<予言の書>の真実
■title:神に見放された地にて
■from:【絵師】
我々、<プレイヤー>はインチキ集団だ。
ただ、無敵の存在ではない。
中には全身を太陽で焼かれてもケロリとしているガチのインチキ野郎もいるけど、基本的に新人類と大差ない。かよわく儚い生き物だ。
ただし、プレイヤーは<予言の書>を持っている。
予言の書は世界の攻略本。あるいはカンニングペーパーだ。
予言の書には「未来の出来事」が書かれている。
全てのプレイヤーは与えられた予言の書により、「未来」を知る事ができる。書の内容はプレイヤーごとに異なる。
その差異が非常に厄介なんだけど……まあ、いま論ずる話じゃない。
多くのプレイヤー達は予言の書を手に、自分が望む「未来」を掴もうとする。
ある者は、巨万の富を築くため。
ある者は、さらなる力を手に入れるため。
ある者は、何者にも脅かされない安寧を手に入れるため。
ある者は、単なる好奇心で世界に干渉している。
世界の攻略本である<予言の書>があれば、「未来」に起こる出来事を知る事が出来る。例えば競馬をする時、「どの馬が勝つか」記された予言の書を持っていたら、その通りに馬券を買えば大儲けできる。
……ここまでの説明には大きな誤りが存在している。
予言の書に書かれているのは「未来」などではない。正確に言えばね。
便宜上、「未来」と言ってるだけ。
「【占星術師】、予言の書に記されているのは『何』かわかってる?」
「未来です」
「逆だ。過去だよ」
予言の書には「未来」が書かれている。
ただ、「正確な未来」ではない。
表現するうえで「未来」と言った方が手っ取り早いだけで、正確じゃない。
「予言の書に記されているのは、過去に存在した『並行多次元世界』の記録だ。<原典聖剣>が観測した過去の記録だ」
この多次元世界は沢山存在している。
ウチらが干渉出来ないだけで、多次元世界は「ここ」以外にも沢山ある。
今まで沢山の多次元世界が存在していた。大半の多次元世界は今も存在しているだろうね。類似しているだけで、並行多次元世界は別物の世界だから。
予言の書に記されているのは、今まで存在した多次元世界の記録だ。
その記録は<原典聖剣>という観測装置によって行われてきた。
「原典聖剣は時間遡行能力と、多次元世界全体を観測する力を持っている」
カメラとデータ送信機能を備えた観測装置だ。
まあ、それ以外の機能もあるけど……それはメインの機能じゃない。
原典聖剣の本来の役目は「多次元世界の観測」だ。
「原典聖剣は新しく生まれた多次元世界に投入され、条件を満たすまで観測を続ける。その剣の中に『世界の情報』を蓄積し、条件を達成すると過去に戻る」
どこまで戻るかというと、多次元世界が生まれる前まで戻る。
持ち帰られた「世界の情報」は編纂され、<予言の書>としてまとめられる。
プレイヤーは多次元世界が生まれるたびにアップデートされる<予言の書>の一部を渡され、新しい多次元世界に原典聖剣共々投入される。
「ウチらが知っている『未来』とは、あくまで『過去であり別の多次元世界』で起きた出来事をまとめたものだよ」
「…………」
「条件を整えれば、『過去に起きた出来事の再現』が可能となる。条件も含めて予言の書に書かれているから、ウチらはそれをせっせと整える事で『望んだ未来』を勝ち取ってきた。非常にインチキな方法でね」
ただ、予言の書も完璧じゃない。
未来が記されているわけじゃないからね。
本当に、あくまで「過去のデータ」が記されているだけ。
ゲームの攻略本みたいなものだ。
しかも、この世界は常に進化している。
多次元世界という「ゲーム」を<プレイヤー>達にプレイさせ、原典聖剣にプレイ記録を保存させる。それを過去に持ち帰り、攻略本たる予言の書を更新する。
新しいプレイヤー達はアップデートされた予言の書により、前回の世界より効率的に世界攻略を行えるようになる。
……理論上はそうなるはずだけど、実際はそんな上手くいかない。
予言の書を作っているゲームマスターはクソ野郎だからね。予言の書の内容をバラバラにして、プレイヤーそれぞれに違う内容を配っている。
全ては明かさず、不明点だらけの予言の書を配る事もある。
何もかも思い通りにしたい場合、他のプレイヤーが持っている<予言の書>を奪うしかない。おかげでウチらは、プレイヤー同士で醜い争いを続けている。
プレーローマにある冷蔵庫に「世界一美味しいプリン」が保存されている情報が書かれていたので、ルンルン気分で取りに行ったとしよう。
すると。他のプレイヤーもその情報を予言の書で知っていて出くわす。プリンは1つしかない場合、プリンという「報酬」の奪い合いも起きる。
1つじゃなくても、独占したプレイヤーが競合相手を殺しにかかる事もある。
ゲームマスターがクソ野郎な所為で、争いが起こる構造になっているんだよ。
この争いによって、多次元世界はほぼ毎回、「異なる歴史」を辿っている。予言の書を持つプレイヤー達が暗躍する所為で、歴史がグチャグチャになるからね。
おかげでクソ野郎が「色んな可能性」の蒐集に成功し、予言の書をさらに分厚くしているわけだね!
ホントにあの人嫌い!!
だからプレイヤー同士の殺し合いなんて日常茶飯事……いや、この話はいいか。
「ともかく……予言の書に書かれているのは『未来』じゃない」
「…………」
「ノンプレイヤー相手に説明したり、扇動する時には『私達は未来を知ってま~す』と騙るのは良い手だと思うよ? けどさぁ、現実は正しく認識しようよ」
自分相手でも「俺は未来を知ってるぞ!」とか言うのはヤバいよ。
予言の書の奴隷になりかけている。
予言の書の力に酔い、予言の書を過信し過ぎている。
【占星術師】は戦闘能力はそこそこあるけど、<プレイヤー>としては未熟だ。ゲームマスターの所為で、最初はまともな予言の書を持っていなかったから……プレイヤーとしての経験が他より乏しい。
「大事なことだから何度も言うけど、予言の書に書かれているのは『過去の多次元世界の歴史』であって『未来』なんかじゃない」
参考にしたら優位に立ち回れるのは確か。
けど、依存はダメだ。
競馬する時に「予言の書にこの馬が勝つと書かれていた!」「だから全財産投入する!!」なんてやったら、大失敗する事もある。
他のプレイヤーが裏工作していた時は「予想していた未来」から大きく変わるだろうし、そもそも大金を投入したらオッズが大きく変わって、それ自体が「歴史への干渉」となって結果変わりかねないからね。
そもそも、不自然な金の流れが発生する時点でマズい。
そこまで自信満々で大金を投入したって事は、「プレイヤーの介入が発生した」という情報を他プレイヤーに与えかねない。
プレイヤーがいるという事は、そいつの予言の書を奪うチャンスがあるって事。
プレイヤーよりもっとヤバい魔神を呼ぶ事もある。
プレイヤーの中には「他の奴らの予言の書を奪って、自分の予言の書を強化するゾ!」ってクソ野郎もいるからね。【絵師】ってヤツとか特に酷いよ。
【占星術師】の予言の書は「訳あり」の品だから、いらないけどさ。
「予言の書を過信するのはマズいよ。気をつけた方がいい」
いくつもある可能性に少額をチマチマ賭けていくのが賢いやり方だよ。
ウチも予言の書を参考に、今まで何度も博打してきたけど……基本的に「失敗しても取り返せる程度」に留めていたしね。基本的には……。
「キミは自分の予言の書を過信しすぎている」
「…………」
「もうちょっと、力を抜いて取りかかった方がいいと思うよ?」
多分、そろそろ動くだろうな~とは思っていた。
【占星術師】は力に飢えている。
長い間、まともな予言の書を持っていなかった。
プレイヤーとしては弱い存在だった。……その所為で虐げられていた。
兄弟揃ってずっと、観測肯定派の使いっ走りにされてたからね~。
もう、あんな惨めな生活には戻りたくないんだろう。
どこぞの誰かが、奴隷達をそそのかして、自由という希望を見せてしまった。一度、自由という甘味を知ってしまえば、もう元の暮らしには戻れない。
少なくともキミは無理だ。
「さて、おさらいをしよう。予言の書に書かれているのは~?」
「未来ですよ」
「あのさぁ……。授業を聞いていた?」
「ボクの手にかかれば、未来になるのです」
【占星術師】が芝居がかった仕草で両手を広げた。
自分が舞台の主役であるかのように。
そんな事ないのにね。
ウチら、プレイヤーは「歴史の寄生虫」だ。
スポットライトの下じゃ、その光で焼け死ぬ哀れな存在だ。
あまり表舞台に出過ぎると、怖い存在に殺されちゃう。
だから、身の程をわきまえて暗躍しないといけないのに――。
「ボクには未来が視えている。ボク以上に未来を知っているあなたなら、よくわかるでしょう? 我々プレイヤーは特別な存在なんだ」
「特別、ねぇ……」
「我々が持つ<予言の書>は強力です。これがあれば我々は未来を変えることができる。我々の行く手を阻めるのは同じ存在だけだ」
「でも、マクロイヒ兄弟は弟しか殺せなかったじゃん」
【占星術師】は暗躍を優先し、交国軍人を扇動してけしかけた。
自分で直接殺しに行く「危険」より「安全」を選んだ。
その結果、彼は1人しか殺せなかった。
「キミが『特別』とか『強力』という予言の書も、絶対じゃない」
だから失敗した。
しくじった。
事実を指摘すると、【占星術師】は睨んできた。
「俺は失敗していない。お前の干渉があったんだ。そうだろう!?」
「違うよ。そもそも、ウチはマクロイヒ兄弟殺したい側だよ?」
少なくとも片方が死んでいれば万々歳。
辺獄の戦力強化として欲しかっただけだ。
来るべき日に向けてね。絶対必要な戦力じゃないから、わざわざ干渉するつもりはなかった。邪魔する必要がない。
ウチはプレイヤーとして沢山の人間を悲劇に蹴落としてきたけど、別に快楽殺人鬼じゃないもん。計画的に教唆してきただけ。
「マクロイヒ兄弟の死に関して、ウチらの利害は一致している」
「じゃあ、何故……失敗した」
「運命を変えられるのは、プレイヤーだけじゃないって事だよ」
プレイヤーはあくまで<予言の書>を持っているだけだ。
「ノンプレイヤーだって、運命を変えられる」
「そんなはずない。奴らは未来を知らないのですよ?」
「そんなの関係ないよ。今の新人類は旧人類の干渉によって生まれた存在だよ? 実質ね」
彼らの誕生は、元を辿ればプレイヤーの干渉によるもの。
プレイヤーの選択の先にいる存在だから、彼らも「プレイヤーが持つ影響力」を持っているんだよ。ウチらの違いは実質、予言の書の有無程度だ。
プレイヤーは絶対の存在じゃない。
所詮、かよわく儚い寄生虫だ。
「観測肯定派が<源の魔神>を使って作り上げた秩序は崩壊した。その崩壊すらプレイヤーの干渉であり、現代に至るまで『干渉の玉突き事故』が起きているんだよ。だから、ノンプレイヤーだって運命を変えられる」
「そんなわけない。ありえない」
【占星術師】はため息をつき、気怠げに首を振った。
やっぱりダメか。
この子、完全に<予言の書>の奴隷になっている。
主従関係が逆転している事を自覚していない。
あるいは、あの魔神の影響かな。……やっぱり、この子に譲って正解だったか。
「まあ、全てのノンプレイヤーが脅威とまでは言わないけど……」
傲慢の病に取り憑かれた【占星術師】を見つつ、言葉を続ける。
「舐め過ぎない方がいい。特に、キミが手駒にしたメフィストフェレスとかね」
「…………」
「あの子の所為で、キミは計画の修正を余儀なくされたはずだ。……気安く頼って後悔してない? あの子、メチャクチャ手がかかるでしょ……」
「まったくです。親の顔が見たいほどだ」
修正の手間を思い出したのか、【占星術師】が不機嫌そうに鼻を鳴らした。
ただ、直ぐに自信に満ちた笑みを浮かべ始めた。
「しかし、ご心配なく。既に対応済みです。随分と好き勝手やられましたが、概ねボクの計画通りに事は進んでいます。……あなたが邪魔しなければね」
「だから、邪魔しないって」
むしろ忠告しに来たんだ。
計画が成功するようにね。
マクロイヒ兄弟の様子を見に来たのは、本当についで。
【占星術師】の様子を見ておきたかったんだ。彼女から「暴走気味だよー」って報告は受けていたから、経過観察も兼ねて見に来たんだ。
ここまで酷い状態とは、思わなかったけど。
「とにかく……予言の書の奴隷から脱却しな? 我が同胞」
かつて、【占星術師】達は他の観測肯定派の奴隷だった。
彼らのおこぼれに与らないと、生きていけない弱い存在だった。
とあるプレイヤーにそそのかされ、彼らは主人を裏切った。
奴隷ではなくなったはずだけど……今は予言の書の奴隷と化している。
まあ、もう……手遅れっぽいけどね。
■title:神に見放された地にて
■from:【占星術師】
「とにかく……予言の書の奴隷から脱却しな? プレイヤー」
何が授業だ。単なる説教じゃないか。
この女は苦手だし、嫌いだ。いつもいつもいつも上から目線で……!
ふぅ、と息を吐く。
落ち着け。感情を揺らせば、この女の思うつぼだ。つけ込まれる。
何とか言葉を絞り出す。「言いたい事は以上ですか?」と告げる。
「いや、もう1つ。<真白の魔神>はキミの手には負えないよ」
「魔神といっても、所詮は労働者ですよ」
やはり、この女は俺の計画を知っている。
おそらく、所有している<予言の書>に書かれていたのだろう。
あくまで断片的に知っているだけならいいのだが……。
「人類連盟のメフィストフェレスを死に追いやった時のことを思い出してください。あの愚かな新人類共が、我々の目論見通りに人類の救世主を死に追いやった時のことを!」
奴の死は、世界の分水嶺になった。
俺達にとっても分水嶺になった。
人連のメフィストの死が、俺達と世界の運命を変えたのだ!
それまで惨めな裏方に過ぎなかった俺を、一気に主役まで引き上げた!
俺は、自分自身の手で今の立場を勝ち取ったのだ……!
「予言の書に選ばれた我々こそが、真の救世主なのです!」
「あ~、ハイハイ。ソーデスネ。ウチらは『選ばれた』んじゃなくて、あのクソ野郎の実験動物にされてるだけだと思うけど……」
【絵師】が呆れ顔でスケッチブックを閉じ、ため息をついた。
そして、質問を投げかけてきた。
「そういえば、キミの相方はどこ?」
「…………」
「【詐欺師】はどこに行ったの?」
問いに答えず、視線だけを返した。
にらみ返してやった。
お前は知っているはずだ。……お前がそそのかしたんじゃないのか?
我々が観測肯定派から離反した時と同じく……。
「喧嘩別れでもした?」
「戯れ言を。奴が何故ここにいないか、貴様はよく知っているはずだ」
「キミほど詳しく知らないよ」
かつて、俺は1人のプレイヤーと行動を共にしていた。
俺は命がけでアイツを守っていた。
奴もそれに応えてくれていた。
俺達は、ずっと一緒のはずだった。
それなのに……アイツは……。
「【詐欺師】と【占星術師】はベストコンビだったじゃん。それなのに――」
「うるさい。俺を裏切り、去って行った奴の事など知ったことか」
それだけじゃない。
もう存在しない奴の事など、気にする必要はない。
全ては過去のことだ。
「裏切りの理由など、どうでもいい。そもそも……奴は自殺したでしょう?」
「自殺? プレイヤーキラーに殺された、でしょ?」
「自殺のようなものですよ。あの程度の輩に殺されるなど……」
よく注意しておけば、あの程度の存在に殺されるはずがない。
俺は恥ずかしい。【詐欺師】があんな奴に殺されるなんて……。
…………。
なんで死んでしまったんだ。
ごめんなさい。僕が間違ってたよ、って謝りに来いよ。
そしたら、俺は……昔みたいに、お前を……。
「…………。とにかく、奴は死んだのです。無様に死んだのです」
「本当に死んだのかな? 【詐欺師】が簡単に死ぬ子じゃないでしょ」
【絵師】がスケッチブックとペンを手にしたまま、肩をすくめる。
「あの子の業は地味だけど強力なものだった。……死すら偽装したのかもよ?」
「【詐欺師】は所詮、ボクの影です。影の分際で刃向かってきて、どこかに行ってしまったのですから……大したことは出来ませんよ」
「そうかなぁ……?」
【絵師】は納得していないようだった。
俺だって、納得していない。
アイツともう会えないなんて……。
俺が、計画を成功に導いたら……俺の事を見直して、ヘコヘコと頭を下げに来ると思ったのに……。それなのに、その機会が永遠に失われたなど……。
「奴の業が活きたのは、俺の業があっての事。単体では活かせない」
「キミだって、あの子がいたからこそ力を存分に発揮できた」
「…………」
「まあ、ともかく……キミの傍にはいないようだ」
【絵師】は砂埃をはらいながら立ち上がった。
「で、【詐欺師】の後釜として【楽士】を選んだわけだ」
「違う。奴はもうプレイヤーではありません」
情報は正確に取り扱ってほしい。
しかし、この女、どこまで情報を把握しているんだ。
俺の計画を全て把握しているのでは……?
「【楽士】というプレイヤーはいない。いるのは泥縄商事の社長です」
「そうとも言うね」
「奴は落伍者。プレイヤーの資格を失った泥人形ですよ」
この女とはもう話したくない。
殺して口封じしてやりたいが、おそらく無駄だろう。
【絵師】は長年、暗躍を続けてきた慎重なプレイヤーだ。
目の前にいるのは、【絵師】本体ではないはずだ。
……いまは「邪魔しない」という言葉を信じるしかない。
「まだ話があるなら、別の機会にしませんか? ボクも多忙なので」
「はいはい、お邪魔虫はそろそろ退散しますよ」
そう言った【絵師】の身体が空気に溶け始めた。
水に落とした絵の具のように溶けていき、最後は完全に透明になって消えた。
奴の業は、未だによくわからん……。正体がつかめない。
「やはり、俺は貴様が嫌いだよ。【絵師】」
そう呟いたが、反応は何も返ってこなかった。
もう聞いていないようだ。
「…………」
改めて、本来見ていた対象に視線を戻す。
フェルグス・マクロイヒ。何故か生き残った雑魚。
奴は大した存在じゃない。【絵師】だって、そこまで注視していなかった。
とはいえ、マクロイヒ兄弟が計画の邪魔になる可能性が予言の書に記されている。それが具体的にどういうものかはわからないが、キッチリ処分を――。
「チッ……。邪魔な天使が近づいてきている……」
【絵師】と話しているうちに、機会を失ってしまった。
俺が直々に殺す事も可能だったが、いま仕掛けるのはマズい。
これ以上、この場に留まるのは危険だ。運命操作能力者でも危険だ。
扇動できる対象も見つからない。退くしかない。
「弟の方は死んだ。それで良しとしよう」
兄1人を討ち漏らした程度、大きな問題ではない。
目的は十分に果たした。そろそろネウロンから出よう。
早く出て行かないと、奴らの計画に巻き込まれてしまう。




