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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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夢:通信障害



□title:府月・遺都<サングリア>地下迷宮跡

□from:影兵


 眠りにつき、府月へ入場する。


 眠ることさえ可能なら、多次元世界のどこにいても入場可能なのは都合がいい。


 基本的にカヴン構成員以外は夢中の記憶を現実に持って帰れないが――。


「…………」


 府月の地下を進んでいき、扉を叩く。


 返事はない。部屋の中心には煌々と光る蝋燭が1つ。


「巽だな。いるんだろう?」


 扉を閉めて呼びかけると、部屋の中の影が(・・)立ち上がり、人の形になった。


「そっちは無事みたいだな。アダム」


「私はアダム・ボルトでは――」


「あぁ、ハイハイ。めんどくせえめんどくせえ……! サイラスね、サイラス」


 人間のフリをしている大男が部屋の椅子を引き、座った。


 お前も座れと促されたので、大人しく座る。


「やっぱ府月は便利だな。通信と違って盗聴の恐れが無いし、眠れば入場できる。俺達のような悪党に大変都合が良い」


 巽はそう言った後、笑いながら「大首領が怖くて居心地悪いけどな」と呟いた。


「そう思うなら口を慎め。夢葬の魔神の耳に入るぞ」


「あの御方は盗み聞きなんてしねえよ。つーか、俺は本人に直接言った事あるぞ。苦笑しながら『ごめんねぇ』って謝られたが――」


「雑談は不要だ。情報交換をしたい」


 ここに来たのは情報を得るためだ。


 ネウロンで何かが起こっている。


 だが、軍事委員会どころか交国政府の動きも鈍い。


 巽達の方で何か掴んでいないかと思いつつ、状況を伝え、聞く。ただ、こちらが満足いく答えは得られなかった。


「実験部隊解体と、巫術師で構成された新部隊設立は……久常中佐の独断だ。上は誰もそれを止めない。何かがおかしい」


「止める暇が無いのかもな」


「どういう事だ……?」


「実は犬塚特佐(・・・・)が動いた。昨日のことなんだが――」


 巽から話を聞き、思わず絶句した。


 何だそれは。


 ネウロンの比ではないほど、大事件が起きているじゃないか。


「犬塚特佐が独断で動いているのか?」


「そこもわかんねえんだよ。こっちも情報収集中! 交国本土はもう大混乱だよ」


 その情報収集も捗っていないらしい。


 巽も黒水守も交国政府の監視下にある。その交国政府が混乱状態にあるとはいえ、巽達への監視が緩んでいるわけではない。


 まだ存在のバレていない潜入工作員(スリーパー)達と府月で連絡を取り合っているものの、それでも事態の全貌を掴み損なっているようだ。


「黒水守は無事なのか?」


「無事だが、アイツもちょうど交国首都に呼び出しくらってたところでな……。ひとまず、どっちにもつかずに静観する予定だとよ」


「最悪の状況を想定するべきだ」


「ああ、もちろん、脱出経路は確保している。マジでヤバくなったら、俺が正体現して大暴れしてやる…………って、ちょっと待て!」


 巽はハッとした様子で問いかけてきた。


「何でお前も知らないんだよ。ネウロンにだって伝わってるだろう? 特佐の件」


「いや」


 巽の言葉を否定する。


 おかしい、と思いつつ否定する。


 いま巽から聞いた話は、交国本土だけで済む話じゃない。


 交国の内外に大きな影響を及ぼす話だ。……それなのにネウロンだけ蚊帳の外になっている。肝心な情報がこちらに伝わっていない。


 ただ、そうなっている心当たりはあった。


「ネウロン及び近隣世界で<龍脈通信>に障害発生中でな。そちらの情報が伝わってきていないのは、それが原因の1つだろう」


 世界間の情報伝達には<龍脈通信>が使われている。


 その他の連絡手段も存在するが、辺境の地にあるネウロンには龍脈通信しか繋がっていない。龍脈通信に障害が発生すると、界外との情報交換が困難になる。


 龍脈通信も完璧ではないため、こういった障害は時折発生する。管理者である<ビフロスト>もまた、完璧な存在ではない。


「障害の原因は? ビフロストが何かトチったのか?」


「一応、ネウロン(こちら)側の問題らしい」


 交国がビフロストの協力を受け、ネウロンに整備した通信塔が壊れたらしい。


 数日で復旧予定らしいが、おかげで界外の情報がネウロンに届いていない。


「前に繊三号で戦闘があった件は、お前も知っているな?」


「お前が率いている星屑隊が戦った件だろ?」


「そうだ。あの戦闘で敵を<海門(ゲート)>経由で混沌の海に追い出し、始末した。その時、敵の『羊飼い』に混沌の海が反応して時化が発生した」


 混沌の海が荒れ、それによって羊飼いを倒した――はずだ。


「その時の時化の余波で、通信塔にダメージが入っていたらしい」


「ハァ……? それ原因の故障なら、もっと前から壊れているだろう」


 それこそ我々が休暇に入る前、壊れていてもおかしくない。


 だが、あの時は障害など特に発生していなかった。


「しかし、ネウロン旅団の発表ではそうなっている」


「障害発生はいつからだ? ネウロンの工作員は殆ど撤収させたから、旅団内部の情報は全然わかんねーんだけど――」


「障害は一昨日から始まっていたらしい」


 そのため「犬塚特佐の件」も伝わっていなかった。


 ……どうにも作為的なものを感じる。


 久常中佐達の動きがおかしいのは、こうして考えると些細なものだ。それよりもっと大変な事態が交国領内で発生している。


「ネウロン以外で、龍脈通信の障害が発生していないか?」


「ちょっと待て……」


 巽の姿が消える。


 一度、現実に戻ったらしい。


 だが、直ぐに夢の世界(こちら)に戻ってきた。


「発生してた! 特に交国領内で障害が多発してる! 交国領全域じゃなくて、特定の地域だけっぽいが――」


「プレーローマの軍事侵攻が始まったのか?」


 そう聞いたが、巽からは「わかんねえ」という答えが返ってきた。


「動き自体はあった。前線はいまピリピリしてるから、いつ大規模侵攻が始まってもおかしくない。ただ、まだ『動いた』って連絡は来てないな」


「動く直前の可能性もあるな」


 ただ、ネウロンは前線から距離がある。


 わざわざネウロンを(・・・・・)孤立させる意味がわからない。


 障害が発生していると思しき地域を聞くと、中には対プレーローマ前線に近い地域もあった。だが、それは本当に一部だけのようだ。


「ヤバくなったら現場判断で逃げろ。例の嬢ちゃん(ヴァイオレット)を誘拐する計画はまだ準備段階。ネウロンで何かあっても俺達は何も支援出来ねえ」


「私の心配より、黒水守と素子様の心配をしろ」


「わかってる。2人共無事だよ」


 少なくとも今のところは――という巽の言葉に不安を抱く。


 ネウロンだけじゃない。


 交国で何が起こっている?


 犬塚特佐は、何故、そんな大事件(・・・)を――。





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