繊三号の時みたいに
■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて
■from:死にたがりのラート
「た、隊長1人でホントに大丈夫か……!?」
「わからん。けど、俺達がいたら足手まといになるのは事実だ」
相手は羊飼い。
繊三号での戦いで、アイツは自力で機兵を造り上げ、機兵に対抗してきた。人間大の機兵相手に生身の人間が勝てるとは思えない。
けど、ここは方舟の中。狭い艦橋内じゃ機兵は作れないはず。
今は隊長を信じて、こいつらを逃がさないと――。
「ラートさん! 何か来ますっ!」
子供達を連れて走っていると、アルが後方を指さした。
タルタリカが来ている。ヴィオラを飲み込んだのとは別個体だ。
「走れ……!」
グローニャとアルを抱えて走りつつ、皆に逃げるよう促す。
相手は小型のタルタリカだが、武器無しで対抗できる相手じゃない。
かといって、このまま逃げ切れるかは怪しいところ――。
「向こうからも誰か来ますっ!」
「――――」
挟み撃ちか? 羊飼いが指図して、回り込ませたのか?
そう考え、立ち止まりかけたが――。
「こっち来いッ! ラート軍曹!!」
「…………!」
やってきたのは味方だった。
星屑隊の隊員らが自動小銃を手に駆けてくる。
俺達とすれ違うと、タルタリカに向けて斉射を開始した。
銃弾の雨を受けたタルタリカの身体から、体液が飛び散る。だが止まらない。
装甲車のように突っ込んでくるが――。
「――――」
対物狙撃銃の一撃が、その頭を粉砕した。
「レンズ!」
「レンズちゃぁんっ……!!」
「おう。待たせたな」
■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて
■from:狙撃手のレンズ
突っ込んでくるタルタリカの頭を、対物狙撃銃で吹っ飛ばす。
敵が体勢を崩し、転ぶ。
転んだが、まだ身体の崩壊が始まっていない。まだ脳が生きている。
もう一発お見舞いした後、「前衛。頼む」と他の隊員に処理を頼む。
斧を手にした隊員達がトドメを刺しにかかる。
だが、まだ終わりじゃない。新手が来る。……音が聞こえる。
「スアルタウ。向こうの通路から誰か来てるな?」
「はっ……! はいっ!」
「良し」
すがりついてくるグローニャの頭を軽く撫でた後、銃を構える。
巫術観測で確認してもらった通り、誰かが来た。タルタリカが2匹来た。
他の隊員が自動小銃で牽制しているうちに、対物狙撃銃で1匹目の頭を狙う。
撃破。一拍置いてもう1匹も攻撃する。
少し狙いが逸れたが片足を吹っ飛ばした。トドメに3発目を使う。
弾が少々心許ないが、何とかここ脱出するまで持ちそうか……?
「レンズちゃぁん……」
「おう」
情けない声を出しているグローニャを軽く抱き寄せ、頭を撫でて落ち着かせる。
「もう大丈夫だ。……助けに来るの、遅くなってスマン」
「うぅぅぅぅ~…………!」
■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて
■from:肉嫌いのチェーン
「お前ら、無事みたいだな」
「副長……! 来てくれたんですか!?」
「隊長の命令でな」
先行した隊長の端末の反応を追っていたら、ラート達がいた。
どうやら艦橋で隊長と会い、端末を渡されたらしい。
「とりあえず逃げるぞ。逃げつつ報告しろ」
「はいっ! あ、でもっ、いま艦橋に隊長がいて――」
「さっき、隊長から連絡が来た」
<曙>艦内から脱出しろ――という連絡が来た。
隊長は繊一号にいる交国軍の様子がおかしい事から、「久常中佐の近辺で何か起きている」とアタリをつけ、オレ達を連れて動き出した。
武器を集め、色々と探っていると市街戦が始まった。
最初に暴れ始めたのは機兵。次いでタルタリカがやってきたようだった。
隊長は一部の星屑隊隊員を連れ、曙艦内への侵入を決めた。オレもレンズ達と一緒に隊長についてきたんだが――。
「とりあえず逃げるぞ。艦内にいる星屑隊隊員は、隊長以外は全員ここにいる」
「他の奴らは――」
「物資持って繊一号を脱出中だ」
繊一号が無茶苦茶になっているから、食料物資をちょっと持ち出す事しか出来ないだろうが……何も持ち出せないよりマシだ。
先に脱出した奴らは、繊一号外部で落ち合う予定になっている。
隊長の命令通り、コイツを逃がさないと。
……オレの用事はその後だ。ひとまず隊員とガキ共の安全を確保する。
「とりあえず格納庫行くぞ。お前ら、ついて来い!」
■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて
■from:機械に興味津々のロッカ
星屑隊の皆が助けに来てくれた。
安心して、腰が抜けて倒れそうになってると――。
「っと……! 大丈夫か!?」
「えっ? ばっ、バレット……!?」
倒れそうだったオレを、バレットが抱っこしてくれた。
抱っこしてくれた手が震えている。
「おまっ……。なんで来たんだよ。ここ、危ないんだぞ……!?」
「こっ、怖いけど……子供1人抱えて走るぐらい、俺でも出来るさっ!」
バレットに抱っこされたまま、皆と一緒に逃げる。
この方向、確か船の格納庫があったはず――。
■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて
■from:狙撃手のレンズ
逃げつつ、ラートと副長の会話に耳を傾ける。
艦橋には羊飼いがいたらしい。
羊飼いがヴァイオレットをタルタリカに捕まえさせ、隊長と交戦中だとか。
「敵は、なんでヴァイオレットを――」
「ハッキリしたことは……。でも、ヴィオラを殺すつもりは無いみたいで――」
……一体、何がどうなってやがんだ。
繊三号での戦いの焼き直しか? じゃあ、こっちもまた逃げ切ってやるよ……!
「来るなら脳天ブッ飛ばしてやるぞ!! 死にてえならかかってこい!!」
敵がいる。けど、タルタリカみたいに突っ込んでこない。
見覚えのある兵器だ。流体甲冑を纏った敵がいる。
対物狙撃銃でギリギリ抜けそうだが。奴らの中身な巫術師だ。出来れば撃ちたくねえ。邪魔するならブッ殺してやるが、グローニャ達の同胞を殺したくない。
ラート達と合流するまでに、流体甲冑持ちともやり合ったが……奴らも対物狙撃銃の怖さは理解してくれたらしい。遮蔽物に隠れ、慎重に動いている。
ただ、オレ達を追ってきている様子だ。
どこかのタイミングで仕掛けてくるな、これ……。
「ああ、そういやグローニャ。コイツを渡しておく」
「えっ……」
星屑隊の隊員に抱っこされ、移動中のグローニャに大事なものを渡す。
泣きべそかいてるけど、これで少しは泣き止んでくれるはずだ。
「シャチちゃん!? なんでここに?」
「船の外で拾ったんだ」
グローニャ達が心配で色々と調べ物をしていた時。
ゴミ捨て場で偶然見つけた。……多分、技術少尉辺りに捨てられたんだろう。
まだ掃除出来てないから、少しだけゴミ臭いかもだが……今は周りが硝煙臭い。その臭いで誤魔化せているだろう。もちろん、後でちゃんとキレイにする。
「お前の事は、オレが守る」
「…………!」
「だから、お前はぬいぐるみを守ってやってくれ。頼むぜ、相棒」
「うんっ……! うんっ……!!」
泣き止んでくれるかと思ったが、また泣き出しちまった。
やっぱ、ガキの扱いは難しい。
でも……何とか無事のようでホッとした。
死んでないなら助けられる。まだ、守れる。
絶対に守ってやる。逃がしてやる。
戦場は、お前の居場所じゃない。
「レンズちゃぁん……!」
「大丈夫だ。繊三号の時みたいに、皆で逃げ切るぞ!」




