表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.3章:我が征く道【新暦1237年】
277/875

過去:エデン総長の選択



■title:エデン旗艦<アララト>にて

■from:炎陣・ファイアスターター


「迷惑をかけた」


「いえいえ。というか、困っていたなら声をかけてよ」


「このような事で、総長の手を煩わせるのはな。……結局、迷惑をかけたのだが」


 お菓子を頬張り、キャイキャイとはしゃいでいる子供達を見つめる。


 見つめつつ、隣で笑顔を浮かべているニュクスと言葉を交わす。


 ニュクスが……総長が来てくれなければ、危ういところだった。


 荒れ狂う混沌の海の如く、収拾がつかない子供達の前で途方に暮れていると、ニュクスが籠を持ってやってきた。


 菓子入りの籠を持ってきてくれた。


 どうやら物資管理の担当者と交渉し、ニュクスが子供達のために菓子を持ってきてくれたらしい。……吾輩が差し入れてくれた、という名目で。


「本当にスマン。子供達の仲も、取り持ってくれて……」


 尻拭いをさせてしまった事を再度謝ると、ニュクスは苦笑して「じゃあ次はもっと上手くやってね」と言った。


「子供達に謝りに行く前に、総長(わたし)に相談してよ」


「むぅ……」


「エデンの仲間同士で喧嘩は御法度。喧嘩しないために、大人(わたし)達が上手く動かなきゃいけないんだから……同じ大人の私も頼ってね?」


 吾輩を肘で突きつつ、「1人で抱え込まないで」と言ってきた。


 それは吾輩のセリフだ。


総長(おまえ)の方が、1人で色々と抱え込んでいるだろう」


「そりゃあ総長だからね」


「ズルいぞっ……」


「その分、戦闘で頼りにしているでしょ。第2実働部(ファイアスターター)隊の隊長様」


 肘でさらにグリグリと突いてきたので、視線を逸らす。


 痛くないが、恥ずかしいものがある。


 ただ……本当に助かった。


「本当に助かった。ナルジスにまで迷惑をかけるところだった」


 ニュクスの義娘(むすめ)であるナルジスも、子供達の輪の中にいる。


 皆と一緒に笑顔で菓子を食べつつ、年少の子を気遣い続けている。


 ナルジスはとても良い子だ。子供達は正直……色々、難しいところがあるのだが、ナルジスが子供達の世話を焼いてくれるおかげで助かっている。


 ナルジス自身も子供なのにな。……あの子も、背負いすぎだ。


「ナルジスの存在も助かっている。親の教育が見事なおかげだ」


「違うよ。あの子自身が強くて、良い子だからだよ」


 ニュクスはそう言って笑ったが、直ぐに憂いを帯びた表情を浮かべた。


 そしてポツリと「良い子すぎるけどね」と呟いた。


「あの子にも我慢させ続けている。……ワガママ1つ言わない」


「あぁ……」


 確かに、ナルジスは少し良い子すぎるかもしれない。


 他の子達と同じく、ナルジスにはガマンさせ続けている。


 それなのに、あの子は不満1つ言わない。


 子供達を気遣いつつ、大人の事も気遣ってくれている。


「出ようか。ちょっと顔貸してよ」


「うむ」


 あとは子供達に任せ、部屋を出る。


 廊下を歩き始めると、ニュクスが「ゴメンね」と言ってきた。


「子供達だけじゃなくて、他の皆がカリカリしているのも、総長である私が至らない所為だよ。エデンの台所事情を改善できてないからさ」


「馬鹿を言うな。お前はよくやっている」


 そこに関しては、誰にも文句は言わせん。


 ニュクスは総長の務めをしっかり果たしている。


 確かにエデンの物資事情は厳しい。


 だが、ニュクス以外の総長なら、もっと厳しくなっていただろう。


「吾輩はそう思っている。確かにいま、アレコレと言う者達がいるが……」


「マーレハイト共和国の要請を断った件で?」


「ああ、だが、吾輩はお前を支持するぞ」


 先日、<マーレハイト共和国>という国がエデンに接触してきた。


 彼らは「エデンの全面的な受け入れ」を条件に、「マーレハイト共和国に力を貸してほしい」と要請してきた。


 具体的には「エデンの武力を貸してほしい」と言ってきた。マーレハイトにはプレーローマの魔の手が伸びつつあるから、防衛力強化をしたいらしい。


 ただ、総長(ニュクス)はその要請を一度断った。やんわりと。


 マーレハイト共和国は人類連盟の加盟国だ。エデンと直接敵対しているわけではないが……エデンと手を結べば、人類連盟から厳しい目を向けられるだろう。


 経済制裁どころか、人類連盟からの追放……果てには人連加盟国の国軍が派遣されてくるかもしれない。


 マーレハイトの担当者は「それは覚悟の上です」と言っていた。


 人類連盟に助けを求めても、誰も助けてくれない。だが共和国や同じ世界に存在している諸国家だけでは、プレーローマに対抗できない。


 だからエデンの神器使い(みなさん)の力を貸してくれと言ってきたのだが――。


「お前の言う通り、マーレハイトの要請は怪しい(・・・)


「ただ、魅力的なんだよね。流民(わたし)達にとって」


「そこがさらに怪しさを補強しているだろう」


 マーレハイトは実際、窮状にあるらしい。


 実際、プレーローマが侵攻してくる気配がある。


 マーレハイトは人類連盟に助けを求め、常任理事国等の助力を頼んでいるそうだが……どれだけ譲歩しても相手方の動きが鈍いらしい。


 人類連盟側も、マーレハイト共和国を切るつもりのようだ。


 人連は善意の集団ではない。加盟国それぞれの損得勘定によって動いている。マーレハイトを支配下に置いたところで、大して得はないと判断したのだろう。


 このままでは、マーレハイトはプレーローマに滅ぼされる。


『マーレハイトは弱者ですっ! エデンの皆さんは、弱者救済を掲げているのでしょう!? 我々に出来ることは何でもしますから、助けてください……!』


 マーレハイトの外交官は必死の形相だった。


 あの言葉に嘘はなかったと思うが……条件と状況が怪しい。


 だから、ニュクスはやんわりと断った。


 条件はそこそこ魅力的だが、断った。


 弱者を見捨てないために出来る限りするが、エデン戦闘員がマーレハイト共和国に駐留するのは難しい。出来るとしたら密かに遊撃として動く程度と断った。


 向こうはまだ諦めていないらしく、再三要請してきている。


「あの件で……今日も老人会に非難されたのか?」


 エデン内部にも、総長の判断を非難する者達がいる。


 皆、長年の放浪生活に疲れている。


 心も体も疲弊している。


 マーレハイト共和国が好条件で受け入れてくれるなら、その要請に応えるべき。年寄り共が……<老人会>が特にニュクスの判断に異を唱えている。


 グチグチと「年長者の意見」を言うのが奴らの仕事だからな……。


「今日はウチの弟だよ」


「バカカトーめ……」


 辿り着いた庭園の前で、思わず舌打ちする。


 カトーめ。余計なことを。


 庭園といっても、植物の類いはもうない。艦内のスペースを有効活用するため、庭園は既に物資置き場に改良されている。


 老人会が「遊技場なんて無駄なものはやめるべき」と意見してきた時も、カトーが先陣に立って「うるせーーーー! ガキ共の遊び場ぐらい、許してやれ!!」と言ってくれたのだが……今回は反対側に回っているらしい。


「姉であり総長であるニュクスの決定に、奴が異を唱えるのか」


「悪気はないよ。ウチの愚弟にも、老人会にもね」


「気持ちはわかるが……マーレハイトの件はきな臭さを感じる」


 しかし、魅力的にも思える。


 エデンは年々、孤立を深めている。


 正義を振りかざすほど、多くの者達に距離を取られている。


 そんな正義(もの)、誰も求めていないんだよ――というように。


「いっそのこと、老人会だけでもマーレハイトに押しつけてはどうだ?」


「それは無理でしょ。マーレハイトは防衛力強化をしたいんだ」


 表向きには、そうらしい。


 裏で何を考えているかは……わからん。


 状況的に藁にもすがる思いでエデンに声をかけてきても……おかしくない。


「神器使いである私達が同行しないなら受け入れてくれないよ」


「まあ、そうだろうな……。どこも耄碌老人達は欲しがるまい」


 ニュクスが吾輩を窘めるように、軽く叩いてきた。


「まあ、ウチの愚弟と老人会以外にも色々せっつかれててね……」


「む……?」


 ニュクスが携帯端末を見せてきた。


 そこには「嘆願書」というファイル名が表示されている。


 軽く見せてもらうと、エデン構成員から「マーレハイトの要請を受け入れるべき」という嘆願書が寄せられているらしい。


「構成員及び保護した子達の6割が、再考を求めてきてね」


「バカな……とも言い切れんか」


 皆が陸の暮らしを欲する気持ちもわかる。


 エデンの物資事情が切迫しているのは、皆もよく知っている。


 狭い方舟(ふね)の中で、危険な混沌の海を航海し続けるのは危険だ。安全な陸で目一杯手足を伸ばし、ノビノビと暮らしたがる気持ちもわかる。


 吾輩だって、皆にそんな場所を提供したい!


 だが、場所や相手は吟味せねば……。


 マーレハイトが何の悪気もない「ただの弱者」だとしても……プレーローマの魔手が迫っているところで暮らすのは、危険だ。危ない。


 人類連盟も黙っていないかもしれない。


 マーレハイトを責めるだけではなく、「よくもウチのメンツを潰してくれたな!」とばかりに吾輩達を襲ってくるかもしれない。


 リスクが高い。


 だからこそ、ニュクスは要請を断ったのに……。


「こういうのも届いている。『総長さん、おねがいです。ぼくらは自分のおウチがほしいです。自分の部屋がほしいです。いっしょにマーレハイトに行ってください』……だってさ」


「子供からも届いているのか……!?」


「本人の意志で書いたか、微妙に怪しいけどね」


「チッ……! 老人会の扇動か……」


 さすがに苛つき、再び舌打ちしてしまう。


 エデンの行動方針は総長が決める。


 しかし、「民主的に話し合おう」とも言われている。


 総長が苦渋の決断をしても、老人会はウダウダと文句を言ってくる。最近は大人しくしていたと思ったが……このような姑息な手まで使ってくるとは……!


「さすがにウチの弟は……老人会と別口で文句言ってくるんだけどね」


「奴らの味方をしているようなものだ……!」


「ファイアスターター。老人会も私達の味方だよ」


 喧嘩はダメだからね、と窘められる。


 その理屈はわかる。わかるが、納得はできん。


 老人会が皆を扇動する所為で、エデンが空中分解しかけていないか?


「他の神器使いは――」


「さすがに、ウチの愚弟以外は皆慎重だよ。ズワルトピートは『老人会の会長をこっそり締めてこようか?』なんて物騒な事を言っているけど」


「それはいい。吾輩も参戦しようかな」


 冗談混じりに言うと、軽く睨まれた。


 両手を挙げ、ちゃんと「冗談だ」と言っておく。


 ただ、ピートは少し危ういな。


 奴は潜入・調査・暗殺(・・)のプロだ。


 老人会の会長ぐらい、「事故死」に見せて消すのはワケないだろう。


 状況的に、皆が疑うだろうがな。


 総長が手綱を引いている間は、奴も無茶はしないと思うが……。


「……アンヌンを諦めていなければ、皆も……」


「アンヌン放棄は正しかった」


 我々が密かに入植していた地の名前。


 それをニュクスが憂いを帯びた表情で呟いたので、すかさず言う。


 入植地(アンヌン)放棄は正しかった。


 あの時は、誰も死なずに済んだのだからな。


 ……あの時は、正しい判断をしたのだ。


 エデンは長く混沌の海を彷徨い、戦い続けている。


 だが、多くの者が陸の暮らしに憧れている。そのため今まで何度か「後進世界への入植」を試みてきた。そこに流民の安住の地を作ろうとしてきた。


 しかし、全て失敗した。


 アンヌンも入植に失敗した。


 町を拓くところまでは……上手くいったのだ。


 我々の神器を使って未開の地を拓き、そこにエデンの町を作る事にした。もちろん、表向きはエデンの存在は隠して作ろうとした。


 だが、人類連盟加盟国にバレた。


 我々を見つけた相手は強国では無かったため、エデンとやり合う勇気はなかったようだが……それでも退去勧告はしてきた。


 ここは流民の土地じゃない。


 人類連盟管理下の土地であり、この退去勧告に従わなければ人類連盟全体を敵に回す事になるだろう――と言ってきた。急にやってきてそう言った。


 アンヌンとは別の入植地では……退去勧告など無しに攻撃してきた者達もいた。


 交国(・・)の軍隊に襲撃され、多数の犠牲者が出た事もあった。


 襲撃時だけではなく……襲撃後も……。


 あの時に比べれば……アンヌンの時は「マシ」だったはずだ。せっかく切り拓いた土地を放棄せざるを得なくなったが、それでも死者は出なかったからな。


「アンヌン放棄は正しい判断だった。吾輩は何度でもそう言うぞ」


「皆が落胆していたけどね……」


「…………。死ぬよりはマシだ。死ねば、全てが無駄になる


 大人達の不服そうな顔を思い出す。


 何とか出来ないのか。


 アンタらは神器使いだろ……と言ってきた顔を思い出す。


 彼らには「仕方ない」と言える。胸を張って言える。


 我々は神器使いだが、プレーローマや人類連盟相手にやり合えているのは、我々が「戦場を選ぶ側」だからだ。奇襲の優位があるから勝てているだけだ。


 防衛戦で勝ち続けるのは、難しい。


 マーレハイトの要請を断ったのも、根本の問題は同じだ。


 神器使いは強いが、無敵の存在ではない。


 子供達の泣き叫ぶ声に対しては……「仕方ない」と言えなかった。


 皆、アンヌンへの入植を喜んでいた。


 町全体が彼らの遊び場で、皆が活き活きとしていた。


 アンヌンから出て行く時、建物の柱に張り付いて「やだっ! やだっ!」「ここにいる!」と泣き叫んでいた子供達を見るのはつらかった。


 だが、無理矢理連れて逃げた。


 ……あの時(・・・)のようなことは、二度と御免だ。


 失いたくない。皆に失望されても、それでも……。


「皆が陸を切望しているのはわかる」


「…………」


「だからといって、マーレハイトのような危険な場所に赴く必要はない」


 陸での暮らしより、命を優先するべきだ。


 ただ、今の暮らしを維持出来るとは限らない。


 海の藻屑になる可能性もある。


 それどころか、子供達を飢え死にさせてしまう可能性すら……。


「アンヌンは、我らの楽園ではなかった」


 マーレハイトも、きっとそうなのだ。


 ニュクスの判断は正しい。


 カトーがギャアギャア文句を垂れていても、吾輩はニュクスを支持する。


「老人会の意見など黙殺すればいい。……そうだ、奴らに言ってやればいい」


「何を?」


ロレンス(・・・・)の時も、総長判断が正しかっただろう……と」


「あぁ……。あの件ね」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ