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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
303/875

誰のための聖戦か



■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:肉嫌いのチェーン


「騒動を起こしたそうですね」


「あたしじゃないよ。そこのガキ共に言ってやんな」


 再び宿泊所にやってくると、整備長が代表して応対してくれた。


 他の隊員達はロビーのソファに座ったり、柱の陰に立ちつつ、ジッ……とオレの事を睨んできている。やれやれ、そんな嫌わなくていいのに。


 …………。


 オレは、本当に……同胞(おまえら)の事を想って動いているんだがな。


 冷静な整備長だけではなく、星屑隊の全員に聞こえるように「オレの火消しも限界あるんで、これ以上は問題起こさないでくださいよ」と言っておく。


「皆が解放軍に入ってくれりゃ、もっと自由に動けるようになるんですがね」


「今のところ、誰も入る意志がないようだよ」


「ハハッ……。みたいっスね……」


 オレを睨んでくる隊員の中には、「第8全員奪還」「ただし技術少尉は除く」などと書いたハチマキをつけている馬鹿もいた。


 オレの方がガキ共より付き合い長いのに、苦労してるオレの心配じゃなくてガキ共の心配か。まあ……そりゃあ、そうなるか……。


 ガキ共の心配していた方が、現実逃避出来そうだもんな。


 整備長は比較的話が通じそうだし――経歴的にも注目しているし――説得を進める。整備長を切り崩せば、他の奴らも続々と解放軍に合流してくるだろう。


 けど、今回も色よい返事は貰えなかった。


 それどころか、「アンタは大丈夫なのかい?」とオレを労る言葉が飛んできた。どうもオレが「解放軍に騙されている」と勘違いしているらしい。


「騙していたのは交国政府ですよ。だから、オレ達は立ち上がったんだ」


「本気で交国軍に勝てると思ってんのかい?」


「勝算はありますよ」


「低いだろ、それは」


「これは戦争なんだ。そりゃあ確かに負ける可能性はありますよ」


 だが、交国軍には重大な弱点がある。


 オーク達の離反が進めば、奴らはガタガタになる。


 オレ達という火種を軽く見ていた報いだ。ザマアミロ。


「整備長はエルフだから当事者意識乏しいんでしょうけど、勝ち馬に乗った方がいいですよ? 解放軍は貴方の故郷解放の協力もしますんで」


「いらないお世話だよ、まったく……」


 整備長はわざとらしくため息をついた後、くどくどと説教してきた。


 この人がこういうこと言うの珍しいな。呆れつつ、テキトーに聞き流す。


「いい加減、解放軍(おれたち)を信用してくださいよ。アンタらが肩肘を張っても紳士的に接しているんですよ? オレ達は交国軍とは違う」


「騙して捕まえて、テロに加担しろなんて言われてもね」


 信用できるわけないだろ――と返してきた。


 交国の方がよっぽど、無茶苦茶をしてきたのに……


 奴らは人類連盟の常任理事国の立場も利用し、弱者を虐げてきた。交国を支えてきたのはオークなのに、待遇改善せずに軍事利用を続けている。


 せめて、どこかのタイミングで改革したら良かったんだ。


 交国はもう十分デカくなった。少しずつでもオークの待遇改善を行っていれば、こんなことにはならなかった。


 軍事利用は過去のこと。そう言い張れた。


 だが、奴らは何も改善しなかった。目先の勝利を優先した。


 問題が発覚した後じゃ……もう打つ手はない。何の言い訳も出来ない。


 交国の敗北は、もう決まっている。


「……オレ達、良い仲間だったでしょ? オレが解放軍の構成員ってこと、ヒミツにしてたのは悪いと思ってますよ。けど……言えるわけないでしょ?」


「良い仲間だったかもね。アンタのことは、まだ信じている」


「じゃあ――」


「ただ、解放軍というオマケはいらない。あたし達の戦友は『星屑隊副長のアラシア・チェーン曹長』だ。解放軍の鉄砲玉じゃない」


「…………」


 今日も説得失敗だ。


 いつまでも……待ってられないんだがな。


「頭ごなしに『解放軍に入れ』なんて言うの、やめておくれ」


「と、いいますと?」


「そっちにも譲歩して欲しいのさ」


 腰に手を当てていた整備長が、腕組みしながら言葉を続けた。


「例えば、第8巫術師実験部隊との面会を許可するとかさ」


「それは…………まだ無理だ」


 巫術師の力は有用だ。


 交国軍とやり合っていくなら、絶対に必要になる。


 重要な戦力として「説得」している最中だから、横槍は入れてほしくない。


 レンズやバレット、そしてラートみたいな奴が……ガキ共を惑わすのは困る。ガキ共も交国の犠牲者なんだ。奴らはオレと同じく、交国に復讐するべきなんだ。


「ヴァイオレットの面会すら無理なのかい? あの子は巫術師じゃないだろ」


「厳しいですね」


「あの子、本当に無事なのかい? ラート達の話じゃ、あの子は繊一号の事件で大怪我を負っていた。……本当に生きているのかい?」


「いや、ホントに無事ですよ」


 ヴァイオレットは生きている。


 相当な大怪我だったらしいが、バフォメットが生かしたらしい。


 どういう手段を使ったか、よくわからんが……とにかく生きている。


「ただ、意識が戻っていないんです。だから面会は無駄ですよ?」


「話は出来なくても、寝顔ぐらい見せておくれよ」


「うーん……。そう言われましても、オレの管轄じゃねえんで……」


 ブロセリアンド解放軍は、ヴァイオレットも勧誘したがっている。


 アイツは『ヤドリギ』を作れるし、混沌機関までイジれるらしいからな。解放軍の技師として欲しい存在だ。そこらの兵士にはない才能だからな。


 ただ、勧誘は難しそうだ。


 保護者(・・・)がウルサイからな……。


「あたしらを説得したいなら、少しは融通を利かせておくれ」


「いやいや……かなり配慮してるでしょ……」


 捕虜の中には、もっと酷い状態の奴もいる。


 星屑隊の奴らは貴賓待遇だよ。オレが頭下げて、そうしてもらっている。


 拘束したり、檻にブチ込んだり、中には「怪我の治療してほしいなら解放軍に加入しろ」と告げた捕虜もいるからな。


 そいつらに比べたら、星屑隊は貴賓待遇だよ。


 オレが幹部に口添えしてるおかげなんだが……わかってくれねえなぁ……。


「とりあえず、ヴァイオレットと面会させておくれ」


「どうしたんですか、整備長。アンタそういうキャラじゃねえでしょ」


「ぐ……。ぇ、ええいっ……! あたしだってねぇ! そんなのわかってんだよっ!! けど、こっちにも退けない事情があるんだよ……!!」


 冷静だった整備長が苛立ちを隠さなくなった。


 その苛立ちに呼応して、星屑隊(ウチ)の馬鹿共も声を上げそうだ。


 めんどくせえし、とりあえずこの場を何とかしないと――。


「わかった! わかりましたっ! 上に掛け合ってみますよっ!」


 口約束をして、そそくさと宿泊所から退散する。


 まったく……どいつもこいつも、状況わかってないんだから……!


「まあ……一応、頼むだけ頼んでみるか」


 無駄だろうけどな。


 第8の特行兵は全員、それなりに幹部の注目を集めている。


 奴らが「使える」のはオレが報告した。バフォメットも評価している。


 だから無理だと思うけどな――と、思っていたんだが……。




■title:解放軍支配下の<繊一号>にて

■from:死にたがりのラート


「あの……俺でいいんですか?」


「何が?」


「ヴィオラと面会する人間ですよ……」


 整備長が、副長にかけあったらしい。


 第8巫術師実験部隊の皆に会わせろ、とかけあったらしい。


 副長は「難しい」と言ってたそうだが、それでも解放軍にかけあってくれて……それで何とか「ヴィオラへの面会許可」だけは下りた。


 ただ、面会相手は2人(・・)に絞られた。


「なに今更遠慮してんだ。お前が特にアイツと仲良かっただろ?」


「いや、でも……」


「向こうが指定してきたんだ。お前とバレット(・・・・)を呼べって」


 車に乗り込もうとしている副長が、そう言った。


 俺は隣に立っているバレットを見た。……バレットも困惑している様子だ。


 副長は俺達に「さっさと乗れ」と言ってきたので、大人しく乗る。車が発進すると、バレットは身を乗り出して副長に問いかけた。


「ラート軍曹はともかく、何で自分が……?」


「それはオレも知らねえ。逆に心当たりねえのか?」


「いや…………無い、ですけど……」


「そのはずだよな」


 副長すら困惑顔を浮かべている。


 ぶっちゃけ、面会許可が下りると思っていなかった――とも言っている。


「そもそも、ヴィオラはいま意識不明って聞いたんですが……」


「ああ、そうだよ」


 じゃあ、誰がオレ達を呼んだんだ?


 それを聞いたが、副長は少し黙った後、「行けばわかる」と言った。


 車が繊一号内を走って行く。


 解放軍が占拠した方舟<曙>に向け、走っていく。


 バレットは困惑していたが、自分で頬を叩き、気合いを入れ始めた。


「よくわかりませんが、これ……ロッカと会う好機ですよね!?」


「まあ……そうかもな……」


「期待すんなよ? 面会許可が出ているのは、あくまでヴァイオレットだけだ」


「でっ、でもっ! ロッカ達と偶然……偶然っ! すれ違うことも……!」


「あんま期待すんな~」


 副長の運転する車は、解放軍の警備を顔パスで突破していった。


 停泊中の曙の格納庫にあっさり入っていき、俺達はそこで下車した。


「…………」


 格納庫内には戦闘の痕跡が残っている。


 俺達が逃げた時、ついた痕跡だ。


 あの時はフェルグスもアルも無事だった。


 あの時も、厳しい状況だった。


 でも、それでも……あんなことがなければ……まだ希望があったのに。


「…………」


 副長に先導されながら、曙艦内を歩いて行く。


 そうしていると、艦内の一角にネウロン人がたむろしていた。


 まだ若いネウロン人。……多分、巫術師だ。


 俺達を睨んでいる。


 その視線を受けていると、副長が「目を合わせるな」と言った。


「行くぞ」


「……副長、あの子達も巫術師ですよね」


「ああ。解放軍の兵士だ。アイツらは自分で望んで(・・・・・・)あそこにいる」


「…………。俺達が繊一号から逃げる時、戦った奴らもいるんじゃ……」


 そう言うと、副長はうっすら笑って「大丈夫だよ」と言った。


「アイツらに交国軍人の見分けがつくもんか。オークは全員、『灰色の肌を持つイカついやつら』程度の認識しかない。オレ達に気づいてねえよ」


「…………」


 曙艦内には巫術師らしきネウロン人がちらほらいた。


 誰も彼もオレ達を睨んでくる。……交国軍(おれたち)を憎んでいる。


 解放軍所属の副長がいるおかげなのか、襲ってくる気配はない。けど……いつ俺達に対して牙を剥いてきても、おかしくないように見える。


「……フェルグス達と、大差ない年齢の子もいますね」


「まあな。若いから元気なんだろ」


「あんな子達を、テロリストに仕立て上げるつもりですか……?」


「失礼な、真っ当な兵士だよ。奴らも復讐(それ)を望んでいる」


 副長はヘラヘラと笑っている。


 正直、正気を疑う。


 ただ……あの子達が「交国との戦闘」を望んでいるのは本当かもしれない。交国がネウロン人に対して、酷いことをしていたのは事実なんだ。


 でも、だからといって……。


「奴らの望みは復讐。家族や友人の仇討ちだ。種族と出身が異なっていても、オレ達(オーク)の同志だよ。立派な戦友なんだ」


「……解放軍側は、それでいいんですか? 繊一号の戦いで、交国軍に紛れていた解放軍の兵士も……巫術師に、それなりに殺されてますよね?」


「……まあな」


 だが、そこは「手打ち」にしたらしい。


 解放軍の幹部が判断し、「許し合おう」と提案したらしい。


 巫術師は羊飼い(バフォメット)が説得した事もあり、繊一号の件は手打ち。結果、解放軍は巫術師という戦力を手に入れた。


 交国の敵は味方……という理屈で、解放軍と巫術師は手を組んだ。


「お互い、やることやってんだ。解放軍の兵士も『交国軍人』をやっていた時は、多少はネウロン人を苦しめていた。お互い様だろ?」


「…………」


「統制は取れている。皆、諸悪の根源は『交国』だと理解しているからな」


「それでやることが交国へのテロですか。……羊飼いに加担してまで……」


「テロじゃねえ。真っ当な軍事行動だ」


「軍事行動に、真っ当もクソもあるんですか?」


「…………」


 副長がやっていることは、本質的に交国と変わらない。


 交国も強権を振るって、巫術師を特別行動兵にした。


 望まない従軍と、望みの復讐という違いはあるかもしれない。けど、それでも……右も左もわからないネウロンの巫術師を利用するなんて……。


「子供達をテロリストにするのが、本当に正しいと思っているんですか……!?」


「うるせえなぁ……。テロリストじゃねえ、真っ当な兵士だって言ってんだろ?」


「解放軍はテロ組織だ。国際法で認められた正規の軍隊ですらない」


「国際法は交国含む強者(クズ)の定めたルールだ。知った事か」


 副長は歩き続けている。


「結果が証明してくれる。勝利が肯定してくれる。解放軍の正しさをな」


 俺達に背を向けたまま、進み続けている。


 ……話が通じない。


「そもそも、子供といっても……お前らと大差ないんだぞ?」


「「…………」」


「交国はオレ達をガキの頃から――いや、生まれるずっと前から軍事計画に組み込んでいる。アイツらのやってる事の方が、はるかに酷いだろ!」


「…………」


「交国は無理矢理(・・・・)やってる。でも、解放軍は違う」


 ブロセリアンド解放軍は自由参加。


 自分達の意志で参加し、自分達の意志で戦う。


 交国軍より、はるかにまともな組織だよ――と副長は言った。


「皆もわかっているんだ。戦わなければ、勝利も主権も勝ち取れない! 逃げるのは簡単だが、逃げても何も解決しない!」


「だから、皆を復讐に駆り立てている……」


「正当な復讐さ。全部、交国が悪いんだ」


 副長は本気でそう思っているようだった。


 確かに……原因を作ったのは交国かもしれない。


 けど、だからといって……これは許される事なのか?


 本人達が納得していても、こんな事……。


「着いたぞ。ここにヴァイオレットがいる」


 そう言った副長が、病室の中に呼びかけようとした。


 だが、それより早く病室の扉が開いた。


 病室(そこ)にいたのは、ヴァイオレットだけじゃなかった。


 山羊頭の化け物(ロボット)もいた。


羊飼い(バフォメット)……!!」


『…………』




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