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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
242/875

黒司天


■title:交国本土の拘置所内にて

■from:泥縄商事社長のドーラ


「来た来た来たっ……!!」


 上空を飛んでいる方舟から誰かが飛び降りてくる。


 数は9。落下傘(パラシュート)をつけている様子はない。


 あんな無茶やる相手、決まってる! やっぱ来たか近衛兵!


 豆粒より小さく見える標的に向け、対空射撃を行わせる。


 敵から奪った兵器も使わせたけど、当たる気がしねーっ!!


「何とか着陸される前に――」


「社長。手遅れです」


 上空にいた近衛兵の姿がかき消えている(・・・・・・・)


 拘置所に到着した(・・・・)9体の近衛兵が、即座に戦闘開始。


 ウチの夜行は精鋭部隊。


 不真面目に社長やってるあたしだけど、夜行は切り札として精鋭を揃えている。


 けど、相手が悪い。


 数で勝っていても、玉帝の近衛兵相手は――権能持ち(・・・・)相手はキツい!


 それでも――。


「何とか持ちこたえよう! しぶとさは泥縄商事(ウチ)の売りだもんねっ!」


 何とかカトー君は逃がさないと、彼に怒られちゃう~!




■title:交国本土の拘置所内にて

■from:夜行隊員


 白い外套を着た人間が拘置所に降り立ち、迫ってくる。


 近衛兵。玉帝の側近であり、交国最高峰の工作員。


 それが小鳥に似た小型飛行ドローンを放ちつつ、こちらに迫ってくる。


 発砲し、先にドローンを撃ち落としにかかる。この場で近衛兵を止めきれないとしても、相手の武装(・・)は削っておきたい。私は死ぬだろうが問題ない。


「――――」


 ドローンを2機撃ち落としたが、まだ飛び回っている。


 群体が近衛兵の周囲を飛び回り、チカチカと光を発している。


 近衛兵の姿がブレる。


 ホログラムの映像が乱れるようにブレている。


 だが、奴は確かに存在する。幻などではない。


 敵の射撃を遮蔽物で凌ぎつつ、移動開始。


 移動中も周囲の味方が援護してくれているが――その援護が減りつつある。


 敵の射撃が味方の頭部を正確に抉り、次々と屠っていく。半包囲状態なのにいいようにやられている。舌を巻く暇もなく、敵が迫ってくる。


「「――――」」


 仲間が投げて寄越した散弾銃を受け取り、曲がり角で待ち受ける。


 敵が来る。


 敵の影が我々に向け、伸びてくる。


 まず先に私が発砲した。曲がり角から現れた敵に向け、発砲した。


 しかし、敵の姿がかき消えた(・・・・・)


 散弾は虚しく大気を抉り、拘置所の外へ飛んでいった。


 回避されるのはわかっていた。


 敵の権能(ちから)は知っている。


 ゆえに、一拍置いて仲間に射撃してもらう。


「――――」


 姿を消した敵が、別の場所へ――自身の影があった場所に顕現(・・)する。


 敵の権能は一種の「転移能力」だ。


 私の射撃で転移回避を使わせ、仲間には転移先を読んで待ち構えてもらう。


 仲間の散弾が放たれる。


 空気を抉り、回避不能の弾群が近衛兵を襲う。


 襲うはずだった(・・・・・・・)


「っ…………!」


 閃光(フラッシュ)が辺りを照らす。


 敵の背後に隠れていた小型ドローンが、カメラの閃光を発した。


 ストロボの如き光。


 敵の()が変形する。


 強い光に押され、一瞬で形を変える。


 人間より弾丸の方が速い。


 しかし、弾丸より光の方が速い。


排除完了(クリア)


 再び姿を消した敵の声が、背後から聞こえた。


 私も仲間も、一瞬で急所を抉られた。


 崩れ落ちつつ、無傷の近衛兵を見上げる。


 もっと戦いたかった。ああ、だが、ドローンは削った。


 他の夜行が上手くやってくれるはずだ。




■title:交国本土の拘置所内にて

■from:泥縄商事社長のドーラ


 権能・エウクレイデス。


 源の魔神(アイオーン)が世界を鋳つぶして造った権能の1つ。


 その正体も性能も弱点もわかっているけど――。


「勝てるかなぁ……!」


 近衛兵()が振るう権能は、真のエウクレイデスより弱い。


 大幅に弱体化している。だけど、勝てるとは限らない。権能無しでも強い精鋭達が使ってくるから、いくら夜行でも勝てるとは限らない。


「社長。やるしかないかと」


「わかってるよぅ! キミらも死ぬ気で頑張ってね!?」


「実際死にます」


「ガンバレ!」


 夜行を応援しつつ、頑張って近衛兵を引きつける。


 彼らが使う権能は「影」と「光」を使った転移権能だ。


 権能使用者の「影」が転移可能領域として展開。


 彼らは「影の上」に転移できる。


 例えば10メートル先まで影が伸びているなら、一瞬で10メートル先まで移動できる。100メートル先だろうが同じ事ができる。


 要は「自分の影」が存在していればいい。


 ただ、彼らの転移は「点と点」ではなく「線」で行われる。


 彼らは移動先を決めると、そこまで光速で移動する。弾丸や斬撃よりも速く移動し、しかも移動中は光と化すため通常兵器ではダメージを与えられない。


 実体化中は拳銃でも殺せるけど、当てるのが至難の業。


 相手の影をよく見ておけば、転移先の目星はある程度つく。


「影をよく見て行動してね。初弾はまず間違いなく回避されると思って」


 遮蔽物や光を使い、敵の影をコントロールしたら転移先を操る事も可能。


 ただ、その弱点は敵の方が理解している。


 彼らは「照明」「ドローンの放つ閃光」「銃のマズルフラッシュ」で影の位置を操作し、小刻みに光速移動してくる。弾丸と弾丸の間を縫って回避してくる。


 周囲をまとめて爆撃してしまえばダメージを与えやすいけど……カトー君達がまだ逃げ切ってないから、無茶は出来ないんだよなぁ……。


 カトー君達を殺さない程度に、ファイアスターター君に支援砲撃を頼むけどね。


 単なる爆弾罠だと、爆発の光に乗って逃げたりするし……マジ厄介! こっちの発砲の光を使ってスルリと逃げる事もある。


 それでも、何とか止めなくちゃ。


 最終的に夜行皆殺しになっても、カトー君は逃がさないとねっ……!


「彼らは、自分以外(・・・・)も転移できるインチキ野郎だから気をつけてね」




■title:交国本土の拘置所内にて

■from:夜行隊員


 仲間に注意を引いてもらっている隙に、側面から近衛兵に仕掛ける。


 仕掛けておいた閃光手榴弾で敵の影をコントロールする。


 影を壁に張り付けにし、自爆覚悟の擲弾を放つ。


 影の範囲が狭まれば、爆発に巻き込んで殺害可能――。


「――――」


 敵が踏み込み、擲弾を拳で迎撃した。


 通常では有り得ない速度。


 足下の影を起点とした転移短縮の迎撃。


 拳で迎撃された擲弾は拘置所の外に飛び出していき、爆発。


 その爆発が起きている間も仲間の銃撃が近衛兵を狙ったが――狭い影の中でも――踊るような足さばきで銃弾の隙間を縫ってきた。


 回避動作を行う敵の背後。


 そこを飛んでいた飛行ドローンが閃光を放った。


 目くらましも兼ねた光により、こちらの目が焼かれていく。


 焼かれた視界の中、一瞬で形を変えた影がこちらの足下に飛び込んできた。


 咄嗟に銃からナイフに持ち替え、横薙ぎに振るった。


 敵の斬撃と鍔迫り合いを起こす。斬撃は何とか防いだ。


「――――」


 防いだ瞬間、敵が足下に向けて発砲した。


 跳弾でもしない限り、こちらに当たらないはずの弾丸。


 だが、その弾丸が当たったような衝撃が、頭部に走った。


「っ、グ…………?!」


 自分が撃った弾丸の衝撃を(・・・)転移させてきた。


 発砲の瞬間、権能を使いやがった。


 奴らの権能の効果範囲は「自分自身」に限らない。


 自分の装備にも――弾丸にも影響する。


 弾丸が起こす事象すら、奴らの手のひらの上にある。


「――――」


 衝撃でバランスを崩す中、敵のナイフがこちらの喉を切り裂いてきた。


 吹き出した血すら、敵に当たらない。


 影を経由し、こちらの背後に立っている。


 俺を盾にしつつ、他の夜行に向けて発砲している。


「インチキ、野郎が…………!」


 敵のドローンが再び閃光を発する。


 敵の影が一気に伸び、他の夜行に向かって伸びた。


 弾丸以上の速さで衝撃だけが飛ぶ。光速で味方の脳天を撃ち抜いた。


排除完了(クリア)。だがキミ達も大概インチキだぞ。夜行」




■title:交国本土の拘置所内にて

■from:夜行隊員


「足止めします。お先にどうぞ」


 囮を務める社長達を先に行かせ、簡易バリケードから機関銃を構える。


 敵の間合いは把握済み。


 光で影の形をこねくり回そうと、範囲は限られる。


 長い廊下に陣取って待ち構えれば、いくら近衛兵でも突破は困難。


 問題は第7艦隊からの支援砲撃だ。


 近衛兵が砲撃支援要請を行えば、第7艦隊からピンポイントで砲撃が飛んできてもおかしくない。そしたらさすがに死ぬ。


 どうあれ死ぬので、1秒でも長く時間を稼げばいいだろう。


 この機関銃が私の墓標――。


「――――ッ!」


 曲がり角から飛び出してきたものを撃つ。


 火花を飛び散らせ、その「何か」が粉砕された。


 近衛兵の周囲を飛び回っている小型ドローンだ。


 アレにはカメラもついているから、偵察に出していたんだろう。


 今ので待ち伏せがバレたな。迂回するか、支援砲撃が来そうだ。


 ただ、他ルートにも夜行が待ち伏せを行っている。即時突破は不可能――。


「…………!?」


 微かに羽音がした。


 機関銃を固定したまま拳銃を抜き放ち、羽音の主を撃ち落とす。


 小型ドローンが傍まで来ていた。


 通気口を通って来ていたのか? 接近に気づくのが遅れた。


 だが、たったいま撃ち落とした。


 ドローンだけ接近されたところで、何の問題も――。


排除完了(クリア)


 背後から衝撃。4発の弾丸が飛んできて、全て命中した。


 頭部と関節を砕かれ、行動不能に追い込まれる。


 拳銃も機関銃も蹴り飛ばされ、直ぐ使える武装がなくなる。


「なぜ…………?」


 背後に近衛兵(・・・)がいた。


 こいつらが接近出来るルートは、全て待ち伏せがいたはず。


 秘密の地下通路でも無い限り、突破に時間がかかったはず。


 どうやって、ここに……?


「…………」


 自分の血が作った血だまりに倒れる。


 視線の先に、砕かれ壊れたドローンが見えた。


 接近を許したものの、さっき破壊した小型ドローン……。


 その背部に、小さなディスプレイがついていた。


 カメラではなく、ディスプレイ(・・・・・・)がついている。


 小型ドローンに……? なぜ、わざわざそんなものを。


 …………。


 …………まさか、こいつら、そこまで(・・・・)出来るのか。




■title:交国本土の拘置所内にて

■from:玉帝・近衛隊隊員


排除完了(クリア)


 自爆した敵から離れる。


 掴みかかり、零距離で自爆したのは悪くない手だ。


 ただ、我らの権能は影さえあれば一瞬で拘束から抜け出せる。


 拘束と自爆までのタイムラグを即死水準(レベル)まで詰めるべきだ。


 我々は死なない限り止まらない。


「誰か、標的を目視確認しているか?」


『泥縄商事社長、確認済み。カトーと行動を共にしています』


「映像を寄越せ」


 後方支援要員(オペレーター)に要請する。


 他の近衛兵に随伴しているドローン越しの映像を見る。


 泥縄商事の社長と、担架で運ばれているカトーがいる。


 ただ、カトーらしきもの(・・・・・)にファイアスターターの部下が随伴していない。発信器の発信源は確かにあそこだが――。


「泥縄が用意した偽者の可能性がある。他の経路探索に手を割いてくれ」


 ドローンを追加発注。


 第7艦隊から砲撃で飛んできたドローン群に拘置所内をさらに調べさせる。


 泥縄商事の動きが怪しい。奴らは、カトーの体内に隠していた発信器に気づき摘出し、それを囮に使っている可能性がある。


 泥縄商事の社長は確かに追い込めている。


 奴はもう逃げられないはずだが、アレすら偽者の可能性もある。


 他の仲間に追跡中の相手を任せ、別経路の探索を――。


「む……」


 拘置所の壁が砕かれ、何かがやってきた。


 壁の残骸を権能で回避しつつ、見上げる。


交国軍(ウチ)の<逆鱗>か」


 奪取された機兵が、こちらを襲ってくる。


 夜行が操作しているようだ。


 歩兵同士の争いに勝てないなら、機兵をブツける。


 着眼点は悪くない。


 だから、もっとこちらを見ろ(・・・・・・・・・)




■title:交国本土の拘置所内にて

■from:夜行隊員


「――――」


 交国軍から奪った機兵を駆り、近衛兵を襲う。


 相手は権能使いとはいえ、効果範囲は「影の上」に限る。


 そして、転移可能なのは自分が関わっているもの。


 こちらが操る機兵を転移させる事はできない。


 機兵という暴力装置相手に、歩兵が勝てるはずがない。


「避けたか……!」


 壁ごと潰すつもりだったが、敵は権能で回避してきた。


 回避先を踏みつけたものの、手応えがない。


 乗り移られないよう機兵を激しく動かしつつ、敵の姿を探す。


 銃を軽く掲げ、「ここだぞ」と言うように佇んでいる。


 良いマトだ。お望み通り、機銃を横薙ぎに掃射していやる。


 敵の影は、こちらとは反対の方向に伸びている。


 敵の姿がかき消える。


 掃射を権能で回避してきた。


「それなら――――」


 ころん(・・・)、と音がした。


 握りこぶし大の何かが、操縦席内に現れた(・・・)


 これは――。


「手榴弾ッ…………!?」


 敵が操縦席内部に(・・・・・・)手榴弾を送り込んできた。


 そんな、バカな。


 影は無かったはず。


 奴らの影は、遮蔽物を貫通するものじゃない。


 機兵内部に、近衛兵の影が届くはずが――。




■title:交国本土の拘置所内にて

■from:玉帝・近衛隊隊員


排除完了(クリア)


 敵に奪われた機兵が転倒する。


 操縦席に送り込んだ手榴弾が、敵を屠った。


 奴はこう思ったかもしれない。「操縦席内部に敵の影はない」と。


 その考えは正しいが、正しくない。


 影はある。


 どこにでもある。


 機兵が(オレ)を見た。


 要は「影」の拡大解釈だ。


 権能は使いこなせば、強力な力を引き出せる。


 機兵の眼球(カメラ)が俺を捉えた。


 機兵のディスプレイに(・・・・・・・)俺が映った。


 俺と「俺の影」が映った。


 ならば、影が映ったディスプレイ経由で転移すればいい。


近衛兵(われら)の影は、交国(われら)の領土だ」






【TIPS:エウクレイデス】

■概要

 プレーローマの<黒司天>が源の魔神に与えられ、振るっていた権能。プレーローマの混乱期に失われた権能の1つ。


 黒司天は<死司天>と同じく源の魔神の近衛兵として働いていた天使で、近衛兵時代は源の魔神の身辺警護や使者として動いていた。


 源の魔神死後はプレーローマ内部の権力闘争に身を投じ、三大天と対立。最終的に<武司天>との戦闘に敗れ、所属する派閥の天使達と共にプレーローマを去った。その後の消息は不明とされている。


 交国で近衛兵等が使っている「権能・エウクレイデス」は、黒司天が使っていたエウクレイデスより「大幅に劣化している」と言われている。だがそれでも常人相手には十分な戦闘能力を発揮している。



■黒司天の力

 黒司天は「源の魔神の近衛兵」を任されるだけの実力があった。


 源の魔神の死を皮切りに始まった「プレーローマの混乱期」で権力闘争に参加し、武司天に負けたとはいえ、プレーローマでも上位の力を持っていた。


 黒司天がエウクレイデスを振るうと、「相手の瞳に映った自分の影経由で力を振るい、敵対者の眼や脳を潰す」という芸当も可能だった。ただ、これは黒司天の力の一端に過ぎない。




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