたんですか……?」


 ヴィオラが心配そうに俺を見てくる。


 ヴィオラは知らないんだ。


 スアルタウの事を。


 言わないと――。


 けど……言って、どうするんだ……? どうなるんだ……?


『私の知る真白の魔神ですら、死者蘇生は出来なかった。だが、奴は死者蘇生以外なら様々な技術を生み出していた。その力に救われた者も大勢いる』


 バフォメットがしゃべり出す。


 真白の魔神の名誉を守るために、弁護するように――。


『真白の魔神は人類に多くの知恵を与えた。多次元世界中に知識と技術を振りまき、人類がプレーローマに対抗するために力を与えた』


「ネウロンにも……力を与えるために来たのか?」


『そうだ。だが、それだけではない』


 真白の魔神は「打倒プレーローマ」のために戦っていた。


 プレーローマを倒さない限り、人類は苦しみ続ける。


 ただ、プレーローマは強敵だった。真白の魔神でも対抗し難い相手だった。


 そこで、真白の魔神は力を蓄えようとしたらしい。


『マスターはネウロンに降り立ち、滅びかけのネウロン人を救った』


「…………」


『奴らが実験体として適していると睨み、わざわざネウロンを訪れたのだ』


「実験……?」


『貴様も知る存在……巫術師(ドルイド)を作るためにも、ネウロンに来たのだ』


 ネウロンは滅びかけていた。


 プレーローマの置き土産により、酷い寒波に飲まれて滅びようとしていた。


 真白の魔神はそれを救った。


 救うことで「恩」を売り……そこにつけ込んだ。





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