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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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運命を弄ぶ者



■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:死にたがりのラート


「スマン。俺がしくじった所為で……」


『ラートさんの所為じゃないですっ!』


『そうだよ。さっきのは仕方ねえよ』


 車両を運転しつつ、機兵で護衛してくれているフェルグス達と話す。


 俺の操縦する回転翼機が落ちていなければ、レンズ達と一緒に逃げ切れたはずだった。けど、俺がドジった所為で皆とはぐれちまった。


『オレ達は生き残った。それで良しとしようぜ』


「でも……俺達だけじゃ――」


『おいおい! オレ様とアルが機兵で守ってやってんのに、戦力足りねえってか? ゼイタクな奴だなぁ~』


『ボクらが守ります! 信じてください!』


 確かに……戦力は恵まれてるな。


 フェルグス達に慰められ、苦笑する。


 悪いな、頼りにしている――と返す。


「敵は振り切ったはずだが、憑依はまだ持ちそうか?」


『まだ、敵のヤドリギの効果圏内みたい。大丈夫ですっ! まだ行けます!』


『けど、ちょっと反応が遅れてる気がする。このまま繊一号から離れていけば、機兵の遠隔操縦は出来なくなるぞ』


「そうか……。無理するなよ! 最悪、機兵は放棄して逃げればいい」


 繊一号にはヴィオラと隊長、そして副長が残っている。


 3人が無事に逃げているならいいんだが、安否不明な以上、繊一号に助けに行く必要がある。……特に重傷を負っているヴィオラが心配だ。


 繊一号にはネウロン旅団の軍人が集っていた。繊一号以外にいた軍人も当然いるが、羊飼い(バフォメット)の所為で大打撃を受けたはずだ。


 ヴィオラ達や繊一号を救うためには、機兵は必要不可欠。


 敵のヤドリギの効果圏外に出そうなら、今のうちにどこかに隠しておこう――と提案したが、フェルグスに否定された。


『ヤドリギが使えなくなったら、オレ達が操縦席に乗ればいい! 敵がどこかから来る可能性あるし、限界までこのままで行こう!』


「確かに。負担かけるが、それで――」


『にいちゃん、タルタリカが来てるよっ!』


 繊一号を攻めているタルタリカの群れからはぐれたのか、4匹のタルタリカが俺達に向けて走ってきている。


 だが、アルが素早く気づき、フェルグスが斬り込んで素早く倒してくれた。本当に頼りがいのある奴らだぜ。


 羊飼いが来ない限りは、このまま逃げ切れそうだ。


『『…………』』


 倒したタルタリカに向け、弔いの祈りを軽く捧げている2人を見守る。


 いまはタルタリカの墓も、ちゃんと作ってあげる暇がない。


 悪いとは思いつつも早めに切り上げてもらって、移動を再開する、


『ラートさん……皆との連絡、まだ出来ませんか?』


「まだ駄目みたいだ。敵の通信妨害が続いているのかもな……」


 交国軍はネウロンの宇宙(そら)に軍事衛星も配備していて、衛星通信も利用できる。普段は使えるんだが……今は使える様子がない。


 繊一号に展開している敵が通信妨害やってるだけじゃなくて、衛星の方も押さえられたのかもな。羊飼いなら何が出来ても今更驚かねえ。


「皆は無事、繊一号の外に逃げてたんだよな……?」


『ヴィオラ姉ちゃん達以外は、全員、町の外に飛んでってました。いまはさすがに観えないけど……無事のはずですっ……!』


 <曙>艦内に来てくれたレンズ達以外も、別経路で逃げ切ったはず。


 皆とは逆方向に逃げちまったが、合流予定地点は決めている。


 地道に走っていれば、車両の燃料が切れる前に合流できるはずだ。


 フェルグスとアルはともかく、同乗者が不安な人だけど……。


「技術少尉。アンタ、ホントに羊飼い側についてないのか……?」


「何の話よ!? あっ、アタシは久常中佐直属の研究者になったのよ! そんな責めるような目つきで見るんじゃあないッ……!」


『おい、クソババア。これ以上、余計なことしたらブッ飛ばすからな?』


 フェルグスの操る機兵が「ずいっ」と近づいてきた。


 技術少尉が「ひぃ!」と鳴き、大人しくなってくれた。


 羊飼いが久常中佐を操っていたってことは、この人も騙されていたんだろう。だからといって、ヴィオラを撃った罪が消えるわけじゃないが――。


「技術少尉。色々と言いたいことはあるんですが、ここは手を組みましょうや。アンタは久常中佐の部下としてアレコレやるつもりだったんでしょうけど……その久常中佐は敵に操られていました」


 羊飼い側についても、技術少尉の望みは叶わないだろう。


 この人は自分の出世しか興味がないらしい。羊飼いにつけば交国から離反する事になる。そんな思い切りの良いことは絶対にやらないだろう。


 技術少尉は表情を強ばらせつつも、「仕方ないから協力してあげる……!」と言った。まだそんなこと言える面の皮の厚さはスゴいな。


「ひとまず、星屑隊との合流地点に向かおう。俺達4人だけじゃ、繊一号奪還なんて無理だ。……ヴィオラと隊長達のことは心配だが……」


『…………。ヴィオラ姉、ホントに大丈夫かな?』


「羊飼いはヴィオラの知人らしい。元々、殺すつもりもないそうだし――」


 ヴィオラが負傷したのは、本当に事故だったんだろう。


 悔しいが、羊飼いがヴィオラを治してくれるのを祈るしかない。


 後々、助けに行かなきゃダメだが――。


『くそっ……。おい、クソババア! お前がヴィオラ姉を撃ったりしなきゃ、オレらと引き離されずに済んだのに……! 絶対に許さねえからな!?』


「あ、アタシは技術少尉よ! 特別行動兵のアンタよりエラいのよ!?」


『あっそ! その階級でオレの攻撃を防げるなら防いでみろよっ!』


「ひぃっ……!! ぐっぐぐぐぐぐ軍曹ッ!! このガキを何とかしなさい!!」


「何とかしてほしけりゃ、大人しくしててくださいね……」


 そう言い、運転を続ける。


 アルとフェルグスの身体と、技術少尉を運び続ける。


 もう少し繊一号から離れたら、進路を変えよう。


 このまま真っ直ぐ進んでいたら、皆と合流できないし――。


「そういえばお前ら……鎮痛剤はまだ大丈夫か?」


『……大丈夫ですっ!』


「…………フェルグス、アルの言ってる事は本当か?」


『ああ、まだ効いてると思う。けど、正直、長持ちしないと思う』


 繊一号で戦闘が始まる前、鎮痛剤を打ってもらったらしい。


 だが、薬の効果も切れつつある。まだ「頭が割れそうな頭痛」は感じないらしいが、楽観できない状態だ。


 技術少尉に「鎮痛剤持ってませんか?」と聞いたが、「そんな都合よく持ってるわけないでしょ……!」と言われた。


「ああ、でも、多少の医療器具なら後ろにあったわ……」


「鎮痛剤は――」


「そこまで上等なものはない。アレは巫術師用に界外から取り寄せたものだし」


「そうですか……」


「まあ、多少の怪我なら治療してあげる。アタシも多少、医術の心得はあるし。けど、治してほしいなら土下座することねっ!」


『『…………』』


「技術少尉、仲良くしましょうよ。子供達の沈黙が殺意に変わる前に」


「脅しのつもり!?」


 キィ、と喚いてきたので、運転しながら片方の耳を押さえる。


 早く皆と合流したい。技術少尉は頼りにならないどころか、不安要素だぞ……。


「交戦は避けよう。タルタリカと遭遇しても、可能な限り殺さないようにしよう」


『難しいこと言いやがるなぁ~』


「頭痛で死ぬマシだろ?」


『どうしようもない時は、殺すよ。多少なら……オレもアルも耐えられるはずだ。薬無しでも。昔よりは強くなったし!』


「そうか……。悪い、負担をかけて――」


『ラートさん!』


 フェルグスに言葉を返そうとしていると、アルが叫んだ。


 巫術の眼で、複数の魂を感じ取ったらしい。


「タルタリカか?」


『いえ、これは多分……。繊一号から逃げた交国軍の人だと思います!』


「味方か……! 助かった……」


 俺達だけで逃げるのは心配だった。


 他の交国軍人と合流できるのは助かる! さすがに星屑隊の奴らじゃないと思うが、星屑隊以外にも繊一号から脱出できた軍人も、当然いるだろう。


『あっ……! 向こうもこっちに気づいたみたい』


 軍人の一団は、俺からはまだ見えない。


 けど、アルが指さした方向に小型の飛行ドローンが飛んでいた。


 偵察に出しているドローンで、俺達の姿を見つけたんだろう。


 アルが嬉しそうに「こっちに来てくれてます!」と言い、機兵の両手を振り始めた。近づいてくる一団に向け、元気よく手を振っている。


 まだ危機が去ったわけじゃない。


 けど、これで少しは――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:贋作英雄


『おーい! お~い!』


 スアルタウが機兵の両手を振りつつ、スピーカーで喋っている。


 近づいてくる交国軍の一団に向け、歓迎の意を示している。


『――――待て! 兄弟!』


 違う。


 あれは違う(・・・・・)


 あれは確かに交国軍人だが……!


敵だ(・・)! 応戦しろ!!』


『えっ?』


 大気を切り裂き、砲弾が飛来する。


 スアルタウの機兵に着弾し、耳障りな金属音と爆発音が響いた。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:繊一号から脱出した交国軍人


「先行している部隊が、敵を見つけました!」


 偵察用のドローンから送られてきた映像を見る。


 機兵2機。車両1両。


 機兵1機は、こちらの味方部隊に対し、呑気に手を振っている。


 ……本当に敵か?


「軍人様! アレは敵です! 敵の巫術師ですよぉ!」


 繊一号で助けた民間人が耳元で叫ぶ。


 サングラス(・・・・・)をかけた怪しい風体の男だが、この男が「町中にタルタリカが入り込んでます!」と教えてくれなければ、俺達は逃げ遅れていた。


 胡散臭い風体の男だが、こいつの話通りなら――。


「繊一号で起きているのは反乱。巫術師が起こした反乱だったな?」


「その通り! そして、奴らは機兵を巫術で強奪してきます!」


「……つまり、呑気に手を振っているのは……」


「軍人様達を油断させて近づいて、機兵を奪うつもりですよぉッ!!」


「――――」


 にわかには信じがたい。


 だが、俺達は繊一号で見た。


 敵が、こちらの機兵を奪う光景を――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:【占星術師】


「アレは敵ですッ!」


 殺せ。


「巫術師は皆、あなた達の敵なのですッ!」


 殺せ。


「殺さなければ、あなた達が殺されますよぅっ!?」


 マクロイヒ兄弟を殺せ(・・)


「――――総員、攻撃開始」





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