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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.4章:真白の遺産【新暦1241年】
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過去:悪魔と契約者



■title:ネウロン・シオン教総本山<新宿(ニイヤド)>にて

■from:人類の味方()・メフィストフェレス


 知らない場所、知らない世界で目を覚ました。


 私を召喚した下僕クン……【占星術師】クンから事情を聞く。


 クッソ胡散臭い男だけど、吐く言葉が全て嘘とは限らない。参考程度に聞いて、後から正誤を確認すればいい。まあ、嘘つきなのはお互い様だから多少はね?


 そこそこの条件で呼び出してもらった以上、多少は恩を返さないと――。


 キミの計画とやらに協力してあげる。


 面白そうだしね! 面白いか否かって、とても大事な事だよ。


 かくしてアレコレと処理した後、新宿(ニイヤド)に来たわけだけど――。


「交国の目は誤魔化せそうですか?」


 明智光ちゃんのフリをして、交国の人達と話してきた後、下僕クンがそんなことを心配してきた。まあ、当然の心配だよね。


「ネウロンにいる駐留軍は、1ヶ月ほど誤魔化せそうかな」


 下僕クンが結構派手に駐留軍を殺した所為で、そこ誤魔化すの大変!


 一応、明智光(わたし)の権限で誤魔化しておいた。「基地にはしばらく戻りませ~ん」って言っておいた。長くは持たないだろうけどね。


 明智光ちゃんの助手君はアホだから、永遠に騙せそうだし、彼程度ならその辺に埋めておけばいいけど……問題は他だね。


「玉帝の近衛兵達もネウロンに来ているし……宗像特佐長官も部下を引き連れて来る予定っぽいし……彼らの目は誤魔化せないかな。そんなに長くは」


「…………」


「ちょっとぉ……。なぁに、そのガッカリした目は!」


 超有能な私でも、急に呼び出されたら出来る事は限られるよ!


 こちとらクッソ賢いだけで、「ハーーーーッ!」と念じるだけで何でも出来るインチキ野郎じゃないんだよ!? 急に呼び出されて万事解決できるか~い!


 しかも、相手は交国でしょ?


 何故か(・・・)私のことをクッソ憎んでる玉帝ちゃん率いる交国は、マジで厄介。末端の軍人達はともかく、近衛兵とか特佐連中とか正面からやりあいたくないよ!


 私、戦士じゃないからね!? 頭脳労働だけさせてほしいよ、ホント。


「ガッカリされたところで、数日しか誤魔化せないだろうからねっ!?」


「そうですか……。まあ、その数日で事が済めば大丈夫ですよ」


「むぅ。頑張ってみるけどねー」


 下僕クンを引き連れ、シオン教団の施設内を歩く。


 この胡散臭いにも程がある男の依頼を果たすために――。


「真白の魔神の遺産を、交国より先に手に入れろ……か」


「あなた様なら簡単でしょう?」


「気楽に言ってくれるなぁ……! 確かに私は『真白の魔神の専門家』であり、『天敵』と言って差し支えないけどさぁ~……!」


 奴は容易い相手じゃない。


 忘れっぽい私でも、そこはしっかり覚えている。


 たまに忘れるけど……今回は(・・・)そこの記憶の欠落はなかったみたい。


「でも、間違いなくネウロンにあるの? キミが狙っている遺産は」


「ええ、間違いなく。ただ、詳細な場所はわかりません」


「候補地はわかっている。それがここってわけね」


 シオン教が崇めている神。叡智神。


 その正体は<真白の魔神>らしい。


 彼の魔神は神出鬼没であり、多次元世界中に痕跡を残している。そして少なくともネウロンに2回は現れている。その1回目が約1000年前らしい。


「あなたなら必ず、真白の遺産を入手できる」


 下僕クンは役者みたいな大仰な動作をしつつ、「何故なら、あなた様はメフィストフェレスですからね」などと言ってきた。


 コイツ、ゴマをするの下手くそだな……。


「あのね。私は都合の良い『機械仕掛けの神』じゃないからね? ぶっちゃけひ弱だし、出来ないことの方が多いからね……?」


「そんな事はありません。あなた様は人類連盟もプレーローマも恐れる最強最悪の存在ですからね。あなたは源の魔神に並ぶ存在……いや、それ以上の逸材です」


「源の魔神並みなら、そう何度も死んでないよ」


 下手くそなお世辞が鬱陶しい。思わずため息をついてしまう。


 まあ、今回は直ぐに「天敵」に会わなかっただけマシだけどね。


 それは下僕クンのおかげだろうけど――。


「そういえば、キミはどうやって私を召喚したの?」


 人気の無い回廊で立ち止まり、【占星術師】に問いかける。


 今回、私は「召喚」された。


 明智光という人造人間(・・・・)を媒体とし、呼び出された。


 普通、こんな事は起きないんだけど――。


「そこは忘れているのですね。あなたの発明品を使ったのですよ」


「明智光の体内に入り込んできたキモい虫の群れのこと?」


 どうも、それは林檎の形をしていたらしい。


 林檎の形に擬態した術式ナノマシンの群れ。


 それが明智光の体内に潜り込み、とある術式を発動した。


 私を召喚する術式。どうも私の発明らしいけど……覚えてないな。


 忘れてるだけで、確かに作ったんだろうけどね。


 この明智光(からだ)で味わったから、感覚的に理解(・・)したけど――。


「名を<毒林檎>といいます。あなた様が作り、発明したものです」


「クソキモい発明品だけど、確かに効率的だね。昔の私、やるなぁ~」


 私は今まで何度も死んでいる。


 死んでいるけど、死ねない(・・・・)


 ただ、ちょっと特殊な歩く死体(リビングデッド)で「死んだ場所で蘇る」のではなく、「別の場所で蘇る」のが常だ。


 通常、復活場所は自分で選べないけど……過去の私は<毒林檎>という発明品を使い、復活場所をコントロールしようとしたみたいだね。


 私の復活能力は、便利で不便だ。


 基本ランダムな場所、ランダムな人で復活するから、敵のド真ん中で急に「私」が復活する事も多々ある。人以外で復活する事もある。


 まあ、マジで忘れっぽいので、大半の苦労も忘れちゃったけど……この特性は便利で不便だから、過去の私がコントロールしようとしたのは正解だね。


 そもそも死なないのがベストなんだけど――。


「キミは過去の私から、その毒林檎を託されたわけだ」


「ハイ」


「ふぅん」


 ホントかな?


 まあ、どっちでもいいけど――。


「実際に使わせていただいたユーザー視点で報告させていただくと、毒林檎は扱いに困りましたよ。保管方法をミスすると勝手に動き出しますし」


「あー、そうだろうね」


「ボクも、何度か身体を乗っ取られかけましたよ……!」


「マジ? そうならなくて良かったよ、ホント」


 こんな胡散臭い男の身体で復活してたら、速攻自殺するわ。


 いや、便利な力を持ってるみたいだし、それはそれで欲しいけどね。


 やっぱ、人間の女の身体が一番しっくり来るんだよね~。


 明智光の身体は悪くない。理想的!


 理想的のはずだけど……サイズはちょっとしっくり来ないかなぁ~……? などと思いつつ、明智光(じぶん)の胸を揉み揉みしてみたり。


「その身体、なかなか具合が良いでしょう?」


「うん。あ、キモいからキミは見ないでくれる?」


「チッ! はい」


「キミの身体も、媒体として使えただろうね」


 そう言うと、下僕クンは笑みを浮かべた。


 そこは理解しているのですね、と言われた。


 もちろん、もう大体のことは理解できたよ。


「毒林檎とやらは、誰にでも使えるものじゃない。媒体となる身体にも適正が必要なんでしょ? 多分、常人は『召喚』に耐えられない」


「その通り。どちらにせよ媒体は死にますが、あなた様の器となる存在は簡単には用意できないのですよ……。ボクもそこに苦労しました」


 私の復活場所をコントロール出来るのは、とても便利だ。


 ただ、何もかも都合よくいくわけじゃない。


「ボクに未来を見通す力がなければ、このタイミングで媒体となる明智光を用意することは出来なかった」


「そこは感謝してるよ。上手くやってくれたね。……玉帝の近衛兵はいるわ、特佐長官が迫っているわって状況はやめてほしかったけど……!」


「いや、確かに、仰る通りなのですが……。全て思い通りとはいかないものです。人生というのは難しいものですねぇ」


 下僕クンがキモい愛想笑いを浮かべ、揉み手している。


 その後、言葉を続けてきた。


「毒林檎は見事な発明です。しかし、問題も多い」


「実際に使ったキミ的には、星いくつ?」


「星2ですね」


「微妙に辛口だね。まあ、今後の参考にさせてもらうよ」


 そんな事を話した後、改めて目的地に向けて歩き出す。


 途中、シオン教団の人達とすれ違うけど、愛想良く接しておく。明智光は交国人のくせに、ネウロン人とも上手く付き合っていたようだ。偽善者め。


「ああ、ところで下僕クンさぁ――」


 【占星術師】に少しだけ身を寄せ、軽く臭いを嗅ぐ。


 微かに泥の臭いがする。


「キミ、泥縄商事のドーラちゃんと知り合いでしょ」


「……何故それを?」


 下僕クンは驚いた表情を見せ、疑問してきた。


 さすがに、この件を誤魔化すのは無理だと悟ったみたいだ。


「あの子の臭いしたから。ひょっとして、恋人だったりぃ~?」


 そうからかうと、下僕クンはさらに表情を変えた。


 苦虫を噛みつぶしたような表情になり、えらく不機嫌そうにしている。


 そして、「そんなわけないでしょ」と言ってきた。


 曰く、仕事を依頼しているだけらしい。


「奴は便利です。金はかかりますが……」


「まあね。私が口利きしたら、タダで動いてくれると思うよ?」


 だから引き合わせてくれない?


 そう言ったけど、下僕クンは愛想笑いを浮かべ、「奴はあなた様に会いたくないそうですよ」と言ってきた。まあ、それは事実だろうね。


 会わせると、大変都合が悪いってこともあるだろうけど――。


「しかし、あの守銭奴のことは(・・・)覚えているのですね?」


「たまたまね。彼女とは人類連盟が出来た頃からの付き合いで、大半の記憶は忘れちゃった。けど、その後もちょくちょく会ってるからさ」


 私も仕事を頼んだ事がある。


 あるいは、命令(オーダー)で彼女を従わせた事がある。


 あの子は創造主(わたし)に逆らえないからね。


「さて、と……。目的地はここかな~?」


 【占星術師】クンの情報。


 明智光の情報。


 その2つを参考に、ニイヤドにあるシオン教団の書庫にやってきた。


 今のところ、ここが一番怪しい。


 目当てのものかどうかともかく、何かしら「真白の遺産」があるだろう。


「ああ、ホントだ。マジで真白の魔神の仕掛けがあるね」


 書庫の一角に術式防壁の仕掛けられた隠し通路がある。


 忘れっぽい私でも、感覚的に覚えている術式構成だ。


 攻撃的な防壁で、下手に押し通ろうとすると噛み殺してくる。力業で突破しようとした場合、自壊によって中にあるモノも破壊されるだろう。


 まあ、残骸だけでも復旧できるかもだけど……無理は避けたいね。


「あなたなら簡単に突破できるでしょう? ネウロンの真白の魔神が仕掛けた防壁など、メフィストフェレスの手にかかれば障子同然のはず」


「いや、そんな簡単な話じゃないよ」


 魂魄認証でサクッと通れる可能性も考えたけど、それは無理みたい。


 ネウロンにいた真白の魔神は、かなり用心深い奴だったみたいだね。


 他者だけではなく、自分自身も信じていなかったようだ。


「古い術式だけど、最新技術があれば簡単に破れるものじゃない。無茶をしたら中の遺産ごとブッ壊れる。とてもデリケートな防壁だ」


 弱さを上手く組み込んだ術式防壁だ。


 中のモノを取られるぐらいなら、破壊してやるって思想みたいだね。


 まあ、仮に壊れたところで「ネウロンの真白の魔神」なら復旧できるだろうね。制作者だろうし……誰にも渡したくなかったなら妥当な判断だろう。


 私的には「勿体ないな~!」と思うけどね。


「私でも解錠に2日はかかる。その間、身辺警護を頼むよ」


「申し訳ありません。ボクは別件があるので、もうネウロンを出ないと……」


「ハァ?」


 キミさぁ……! その辺に玉帝の近衛兵いるかもなんだよ?


 それなのに復活したてホヤホヤの私を放置していくのぉ……!?


 ちょっと抗議したけど、「計画のためなのです」と言ってきた。


「これは、あなた様のためでもあるのです。ご理解ください」


「いきなりワンオペか~い。主人使いの荒い下僕クンだな……」


 そう言って責めると、下僕クンは申し訳なさそうな顔を作り、謝ってきた。


 その代わりと言っては何ですが――と言いつつ、言葉を続けてきた。


「<マーレハイト亡命政府>の<ピースメーカー>という組織を動かしています。彼らを上手く使って、交国に対する陽動をしておきます」


 そっちの工作員に交国が食いついてくれるはずです、と言ってきた。


 あまり期待できそうにないな……。


「それと、ネウロンの真白の魔神こと、<叡智神>についてまとめた情報です。こちらの端末に保存しているので、参考にしてください」


 そう言い、携帯端末を1つ渡してきた。


 下僕クンがせっせと集めた情報が入っているらしい。


 それを渡すと、下僕クンはそそくさと去っていった。


 それを呆れ顔で見送った後、改めて術式防壁に向き合う。


「…………さて」


 こちらの術式を使い、防壁に干渉する。


 2秒で解錠成功。ひとまず、ここの防壁は何とかなった。


「1000年前の真白の魔神とはいえ、今と本質は変わらないなー」


 私は真白の魔神の「天敵」だ。


 彼の魔神が必死に防壁を組み立てても、クセは理解しているから解錠は不可能じゃない。もちろん、侮ってかかっていい相手じゃないけどね。


 さて、中はどうなってるかな~……?





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