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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.0章:この願いが呪いになっても
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2人のプレイヤー



■title:神に見放された地(ネウロン)にて

■from:【占星術師】


「…………」


 例の魔神の所為で、計画に修正が必要だった。


 だが、その修正も概ね完了し、今は計画通りに進んでいるはずだった。


 俺の計画に穴はない。


 俺は未来を知っている。


 <予言の書>により、運命に干渉できる遊者(プレイヤー)なのだ。


 俺は選ばれた存在のはずなのに――。


「……俺の知る未来と違う」


 馬鹿な軍人共を扇動してけしかけたのに、マクロイヒ兄弟を殺せなかった。


 弟の方(スアルタウ)は殺した。しかし、兄の方(フェルグス)は殺せなかった。


 それに奴らと一緒にいた軍人(ラート)も殺せなかった。


 おかしい。何故、奴らが生きている?


 運命を変えられるのはプレイヤーだけ。俺の干渉によって、奴らの死は確定したはずだったのに……殺せたのは何故か、スアルタウ・マクロイヒだけだった。


「まさか、俺以外のプレイヤーが干渉してきたのか……?」


 そんな馬鹿な。


 いま、ネウロンにいるのは【占星術師(オレ)】だけのはず。


 それとも、まさか、あの兄弟が自ら――。


認識操作開始(ナイトノッカー)考察妨害(ミスディレクション)


 違う。有り得ない。


 運命を変えられるのは遊者(プレイヤー)だけだ。


 ただの労働者(ノンプレイヤー)如きが、運命(オレ)に抗えるはずがない。


 マクロイヒ兄弟は、ただの労働者――。


認識操作(ナイトノッカー)休眠状態移行(スリープモード)


「ああ、そうだ……。奴らはノンプレイヤー……運命を変えられるはずがない」


 マクロイヒ兄弟の片割れが生き残ったのは、偶然(・・)だ。


 俺の干渉が甘かったのだろう。……手心を加えたつもりはなかったが……俺自身が気づいていない手落ちがあったのかもしれない。


 俺は特別な存在だが、実際にけしかけた軍人共は特別じゃない。どこにでもいる普通の軍人であり、奴らが弱すぎただけだろう。


「俺が直接、殺しにかかるべきだったか……? いや、だが、それは……」


 俺自身が表舞台に出るのはマズい(・・・)


 他のプレイヤー、あるいはプレイヤーキラーに見つかる可能性がある。


 俺が直々に出るべき舞台は、まだ未来(さき)だ。


 そもそも、マクロイヒ兄弟は大した存在ではないし……。


認識操作開始(ナイトノッカー)考察妨害(ミスディレクション)


 確実に確保したかった明智光とは違う。


 リスクを冒して殺す必要があるほど、重要な駒じゃない。


 奴らを殺しておきたいのは、計画の妨げになる可能性があるから。


 予言の書にそう書かれているから、一応、殺した方がいいだけ――。


認識操作(ナイトノッカー)休眠状態移行(スリープモード)


「…………フン。認めてやる。確かに俺に手落ちがあったのだろう」


 それ以外、失敗の原因が考えられない。


 マクロイヒ兄弟は雑魚(・・)なのだ。奴らはただの巫術師(・・・・・・)だ。


 奴らの存在が「計画の妨げになる」と予言の書に書かれていたところで、そこまで重要視する存在ではない。平凡なノンプレイヤー如き、どうとでもなる。


「俺の計画は完璧だ。俺には、未来が視えるのだから……」


「キミ、まだそんな戯言(たわごと)を言ってるの?」


「…………!?」


 後ろを取られた。誰かが背後にいる。


 マクロイヒ兄弟の監視を中断し、急ぎ、振り返る。


 そこには岩に腰掛け、スケッチブックに何かを描いている女の姿があった。


 女は俺の顔を見て、ニコリと笑って挨拶してきた。


「やあ、久しぶりだね。【占星術師】」


「【絵師】……!」


 俺と同じく、運命を変えられる選ばれし者(プレイヤー)


 その1人である【絵師】が、俺に微笑みかけてきた。


 ……何故、この女がここにいる?


 ネウロンには、俺以外のプレイヤーはいないはず。


 そこらの雑魚ならともかく、よりにもよってコイツがいるなんて……!


 知らない。


 こんな未来知らない!!


「こんな未来知らない、とか思ってるの?」


「きッ、貴様……! 俺の心を読んだのか……!?」


 顔面を手で押さえつつ、身構える。


 警戒度を最大まで上げていると、絵描き女は可笑しそうに笑った。


「ウチは読心能力なんて持ってないよ。キミがわかりやすいだけ」


「…………」


「【占星術師】、キミは相変わらず予言の書(カンペ)を過信しているようだね。ウチら(プレイヤー)未来(・・)が視えるわけじゃないのに……」


 落ち着け。


 【絵師】の戦闘能力は大して高くない。


 ただ、厄介なだけだ。俺が苦手な相手というだけだ。


 俺の計画がバレたわけではないはず……。


「…………」


 【絵師】は俺の天敵……<観測肯定派>のプレイヤーじゃない。


 奴らと違って、見つかったところでそこまで大事ではない。落ち着け。


 姿勢を正し、努めて冷静に振る舞い、相手の目的を探ろう。


「【絵師】……今更、ボクの邪魔をしに来たのかな?」


「出た。その一人称(ボク)。取り繕う時はいつもそれだよね~」


「質問に答えたくないのか? そういう事でよろしいか?」


「ウチがキミの邪魔なんてするわけないでしょ。する意味がない」


 【絵師】は笑みを浮かべたまま、スケッチブックに視線を落とした。


 何かを描き続けている。隙だらけに見えるが……。


「ウチらは目指すところが違うけど、キミがやろうとしている事はウチも望むところ。キミの計画が成功した方が面倒がなくていいんだよね」


「…………」


「警戒してもいいけど、キミの邪魔はしないよ。約束しよう」


 この女の言葉など、何1つ信用できない。


 この女は俺の計画を把握しているのか? そうだったとしてもおかしくない。【絵師】は何人もの同胞(プレイヤー)を葬ってきた最悪のプレイヤーだ。


 他のプレイヤーから奪った予言の書により、自身の予言の書をさらに強化している。戦闘能力は低いが、警戒を緩めていい相手じゃない。


「ボクの予言の書を奪いに来たのでは……ないのか?」


「いらないよ、キミの予言の書は。というか、それは譲った(・・・)ものでしょ」


「ええ、ええ……。その件はお世話になりましたね」


 俺達の分水嶺。


 いや、俺の……転換期。


 それをもたらしたのは、この女だった。


 その恩義はあるが、この女は信用できない。


「邪魔や回収でないなら、協力しに来たのですか?」


「いや、そこまでのリスクは踏めないよ。キミに裏切られて、キミが警戒している観測肯定派(やつら)が来たら困るからさ」


 応援はしてあげる。


 ただ、「がんばれ~」と言うだけだよ――と【絵師】は言ってきた。


 胡散臭い。この女の言葉ほど信用できないものはない。


 【絵師】は千の毒を煮詰めて作られたようなプレイヤーだ。他者を騙し、扇動する専門家だ。<源の魔神>すらも、この女の手にかかれば稚児同然だった。


「今回は……ちょっと確認したい事があったから立ち寄っただけだよ」


「確認したい事……? こんな辺境の世界(ネウロン)なんかで?」


「キミが殺したがっていたマクロイヒ兄弟の生死だよ」


 それを確認しに来たらしい。


 【絵師】ほどのプレイヤーが、あの兄弟に注目していたのか?


「彼らはあなたの計画に必要なのですか? それほどの駒とは思えませんが……」


 マクロイヒ兄弟はともかく、【絵師】は侮れない。


 【絵師】に認められ、予言の書にも記されている奴らは脅威――。


認識操作開始(ナイトノッカー)考察妨害(ミスディレクション)


 いや、【絵師】も間違う事はある。


認識操作(ナイトノッカー)休眠状態移行(スリープモード)


 俺が兄の方を殺し損なったように、【絵師】も過大評価しすぎているのだろう。


 マクロイヒ兄弟は大した存在じゃない。


 どう考えても(・・・・・・)雑魚だ。


 しかし、【絵師】ほどの歴戦のプレイヤーの手にかかれば、雑魚のノンプレイヤーでも戦力になるかもしれない。【絵師】にはそれだけの予言の書(ちから)がある。


 俺だって、【絵師】程度のこと……やろうと思えば出来るさ。


 あのガキが「特別」なはずがない。


 特別なのは、俺だ……! 俺の計画が成就したら、【絵師】だって……俺には勝てなくなる。いや、【絵師】どころか他のプレイヤーだって――。


「彼らはそこまで重要じゃない。ただ、出来れば片方は死んでおいてほしいなぁ~と思ってただけ。最悪、いなくても……何とかなるはずだし」


「では、お喜びください。ボクのおかげでスアルタウ・マクロイヒは死にました」


「ふぅん。やっぱキミが扇動してたんだ」


「あっ……!」


「ふふっ……。まあ、とりあえず『ありがとう』と言っておくよ」


 【絵師】が再び顔を上げ、胡散臭い笑みを浮かべながらこっちを見てきた。


 昔から、この女の視線が苦手だ。


 心の奥底まで見透かされている気がする。


 貴様、本当に読心能力がないのか……?


「手間が省けたお礼に忠告……もとい、基本的な授業をしてあげよう」


「授業?」


ウチら(プレイヤー)がどんな存在か。その基礎知識の授業だよ」





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