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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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運命の剪定者 後編



■title:交国首都<白元(びゃくがん)>にて

■from:二等権限者・肆號玉帝


「…………」


「おや? どうかなさいましたか? 表情が険しいような?」


「だから……仮面が邪魔で見えていないでしょう」


 覗き込んでくる占星術師が鬱陶しい。


 近衛兵に命じ、少し遠ざけさせる。


 占星術師は大仰な動作で「暴力反対!」と言っている。


「……あなたの目的は何なのですか?」


「それはもちろん世界平和! 人類の勝利ですよぅ!」


 決まり文句が返ってくる。


 富や名声、あるいは利権と言われた方が、まだ納得できる。


「つまり、あなた様と同じ目的なのです!」


「…………」


「交国なら人類の勝利(それ)に辿り着ける! 人類が神罰機構(プレーローマ)に勝ってくれないと、人類の一員であるボクも枕を高くして眠れませんからね!」


 男は卑屈な笑みを浮かべ、「まあ倒しても眠れないのですが」とこぼした。


「つまり、平和を願う平凡な占星術師でござぁい!」


「平凡な占い師が『確率操作』の異能を持っているはずが無いでしょう」


「ほう……! いやはや、異能(そこ)にお気づきでしたか」


 さすがに何度も似たような不法侵入(こと)を経験したら、気づきます。


 この男は普通の人間ではない。


 特別な力を持っている。


 占星術師はいつもフラリとやってくる。私の近辺は常にしっかりと警備が固められていますが、この男は誰にも見つからずフラリとやってくる。


 最初、姿を消す力を持っているのかと思った。


 だが違った。


 この男は『確率』に干渉し、警備の穴を意図的に作っている。


 偶然(・・)、監視カメラが故障する。


 偶然(・・)、警備の者が視線を逸らす。


 偶然(・・)、鳥や書類が視界を遮る。


 そんな異常な偶然で彩られた道を、この男は当たり前のように歩いてくる。


「いやぁ、お見事。しかし、ボクの力は『確率』なんてチンケなものじゃない」


 そこはこだわりがあるのか、占星術師はニンマリ笑って言葉を続けた。


「これは『運命操作』と言うのですよ」


「運命。大きく出ましたね」


「実際、ボクの予言はよく当たるでしょう? それはボクの力で世界の運命を操り、『予言通りの世界』を作っているおかげなのですよぅ」


「あなたの力は、そこまで強くない」


 否定する。


 この男とは長い付き合いで、それなりに情報が溜まっている。


 その情報を元に、男の言葉を否定する。


「あなたの力は……1に満たない可能性だろうと、それが0でなければ成功を手繰り寄せる異能。ただ、完璧ではない。干渉可能範囲は狭い」


 研究室で私の銃が偶然(・・)不良を起こすのが1つの限界。


 ただ、私が「占星術師を信じる」可能性は手繰り寄せていない。


 それはゼロですからね。


 この男は、最初から可能の無いものはイジれない。それが1つの限界。


 そして、範囲に関しても「世界規模」では無いはずです。


「精々、『自分』に関わる確率を操作できる程度でしょう?」


「…………」


「世界規模の確率操作なら、『予言』などという世迷い言(カード)をちらつかせて私達を動かす必要がない。あなた1人で全てをコントロールできるはず」


「…………」


「あなたの『予言』と、『確率操作』は異なる力でしょう。どちらも弱点がある」


 この男は強く、吐く予言に耳を傾ける価値がある。


 しかし、無敵ではない。


 源の魔神(アイオーン)のような超越者(カミ)ではない。


 おそらく、源の魔神の影で縮こまっていた程度の存在でしょう。


 嘘を指摘すると、占星術師は苦笑いを浮かべ始めた。


「お察しの通りです。よくわかりましたね」


「一応、長い付き合いですからね」


 客間に向け、再び歩き始める。


 占星術師は揉み手しつつ、駆けて追いかけてきた。


 歩幅が違うので直ぐ追いつかれてしまう。……不快です。


「ええ、ええ、ボクはその程度の力しか持ってませんよ!」


「十分有用でしょう。自身の関わる賭博なら、簡単に勝てるでしょう?」


「たまには頼りますが……。荒稼ぎしていたら目立つのでやりませんよ……」


 確かに限界がありますよ、と男は認めた。


 だからこそ頑張っているのですよぅ、と甘えた声を囁いてきた。不快です。


「限界があるから自分で奔走して、運命の枝葉を剪定して回っているのです!」


「そうする事により、『予言』通りの歴史を作る」


「ハァイ! そうでございまァす!」


「例えば、エデンを煽って、泥縄商事とセットで交国を襲撃するとか?」


「そんなことはしてませんよぅ!」


「…………。まあ、いいでしょう」


 泥縄商事の資金の流れを調べておきましょう。


 面白いことがわかりそうです。


「あなたの情報は有用なので、多少の悪戯は構いません」


「ええっと、多少を超えた場合はどうなるのですか……?」


「夢葬の魔神に突き出します。プレイヤー」


 ()の魔神の名を口にすると、占星術師の表情が明らかに引きつった。


 ぎこちない笑みを浮かべ、「それはさすがにご勘弁を」と口にした。


「それが怖いからアポ無しで来ているんですよ!」


「私に対する信用が無いようですね」


「ははは…………。まあ、仮に奴にチクられたところで、運命操作で楽々逃げますけどね? 正面からやり合うのはマズいですが、夢葬の魔神の使徒程度は簡単に振り切ることができますからねぇ!」


「…………」


「ボクを突き出した場合、あなたは優秀な予言者(アドバイザー)を失う事になります。だから、よぉ~く考えて対応してくださいねぇ?」


「あなたの情報に、価値があるのは認めます」


 今は(・・)この男を使った方が効率的。


 夢葬の魔神に貸しを作るのは良いことですが、この男の首程度では……大した見返りは得られない。最終的に突き出すとしても、それは今ではない。


「今後も良き協力関係を続けましょう! ボクは予言を用意し、その実現に奔走するっ! あなたは人類を勝利に導く! Win-Winの関係です!」


 そんな話をしていると、客間に辿り着いた。


 運ばれてきたアップルパイと紅茶を勧めると、占星術師は頬張り始めた。


「うぅん、相変わらずウマイ! しかし、未だ太母様の味には及びませんねぇ」


「当然です。私如きがあの御方に敵うはずがない」


 全てにおいて、太母は私達の上を行っている。


 どう足掻いても敵うはずがない。


 ただ、その足下に近づくぐらいは許されるはず――。


「ところで、今日はアップルパイを食べに来た以外にも用事がございまして」


 占星術師はようやく本題を切り出してきた。


「1つ。雄牛計画は予定より半年早く動かす必要があります。奴らはもう直ぐ、公の場に這い出てきますよ」


「そのようですね」


 やはり、あの計画を把握していますか。


 まあ、あれぐらいなら別に――。


「2つ。あなたは金枝計画の(かなめ)の確保に失敗しています」


「…………なんですって?」


「3つ。交国計画はあなたの敵が成功に導くでしょう。あなたは日々の政務をこなしつつ、静観していればよろしい」


「1つ目に関してはいい。……2つ目はどういう事ですか?」


 問うと、占星術師はニンマリ笑って「察しはついているでしょう?」と言った。


「あなたはデコイを掴まされたようです。してやられましたねぇ?」


「……誰が用意したものですか?」


「さあ? まあ、それは真白の魔神では?」


「…………」


「あなたは『真白の魔神の遺産』を確保するため、ネウロン侵略を行った」


 そう。


 どうしてもアレが必要だった。


「ネウロンを侵略し、1つの死体を確保した。アレを使おうとしたようですが……無理ですよ。あなた達は贋物を掴まされた。アレは『器』にはならない」


 ネウロンで確保させた死体は、復旧作業を進めていた。


 しかし、この男の話が確かなら、それがそもそも無駄な作業で――。


「本物は、どこにあるのですか?」


「さあ~……? さすがにそこまでは……」


 占星術師はヘラヘラと笑い、「ボクの予言は完璧ではないのです」と言った。


 信用できない。言っている事は正しかろうと、信用できない。


「ですが安心してください! あなたは何もしなくても良いのです! 最終的にあなたのところに死体が転がり込んできます! それが3つ目の予言――」


「――――」


 私の合図に従い、近衛兵達が動く。


 占星術師を射程内(カゲ)に収め、構える。


 あとは引き金を引く事で、権能を使った攻撃が占星術師を抉る。


「その脅しは無駄ですよ」


 占星術師はアップルパイで汚れた口元を拭いつつ、余裕の表情を浮かべている。


 余裕の理由はわかる。この男には確率操作能力がある。


 意図的に「失敗」を引き当てさせるかもしれない。


 あるいは、「予言」でどうなるか知っているか……。


「あなたの近衛兵達では、ボクに勝てない」


「…………」


「神器使いを連れてきても同じ事です。ボクは彼らよりずっと強い」


「…………」


「良き協力関係を続けたいなら、予言通り……大人しくしててくださいな」




■title:交国首都<白元>にて

■from:【占星術師】


 俺には未来が視える。


 運命操作の異能とは別に、未来を知る方法を持っている。


 未来について書かれた書物を閲覧できる。


 予言の書。


 俺達(プレイヤー)はそれを持っている。多次元世界の可能性(みらい)について書かれた「最高のカンニングペーパー」により、未来を知っている。


 ただ、何もかも知っているわけじゃない。


 予言の書を持たない労働者(ノンプレイヤー)達より圧倒的に優位に立っているが、それでも俺の「予言」は完璧じゃない。


 何故なら、俺と同じ立場の遊者(プレイヤー)達が邪魔してくる。


 俺達は、それぞれ違う予言の書を保有している。


 そして、それぞれが自分勝手に「自分の望む未来」を作ろうとする。予言の書を使って未来を知り、自分の知る未来に世界をねじ曲げようとする。


 源の魔神の活躍も死も、俺達のおかげであり、俺達の所為だ!


 俺達は神すら支配できる。


 予言の書を持っている者だけが、この世界の行く末を決める事が出来る。


 プレイヤー同士でエゴをブツけあう影響で、未来を確定させるのが大変だが……上手くやれば望む未来を掴む事が出来る。俺にはその資格と力がある。


「ボクを信じてください。ボクは必ず交国を勝利に導いてみせます」


 それは本当。


 俺に賭ければ交国を勝たせて(・・・・)やる。


 交国の真の建国者<太母>の望みを叶えてやる!


「玉帝。ボクは交国の理解者であり、信奉者だ!」


「…………」


「人類を救えるのは交国だけだ!」


「…………」


「ボクも人類の一員です。あなたの味方ですよぅ」


「ならば、あの死体を……<真白の遺産>を確保しなさい」


 仮面で表情を隠している玉帝が、生意気にも命令してきた。


 太母の忠犬め。キャンキャンと吠えやがって。


 まあ、吠えるよなぁ!? 真白の魔神の遺産が欲しいよなぁ!?


 あの遺産がなけりゃ、太母の望みを叶えられないもんなぁ……!!


「全ての情報を吐いて、あの死体がいまどこにあるか教えなさい」


「言ったでしょう? ボクも全てを知っているわけではないのです……。未来なら話は別ですが、いま現在の正確な場所は知らないのですよ」


 本当は知っている。


 間抜けな玉帝達は見逃している。


 見逃すよう、交国のデータベースも密かに改ざんしている。


 その工作も長くは持たないが――。


「あなたが持っている情報を全て吐けば、絞り込めるはずです。交国(わたしたち)には組織力があります。人を使って絞り込めばいい」


「素人が運命に干渉しないでいただきたい」


「…………」


「余計な行動をすれば、運命が……未来が変わってしまう! 波風を立てず、石も投じず、大人しく待つのも大事なのですよ?」


 運命に干渉できるのは、選ばれた存在(プレイヤー)だけ。


 俺達だけが世界(うんめい)を変えられるんだ。


 貴様ら労働者(ノンプレイヤー)は何にも出来ないんだよ。


 お前らが余計なことをした所為で、世界が妙な方向に転がることもある。


 というか、そもそも……俺が今も苦労しているのは、お前の主の所為だろうが……! アイツが「やるなよ? 絶対にやるなよ!?」ってことをやるから、お前らが襲撃されたんだろうが……!


「ボクは運命剪定の玄人です。素人が下手に突いて、金枝計画や交国計画が失敗したらどうするんですか!? 大人しくボクに任せてくださいよぅ」


「…………」


 貴様らは言われた通りに動けばいいんだ。


 阿呆のように口を開き、運命(かわ)の流れを見守っていればいい。


 良い子にしていたら餌を与えてやるよ。


 俺の活躍のおこぼれという餌をな。


 ……交国は便利だから、今は媚びておいてやるが……。


「交国計画は必ず成功します。予言者である私が保証します」


「…………」


「信じて待っていてください。では、本日のところはこれで――」


 玉帝も近衛兵も動けない。


 プレイヤー(オレ)には勝てない。


 俺に勝てるのは、同じ存在だけだ。


 ただ、俺は慎重に事を進めている。


 他のプレイヤーは、俺の計画に気づいていない。


 予言の書は、人それぞれ内容が違う。


 だから気づけない。


 他のプレイヤー達は、俺と違って交国計画を知らないんだ……!


「…………。次はどこに行くつもりなのですか?」


「運命の剪定……害虫駆除に向かう予定です」


「害虫……?」


 席を立ちつつ、教えてやる。


「交国計画を脅かす害虫がいるのです」



認識操作開始(ナイトノッカー)考察妨害(ミスディレクション)



 奴らが計画の邪魔になることは、予言の書に記されている。


 だから排除しなければならないが――。



認識操作(ナイトノッカー)休眠状態移行(スリープモード)



 ……大した脅威じゃない(・・・・・・・・・)


 奴らは所詮、虫だ。


 俺が直接手を下せば、簡単に殺せる。


 しかし、俺が直に動くと……他のプレイヤーに感づかれる可能性がある。


 それはマズい。非常にマズい。


 ……あの時みたいな惨めな暮らしには戻りたくない。


 俺はもう、1人なんだ。……弟はもういないんだ。


 慎重を期して、直接殺したりはしない。


 既に奴らの殺害計画は準備済み。あとは馬鹿共を扇動するだけだ。


「その害虫とは何者ですか?」


「あなた様の耳を汚す必要はない。ボクに任せてくださいな」


 マクロイヒ兄弟。


 奴らは交国計画の邪魔だ。


 だが、所詮は虫だ。


 簡単に殺せる。……前回は失敗したが、次は何とかなるさ。


 全て上手くいく。


 何故なら、予言の書に【占星術師(オレ)】の敗北は記されていないからな。




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