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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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何もかも突然で、



■title:<黒水>行きの方舟にて

■from:狙撃手のレンズ


「つまんないつまんないっ、つまんなぁ~いぃ~~~~っ!」


「ハァ~……」


 バタバタと暴れているグローニャを見つつ、ため息をつく。


 このチビに対するため息が半分。それ以外に半分ってところだな。


 まあ……コイツが駄々をこねるのもわかる。


 さすがに今回は駄々こねていいわ。……ただ、オレ達もコイツらも軍の人間である以上、駄々をこねても解決はしないけどな……。


「あとちょっとでネウロン到着だ。そろそろ荷物をまとめろ、グローニャ」


「やぁ~~~~だぁ~~~~っ!!」


 グローニャがジタバタと騒いでいるので、他の星屑隊隊員まで「なんだなんだ」と言いながらやってきた。


 やってきて、グローニャをあやしはじめた。


「レンズ軍曹。やっぱグローニャちゃんは……」


「休暇終わるのが嫌だってさ」


「そりゃあ……嫌でしょ……」


 他の隊員達も「休暇嫌いな奴がいますか?」と言ってきた。


 仰る通り。オレだって納得してねえよ。


 オレ達は突然、「休暇打ち切り」を言い渡された。


 星屑隊も第8巫術師実験部隊も「ただちにネウロンに帰還せよ」と言われた。ネウロンに戻って今まで通り戦うよう命令された。


 オレ達は軍人だ。


 敵はオレ達の休暇を優しく見守ってくれない。


 だから、休暇が途中切り上げになるのも珍しい話じゃないが……。


「マジで突然の話でしたね。ハァ~……」


「どうせ久常中佐の思いつきだろ」


「何で久常中佐が……まだネウロン旅団長やってんですか?」


「オレが知るかよ……」


 休暇打ち切りの命令は「ネウロン旅団」から届いた。


 オレ達が休暇している間に更迭されててもおかしくなかった久常中佐は、未だに(・・・)ネウロン旅団長をやっているらしい。


 あの無能中佐が考える事はわからん。


「まさか、ネウロン解放戦線との戦いの被害を『星屑隊の所為だ~!』とか思って……腹いせに休暇打ち切りを命じてきたとか?」


「羊飼い共に勝てたのはオレ達のおかげだと思うが……。久常中佐ならそういう謎采配やっても不思議じゃねえのが怖い」


 よくわからん逆恨みされてるのかも。


 ……マジでなんで更迭されないんだ? あの中佐……。


「まだまだ遊ばせてやりたかったですね。子供達」


「まあ…………そうだな」


 グローニャは駄々をこねるのに疲れたのか、少し落ち着いてきた。


 けど、今度は瞳を潤ませている。周りの奴らがあたふたしている。


 ……あんな表情、見たくなかった。


 休暇が終わる前は、いっぱい笑顔見せてくれてたんだけどな……。


 もっと笑顔になってくれると信じていたのに……。無能中佐め!


「カトー特佐の影響もあるのねぇ……」


「え? なんでっスか?」


「オレ達の長期休暇申請を出したのはカトー特佐……もとい、元特佐だ」


 そのカトー元特佐はアレコレと罪を犯して捕まった。


 で、処刑待ちだったところ、拘置所をテロリストが襲撃。


 カトー元特佐はそのまま行方不明になったらしいが……とにかく、オレ達の休暇を融通してくれた存在が消えた。メチャクチャな状況で消えた。


「カトー元特佐はもういない。立派なテロリストに戻っちまった。だから、気兼ねなく『腹いせ休暇打ち切り』が出来たんじゃねえのって話」


「あー、なるほど……」


「そうだったとしたら、クソみたいな理由だ。俺ら関係ないでしょ」


 まあ、それだけで済めば「まだマシ」なのかもな。


 オレ達は、軍事委員会に睨まれているかもしれない。


 カトーの件はマジで何も知らなかったんだが、そのカトーの口利きで休暇取っていた部隊だからな……。妙な目で見られているのは間違いない。


 曰く付き(・・・・)の部隊が交国本土に居続けるのはマズい。


 そう感じた誰かが、久常中佐を通して「ネウロンに戻ってこい!」と言わせたのかもしれない。……そっちの方が怖いかもしれない。


「まあ……とにかく、腐らずにタルタリカ狩りに戻るしかねえよ」


 休暇なんてまた取ればいい。


 タルタリカ狩りを頑張っていれば、グローニャ達も解放される。


 希望はある。努力は必ず報われる。


「グローニャ、荷造りしよう。キチンとな」


「ぅ~……………………」


「前向きに考えようぜ。ネウロンで船旅した方が、色んなとこに行ける」


「…………」


「ネウロンのどこかに、お前の家族がいるかもなんだろ?」


 タルタリカ狩りながら船旅してた方が、家族に会える可能性が高い。


 危険な戦いもあるだろうが、ガキ共の安全は確保しつつ戦えばいい。


 前線に立つのは、本職のオレ達がやるべきだ。


 家族の話をすると、グローニャは少し調子を取り戻した。


 シャチのぬいぐるみを「ギュッ」と抱きしめつつ、「パパたちと会いたい~……」と声を漏らした。その頭を撫でてやりつつ、言葉を続ける。


「泣いてもいいけど、荷造りだけしておこう。な?」


「ん……」


「よし。良い子だ。手伝ってやろう」


「グローニャ、ひとりでできるよっ。ダイジョブっ」


 グローニャは目元を「ぐしぐし」と拭い、船室に走っていった。


 大丈夫じゃないが……ひとまず大丈夫だろう。


「ネウロンの戦況、大丈夫なんですかね?」


「ネウロン解放戦線が旅団に大打撃与えてたから、戦況が苦しくなって……それで俺達が呼び戻されるって理由もあるのかも?」


「それは無いと思うけどな。羊飼いはもういないんだし」


 奴は倒した。


 ラートやフェルグス達が上手くやったと聞いている。


 それに、ネウロン旅団の補充もボチボチ終わっている頃合いだ。


 兵士と兵器の補充なんて、とっくの昔に終わっているだろう。


 久常中佐が無能采配していたら、マズい事になってるかもだが……。


「オレ達も荷造りしよう」


 グローニャを急かしておいて、オレらが出来てなかったら笑い話にしかならん。


 他の隊員と別れ、船室で荷物のチェックをしておく。


「…………」


 荷物の中にこっそり隠しておいた人形を取り出し、眺める。


 グローニャをモデルにした小さな人形。


 コイツは、まだグローニャにも秘密の人形だ。


 コレを機兵の操縦席に置いてやる。


 アイツを危ない目に合わせたくないから、さすがに生身を操縦席に乗せることは出来ないが……代わりに人形を乗せてやるんだ。


 結構、可愛く作れているから出来も喜んでくれると思う。


「……これ見て、少しは笑ってくれるといいな」


 小声で呟き、今は荷物の中に隠しておく。


 新しい機兵と一緒にお披露目するとしよう。


 そう思いつつ、荷物を持って部屋から出るとラートと出くわした。


 顔色が悪い。船酔いじゃなさそうだが――。


「ラート、お前まだ体調戻ってないのか?」


「あ、ああ……。いや……。そうじゃないんだが……」


「…………?」


 ラートは少しフラつきつつ、どこかに行ってしまった。


 荷造りしとけよ――と言ったが、聞いてねえ。上の空みたいだ。


「もう直ぐネウロンつくのに……。大丈夫か、アイツ」




■title:<黒水>行きの方舟にて

■from:死にたがりのラート


 何がどうなっている……!?


 悪い夢でも見ているみたいだ!


 休暇打ち切り。ネウロンへの帰還命令。


 それだけなら、まだ絶望せずに済んだ。


 けど……黒水守に頼んだ『脱走の手引き』が間に合わなかった(・・・・・・・・)


 あれが、俺達に残された数少ない希望だったのに……!


 ネウロンへの帰還が急に決まった事もあり、さすがの黒水守も準備が間に合わなかったらしい。というか、そもそも黒水守が多忙になったようだった。


 カトー特佐が収容された拘置所での戦い。


 あれ以来、黒水守は黒水に戻れていないらしい。


 何をやっているかは軍事機密のため、わからないが……無事ではいるらしい。


 ただ、ヴィオラと子供達の脱走手引き準備は間に合わなかった。


『自棄にならず、機会を待ってほしい。必ず助ける』


 そう伝言を授かった。それを頼りにネウロンへの旅を続けていた。


 何とかネウロンに辿り着く前に間に合ってくれ――と祈っていたが、ネウロンはもう直ぐそこまで来ている。黒水守は間に合わなかった。


「ラート。おい、ラート……!」


「ふぇ、フェルグス……」


 フェルグスに背中を叩かれ、呼び止められた。


 考えがまとまらず、どうすればいいかわからないまま、対面する。


 フェルグスだけではなく、心配そうな顔のヴィオラとアルも傍に来ていた。


「お前、まだ落ち込んでんのかよ」


「久常中佐が俺達を呼び戻したのは、俺の所為かもしれない」


「お前、まだそれ言ってんのか……」


「ラートさんの所為じゃないですよ」


「でも、ネウロンを出発する前……久常中佐と揉めたんだ!」


 あの時は、カトー特佐が割って入ってくれた。


 けど、あのやりとりで久常中佐はいらついたのかもしれない。


 カトー特佐が捕まったから、特佐の顔を立てずに済むようになったから……久常中佐が「復讐」として俺達を呼び戻したのかもしれない。


「俺の所為で、皆を巻き込んで――」


「ウジウジすんなっ」


 フェルグスが俺をどついてきた。


 腰に手を当て、怒り顔を作りながら睨んできた。


「誰もお前を責めるもんか。……例の件もお前の所為じゃない」


「けど、俺は――」


 黒水守が助けてくれると、フェルグス達にも伝えた。


 また、出来ない約束をしちまったんだ。


「ラートさん。絶望するには早すぎますよ」


 ヴィオラが真剣な表情で俺を見上げつつ、言葉を続けてきた。


「まだ、最悪の状況じゃないんです。……ラートさんが作った繋がりはまだ生きています。ネウロンで任務を頑張って、機会を待ちましょう」


「…………」


「ラートさん、がんばろ。きっと大丈夫だよ」


 アルが手を握ってくれた。


 一生懸命握りつつ、俺を見上げてくる。


「前の生活に戻るだけだよ。大丈夫……」


「…………」


「星屑隊とボクらで、船でネウロンを回るだけ。タルタリカと戦って、弔う生活に戻るだけ。まだ全然終わってないよ」


「それは……」


「オレ様達を信じろよ」


 フェルグスが背伸びしつつ、俺の胸ぐらを掴んできた。


 真っ直ぐ俺を見つめつつ、「信じて一緒に戦ってくれ」と言ってきた。


 まだ最悪の状況じゃない。


 前の生活に戻るだけ。


 そうだ。その通りだ。


 ……それなのに、なぜ、こんなに……不安でたまらないんだ。




■title:<繊一号>の陸港にて

■from:死にたがりのラート


「第8巫術師実験部隊は解体(・・)となった」


「…………は?」


 ネウロンに到着したら、待っていた軍人にそう言われた。


 意味がわからない。


 理解したくない。


 解体って、つまり――。


「実験部隊隊員は全員、久常中佐直轄部隊(・・・・・・・・)へ編入(・・・)となる」





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