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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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最悪の再会



■title:交国保護都市<繊三十号>にて

■from:繊三十号に逃げてきた交国軍少尉


「うるさいっ! 奴らを黙らせろ!!」


 繊三十号近郊にタルタリカが現れ、咆哮を上げ続けている。


 相手は魔物。いつもなら直ぐに突撃してくるが今日は違う。いや、今日も違う。


 繊一号での騒動や、ネウロン解放戦線の時からタルタリカの動きがおかしい。統制が取れている。今も町を取り囲みつつ、吠えているだけ。


 今から一斉に突撃してやるぞ――と言いたげに吠え続けている。


 索敵のために出しているドローンが全てやられたらしく、敵がどれだけ来ているかわからない。町から見える範囲しかわからない。


 繊一号に来ていたタルタリカが全てこちらに来ていたら……さすがにマズい。繊一号ですら落ちたのに、ここが耐えられる保証は――。


「機兵は!? まだ出せないのか!?」


 防壁の上から町を見下ろしつつ、機兵が仮置きされている広場を見る。


 機兵乗り達が慌てて駆け、自分達の機兵に乗り込む姿が見える。


 いや、既に乗り込み、流体装甲を展開しているものもあるが――。


「少尉! 搭乗済みの機兵ですが、操作を受け付けないらしく――」


「操作を? まさか――」


 機兵乗りの中にまで、ブロセリアンド解放軍が紛れていたのか?


 操作を受け付けないなんて嘘をつき、こちらに攻撃しようとしているのか?


 機兵乗りが敵に寝返ると手がつけられなくなるため、素性や思想を厳しく精査していた。奴らがウンザリするほど問い詰めたが、全員「白」だったはずだ。


 いや、単に動かないだけなら整備不良の可能性も――。


「動いているじゃないか!」


「あれっ? ほ、ホントですね……?」


 部下と共に、動き出した機兵を見る。


 その調子で出撃し、「タルタリカ共を蹴散らしてしまえ」と思っていたが――。


「た……! 退避! 退避しろッ!!」


 動き出した機兵は町の防壁に対し、流体で作った斧を振り下ろしてきた。


 一撃で破壊されなかったものの、防壁が揺れる。「ぎゃあ」と叫びながら落ちていく兵士の姿も見えた。


 ここも危険だ。退避しつつ、広場の機兵を見るが……暴れている機兵を止める者は現れない。それどころか他の機兵も防壁に向かい始めた。


 防壁を破壊し、タルタリカの侵入を助けようとしている。


「まさか、全員寝返ったのか!? そんなバカな……!」


「搭乗中の機兵乗りから連絡が! 全員、操作を受け付けないと――」


「下手な言い訳だな! 素直に『寝返った』と言えばいいだろう!?」


 実は寝返ってなくて、敵が何らかの手段で機兵を乗っ取ったのか?


 そんなバカな、そんな都合の良い手段が存在するものか!


 ともかく、繊三十号にある機兵がほぼ全て敵側に回った。


 町の内側で暴れ始めた。


 防壁上の火砲を機兵に向けるのは間に合わない。町の外にいるタルタリカに向けていたのに……! 虎の子の機兵が全て敵側に回るなんて予想できるか!!


 こうなったら――。


「繊三十号を放棄する! 我々だけで船に向かうぞ!」


「少尉、一般人は――」


「放っておけ!」


 噂では敵方に巫術師がいるらしい。


 奴らはネウロン人だ。同じネウロンの一般人は攻撃しないだろう。余所の世界から来た異世界人は……虐殺されるかもしれんが、知ったことではない。


「おい、お前達! お前達もこっちに――」


「馬鹿者! いや、来るな! 貴様らは応戦しろ! 何とかしろッ!」


 そこらの兵士まで声をかけ始めた部下を叩き、黙らせる。


 逃げるのは私と信頼できる部下だけ。他の奴らは知らん。


 船に乗り込める人数にも限りがあるし、ブロセリアンド解放軍に寝返った奴らがまだいるかもしれない。機兵乗り以外にもいてもおかしくない。


 ここから逃げても、敵が紛れ込んでいたら殺されかねない――。


「とにかく、我々の生存が最優先だ!」


 繊三十号は陥落する。他の都市もダメだ。


 こうなったら水上船で逃げるしかない。界外の交国軍が来てくれるまで逃げ続けるしかない。ネウロン旅団はもう終わりだ!


 背後で巨大な建造物が崩れる音がした。防壁が崩され、大きな砂埃が舞う。怒号と悲鳴が響く中、それでも何とか港まで辿り着くと――。


「た、タルタリカ……!?」


 海からタルタリカの群れが這い上がってくるのが見えた。


 あと少しで船まで辿り着けたのに、船上にもタルタリカの姿がある。


 奴ら、海の方からも来たのか。タルタリカが水場を克服したと聞いていたが、海底を歩いて繊三十号に来た群れもいたらしい。……完全に退路を断たれた。


『こちらはブロセリアンド解放軍。交国軍兵士諸君、投降しなさい』


「ぐ…………」


 機兵や水上船のスピーカーから、敵の声が聞こえる。


 敵の降伏勧告が町中に響き始めた。


 もう終わりだ。


 町も、ネウロン旅団も……我々も――。




■title:交国保護都市<繊三十号>にて

■from:死にたがりのラート


「機兵が寝返ってる……。巫術による乗っ取りか……!」


 町中にいた交国軍の機兵が、町の防壁を破壊した。


 町の外に向け、防壁が崩れる。10メートルを超える防壁が崩れ落ちた振動で、地面が揺れる。……ときの声のような咆哮が町の外から近づいてくる。


 タルタリカの群れが町に突撃してくる。


 けど、誰も抵抗できない。


 機兵は敵に奪われた。多分、巫術を使える奴に乗っ取られた。


 機兵が町の内側で暴れ、防壁どころか迎撃用の兵器も破壊している。


 交国軍の兵士が機兵から逃げ惑っている。中には銃で抵抗する奴もいたが、機兵相手に歩兵用の火器が通じるはずがない!


「逃げろ! とにかく逃げるんだ! 一般人を連れて、船へ――」


 俺に手錠をかけ、拘束した兵士も既に逃げている。


 町中とはいえ、もう安全とはいえない。町の内側に敵が入り込むのはもう止められない。そもそも、機兵が敵に乗っ取られている以上、敵の侵入を許している。


 というか、そもそも、港の方からもタルタリカの咆哮が聞こえる。


 奴ら、海底から来たのか? 退路が断たれていく。このままじゃ――。


「機兵だ」


 機兵を使って、敵に奪われた機兵を倒すしかない。


 その後、流体装甲を使って防壁の穴を塞ぐ。そこから立て直すしかない。


 この町の指揮官がまともな人なら、そうするはずだ。


 問題は、どうやって機兵を取り戻すかだが――。


「…………! まだ機兵あるじゃねえかっ!」


 港の方に鎮座していた機兵があった。


 機兵に向けて走る。まだ動いてない。多分まだ奪われてない。


「おい! 俺は機兵乗りだ! 手錠を外してくれ!」


「えっ? あっ? か、解放軍の兵士じゃないんですか……!?」


「違うに決まってんだろ!! 信じられねえかもしれねえが、手錠を――」


 近くにいた整備士達に声をかけ、手錠を外してくれと頼む。


 工具でも使って、手錠を破壊してもらえば俺が機兵を――。


「――――」


 遅かった。機兵が流体装甲を展開し始めた。


 操縦席には誰もいなかった。ということは、巫術師(だれか)が憑依した。


「巫術による乗っ取りだ! 機兵から離れろ!!」


 困惑している兵士達にそう言ったが、遅かった。


 流体装甲展開中の機兵が動き、近くの兵士を捕まえた。生き物のように蠢く流体装甲の檻に兵士が閉じ込められ、愕然としている。


『降伏しなさい。こちらはブロセリアンド解放軍。キミ達の抵抗は無意味であり、我々はキミ達との争いを望んでいない』


 機兵のスピーカーから、解放軍の放送が流れ始めた。


 平坦な声。それとは正反対の悲鳴が響く。周囲の兵士は混乱し、逃げ惑っている。逃げ惑うだけなら良かったんだが――。


「うわあああああああああッ!!」


「ばッ……!! 馬鹿野郎!!」


 自動小銃を撃つ馬鹿がいた。機兵相手にそんなもの通用するはずがない。


 ただ、人間相手なら通用してしまう。


 機兵はまったくの無傷だが、流体装甲の檻に囚われた兵士には通じる。


 自動小銃の弾丸が、檻に囚われた兵士に当たった。弾丸の衝撃で兵士が踊るように跳ねる。血しぶきが舞う。銃を乱射した兵士は完全に錯乱していて――。


「やめろっ!!」


 銃を乱射している兵士に体当たりをし、止める。


 手錠がかかったままで上手く動けないが、それでも錯乱している兵士から銃を奪う事には成功した。……成功したが、手遅れだった。


 檻の中にいた兵士は、全身から血を流し……倒れている。


 そんな状態になっても、機兵から声が聞こえ続ける。解放軍の無機質な降伏勧告が響き続けるが、それはさらなる混乱を招くだけだった。


「あぁっ……! くそっ! ちくしょうっ!」


 機兵の手が伸びてくる。


 こっちは、まだ体当たりから立て直していないのに。


 流体装甲が蠢き、俺も檻に囚われてしまった。




■title:解放軍支配下の<繊三十号>にて

■from:死にたがりのラート


「くそっ……。やりたい放題じゃねえか……」


 繊三十号は陥落した。


 多分、誰1人逃げられなかっただろう。


 もう抵抗の音は聞こえない。広場に集められた交国軍の兵士に向け、機兵の機関砲が向いている。誰か1人でも抵抗したら掃射が始まるだろう。


 町中にはタルタリカもいる。30体ほどだが、それでも歩兵にとっては驚異だ。タルタリカに対抗できそうな兵器は全て無力化されている。


 町の外にも、結構な数のタルタリカがいるらしい。


 ブロセリアンド解放軍の降伏勧告が響き続けている。そんなものに従いたくないが、この状況で出来ることは……もうない。


 敵の方舟まで来た。


 繊七号に停泊していた方舟だ。


 近くで待機していて、繊三十号が陥落した事で来たらしい。


 方舟からタルタリカと、解放軍の奴らが下りてきた。そいつらも交国軍人達に対し、「抵抗は無意味だ」などと言って回っている。


「フェルグス……。スマン……」


 騒ぎを聞きつけたエノクさん達が繊三十号から離れ、逃げてくれる事を祈るしかない。俺は……もう無理だ。逃げられない。


 流体装甲の檻は拘束具のように変化し、俺の周りをガチガチに固めている。今のところ何とか死なずに済んでいるが……最悪、この後で処刑される可能性も――。


「おい! そいつを離せ! そんな拘束しなくていい!」


「…………!?」


 方舟に乗ってやってきた解放軍の兵士。


 その中にいた1人が、俺を捕まえた機兵に近づいてきた。


「副長!? 何でここに――」


 星屑隊(ウチ)の副長が来た。


 何で、ブロセリアンド解放軍の奴らと一緒にいるんですか?


 それどころか、アンタの後ろにいるのって――。


羊飼い(バフォメット)……!」


 奴がいる。一連の騒動を起こしたあの羊飼いもいる。


 奴は俺達の敵。


 それなのに、当たり前のように副長の後ろを歩いている。


「ラート! 無事か!? 怪我とかしてねえだろうな!?」


 機兵が動く。俺を地面に下ろした。けど、拘束は解いてくれなかった。


 近づいてきた副長に問う。何で副長がそっち側にいるんですか――と。


「よりにもよって……何で羊飼いと一緒にいるんですか!?」


「元は敵だが、今は違う。バフォメットはもう、解放軍の協力者だ」


 副長はそう言い、笑った。


「……アンタ、交国軍を裏切ったのか?」


「バカ。先に裏切ったのは交国だ」


 羊飼いを従えた副長は、笑顔でそう言った。


「交国はオレ達(オーク)を騙し、軍事利用してきた」


「何を言って……」


「そんな交国に鉄槌を下す。それがオレ達、ブロセリアンド解放軍の役目だ」


 交国打倒のためなら、誰とでも手を組んでやるさ。


 副長はそう言い、羊飼いに対しても笑みを向けた。


 羊飼いは副長を見ていなかった。俺も見ていなかった。


 町の外に視線を向けつつ、呟いた。


このオーク(ラート)と逃げた巫術師がいるようだ。そちらも捕まえておけ』





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