大量虐殺者
■title：不滅艦隊旗艦＜陽炎＞にて
■from：炎陣・ファイアスターター
『ファイアスターター君～！ おたすけ～！ 支援砲撃ぷり～ずっ！』
泥縄商事の要請に応え、拘置所に向けて砲撃する。
玉帝の近衛兵に向けた砲撃だが、倒せた気がしない。
アレだけに集中できるなら火力で消し飛ばしてやるが……拘置所には部下達とカトーもいる。全力砲撃したら味方ごと吹き飛ばしてしまう……！
せめて牽制になってくれ――と思いつつ砲撃していると、旗艦に＜星の涙＞が命中した。艦の姿勢制御が崩れ、大きくバランスを崩す。
「くっ……！ まだまだァ！！」
他の艦に旗艦を支えさせ、無理矢理立て直す。
正面にいる第７艦隊は半数近く削った。２隻轟沈。その他はダメージで戦闘続行困難になり、後方に退いていった。
だが、軌道上から＜涙＞を放っている連中は未だ健在。
オマケに交国本土の基地から長距離誘導弾が飛んできている。目の前の敵を削っても常に飛んでくる支援攻撃によって、我が艦隊は削られ続ける。
吾輩さえ無事なら立て直せるが、前方の艦隊も邪魔で身動きが取れん。
このままでは、味方の撤退に支障が――。
『見事です。ファイアスターター』
「――――」
無差別通信が繋がる。
目の前のディスプレイに、仮面を被った人間が映っている。
玉帝だ。どこかの艦内から、吾輩に通信してきている。
まさか、この戦場に交国のトップが来ているのか！？
「玉帝、貴様、どこにいる！？」
『貴方の想像通りですよ』
敵艦艇のどこかに玉帝がいるとしたら、好機だ。
玉帝さえ殺せば、交国は必ず混乱する。
そうすれば、部下とカトー達の脱出も上手くいくはず……！
『我が軍門に下るつもりはありませんか？』
「なんだと」
『カトーは神器を失いました。不能になったカトーより、全盛期の力を保持し続けている貴方が交国軍に加わってくれた方が、人類とプレーローマの戦いも――』
カトーが神器を失った？
何のことだ？
マーレハイトで破損した神器が、ついに壊れたのか？
交国が何らかの手段で奪ったのか？
いや、そんなことはどうでもいい。
『交国に下れば、貴方の部下を助けて差し上げましょう。カトーの減刑も検討します。貴方の判断次第で、皆の命運が――』
「ほざけ悪党。貴様は『プレーローマへの対処』を口実に、どれだけ多くの命を踏みにじってきた！？ 貴様のような輩の言う事など、吾輩は信用できんッ！」
交国は信用ならない。玉帝は信用ならない。
だからこそ、吾輩はカトーと共に交国に下るのを拒否した。
交国に下るしか非戦闘員を助ける道がなかったのは、わかる。だが、交国の犬になれば吾輩達も「弱者を虐げる側」に回りかねない。
だから……カトーだけに辛い役目を押しつけてしまった。
その所為で、カトーどころかエデンの仲間達まで――。
「吾輩は知っている。貴様らがゲットーで何をしたのか！」
『ゲットーで何かをしたのは貴方達でしょう？ 我々は治安を守っただけです』
エデン残党がゲットーで罪無き人々を扇動した。
だから玉帝は、交国軍を使って「治安維持活動」を行った。
玉帝は、しれっとした様子でそう言った。そう言い張った。
『罪なき民衆を巻き込みながら、大罪人の脱走を手引きしている貴方達の方がよっぽど悪党ですよ。この戦闘でどれだけ兵士の命が失われていると――』
「エデンはゲットーで扇動など行っていない！ それどころか、何も――」
『交国は人類のために戦っています。これは嘘偽りない事実です』
「ほざけ……！！」
無差別通信の発信先は、間違いなく前方の艦隊。
その艦隊の中でも、一歩後方に下がっている艦に狙いをつける。
他の方舟が、その方舟を守っている。
玉帝は、あそこにいる。
「消えろ、侵略者ッ！！」
全力で熱線砲撃を行う。
敵艦隊の防御の穴を狙う。
これで倒せずとも、さらに砲撃を行えば――。
「――――」
海門が開く。
敵艦隊の前に海門が開き、そこから一隻の方舟が界内に飛び出てきた。
方舟一隻犠牲に防御――いや、混沌の海に熱線を逃がすつもりか？
それはマズい。
いま、混沌の海を刺激すると、逃走経路が――。
「なっ……！？」
懸念は、最悪の形で消え去った。
こちらの熱線砲撃と共に、かき消えていった。
新たに現れた方舟の艦首。
そこに立っている人間が振るう神器により、こちらの攻撃がかき消えた。
方舟相手といえど、大ダメージ間違いなしの全力砲撃が――。
「やはり……やはり来たか。交国の犬！ 交国の神器使い！！」
交国には何人も神器使いがいる。
だが、ここに来たのは最悪の部類だ。
しかも、吾輩にとって因縁のある相手――。
「黒水守・加藤睦月ッ！！」
『違うよ』
こちらの全力を砲撃をかき消した相手。
その相手が、吾輩の言葉を否定してきた。
■title：拘置所上空にて
■from：黒水守・石守睦月
「加藤は旧姓。
結婚したから石守だよ、轟さん」
懐かしい相手と言葉を交わす。
こんな形の再会は、さすがに残念だけどね。
「行こうか。我が神器」
