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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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復讐者:石守睦月



■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:星屑隊隊長


 ファイアスターターの艦隊が一斉に熱線を放ったが、それがかき消えた。


 第7艦隊に当たる直前。海門を通って割り込んできた方舟に阻まれ、消えた。


 正確にはその方舟の艦首に立った神器使いにより、流体を解体・吸収された。


「…………」


 交国軍には地の利がある。


 だからこそ第7艦隊が迎え撃つ事が出来た。


 だが、それだけでは勝てない。神器使い(ファイアスターター)は、単騎で艦隊に勝てる実力者だ。


 神器使いは強い。ならば神器使いをブツければいい。


 ファイアスターター以上に規格外の神器使いをぶつければ、圧倒できる。




■title:拘置所上空にて

■from:黒水守・石守睦月


「ひぃ、危ない危ない。防御出来て良かった~」


 熱線(ビーム)で良かったよ。実体弾より対処しやすいからね。


 多分、轟さん――もとい、ファイアスターターは玉帝を狙ったんだろう。


 第7艦隊の旗艦に、玉帝が乗っているようだ。


 今の砲撃で死んだりしないと思うけど、万が一も有り得る。


 しっかり守らないと――。


「玉帝、前線に出てこないでください」


『貴様! 一領主如きが玉帝に意見するか……!』


 意見すると、側近らしき人が睨み、叫んできた。


「意見ぐらいさせてくださいよ。一国のトップがノコノコと戦場にやってきて死んだら大変な事ですよ? というかそもそも、貴方達が止めてくださいよ……」


『なっ……!』


 側近さんはさらに何か言おうとしていたけど、玉帝が手で制した。


 玉帝は「耳が痛いですが、正論です」と言いつつ、言葉を続けた。


『ですが、こちらを心配する必要はありません、黒水守。貴方は勝利と自分の身だけを考えて戦えばよろしい』


「了解です」


 何らかの対策はしていたかもしれないけど、ヒヤッとした。


 玉帝は交国の要だ。死なせるわけにはいかない。


 ただ、今回の相手は……さすがにやりづらいなぁ。


 出来れば殺したくない。強くて頼りになる神器使いだしね。


「轟さん……いや、ファイアスターター。投降してもらえませんか?」


 そう言ったものの、返ってきたのは砲撃だった。


 神器で海に干渉し、水柱を立てて砲弾を防御する。


 立て続けに飛んでくる砲撃。さすがに全て受けるのは難しい。


「離脱して。ここからは私だけで行くから」


 戦場まで運んでくれた方舟に離脱してもらい、自分は海に飛び降りる。


「交国相手に勝てると思ってるんですか?」


『貴様が心配するべき話ではない!』


「色々と……行き違いがあるんですよ~……! 貴方が交国を嫌う理由もわかりますが、お互いに腹を割って話し合って――」


『黙れッ! 玉帝の犬め!!』


「轟さん!」


 そう呼んだものの、返ってきたのは「その名は捨てた!」という返答だった。


『吾輩はエデン第2実働部隊隊長、ファイアスターターだ!』


「頑固だなぁ……! もうっ……!」


 海水で砲撃を防御しつつ、神器を振るう。


 ファイアスターターが行ってきた熱線による一斉砲撃。アレを流体として解体・吸収しておいたものを、敵艦隊に向けて解き放つ。


 交国の機兵や方舟を屠ってきた神器の熱線による攻撃。それはさすがに彼の方舟でも相当な痛手になる。一隻……いや、二隻落とした。


 落としたが、ファイアスターターが神器で新しい方舟を生成してくる。


 でも、それは――。


「第7艦隊の皆さん、お願いしますっ!」


 第7艦隊からの集中砲火で対応してもらう。


 新たに生成されつつあった方舟2隻が爆散する。


 生成後ならともかく、生成途中のものなら装甲が出来上がっていない。


 だから砲撃が通りやすい。第7艦隊には防御に集中してもらいつつ、敵が再生成するタイミングで邪魔をしてもらおう。


 彼らならそれが出来る。


 多次元世界指折りの軍事国家に属する精鋭艦隊だからね。


 私が敵艦隊を削って、第7艦隊には妨害を担当してもらう。


 この方が効率的で被害も少ない。


『クソッ……! 加藤睦月ィッ!!』


「――――」


 こちらの狙いを悟ったファイアスターターが砲撃を飛ばしてくる。


 またも熱線(ビーム)。それ強くて弾速早いけど――。


「それは神器(この子)のオヤツだよ」


 先端に燈火(カンテラ)をつけた杖型神器を振るう。


 神器による干渉により、熱線を流体に解体し、燈火に吸収する。


 私の神器は流体(エネルギー)干渉能力を持つ。流体に近ければ近いほど容易に操れるし、神器で吸収してしまえる。


 さっきと同じく撃ち返してあげようと思ったけど――。


「っ、と……!!」


 撃ち返し用の熱線を拡散放出させ、迎撃に利用する。


 熱線は目くらまし。その後から本命の実体弾や誘導弾が来ていた。


 アレらも元々は混沌で作られたものだけど、固体化したものは少し苦手だ。


『実体弾なら対処できまい! 食えるものなら食ってみろッ!』


「さすがはエデンの神器使い」


 私よりよっぽど死線を潜り、生き残ってきただけある。


 熱線が通用しない以上、即座に別の手を使うよね。


「けど、ファイアスターター。地の利はこちらにあるんだよ」


 神器の石突きで海を「コンッ」と小突く。


 私の足下だけ固めていたけど、さらに範囲を広げる。


 敵艦隊の下方から水柱を立ち上がらせ、仕掛ける。




■title:不滅艦隊(プロメテウス)旗艦<陽炎>にて

■from:炎陣・ファイアスターター


「おのれッ……!!」


 本物の加藤(カトー)が操る水柱が艦隊を襲ってくる。


 さながら水龍。水柱が龍の如く蠢き、方舟を突き上げてきた。


 その程度なら敵艦の砲撃ほど痛くはない。だが、問題は――。


「相変わらず、姑息な手をッ……!!」


『私の神器は、轟さんほど力業が使えないからね』


「だからその名は捨てたと言っただろうがッ……!!」


 神器の支配下にある海水が、艦内に入り込んでくる。


 隔壁を閉鎖しても、送風管を通じて入り込んでくる。


 吾輩の方舟は戦闘用のハリボテではない。いざという時は弱者を――流民達を連れて逃げられるよう、居住性の配慮もそれなりに行っている。


 艦内に人間を収容できる作りにしている以上、どうしても「隙間」が存在する。そこを伝って、艦内に大量の水が流れ込んでくる。


 即座に船の設計を変えられるほど、吾輩は器用ではない。


 入り込んできた海水が艦内を浸水させ、機器を無効化してくる。砲塔を塞いでくる。それどころか奴の魔手が船の心臓部まで伸びてくる。


 船を制御しているコアを、海水が押しつぶし砕いてきた。


「っ…………!」


 一隻潰された。他の船も長くは持たん!


 新たに生成しようにも、第7艦隊の砲撃が邪魔――ならば!!


「吾輩は……ファイアスターターだぞッ!!」


『おっ……?』


 使い物にならなくなった方舟を盾にしつつ、その陰で艦隊の再編成を行う。


 加藤睦月に侵された方舟は完全に捨てる。


 海上で自爆させ、敵の干渉を少しでも乱す。


「吾輩を殺したければ、もっと神器使いを連れてこいッ!!」


 あと少し。


 あと少しで、逃がせるのだ。


 可愛い部下達を。


 彼女に託された希望(カトー)を――。


「加藤睦月ッ! 貴様1人で吾輩を倒せると思ったか!? 舐めるなッ!!」


『もちろん。楽に勝てると思ってないよ』


 神器を振るい、水龍の頭に乗った加藤睦月(ほんもの)が微笑む。


『舐めたのはキミ達だろ』


 加藤睦月の後方。


 第7艦隊の頭上。


 そこに、新たな海門(ゲート)が開いた。




■title:交国軍・第7艦隊旗艦<堅尾>にて

■from:二等権限者・肆號玉帝


 艦隊上方に海門が開かれる。


 そこから界内に侵入してきた方舟に通信を繋ぐ。


「遅いですよ。犬塚特佐」


『説教なら後でいくらでも聞く! 奴を仕留めればいいんだな!?』


「ええ。ですが、せめて死体は確保してください」


 ファイアスターターの正義に価値はない。


 ただ、ファイアスターターの神器には価値がある。




■title:交国軍・高速艦<白火>にて

■from:英雄・犬塚


『神器・プロメテウスは交国に必要なモノです』


 玉帝(テメエ)の都合なんざ知ったことか。


 だが、言いたいことはわかる。


「面倒な注文だ」


『貴方なら出来るでしょう?』


「ああ、やってみるさ」


 開いていく昇降口(ハッチ)から敵艦隊を睨む。


 こっちに砲塔が向いてらぁ。驚異だとわかってんだな。


 だが、遅え。


「犬塚銀――<白瑛(びゃくえい)>、出るぞ!」


 愛機で――飛行可能の機兵で戦場に飛び出す。


 敵艦隊が赤い光を放つ。情報通りの熱線。


 直撃したら、無事じゃ済まねえが――。


権能起動(カノン)ッ!」




■title:拘置所近海にて

■from:黒水守・石守睦月


 新手の飛行機兵が戦場に躍り出た。


 それを押し返すように敵艦隊から熱線が飛ぶ。


 新手の機兵……犬塚特佐の乗る愛機が熱線をモロに受けたけど――。


「……相変わらず、無茶苦茶な防御性能だなぁ」


 傷一つ受けていない。


 犬塚特佐の乗る<白瑛>は勢いよく敵艦隊に突っ込んでいく。


 白亜の装甲には焦げ跡一つついてない。


 <白瑛>は特別な装甲を持っているわけではない。


 特別な権能(ちから)を持っているだけだ。


『黒水守! 俺が前衛を務める! 有効活用しろ!』


「はい、頼りにしてます。犬塚特佐」




■title:不滅艦隊(プロメテウス)旗艦<陽炎>にて

■from:炎陣・ファイアスターター


「加藤睦月だけでも面倒だというのに……!」


 光沢のある白色の装甲に包まれた機兵。


 こちらの攻撃が直撃しても、傷1つ負っていない機兵。


 交国の英雄、犬塚銀の<白瑛>か……!


 アレは流体装甲で傷を直し、「無傷」を装っているのではない。


 そもそもダメージを負わない(・・・・・・・・・)


 仕組みはわからんが、そうとしか思えない「無敵の装甲」の持ち主。


 吾輩の武装で、白瑛に有効打を与えるものは…………。


『今からでも降参していいんだぜぇ、テロリスト!!』


「先進国の蛮族め……!!」


 敵は強大――だからどうした。


 我らはずっと、強大な敵と――世界と戦ってきた。


 ずっとそうだ。ずっとそうだった。


 だからこそ、負けない。


 この程度の窮地、飽きるほど経験してきた!


吾輩(オレ)は……吾輩(オレ)達は、エデンだ」


 エデンは敗れた。滅びた。


 だが、その遺志の火は……未だここにある。


「エデン第2実働部隊隊長、ファイアスターター……押し通らせてもらうッ!」


 相手がどれだけ強大だろうと、火を絶やしてはならん。


 絶やしてしまえば、オレは――――。





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