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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
304/875

上書き保存済み



■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「おいおいおい……! 頼むから仲間同士で争うなよ!?」


『仲間ではない』


「副長、コイツは敵です……!」


 にらみ合っているラートとバフォメットの間に割って入る。


 こうなると思った! こうなる気はした!!


 ヴァイオレットは意識不明。


 ラートとバレットを指定したのはバフォメットだ。


 ラートはバフォメットを「敵」と睨んでいるから、こうなると思った! けど、面会の話を上にしたら、聞きつけたバフォメットが「奴らを呼んでこい」と言ったから……こんなことに……!


「バフォメットの旦那も! ラートも! 頼むからやめろ! そこにヴァイオレットが眠っているんだぞ!? お前らが争ったら、アイツも怪我するぞ!?」


『その程度のオーク、一瞬で畳める』


「上等だ……! テメエがやる気なら――」


「バカ!! 瀕死のヴァイオレットを助けたのは、この旦那(バフォメット)だぞ!?」


 身構えているラートを叱る。


 ラートも、ヴァイオレットのことを言われたら弱いらしい。少しは怒気を収めてくれた。……バフォメットのことは睨み続けているが。


「バフォメットがいなけりゃ、ヴァイオレットは死んでいた。感謝の1つでも言え――とは言わんが、頼むから喧嘩するな。お前が勝てる相手じゃない」


「コイツの所為で、交国軍の仲間が何人死んだと思ってるんですか……!?」


 ラートはバフォメットから視線を離さず、さらに言葉を続けた。


「交国に罪があったとしても、現場の兵士を惨たらしく殺したのはコイツです。それどころか……ネウロン解放戦線とか言って、罪のない兵士を反逆者に仕立てあげた。さらに……巫術師も扇動して……! 解放軍とも組んで――」


「それはそうだけど……仕方なかったんだ。過ぎたことだ」


 ネウロン解放戦線の件や、繊一号での戦いは仕方なかったんだ。


 バフォメットにとっても、交国は敵なんだ。


 諸悪の根源は交国。敵の敵は味方ってことでいいんだよ。


 そう思いながら「落ち着け」と告げたが、ラートはオレまで睨んできた。オレは……お前のためにも言ってやってんのに……。


 お前がバフォメットに勝てるわけないだろ。


 ……隊長ですら、勝てなかったのに……。


「テメエ、ヴィオラに何をした!」


 ラートが病室に踏み入り、バフォメットに詰め寄っていく。


「タルタリカに丸呑みにさせて、そんな事で治るはずが……」


『流体装甲を知っているか?』


「は、はあ……!?」


『当然、知っているだろう。交国の機兵は流体装甲を纏い、破損してもその場で補修する。この子の負傷箇所も流体で塞ぎ、応急処置を行ったのだ』


 淡々と語るバフォメットに対し、ラートも困惑し始めた。


 そんなこと、出来るはずがない――と言った。


『可能だ。実際、私はスミレを救った』


「スミ…………なんだって?」


『タルタリカの身体は、大半が流体で出来ている。(コア)に貯蔵した流体で身体を構成し、維持している。その流体を分けてもらい、私が巫術で施術を行った。巫術の憑依で流体の形を変えられるのは、貴様らも知っているだろう』


 知っている。第8巫術師実験部隊が、散々見せてくれた。


 機兵でやってる事を、人体レベルでやったってことか。


 やっぱコイツ、無茶苦茶だな。戦闘以外もお手の物か。


『えぐれた肉も、破れた血管も、流体で補った。今はそこまでせずとも安定している。スミレの身体は常人より多少、丈夫だからな。戦闘向きではないが』


「俺はヴィオラの話をしてんだ! 誰だ、スミレって……!」


『私はスミレの話をしている』


 バフォメットが、少し、おかしい。


 病室のベッドに寝かされているのは、ヴァイオレットだ。


 それなのにバフォメットは「スミレ、スミレ」と言い続けている。


 それが当たり前の事実のように――。


『この船で対面した時も説明しただろう。この子はスミレだ。記憶喪失(・・・・)ゆえに「ヴァイオレット」などと名乗っていたようだが、「スミレ」だ』


 バフォメットはヴァイオレットを見つつ、淡々と語り続ける。


『この子は、マスターが造ったスミレだ』


「つくった?」


 意味がわからず、問いかける。


「ヴァイオレットは……人間じゃねえのか?」


『いや、広義の人間だ。しかし、人の胎から生まれた者ではない』


「じゃあ、どうやって……」


『スミレは、神器使いの遺体(・・・・・・・)から造られた存在だ』


 余計に意味がわからなくなった。


 神器使い……? その、遺体……?


 それって、人間…………なのか?


『我らが主、<真白の魔神>が造った……人造人間だ』




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:死にたがりのラート


「ヴィオラが、人造人間……」


 巫術は人工物に憑依し、操ることが出来る。


 機兵も方舟も人工物。


 羊飼いの話だと……何故か(・・・)久常中佐も人工物。人造人間らしい。


 ヴィオラが「人工的に造られた」と言われても、ピンと来ないが――。


『お前は感づいていたのだろう?』


「感づいたというか……お前が久常中佐を操っていた時にアレコレ言うから……。それに、実際、俺はヴィオラが巫術で操られたのを見た事がある」


 グローニャがイタズラで憑依していた。


 あの時はヴィオラも戸惑っていた。けど、あれは何かの偶然ではなく、必然だったのか。ヴィオラは一種の人工物だから、憑依が可能だったと――。


『人造人間という表現は、正直あまり好きではない。人は自分と異なるものを差別する。あの子の事も――』


「ヴィオラはヴィオラだ。人工的に造られていようが、それは変わらねえ。ちょっと肌の色や生まれ方が違う程度で、差別したりしねえよ!」


『そうか。感謝する』


「えっ」


 バフォメットは何故か、俺に対して頭を下げてきた。


 そんな反応されると思わなかったから……さすがに、毒気を抜かれる。


『私はスミレを人間と思い、接している。類似認識者の存在は素直に嬉しい』


「そ、そうかよ……」


『人造人間は……時折、差別されるからな。しかし、名前は正確に覚えろ。この子はスミレだ。ヴィオラ、ヴァイオレットという名前は記憶喪失中の仮名だ』


「本人がそう名乗っていたんだぞ」


『記憶喪失ゆえ、仮名にすがるのは致し方ない』


「記憶喪失だろうと、アンタの言うところの「スミレ」なら、その子自身が感じたことも偽物って言う気か?」


 ヴィオラも記憶喪失で不安だったはずだ。


 本人は「思い出せなくても」と言う事もあったが、思い出したかったはずだ。


 けど、それはそれとして……記憶喪失中に感じた事も、本物だったはずだ。


「ヴァイオレットって名前は、あの子がフェルグス達の母親につけてもらった名前だ。あの子はそれを嬉しそうに語っていたんだぞ」


『…………』


「お前は、あの子が喜んでいた気持ちすら、偽物って言いたいのか?」


『いや、そのようなことは…………』


 コイツは敵だ。


 けど……ヴァイオレットのことをよく知っているらしい。


 今は迷っているように見える。今の俺の言葉を「戯れ言」と言わずにいる。


 それは……コイツなりに、ヴァイオレットの事を想っているからなのか?


 あくまで記憶喪失前の「スミレ」に対する感情かもしれない。けど、コイツの行動は一応、一貫している。


 繊三号ではヴィオラを殺さず、さらった。……大事だからこそ守りたかったのかもしれない。この間の事件でもヴィオラを守ろうとしている節があった。


 そして、今も「流体で応急処置を施した」などと言っている。


「話し中のとこ悪いが、<真白の魔神>ってなんだ?」


 質問してきた副長に対し、軽く説明する。


 真白の魔神っていうのは、魔神の一柱。


 シオン教の<叡智神>の正体は、<真白の魔神>らしい。


「……ってことでいいんだよな、真白の魔神の使徒(バフォメット)


『ああ』


「へー…………。で、ラートはどこでそんな話を……」


「そ、それはっ……。ヒミツです」


 叡智神=真白の魔神って説は、雪の眼の史書官(ラプラス)から聞いた。


 副長が解放軍なら、俺達が雪の眼と接触してたことを言っていいかもだが……とりあえず伏せておく。……解放軍は俺達の味方じゃねえし。


『1つ捕捉しておく。叡智神の名は、ネウロンに「真白の魔神」の名を残すのを嫌った真白の魔神(マスター)が使用を命じた名だ。あまり大っぴらに「叡智神と真白の魔神は同一存在」と触れ回るのはやめてほしい』


「まあ、別に構わんが……」


『さて、お前は退出しろ』


「えっ。いちゃダメなのか!?」


 羊飼いに指さされた副長が、素っ頓狂な声を出した。


 副長に対し、バフォメットは「当たり前だ」と返した。


『私が呼んだのは、この2人のオークだ。貴様ではない』


「えー……。そもそも、何でラートとバレットを指定したんだよ」


 それは俺も気になる。


 羊飼いを注視すると、片方は(・・・)教えてくれた。


コイツ(ラート)はスミレと親しかったのだろう? スミレの意識が戻らない以上、良い刺激になるかもしれない――と思って呼んだ』


「なるほど。じゃあバレットは?」


『話は以上だ。出て行け、解放軍兵士』


 羊飼いが病室の出入口を指さす。有無を言わさない様子だ。


 副長は肩をすくめ、出て行った。


 出入口の外で困惑していたバレットは副長に肩を叩かれ、おずおずと中に入ってきた。……バレットと2人がかりで不意打ちしたら、羊飼いを倒せねえか?


 倒して、ヴィオラを連れて…………。


「…………」


 それで、本当に助けられるのか?


 俺達だけで……?


 逃げても……また、同じことが起きるだけなんじゃ……。




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:不能のバレット


『貴様がフランク・バレット一等兵か?』


「は、はい……」


 羊飼いが目の前にいる。


 ……なんで俺が呼ばれたんだろう?


 別に、この人の知り合いじゃないはずだが……。


 いや、そもそも人じゃないか……?


『貴様は、私が許可するまで喋るな』


「えっ?」


『二度は言わん』


「――――」


 言われた通り、口を閉じる。


 喋らないでいいなら、何で俺を呼んだんだ?


 ラート軍曹はともかく……何故、俺を?




■title:解放軍鹵獲船<曙>にて

■from:使徒・バフォメット


『…………』


 ようやく見つけた。


 手がかり(・・・・)となる交国軍人。


 だが、問いただすのは後でいい。


 優先すべきはスミレだ。


『オズワルド・ラート軍曹。面倒だから「ラート」と呼ばせてもらう』


「お、おう……」


『スミレに呼びかけろ。この子の意識を戻せ』


「俺は……医者じゃねえぞ」


『そのぐらいわかっている。だが、試しに呼びかけろ』


 スミレの意識が戻らん。


『親しかったお前の声に、反応する可能性がある。呼びかけろ』


 スミレは生きている。だが、意識を戻さねばならん。


 そのためなら、私はどんな事でもやる。


 記憶の上書き作業(・・・・・)は終わっている。


 意識を取り戻せば、この子はスミレに戻っている(・・・・・)はずだ。


 そうで、なければ――――。




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