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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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仲間を取り戻せ



■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:整備長のスパナ


「アンタら、自殺願望でもあるのかい? この状況で解放軍を挑発するなんて」


 ガタイだけ立派なガキ共にそう言うと、どいつもこいつも「悪いのは解放軍です」「そうだぁ! チビ共を誘拐したんだもん!」と吠え始めた。


 ホントに頭が痛い。……隊長がいない以上、コイツらがバカをやり過ぎないよう見張るのって、あたしの役目なんだろうね。


 階級的にはキャスターが仕切るべきだが、こいつはあくまで「軍医少尉」だし……そもそもガキ共に肩入れして鼻息荒くしてるからねぇ……。


 キャスターは無口で静かな奴だが……子供達にはかなり甘い。特別行動兵の食事事情を気遣って隊長に進言したり、技術少尉にイジめられないよう医務室に庇ったり……こっそり、飴を渡したりして可愛がっていたからね。


 他のバカ共も、何だかんだでガキ共を可愛がっていた。


 最初は腫れ物扱いだったが、ガキ共の力を認めて……繊三号では命を助けられた。ガキ共を戦友として扱いつつも、弟分、妹分のように見ている。


 レンズとかバレットとか、特にそうだ。


「グローニャ達は絶対、不安で震えてます。助けてやらないと」


 厳しい顔つきをしたレンズがそう言った。


 助けたい。この想いの何が間違っている? そう言いたげな顔だ。


 コイツにはコイツの正義がある。他の奴もレンズに同調している。……自分達だって不安なくせに、ガキ共のために奮い立っているんだろう。


「第8巫術師実験部隊の戦友達を取り戻すまで、オレ達は戦い続けるぞっ!」


「「「「うおおおおおッ!!」」」」


「ただし、技術少尉を除くっ!」


「「「「うおおおおおッ!!」」」」


「ええいっ……! 叫ぶなら、あたしから離れて叫びな……!!」


 うるさい。こいつら頭に血が上っている。


 このまま叫ばせていると、また<曙>に突撃しかねない。


 ヴァイオレットも他のガキ共も、曙に収容されているのは確かみたいだ。とはいえ……面会を希望しても、それすら許されないのが現状だ。


 コイツらが見たことに関し、話を聞いていく。


「オレらを止めてきた解放軍の口ぶり的に、第8は全員、<曙>にいる。けど……中で何やってんのかはわかりません」


「生きているのも確かだろう。けど、アンタらが無茶をやって解放軍を刺激したら、奴らはガキ共に銃を突きつける可能性もある。それが嫌なら大人しくしな」


 解放軍に代わり、レンズ達を脅しておく。


 実際はガキ共を撃つ前に、怒り狂うコイツらを機兵で踏み潰して終わりだ。ガキ共が殺される可能性はかなり低い。


 巫術師は解放軍にとって、重要な戦力(・・)候補だろうからね。


 レンズ達は一層怒りをたぎらせたようだが、ひとまず踏みとどまっている。……隊長がいたら、こいつらの統率取ってくれるんだろうけど、あたしじゃあこの程度が限界だね。


「アンタらが留守の間に、ラートが戻ってきたよ」


「…………! アイツ、無事だったんですか!? ラートが無事ってことは――」


「スアルタウは!? フェルグスは!?」


「スアルタウは死んだ」


 辺りが「しん」と静まりかえった。


 怒り狂った星屑隊隊員が、冷や水を浴びせられたように静まりかえった。


「……冗談キツいっすよ」


「あの子が死ぬわけない。ラート軍曹が、傍にいただろうし……」


「アイツらには機兵あったでしょ? フェルグス達が、負けるわけ……」


「冗談じゃない。スアルタウは、死んだんだ」


 詳しい状況を説明してやる。ラートに聞いた話を伝えてやる。


 ただ、ラートの「俺の責任なんです」という言葉は省く。


 その代わり――。


「スアルタウは、フェルグスとラートを守るために命がけで戦った」


 そして死んだ。


 守って死んだんだ。


「……立派な最期、っスね。…………まだ子供なんだから、そんな立派にならなくて良かったのに。……あの子、まだ10歳そこらの子供なんですよ……!?」


「そうだね……」


 皆、さっきまでの怒り顔が吹っ飛んでいる。


 鼻水をすすったり、涙ぐんでいる奴もいた。


「ラートは、そんなスアルタウを看取ったらしい。助けたくても助けられなかったらしい。……一応言っておくけど、絶対、ラートを責めるんじゃないよ」


「当たり前ですよ……!」


「ラート軍曹、アルと一番仲良しだったのに……。それなのに、そんなの……あまりにも、あんまりすぎるでしょ……」


「悪いのは解放軍…………いや、その時点だと、羊飼いの所為なのか?」


「……交国軍じゃねえか? 状況的に多分、混乱してたんだろうけど……俺達の同胞が……スアルタウを殺した。……フェルグスから、大事な弟を奪ったんだ」


 誰が悪いと、簡単に言える話じゃない。


 少なくともラートやフェルグスに責任はない。


 スアルタウの死に一番近いのは、交国軍だ。あたし達の仲間だ。ネウロンがこんな状況になったのも、元を辿れば交国の責任と言っていいだろう。


 皆もその事を考えているのか、表情を強ばらせている。


 ……フェルグスにとって、あたし達は「弟を殺した犯人の一味」って事になるのかね。まあ、そう言われても仕方ない状況なのかもね……。


 フェルグスもスアルタウも子供だ。


 そんな子供に、理解を求めるのは酷だろう。


「生き残ったフェルグスも<曙>に収容されたらしい。他の面会が出来ない以上、フェルグスと会うのも難しそうだね」


「そもそも、何であの子達は隔離されているんでしょうか?」


 ショボくれた顔のバレットがそう言ってきた。


 多分、「勧誘」されているんだろう――と言うと、首をかしげてきた。


「解放軍への勧誘ですか? 自分達みたいに……?」


「巫術師は戦力になるからね」


 星屑隊の皆、もうわかっている。


 ラートとヴァイオレットは、巫術師の有用性をあたし達に示した。


 そして、解放軍側にはヴァイオレット以上に「巫術」の使い方を心得ていそうな羊飼いがいる。前にフェルグスは勧誘を受けたらしいし、先日の繊一号での事件でも羊飼いは巫術師を扇動して戦わせていた。


「解放軍も巫術師の復讐心を煽って、兵士に仕立てようとしているんだろう」


「副長もそれを手伝っていると……?」


「そんな、まさか……。副長が、そんなことに加担するわけ……」


 バレットがそう言うと、レンズが「副長は所詮、解放軍の一兵士だ」と言った。


「副長よりもっと上に、解放軍の幹部がいるらしい。羊飼い辺りが幹部連中に……巫術師の力を説明していたら、倫理より実利を取るんじゃねえのか?」


「あの子達は、まだ子供ですよ……!?」


「けど強い。巫術師なら、上手くやれば生身で機兵や方舟を倒せるからな」


 その辺を身に染みて理解しているレンズが、さらに言葉を続けた。


「フェルグスの奴は射撃はともかく、近接戦闘は熟練の機兵乗り以上だ。グローニャも直ぐに前線に出せる射撃技術を持っている」


「特に、憑依が恐ろしいね」


「ええ。交国軍が巫術師の恐ろしさを理解していない場合、次々と機兵や方舟を鹵獲するかもしれない。それだけで交国軍に勝つのは……まあ無理でしょうけど」


 交国軍も馬鹿じゃない。


 久常中佐みたいな馬鹿もいるが、あれは下の下の人材だ。


 交国でも巫術の研究は進んでいるし、直ぐに対策してくるだろう。対策してもなお面倒な相手だが、それでも権能持ちの天使よりマシだ。


 解放軍は解放軍で、「切り札は多ければ多いほどいい」と考えるはずだ。


 巫術師は、交国への復讐心(・・・)を焚きつけやすい相手だろう。交国はネウロンでも無茶をやっていたようだし、扇動材料には事欠かないはずだ。


 相手は後進世界(ネウロン)の人間。オマケに子供なら動かしやすいだろう。


「整備長の言う通り、オレ達と引き離すことで解放軍への勧誘を進めているんだろう。第8のガキ共は、下手したら解放軍の鉄砲玉にされちまう」


「あの子達が交国に苦しめられたのは確かだ。ただ、解放軍に入ったところで報われるとは限らない」


 飼い主が「交国」から「解放軍」に代わるだけだ。


 交国ならいいって話じゃないけどね。


「やっぱ、急いでチビ達を助けなきゃ!」


「どうする? 繊三号の時みたいに、作戦立てて動くか……!?」


「落ち着きな。状況は繊三号の時より、ずっと困難なものなんだ」


 友軍はいるかもしれないが、こっちは隊長不在。


 それどころか敵方に副長がいる。副長は、あたし達のやり口をわかっている。


 機兵を奪うのも困難。奪ったところで、羊飼いに勝てるとも限らない。


 羊飼いが出るまでもなく、解放軍の兵士に取り囲まれて終わりかもしれない。


「このまま指をくわえて見てろってことですか?」


「ガキ共がテロリストに仕立て上げられるのを……!?」


「交国の増援が来てくれりゃ……解放軍なんか……」


「そもそも、増援の奴らはオレらを助けてくれんのか……?」


 わからない事だらけだ。


 けど、これだけは言える。


「無茶だけはしないでおくれ。ガキ共のことも心配だろうが、アンタら、自分の命も大切にするんだよ」


「でも、このままじゃあ……」


「解放軍は泥船だ。けど、あたし達と比べたら向こうの方が強い。無策で挑むのは自殺行為だ。……アンタらが死んだら、ガキ共も詰むんだよ」


 いま、あたしたちとガキ共の命を握っているのは解放軍だ。


 奴らは危険だ。……ただ、解放軍も解放軍で危うい状況に置かれている。


 そもそも、奴ら自身が(・・・・・)誰かの「鉄砲玉」の可能性すらある。


 いつもは一歩引いたところで見ている星屑隊(ウチ)の副長も、今回ばかりは冷静じゃないらしい。……交国への復讐心で目を曇らせている様子だ。


 それでも、他の奴より話が通じる。


「あたしが副長と話してみる。何をするにしても情報が必要だ」


 副長をこちら側に引き戻せば、かなり動きやすくなるだろう。


 あんまり自信ないけどね。……隊長なら説得できそうだが、その隊長もいまどんな状態かわからない。副長は何故か隊長の件でも口を濁しているし……。


 ともかく落ち着いてくれ――と改めて告げる。


 隊員達は不満げながらも、ひとまず部屋に戻りました。


 皆が去って行く中、バレットがあたしに話しかけてきた。


「キャスター先生にも渡したので……整備長にも渡しておきますね」


「なんだい……?」


 バレットの手から、貝殻を受け取った。


 ただの貝殻じゃない。加工した物のようだ。アクセサリーか?


「…………?」


「子供達とヴァイオレットが交国本土で作った『星屑勲章』です」


 あたしとキャスターは交国本土に行ってなかった。


 だから、ガキ共がネウロンであたし達に渡す予定だったらしい。


 けど、ネウロンに戻ってきて早々にガキ共は連れていかれ、繊一号から脱出した後もバタバタしていたので……渡す機会がなかった。


 その「機会」が訪れるかも怪しいから、手作り勲章を託されたバレットが渡してきたようだ。……キャスターが憤っていたのは、これも原因なのかね。


「…………」


「そんな顔しないでください! 子供達が一生懸命作ったんですよ!?」


「アホ。出来をどうこう思ってんじゃないよ」


 そう言った後、思いっきりため息をついた。


 ため息ぐらい、つかせておくれ。


 まったく……やりづらいもんを渡してくるねぇ……。


 あたしが、どんな人間かも知らずに――。




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