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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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無駄な人生



■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:整備長のスパナ


「整備長……! そんなこと言わないで、教えてください!」


 ラートがすがるような目つきで、あたしを見つめてくる。


「俺達、どうすればいいんですか!? どうすれば皆を助けられるんですか!?」


「…………」


「整備長は、曹長ですよね!? 隊長不在で副長もあんな状態なんですから、星屑隊は整備長が率いるべきですよ……! もしくはキャスター先生が……!」


「あたしゃただの整備兵だよ? それに、あたしだってわからないんだ」


 この状況、どうすればいいか。あたしだってわからない。


 解放軍は泥船だ。自殺の予定が無いなら、解放軍はやめておけ。


 けど、他の道もろくでもない。


 解放軍の告発によって、オーク達は目を覚ましてしまった。だが……真実がこの子達を救ってくれるとは限らない。


 解放軍につくより、交国軍の救援まで持ちこたえる方がマシ……だと思う。


 ただ、ネウロンに派遣されてくる交国軍の指揮官や、軍上層部の判断次第では……あたし達も解放軍ごと殺されかねないのが現状だ。


 例えば<星の涙(スターマイン)>を降らせる。


 ネウロンの数少ない都市部に降り注いだ運動弾爆撃は、「解放軍の拠点」を吹き飛ばすだろう。羊飼い以外では対応できない無差別攻撃が来た場合、あたし達も無事では済まないかもしれない。


 それでも隊長なら……あたしらに「第三の道」を提示してくれそうだが、その隊長は負傷で治療中らしい。……本当に生きているか、ちと怪しい状況だがね。


 あたしの手を取り、すがりついてくるラートを「とりあえず休みな」と部屋に送る。パイプも手伝ってくれた。ひとまずラートを部屋に押し込めた。


 こんな事じゃ、根本的な問題は解決しない。


 けど……あまりにも根深すぎて、あたしらじゃあ……どうしようもない。


「なんとか……何とか、ここから逃げ出さないと」


「…………」


 ブツブツと言っているパイプにも、何と言えばいいやら。


 ……しかし、なんか……随分と静かだね。


 この宿泊所には、隊長と副長以外の星屑隊隊員が集っている。


 星屑隊(ウチ)のガキ共は隊長がいてもやかましいのに、今日は随分と静かだね。……静かすぎるね?


 そう思っていると、宿泊所の外が騒がしくなった。


 誰かがやってきた。……というか、戻ってきた。


「アンタら……宿泊所を抜け出してたのかい?」


「ちょっと用事があったんですよ。ひとまず帰ってきましたけど!」


 騒がしいのは星屑隊の隊員達だった。


 先頭にいるレンズは不機嫌そうな顔を浮かべている。


 オマケに……解放軍の兵士に銃を(・・)突きつけられている。


 他の隊員も銃を突きつけられているが、全員が苛立った様子だ。解放軍の兵士の方が多いが、星屑隊隊員のいらつき具合に気圧されているようだ。


「すまないね。ウチのガキ共が何かやらかしたのかい?」


「この者達は、捕虜の分際で<曙>への侵入を企てたのだ!!」


「侵入じゃねえ! グローニャ達に会わせろって言いに行っただけだろ!?」


 銃を構えた解放軍の兵士に対し、怒り顔のレンズが詰め寄る。


 額に銃口がめり込んでもお構いなし。解放軍の兵士もちょっと退いている。


 ただ、向こうにもメンツがあるらしく、言い返してきた。


「なぜ、お前らは解放軍に逆らう!?」


「うるせえーーーーッ!! グローニャに会わせろ!!」


「レンズ軍曹の言う通りだ!!」


「ウチのチビ共を誘拐しやがって!!」


「解放軍はロリコン集団なのかぁ!? 頭腐ってんのかァッ!!」


「ボケ! カスッ!! ロリコンッ!!」


「ひッ……! なんだ、コイツら!!」


 あぁ……。余計に頭が痛くなってきた。


 要するに、レンズ筆頭に星屑隊の奴らはガキ共に会いたいらしい。


 まあ、そうなるか。副長に騙されて捕まって、またまた副長に騙されてガキ共だけ連れていかれて……何とか連れ戻そうとしたんだろう。


 さすがに面会は許されなかったみたいだが、銃を突きつけられてもなお、ここまでふてぶてしくしてたら困惑するだろうね。


「ガキ共、落ち着きな。話がややこしくなる」


「けど、整備長!! グローニャもロッカも、副長に連れていかれたまま戻ってこないんですよ!? 解放軍の奴らは、羊飼いと組んでんのに……!!」


「俺ら、命がけで<曙>に乗り込んでアイツら連れ戻したのに……!!」


「チビ達は、繊三号でオレらを救ってくれたんですよ!?」


「ヴァイオレットも大怪我してんでしょ!? 面会すらできないなんて、解放軍は横暴だ!! なんであの子達だけ、オレ達から引き離しているんだ!!」


「やましいことがあるからだろ!?」


「「そうだ!! そうに違いないッ!!」」


「わかったぞ。解放軍……外道の集団だったか!!」


「おおおおお前らっ、銃殺してほしいのか!?」


 気圧された解放軍の兵士達が震えている。


 引き金に指をかけたまま震えている。ガタイ良いうえに痛覚のないオーク共相手だから、一撃で殺さないと自分達が殺されるとわかっているんだろう。


 身体だけ大人のガキ(オーク)共は発砲寸前の解放軍兵士を指さし、「こいつら! オレらを殺すつもりだ!」「正体現したわねっ!」と叫んでいる。


「あいつらを返してください! ロッカを……返してくださいっ! お願いしますっ! お願いしますっ!」


「さ、触るなぁっ……!!」


「おねがいしますっ! お願いしますぅっ……!!」


 バレットですら、青ざめたまま解放軍の兵士にすがりついている。


 青ざめるどころか、涙と鼻水を兵士にベットリつけている。


「キャスター……」


「…………!」


 軍医少尉(キャスター)すら、バカの群れに加わっている。


 解放軍兵士2人の顔面にアイアンクローしつつ、興奮した牛のように鼻息荒くしている。解放軍兵士が「ギャアア」と鳴いている。コイツが一番ヤバい!!


「わかった! わかったから……!」


 隊長も副長もいないから、面倒だねぇ……!


 アンタらが暴れると、ヴァイオレット達もどうなるかわからない。あの子達の命は解放軍が握っているんだからね――と言って聞かせる。


 星屑隊のガキ共はようやく大人しくなってくれたが、悔しそうにしている。殺気立った目で解放軍の兵士を睨んでいる。


 ……コイツらもコイツらで、解放軍の放送を聞いて狼狽えていたくせに……ガキ共が戻ってこないから、そっち心配でたまらなくなったのかねぇ……。


「すまないね、解放軍。コイツら馬鹿だから、気をつけた方がいいよ」


「気をつけろって、どうしろと!?」


「そいつらが<曙>に向かってきたんですよ!? 集団で『うおおおおおおおおッ!! ガキ共を返せ~~~~ッ!!』って叫びながら……」


「完全に当たり屋だったんだぞ!?」


「知能の低いゴリラと思って接しておくれ」


 ガキ共、森に……もとい、部屋にお帰り。


 そう促したが、怒り狂っているガキ共は鼻息荒く解放軍を睨んでいる。


 ガタイは良いけど頭は弱いゴリラ共だから、相手側には泣き出す子もいた。


 可哀想に、新兵なんだろう。ゴリラ共はツバを吐き、「ザコが!!」と言い、さらに泣かせ始めた。どっちが悪者なんだい? どっちも似たようなもんかぁ……。


「貴様ら、何で状況を理解しないんだ!? 解放軍は貴様らの味方だぞ!?」


「味方はなぁ! ガキ誘拐しねえよバーーーーカっ!!」


「ロリコン集団解放軍! ロリロリロリコンコンコンッ!!」


「「「「「ロリロリロリコンコンコンッ!!」」」」」


「ゴリラ達を刺激しないでおくれ」


「ヴァイオレットはチビだけど、自称大人だぞ!?」


「でも、ヴィオラちゃん、乳と尻は結構――」


 不用意な発言をしたゴリラが、ゴリラの集団にタコ殴りされた。


 不意に行われた星屑隊内の私刑に対し、解放軍は恐怖している。


「解放軍は、正義の味方なのにぃ……!」


「わっ、悪いのは交国なんだぞ!? あなた達は交国に騙されているんだ……!」


「先にグローニャとロッカとヴァイオレットを返せよ!!」


「返してくださいぃっ! ヒィンッ!!」


「レンズ軍曹! 隊長も返してもらわないと……」


「あの人は別に1人でも帰ってきそうだが……。隊長も返せよ!」


「「「「「返せっ! かーーーーえーーーーせっ!!」」」」」


「「「「「か~~え~~せッ! か~~え~~せッ!!」」」」」


 よくこのゴリラ共を止めて、ここまで連行できたね……。


 解放軍の兵士に「とりあえず逃げな」と勧める。


 この場は何とかなりそうだったんだが――。


「テメエらかッ! <曙>を襲撃した捕虜っていうのは!!」


「あぁ~っ…………」


 やっと場が収まりそうだったのに、解放軍側に増援が来た。


 そりゃあ、ゴリラの集団が方舟に突撃したら騒ぎになるか。


 銃火器で武装した解放軍がさらに追加。しかも、ゴリラ……じゃない、オークが多い。これは多少の折檻は覚悟しなきゃダメかもね。


 そう思っていると、新手の先頭にいたオークが驚いた顔を見せた。


「あっ! あれっ!? お前、レンズか……?」


「なんだァ、テメェ……。オレがレンズ様で文句あんのか!?」


「ハハッ! レンズか! 女みたいな趣味してるレンズかぁ!?」


「あん……?」


 驚き顔を見せた解放軍のオークが、ゲラゲラと笑い出した。


 どうやら知り合いらしい。


 レンズも「ひょっとして、プーリーか……?」と呟いた。


「おいおいッ! 敬えよ! 今の俺はプーリー大尉だぜッ!?」


「ハァァ……?」


 得意げな相手オークに対し、レンズが訝しげな表情を向ける。


 知り合いかい? と問うと、教えてくれた。


「オレと同じく、銀星連隊に所属していた交国軍人です。オレと喧嘩騒ぎ起こして、連隊から追い出された奴ですよ」




■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:狙撃手のレンズ


 銀星連隊のプーリー。いや、「元」銀星連隊か。


 オレの作ったぬいぐるみにケチつけて、喧嘩売ってきた馬鹿だ。


 オレと仲良く連隊から追い出されたんだが……何でコイツがここに?


「お前、二階級特進しても大尉にはなれないだろ」


「バカめッ! 大尉の地位は、解放軍で手に入れたんだよッ!」


「あぁ、なるほど……」


 ブロセリアンド解放軍の中には、交国軍人も大勢いたらしい。


 解放軍は解放軍で独自の階級制度を整備しているようだ。まあ、所詮はテロ組織の階級だから、ガキのおままごと程度の価値しか無いが――。


「つーか、誰かわからなかった。豚鼻になってね? あぁ、オレが整形パンチしちゃったから、そうなったのか? 可哀想な豚鼻プーリーちゃん……」


「なってねぇよッ! テメーの物覚えがわるいだけだ」


「すまねえな。どうでもいいことは直ぐ忘れるんだ」


 眉間をピクピクさせているプーリーにそう返す。


 こんなところで会うとはなぁ……。


 おままごと階級とはいえ「大尉」ってことは、解放軍に寝返って長いのか。随分前から解放軍にいたのかね……。まあコイツ馬鹿だし、お似合いか。


「しかしレンズぅ。テメーもネウロンにトバされてたのかぁ~!」


「まあな。お前も左遷されたのか」


「ハ? 俺は違いますぅ~~~~! 自分で! 望んでここに来たんだよッ! ブロセリアンド解放軍の戦士としてなぁッ!!」


 汚らしい笑みを浮かべたプーリーが、不意に蹴ってきた。


 避けきれず、モロに腹を蹴られちまった。後ろに飛ばされたが、背後にいた星屑隊の皆が受け止めてくれたから、何とか倒れずに済んだ。


「なにすん――――」


「立場わきまえろよォ! 捕虜のくせによぉッ!!」


「チッ……」


 プーリーが肩に置いていた銃を片手で向けてきた。


 テメエのへなちょこ射撃能力だけなら、どうとでもなる。


 だが……他の解放軍の兵士も銃を向けてきているのは少しマズい。星屑隊(みんな)まとめて撃たれちまう。斉射が続いたら、さすがに耐えられん。


「レンズちゃぁ~ん、お前、未だにぬいぐるみ作ってんのかなぁ~~~~?」


「…………」


「バカだねぇ! お前、妹なんていねえのに! お前が『実家』に持ち帰ったぬいぐるみは、ぜ~~~~んぶ捨てられてんだよぉッ!」


「っ…………!」


 そんなわけない。


 そんな、わけが…………。


 オレの、可愛い義妹(いもうと)達が……全員、嘘のはずがない。


 けど……でも……アイツは泣いていた。


 グローニャは家族を失って泣いていた。


 交国政府は、マジでやらかしていたかもしれない。グローニャを泣かせるようなことをしていたかもしれない。実際、家族に会えなかったんだ。


 オレも、似たような立場かもしれない。


 オレの場合、「死んでいる」どころか「いない」だが――。


「哀れだなぁ、レンズくぅ~ん。存在しない家族のために、せっせとゴミを作っていたわけだ! 恥ずかしくないか!? お前の人生、無駄だらけだったなッ!」


「……無駄じゃねえ」


「あん?」


「無駄じゃねえ。少なくとも、1人、喜んでくれたヤツがいた」


 無駄なこともあったかもしれねえ。


 けど、喜んでくれたヤツは確かにいる。


 オレは……アイツの笑顔に救われたんだ。


 アイツも、アイツの笑顔も、嘘っぱちなんかじゃない。


「テロリスト風情が、調子に乗ってんじゃねえぞ。豚鼻のプーリー」


「……ブッ殺されてえようだな」


 前に進む。


 プーリーの銃口が額に突きつけられる。


 コイツが引き金を引くより早く動いて、プーリーを人質にするか。


 ここにいる解放軍を全員人質に取って、グローニャ達を――。


「プーリー……。コイツら、少将の『お気に入り』の部下じゃなかったか?」


「あのお気に入りはともかく、少将に知られたらマズいですよ……」


 プーリーの取り巻き共が何か言っている。


 少将? 誰のことだ?


 お気に入りって……ひょっとして、副長のことか?


「チッ……。次、問題を起こしたら遠慮なくブッ殺してやるからなぁ?」


 プーリーは銃口でオレの額をグリグリとイジった後、宿泊所から出て行った。


 その背中に跳び蹴りしてやろうと思ったが――。


「レンズ……」


「へいへい……。わかりましたよぉ……。大人しくします」


 腕組みして睨んでくる整備長には逆らえねえ。


 けど、この状況は何とかしなきゃ。


 もし仮に、オレ達が交国政府に騙されていても関係ねえ。


 オレは偽物に囲まれていたのかもしれない。けど、偽物だけじゃない。


 本物もいた。


 グローニャ達がいた。


 アイツらを助けてやりたい。


 アイツらが本物だったからこそ、オレ達は繊三号で死なずに済んだ。


 ガキ共を助けるためには、オレ達の腕っ節……役に立つはずだ。


 そしたらほら、交国軍人(おれたち)が積み上げてきたものは無駄じゃない。実際に誰かを助ける事が出来たなら、無駄じゃない。……絶対にそうだ。





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