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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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解き放たれた獣達



■title:<繊一号>ネウロン旅団本部・懲罰房にて

■from:死にたがりのラート


「…………」


 もうそろそろ戦闘が始まっている頃合いだろうか?


 町に迫っているタルタリカの大群。規模はどの程度なんだろうか?


 今の繊一号には追加派遣されてきた軍人が多くいる。ネウロン解放戦線との戦いで犠牲になった軍人の補充要員以外にも、軍人が集まってきている。


 巫術師実験部隊以外も再編成する動きがあるし、余程の大群がこない限りは楽に対応できるはずだ。……そうだと思いたい。


「鎮痛剤とか……ちゃんと打ってもらってんのかな……?」


 今回の戦闘、さすがに交国の正規兵だけでやると思うが……巫術師達には薬を使ってやるなり、戦場から離すなり対策を取ってやってるんだろうか?


 大半の敵が町の防壁に詰め寄ってくる前に、砲撃で蹴散らされるだろうけど……アル達がタルタリカの死を感じ取って苦しまないか心配だ。


 ヴィオラが銃で撃たれて医務室に運ばれたってことは、子供達の傍にはいま誰もいない。絶対心細いだろう。……せめて近くで守ってやりたいのに。


「ハァ~…………」


 警備兵を殴ったのは、マズかった。


 我ながらアホなことした……と思いつつ、懲罰房でため息をつく。


 そのため息の後、懲罰房に静けさが戻ってくると思ったんだが――。


「…………?」


 離れたところから「ぼんっ」と爆発音が聞こえてきた。


 離れたところ……って言っても――。


「これ、結構近くないか……?」


 町の外で、既にタルタリカとの戦闘が始まっているのか?


 扉の格子付き小窓から、看守さんに話しかける。


 繊一号防衛の戦況、どうなってんですかー、と声をかける。最初は無視されていたが、騒いでいると「うるさいなぁ……!」と言いながら来てくれた。


「ここ、懲罰房なんだからな? 静かしようや、軍曹殿よぅ」


「でも、今の爆発、結構近かった――」


 また爆発音が聞こえた。


 しかも、さらに近づいてきている気がする。


 看守さんも天井見上げつつ、少し驚いた顔をした後、「少し様子見てくる」と言って建物の外に出て行ったんだが――。


「やばいやばいやばい……!」


「ん?」


「逃げるぞ! 早く出ろっ! 早くっ!!」


 看守さんはあたふたしながら戻ってきて、ガチャガチャと鍵束をイジり始めた。


 そしてオレの懲罰房を開け、早く出るよう促してきた。


「何が起こってんですか?」


「自分の目で見た方が早い!」


 促され、外に出る。


 先程以上に爆音が聞こえてきたが――。


「し、市街戦になってないか……!?」


避難所(シェルター)行こう! ここまでタルタリカ来るかも!」


 看守さんについて走り、近場にあった車に乗り込む。


 基地内部から町の方をよく見る。……明らかに町中で戦闘が発生している。


 結構な数の交国軍人が繊一号にいたはずなのに、防壁でタルタリカを止め損なったのか? そんな馬鹿な! けど、そうとしか思えない光景が遠くに見える。


 爆発と煙で、戦況はよく見えないが……市街地で戦っているのは確かだ。


「通信は駄目か……!?」


 車の端末を使って戦況を確認しようとしたが、上手く繋がらない。


 通信妨害されている? いやいや、相手はタルタリカだろ……!?


「あっ! くそッ……! 避難所の入り口まで敵が来てるっ……!」


 車が急停車した。看守さんの言う通り、入り口に敵がいる。


 タルタリカが避難所の入り口まで来ている。交国軍の兵士が応戦中だが、機兵は出払っているのか歩兵だけで応戦していて……敵に蹴散らされている。


 看守さんは「仕方ない! 港の船に頼ろう!」と言ったが、車から飛び降りる。呼び止められたものの、「1人で向かってください!」と言っておく。


「まさか脱走する気か!? 大人しくしておけば直ぐ解放するのに!?」


「仲間と合流するんですよ! 応戦しなきゃ……!」


 星屑隊と合流したい。


 だが、通信が繋がらない以上、いま合流するのは難しい。


 看守さんと別れ、適当な車両を見繕う。横倒しになっていたバイクを見つけた。誰かが乗っていたようだが、鍵を差しっぱなしで乗り捨てたようだ。


 それを借り、走り出すと――。


「うおっ……!?」


 倉庫のシャッターを突き破り、タルタリカが躍り出てきた。


 速度を上げ、振り切りにかかる。


 タルタリカが基地内部に侵入している。避難所の出入口以外にも、走り回っているタルタリカの姿が見える。……これ、防衛線は完全に崩壊しているな。


 繊一号に敵が侵入している。


 繊三号の時のように、敵が大暴れしている。


「アル達は……!?」


 このままじゃ、第8の皆も危うい。


 星屑隊との合流も難しい以上、アイツらの安否確認を――。


「うぎゃあああああッ!?」


「あばよッ!!」


「…………!?」


 基地の一角で誰か襲われている。


 軍人じゃない。一般人か……!?




■title:<繊一号>ネウロン旅団基地にて

■from:シロボシ商社のフリをした犯罪者


 泥縄商事(ウチ)の社長の命令で「アレ」を拾った。


 それを交国軍に引き渡し、後は実際に事件が起きたら逃げる予定が――。


「こっ、ここまで無茶苦茶になるなんて聞いてないぞ……!?」


 もう基地内部に化け物(タルタリカ)が侵入している。


 けど、泥縄商事の迎えは来ていない!


 仲間と一緒に基地内を右往左往しているものの、このままじゃ――。


「後ろっ! 後ろ来てる!!」


 仲間に言われ、走りながら振り返る。


 化け物が駆け寄ってくる。このままじゃ追いつかれる。


「お前、足止めしろ!!」


「無茶言うな! どうやって!?」


「こうやって!!」


 走りつつ、仲間を蹴り飛ばして転ばせる。


 後ろから「うぎゃあああああッ!?」という悲鳴が聞こえてきた。化け物が咆哮を上げ、仲間だったモノに食いつく音がした。


 あばよ、と言って逃げる。


 お互い、運がなかったな! だが、私の方がツイていた!


「あッ! 軍人さんッ! 助けてッ!!」


 基地内をバイクで走っている交国軍人を見つけた。


 ツイてる! このまま助けてもら――――。




■title:<繊一号>ネウロン旅団基地にて

■from:死にたがりのラート


「あッ! 軍人さんッ! 助けてッ!!」


 そう言い、駆け寄ってきていた一般人がタルタリカに跳ね飛ばされた。


 数十メートルに渡って豪快に跳ね飛ばされ、その先にいたタルタリカ達に「バキバキ」と踏み潰されていった。くそっ! すまねえ、助けられなかった……!


 悪いが、死体を弔ってやる暇もない。


 今はあそこに行かないと――。


「あっ……! ちょっ……! 離陸準備中か……!?」


 第8が連れ込まれた<曙>が動き始めている。


 基地の一角から飛び立とうとしている。


 この状況なら、空に逃げたもらった方が安全か。


「…………」


 何故か、嫌な予感がした。


 曙に向け、バイクを走らせる。


 まだ昇降口が開いている。急げばギリギリ乗り込めるか……!?


「間に合えっ……!!」


 追ってくるタルタリカから逃げつつ、曙に向かう。


 横合いから体当たりしてきたタルタリカも、アクセル全開で強引に振り切る。


 作戦行動中に別部隊の人間が勝手に方舟に乗り込んだら、今度は懲罰房じゃ済まないかもしれないが……! いまここで犬死にするよりマシだ!


「ぐ、うおッ……!!」


 間一髪――バイクから飛んで、乗り込む事が出来た!


 後ろでタルタリカ達の咆哮が聞こえる。


 だが、タルタリカ共は方舟に乗れず、地上で吠えるばかり。


 それをチラリと見た後、格納庫の中に這って入ると――。


「なんだ……?」


 格納庫内はやけに静かだ。


 まだ発進していない機兵やドローン、回転翼機が鎮座したままだ。


 先に上空に逃げて出撃させるつもりだろうか? それにしたって、格納庫に誰もいないのはおかしい気がするんだが……何かあったのか?


「…………」


 嫌な予感に押されるまま、曙艦内に踏み入っていく。


 格納庫から廊下に出ると、嫌な音が聞こえてきた。


 銃声の音。それも、ヴィオラが撃たれた際に聞いたのとは別種の音。


 誰かが自動小銃を撃っている。艦内で撃っている。


 まさか、艦内までタルタリカに侵入されて――。


「うっ……!?」


 廊下を進んでいると、曲がり角の先が血まみれになっていた。


 何かに食い荒らされたような死体が転がっている。


 交国軍人が複数人死んでいる。獣にやられたような死に方だ。


 間違いない。艦内にタルタリカが――。


「――――」


 違った。


 暴れているのはタルタリカじゃない。


「クソガキ共がああああああッ!!」


 交国軍人達が銃を向けた先にいたのは、大きな狼だった。


 黒い身体の二足歩行の大狼。


 アレは、流体甲冑(・・・・)だ。


 巫術師達が使っている流体甲冑が、交国軍人を襲っている。


「な……なんで味方同士で殺し合ってんだ……!?」


 大狼の爪が「ぶんっ!」と振るわれた。


 その一撃で、相対している軍人の身体が大きく抉れた。明らかに致命傷だ。


 大狼はそれで止まらず、他の軍人達を襲い始めた。





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