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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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繊三号の時みたいに



■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:死にたがりのラート


「た、隊長1人でホントに大丈夫か……!?」


「わからん。けど、俺達がいたら足手まといになるのは事実だ」


 相手は羊飼い(バフォメット)


 繊三号での戦いで、アイツは自力で機兵を造り上げ、機兵に対抗してきた。人間大の機兵相手に生身の人間が勝てるとは思えない。


 けど、ここは方舟の中。狭い艦橋内じゃ機兵は作れないはず。


 今は隊長を信じて、こいつらを逃がさないと――。


「ラートさん! 何か来ますっ!」


 子供達を連れて走っていると、アルが後方を指さした。


 タルタリカが来ている。ヴィオラを飲み込んだのとは別個体だ。


「走れ……!」


 グローニャとアルを抱えて走りつつ、皆に逃げるよう促す。


 相手は小型のタルタリカだが、武器無しで対抗できる相手じゃない。


 かといって、このまま逃げ切れるかは怪しいところ――。


「向こうからも誰か来ますっ!」


「――――」


 挟み撃ちか? 羊飼いが指図して、回り込ませたのか?


 そう考え、立ち止まりかけたが――。


「こっち来いッ! ラート軍曹!!」


「…………!」


 やってきたのは味方だった。


 星屑隊の隊員らが自動小銃を手に駆けてくる。


 俺達とすれ違うと、タルタリカに向けて斉射を開始した。


 銃弾の雨を受けたタルタリカの身体から、体液が飛び散る。だが止まらない。


 装甲車のように突っ込んでくるが――。


「――――」


 対物狙撃銃の一撃が、その頭を粉砕した。


「レンズ!」


「レンズちゃぁんっ……!!」


「おう。待たせたな」




■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:狙撃手のレンズ


 突っ込んでくるタルタリカの頭を、対物狙撃銃で吹っ飛ばす。


 敵が体勢を崩し、転ぶ。


 転んだが、まだ身体の崩壊が始まっていない。まだ(コア)が生きている。


 もう一発お見舞いした後、「前衛。頼む」と他の隊員に処理を頼む。


 斧を手にした隊員達がトドメを刺しにかかる。


 だが、まだ終わりじゃない。新手が来る。……音が聞こえる。


「スアルタウ。向こうの通路から誰か来てるな?」


「はっ……! はいっ!」


「良し」


 すがりついてくるグローニャの頭を軽く撫でた後、銃を構える。


 巫術観測で確認してもらった通り、誰かが来た。タルタリカが2匹来た。


 他の隊員が自動小銃で牽制しているうちに、対物狙撃銃で1匹目の頭を狙う。


 撃破。一拍置いてもう1匹も攻撃する。


 少し狙いが逸れたが片足を吹っ飛ばした。トドメに3発目を使う。


 弾が少々心許ないが、何とかここ脱出するまで持ちそうか……?


「レンズちゃぁん……」


「おう」


 情けない声を出しているグローニャを軽く抱き寄せ、頭を撫でて落ち着かせる。


「もう大丈夫だ。……助けに来るの、遅くなってスマン」


「うぅぅぅぅ~…………!」




■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「お前ら、無事みたいだな」


「副長……! 来てくれたんですか!?」


「隊長の命令でな」


 先行した隊長の端末(・・・・・)の反応を追っていたら、ラート達がいた。


 どうやら艦橋で隊長と会い、端末を渡されたらしい。


「とりあえず逃げるぞ。逃げつつ報告しろ」


「はいっ! あ、でもっ、いま艦橋に隊長がいて――」


「さっき、隊長から連絡が来た」


 <曙>艦内から脱出しろ――という連絡が来た。


 隊長は繊一号にいる交国軍の様子がおかしい事から、「久常中佐の近辺で何か起きている」とアタリをつけ、オレ達を連れて動き出した。


 武器を集め、色々と探っていると市街戦が始まった。


 最初に暴れ始めたのは機兵。次いでタルタリカがやってきたようだった。


 隊長は一部の星屑隊隊員を連れ、曙艦内への侵入を決めた。オレもレンズ達と一緒に隊長についてきたんだが――。


「とりあえず逃げるぞ。艦内にいる星屑隊隊員は、隊長以外は全員ここにいる」


「他の奴らは――」


「物資持って繊一号を脱出中だ」


 繊一号が無茶苦茶になっているから、食料物資をちょっと持ち出す事しか出来ないだろうが……何も持ち出せないよりマシだ。


 先に脱出した奴らは、繊一号外部で落ち合う予定になっている。


 隊長の命令通り、コイツを逃がさないと。


 ……オレの用事はその後だ。ひとまず隊員とガキ共の安全を確保する。


「とりあえず格納庫行くぞ。お前ら、ついて来い!」




■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:機械に興味津々のロッカ


 星屑隊の皆が助けに来てくれた。


 安心して、腰が抜けて倒れそうになってると――。


「っと……! 大丈夫か!?」


「えっ? ばっ、バレット……!?」


 倒れそうだったオレを、バレットが抱っこしてくれた。


 抱っこしてくれた手が震えている。


「おまっ……。なんで来たんだよ。ここ、危ないんだぞ……!?」


「こっ、怖いけど……子供1人抱えて走るぐらい、俺でも出来るさっ!」


 バレットに抱っこされたまま、皆と一緒に逃げる。


 この方向、確か船の格納庫があったはず――。




■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:狙撃手のレンズ


 逃げつつ、ラートと副長の会話に耳を傾ける。


 艦橋には羊飼いがいたらしい。


 羊飼いがヴァイオレットをタルタリカに捕まえさせ、隊長と交戦中だとか。


「敵は、なんでヴァイオレットを――」


「ハッキリしたことは……。でも、ヴィオラを殺すつもりは無いみたいで――」


 ……一体、何がどうなってやがんだ。


 繊三号での戦いの焼き直しか? じゃあ、こっちもまた逃げ切ってやるよ……!


「来るなら脳天ブッ飛ばしてやるぞ!! 死にてえならかかってこい!!」


 敵がいる。けど、タルタリカみたいに突っ込んでこない。


 見覚えのある兵器だ。流体甲冑を纏った敵がいる。


 対物狙撃銃でギリギリ抜けそうだが。奴らの中身な巫術師(にんげん)だ。出来れば撃ちたくねえ。邪魔するならブッ殺してやるが、グローニャ達の同胞を殺したくない。


 ラート達と合流するまでに、流体甲冑持ちともやり合ったが……奴らも対物狙撃銃の怖さは理解してくれたらしい。遮蔽物に隠れ、慎重に動いている。


 ただ、オレ達を追ってきている様子だ。


 どこかのタイミングで仕掛けてくるな、これ……。


「ああ、そういやグローニャ。コイツを渡しておく」


「えっ……」


 星屑隊の隊員に抱っこされ、移動中のグローニャに大事なものを渡す。


 泣きべそかいてるけど、これ(・・)で少しは泣き止んでくれるはずだ。


「シャチちゃん!? なんでここに?」


「船の外で拾ったんだ」


 グローニャ達が心配で色々と調べ物をしていた時。


 ゴミ捨て場で偶然見つけた。……多分、技術少尉辺りに捨てられたんだろう。


 まだ掃除出来てないから、少しだけゴミ臭いかもだが……今は周りが硝煙臭い。その臭いで誤魔化せているだろう。もちろん、後でちゃんとキレイにする。


「お前の事は、オレが守る」


「…………!」


「だから、お前はぬいぐるみ(そいつ)を守ってやってくれ。頼むぜ、相棒」


「うんっ……! うんっ……!!」


 泣き止んでくれるかと思ったが、また泣き出しちまった。


 やっぱ、ガキの扱いは難しい。


 でも……何とか無事のようでホッとした。


 死んでないなら助けられる。まだ、守れる。


 絶対に守ってやる。逃がしてやる。


 戦場(ここ)は、お前の居場所じゃない。


「レンズちゃぁん……!」


「大丈夫だ。繊三号の時みたいに、皆で逃げ切るぞ!」




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