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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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交国の天敵



■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:影兵


 羊飼いは無傷。


 自身の身体から流体を展開し、それで防御したのか。


 人型大の機兵を相手にしている気分だ。


 こちらも機兵を持ってこない限り、致命傷を与えるのは無理だな。


 ならば――。


「ラート軍曹。子供達を連れて撤退しろ」


 立ち上がろうとしているラート軍曹を庇える位置取りに立ちつつ、話しかける。


 敵は剣を下げたまま、しげしげと観察してきている。


 こちらの権能(ちから)を分析されている。


「隊長、ヴィオラがあそこのタルタリカに丸呑みにされていて――」


「そうか。そちらは私に任せて逃げろ」


「いや、オレも――」


「足手まといだ。貴様らを守りながら戦えるほど、私は器用ではない」


 ラート軍曹に私の携帯端末を投げる。


 それが道しるべになってくれるはずだ。




■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:弟が大好きなフェルグス


 ラートがこっちにやってくる。


 ロッカとオレを庇う形で立ちつつ、「隊長に任せて退くぞ」と言ってきた。


「お、オレもまだ戦え――」


『兄弟、ここは従え。今のお前では足手まといだ』


 エレインが話しかけてきた。


 流体甲冑取られたし、確かにそうかもだけど……ヴィオラ姉が……!


『敵はヴァイオレット嬢を殺す気はない。自分の身を最優先に考えろ』


「くっ……」


「フェルグス特別行動兵。早く退け」


 隊長が羊飼いに銃を向けたまま、そう言った。


「ヴァイオレット特別行動兵は、私が必ず助ける。……私を信じろ」




■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:使徒・バフォメット


『たった1人で、私に勝てると?』


「…………」


 新手のオークに守られる形で、戦力外の者達が退場していった。


 艦橋から逃げていく。だが、スミレを確保した以上、どうでもいい。


 どうせ奴らに逃げ場は無い。


 今は逃がしてやってもいい。逃げた先で「現実」を学べば、巫術師達は私の軍門に下ってくるだろう。……奴らはもう、交国と戦うしか無いのだ。


「その構え……丘崎新陰流だな?」


『ほう……?』


 新手のオークから、予想外の言葉が出てきた。


 構えを解かないまま、会話を続ける。




■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:影兵


丘崎新陰流(これ)を知っているのか』


「多次元世界の一部で使われている剣術だ」


 剣術だが、それは驚異だ――と教え込まれている。


 交国の中枢において丘崎新陰流の使い手は、強く敵視されている。


 正確には玉帝があの剣術を警戒し、近衛兵等に丘崎新陰流対策を学ばせている。


 丘崎新陰流そのものがあまり見かけないものなので、その対策が活きたことはほぼ無いが……それでも玉帝はアレの対策をやめていないはずだ。


 玉帝は何故か、丘崎新陰流を恐れている。


『まさか、交国に開祖(・・)がいるのか?』


「いいや。ただ、一部界隈で有名なだけだ」


 そう語ると、羊飼いが僅かに敵意を緩めたように見えた。


 感慨にひたっているのか……?


『開祖がどこにいるか、知っているか? 生きているのか?』


「どこにいるかは知らん。ただ、おそらく、生きている」


『そうか』


 羊飼いが僅かに上を向き、「そうなのか」と呟いた。


「……貴様は何者だ? 神器使い……なのか?」


『否。神器ではない。燼器(じんき)なり』


 羊飼いが両手を広げた。


 隙だらけだが、いま踏み込んだところで流体に防がれる。


 私ではコイツを殺せない。


 私達の権能は、流体の厚い防御を崩すのに向いていない。


 ならば、情報を引き出しつつ最低限の目的だけでも――。


『私はかつて神器だった。だがもう、かつての力はない。神器の残り火に過ぎん』


 ゆえに燼器。羊飼いはそう語った。


 よくわからん言葉遊びだが、「元神器」なのは確かなのか。


 …………。


 いや、待て、神器使いではなく、元神器(・・・)だと?


「神器使いではなく、神器そのものだったと?」


『然り』


「馬鹿な。神器は道具だ。自我など持つはずが……!」


『貴様らも様々な機械の制御補助にAIを用いているだろう。私はそれの発展形のようなものだ。自我を持った道具、と言ったところだな』


「貴様の使い手はどこにいる」


そこにいる(・・・・・)


 羊飼いが指さした先には、タルタリカがいた。


 ヴァイオレット特別行動兵を丸呑みにしたというタルタリカがいた。


 そういう事か。


 黒水の検査で、彼女に神器使いの素養が見つかった。神器そのものは見つからなかったが、神器が自我を持って歩き出していたなら一応納得がいく。


『そこにいるが、あの子は正確には私の主ではない』


「なに……?」


『私の使い手(シオン)は、もうこの世にはいない』


「……どういう意味だ?」


 ヴァイオレット特別行動兵は、あそこにいる。


 記憶喪失らしいが、確かに生きているはずだ。


 問いかけたものの、羊飼いは「これ以上の問答に付き合うつもりはない」「シシンについて聞かせてもらった礼は、ここまでだ」と言って答えてくれなかった。


『戦いの続きをしよう。お前はあの子(スミレ)を助けるなどと、ほざいたな』


「…………」


『面白い力を持っているようだが、それで私に勝てると思うのか?』


「厳しい戦いになるだろうな」


 少なくとも時間は稼げている。


 ラート軍曹には、予備の携帯端末を渡した。


 その反応を手繰り、彼らが来てくれるはずだ。


 上手くいけばラート軍曹達()逃走できる。


 星屑隊隊長としての役目は果たせる。


 ただ、工作員(わたし)が真に果たすべきは――。


「自我を持った神器など、初めて戦う。1分と持たないかもしれない」


『謙遜するな。貴様、ただのオークではないだろう』


「いいや、ただのオークだ」


 星屑隊隊長(いま)近衛兵(むかし)も、ただのオークだ。


 交国がそれを許してくれなかっただけだ。




■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:使徒・バフォメット


 敵が足下に手榴弾を落とした。


 それが弾ける。


 閃光が辺りをつつみ、敵の影が瞬時に伸びた。


『――そこか』


「…………!」


 勘も交えて剣を振るう。その先に敵がいた。


 先程立っていた場所から、一気に私の背後に移動している。


 転移能力の類いか? 影の上を光速で動いたようだったが――。


『――――』


「っ……!!」


 一刀で殺し損なった。


 敵はナイフで私の一撃を間一髪で逸らし、防いでみせた。


 その次の瞬間。私の足下に手榴弾が転がっていた。


 今度は閃光の類いではない。


『――――』


 シシン仕込みの丘崎新陰流を振るい、手榴弾の信管を切断。無力化する。


 敵が姿を消している。


 私から離れ、スミレの方に走っているが――。


『逃げる気か』


 剣を投じ、敵の移動を阻む。


 私に勝てないと判断し、スミレを連れて逃げる気か。


 そうはさせん。


 スミレは私が守る。


 今度こそ、守ってみせる。




■title:交国軍ネウロン旅団保有船<曙>にて

■from:影兵


『貴様の業、<権能>だな?』


「…………」


 敵はもう、こちらの力を見切っている。


 奇襲で殺し損ねたのが響いている。まさか、ここまで早く対応されるとは。


 あと少し。


 あと少しでヴァイオレット特別行動兵を殺せたのに(・・・・・)阻まれた。


 我々の手に入らないなら、彼女は殺すべきだ。


 敵は私が彼女を殺そうとした事までは、気づいていないようだが――。


『貴様、プレーローマのどの派閥に属している?』


「…………」


『あるいは、堕天使の類いか?』


 羊飼いに庇われる形で、タルタリカが逃げていく。


 ヴァイオレット特別行動兵を体内に隠したまま、逃げていく。


 奪取が不可能なら、何とか殺さねば。


 アレを交国政府に渡すわけにはいかん。





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