夢:傍観者
□title:府月・遺都<サングリア>8丁目
□from:いにしえの魔王
そして2人は海を目指した。
小さな胸に、無邪気な希望を抱いて。
友達に会いに行くため、元気いっぱいに駆けだした。
混沌の海に漕ぎ出し、異世界を目指すのはとても大変なこと。
小さな子供達だけで、達成できることじゃない。
けど、彼らは2人の真白の魔神の使徒と出会った。
その助力を得て、生まれ育った世界から飛び出していった。
外の世界に胸を躍らせながら、自分達の意志で広い海に漕ぎ出していった。
多次元世界は少年達が思っていた以上に広く、厳しいものだった。
泣くこともあった。
ケンカすることもあった。
けど、笑うこともあった。
2人は荒波に揉まれながら、少しずつ成長していった。
ちっぽけな2人が冒険を始めたことで、大きく運命が変わることもあった。
海に漕ぎ出した2人は、やがて友達と再会した。
友達のいた部隊は窮地に追い込まれ、壊滅しようとしていた。
そんな状況の只中に、少年達は飛び込んでいった。
小さな2人は大冒険を経て、ちょっぴり強くなっていた。
かつて救われた彼らが、友達を救う日がやってきた。
救われた友達は恥ずかしそうに笑いつつ、「こっちのピンチを救ってもらっちゃったな」と言った。少年達は優しい人々に囲まれ、再会を喜んだ。
それで、めでたしめでたし……となった世界もあった。
もちろんそれで終わりじゃない。
その後も面白おかしく大冒険を続けていくんだけど……それはまた別のお話。
別の多次元世界の物語。
今回はそうならなかった。
マクロイヒ兄弟は、小さな身体で現実の荒波に立ち向かった。
立ち向かわざるを得なかった。
彼らに、他の選択肢はなかった。
邪悪な実験動物が、彼らから可能性を奪った。
小さな兄弟が乗っていた船は荒波に砕かれ、皆死んでしまうはずだった。
けど、彼は足掻いた。
荒れ狂う海の中、必死に足掻いた。
溺れ死ぬ運命の2人を水面に押し上げ、自分だけ沈んでいった。
彼の物語は終わった。
けど、まだ生きている。
フェルグス君は、まだ生きている。
荒波の中で、まだ息をしている。
……嵐はまだ続いている。




