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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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作り物の親子関係



■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:死にたがりのラート


『スミレに呼びかけてみろ』


「あ、ああ……」


 バフォメットに促され、ヴィオラの枕元に立つ。


 名前を呼んでみたが、さすがに目を覚まさない。単に寝ているだけじゃないからな……怪我してたから、そんな簡単には――。


 バフォメットに「喋るな」と言われたバレットが、居心地悪そうに部屋の隅にいる。それを視界に収めつつ、声をかけたが……。


「さすがに……目を覚まさないな」


『…………』


「そもそも、本当にヴィオラは大丈夫なのか? あんな怪我してたのに」


『完治はしていない。だが峠は越えている』


 バフォメットが『応急処置の方法に関しては説明しただろう』と言ってきた。


「確かにアンタなら出来るかもしれない。けど、本当に問題ないのか? ひょっとして、何か余計なこと(・・・・・)をしたんじゃないのか?」


『…………。いや、問題ない』


「おい、いまの反応は明らかに何か隠して――」


『しかし、貴様は<真白の魔神>を知っているのだな。珍しい』


「アンタ、話逸らすのヘタクソだな……」


『黙れ。どこで真白の魔神の名を聞いた? ネウロンの文献に、彼の魔神の名は残っていなかったはずだ。私の知る限りでは……真白の魔神(マスター)が消去を命じたはず』


 ため息をついた後、バフォメットの問いに答えてやる。


 詳細は言えないが、色々と詳しい人に聞いたんだよ――と返す。


「その人は<叡智神>と<真白の魔神>が同一存在だと推測していた」


『交国軍の知識ではないのか?』


「そうだ」


『貴様にその件を教えた者は、どうやって推測した』


「アンタは……真白の魔神の使徒として、プレーローマとやりあった事もあるんだろ? なんか、その記録から推測したとか言ってたぞ」


『なるほど』


 ひとまず納得してくれたが、「具体的に誰から聞いた」と尋問されたら少しマズいか? 相手は交国の憲兵じゃなくて、交国と敵対しているテロリストだが……。


「…………」


 バフォメットから視線を切り、ヴィオラを見つめる。


 息は……している。苦しそうには見えない。


 静かに寝息を立てているだけにしか見えない。


 何とか目を覚ましてほしいが、あんな大怪我を負っていたんだし……直ぐに目を覚ますのは難しいか。とりあえず、生きているのがわかっただけ収穫だ。


 ヴィオラの事はさておき――。


「アンタは、本当に真白の魔神の使徒なのか?」


『ああ』


「ネウロンに真白の魔神がいたのは、1000年前の話だろ……?」


『マスターは実際にネウロンで暮らしていた。我々を引き連れてネウロンに降り立ち、ネウロンに滞在していた。それは事実だ』


 バフォメットとの会話を試みる。


 敵だけど……コイツから出来るだけ情報を引き出したい。


 アルの件も……聞いてみよう。


 コイツが最後の希望かもしれないんだ。


『解放軍の中には、真白の魔神を知る者がいなかった』


「そうなのか……」


『まあ、無理もない。マスターは昔から功罪のわりに名の売れていない魔神だった。マスターの功績を横取りしたり、記録を抹消する者が多くいたからな』


 そして今もなお、広く知られているわけではない。


 その事実に関し、バフォメットは『相変わらず、忘れられた魔神のようだ』と呟いた。その呟きはとても淡々としたものだった。


「もう死んでいるから、忘れられたんじゃないのか? 死人に口なしってヤツだ」


『ああ、実際に死んでいるだろう。しかし、マスターは死を超越している(・・・・・・・・)。死んでいても、死んでいないはずだ』


「…………?」


 どういう意味だ。俺の聞き間違いか?


 いや、今は俺にとっては重要な話じゃないか?


 そう考えつつ、ヴィオラに手を伸ばすと――。


『触るな』


「ちょっと確かめるだけだよ。本当に生きているか、軽く触って……」


 体温は正常か。心臓がちゃんと動いているか。


 そういう事ぐらい、確かめていいだろ――と言ったが、バフォメットはノシノシと歩いてきて。『触れば殺す』と脅してきた。


『スミレは女の子だ。他人で男のお前が、無遠慮に触る事は許可できない』


「親かよ……」


『親だが?』


「…………? は?」


 ヴィオラとバフォメットをよく見比べる。


 華奢で女の子らしい身体のヴィオラ。


 対して、およそ人間らしさの無いバフォメット。ロボットにしか見えない輩。


「いや、どう見てもアンタらも他人だろ? 親子には見えない」


『見かけで判断するのか』


「いや、判断するだろ……!? 骨格とか、種族以前に……アンタとヴィオラのどこが似ているんだ!? つーか、アンタそもそも人間なのか!?」


『人間か否か。それは些細な問題だ。とにかく私はスミレの父親だ』


「母親は誰なんだよ!?」


『それは……』


 バフォメットは何か言いかけたが、一度言葉を区切った。


 少し黙っていたが、「母親はいない」と言った。


『先程も言っただろう。スミレは神器使いの遺体から造られた人造人間だと』


「でも、お前が父親…………。ああ、つまり、義理の父親か……?」


 ヴィオラもとい、「スミレ」は造られた人間。


 そんなスミレを養女として育てていた――って事か。


 そういうことだろ――と言うと、バフォメットは『それに近い』と言った。言いつつ、ワケのわからない事を続けてきた。


『しかし、私とスミレは因子による繋がりは存在している。そしてスミレ自身、私を父親として認めていた。ゆえに私はスミレの父親である』


「わけがわからん」


『私とスミレは親子だ。貴様の知能でも、それぐらいは記憶可能だろ?』


「コイツ……」


 よくわからんが、コイツの話通りなら親子なのか。


 ヴィオラは人造人間だった。


 そして、記憶を失う前は「スミレ」という人間だった。


 2人は親子関係で…………いや、待てよ?


「アンタの勘違いの可能性は?」


『む?』


「アンタが言っているのは、あくまで『スミレ』って名前の子だ。ヴィオラは記憶喪失だが……アンタの言うスミレと同一人物って証拠は、アンタの証言だけだ」


 他人のそら似の可能性は?


 そう聞いたが、バフォメットは僅かに憤慨した様子で『私がスミレを見間違える可能性はゼロだ』と言った。


『私はスミレが造られた時から、スミレの成長を見守ってきた。スミレは私によく懐いていた。私はその親愛に応え、スミレに寄りつく悪い(むし)を追い払ってきた。そんな私が、スミレを見間違えるはずがない』


「わかった。お前、親馬鹿だな」


『否定はしない。先程の証言でその可能性に気づくとは……貴様の知能評価を引き上げざるを得ない。貴様は「アホ」から「バカ」に昇格した。このまま、順調に評価を上げていけば「一般人」になれるぞ』


「俺の中で、お前の評価は下がる一方だよ」


 俺達、オークには痛覚がない。


 けど、「頭痛がする」ってのは感覚的にわかるぞ。今がその時だ。


 ここ最近、無茶苦茶なことばかり起きている。だが、コイツの話は……フェルグスやアルの件とは、別方向に無茶苦茶だ。話していると調子が崩れる。


『バカのお前に教えてやろう。私は見た目以外でもこの子がスミレだと判断している。細胞と因子の診断結果では、この子は96.00%スミレである』


「100%じゃねえのかよ」


『スミレも成長している。私が知っているのは1000年前のスミレだからな』


 さらに頭痛感が増してきた。


 1000年前……? 真白の魔神がネウロンにいたのは1000年前だろうけど、ヴィオラって……そんな前からいたのか!?


「つーか、そもそも『神器使いの遺体から造った』ってなんだ?」


『そのままの意味だ』


「そんなこと……可能なのか?」


『可能だ。…………。マスターは、神器使いの遺体を確保した。ある目的を持ってその遺体を加工した結果、「スミレ」という世界で一番可愛い子が生まれた』


「意味がわからん……」


『補足が必要か? 承知した。スミレは世界で一番可愛く、そして優しい子だ』


「バレット……! コイツと話すと! 疲れるッ……!!」


 病室の隅にいるバレットに声をかける。


 頭の血管が切れそうな気分になりつつ、バフォメットをブンブンと指さしつつ文句を言う。バレットは口を押さえ、「自分、喋るの禁じられているので……」と言いたげにしている。俺1人でこの親馬鹿の相手しなきゃいけないのか!?


 とりあえず、人造人間技術の話は置いておこう。


 神器使いの遺体で人造人間を造る。そんな方法を詳しく聞いたところで、俺の頭で理解できるとは思えない。悔しいが、俺は実際バカだからな。


 けど――。


「この子を造ったのはお前のマスター……つまり、真白の魔神なんだな?」


『その通り』


ある目的(・・・・)を持って、神器使いの遺体を加工したってどういう事だ? この子は……どういう目的で造られたんだ?」


 ヴィオラはヴィオラだが、普通の人間と違うのはわかった。


 ヴィオラ……いや、スミレの場合は計画的に造ったみたいだが――。


『…………』


「……なんだよ、そこは教えてくれないのか? 家族の秘密ってヤツか?」


『いや……。知りたいなら教えてやる』


 バフォメットは腕組みして黙りこくっていたが、口を開いた。


『スミレは……真白の魔神(マスター)のバックアップとして造られた』


「ばっく……? 後継者として、育てようとしたってことか? 魔神の?」


『近いが違う。近い事が起きるが、スミレ自身は後継者ではない』


「どういう……」


真白の魔神(マスター)が死んでしまった時……生前のマスターをそっくりそのまま復活させようとしたんです」


『「…………!」』


 答えが返ってきた。けど、バフォメットの言葉じゃない。


 ベッドに寝かされたヴィオラが目を開き、口も開いていた。


「ヴィオラ――」


『…………!!』


 声をかけつつ、肩に触ろうとしたが、阻まれた。


 バフォメットが俺を押しのけ、『スミレ!』と叫んだ。


 その叫びは相変わらず電子音声だったが……血も涙もない機械が出した声色には聞こえなかった。親が子にかけるような、感情のこもった声だった。


『目が覚めたか! スミレ!』


「バフォメットさん、ですよね……?」


『――――』


「……すみません、貴方の期待通りにはいかなったみたいです……」


 ヴィオラの申し訳なさそうな声が聞こえた。


 申し訳なさそうだが……少し他人行儀に聞こえた。


 その声を聞いたバフォメットは固まっていたが、『そうか』と言って後ずさった。さらに『やはり、失敗したか』と呟き、座り込んだ。


 病室の壁にもたれかかりつつ、ズルズルとその場に座り込んだ。


「はい。ただ、おかげで色々と思い出し……。いえ、教えられました(・・・・・・・)


『…………』


「一応、擁護しておくと……マスターは本気で『スミレさん』を復活させようとしていたはずです。ただ、やはり魂の問題があって……」


『…………』


「……ごめんなさい」


 ヴィオラがそう言うと、バフォメットは『いいんだ』と呟いた。


 座り込み、片手で山羊頭を押さえながらそう呟いた。


『キミが謝る必要はない』


「…………」


『しかし、そうか……やはり、失敗……するのか……今回も(・・・)……』





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