神器強奪
■title:交国本土の拘置所内にて
■from:ただのカトー
部屋の外がやけに騒がしい。
騒がしいが、状況がよくわからない。
拘束されているうえに、色んな薬をぶすぶすと打たれた所為で頭が痛い。
……騒ぎの音が、近づいてきている気がする。
「いた! いたぞ! 総長代理!」
「なんとか生きてるか……!?」
「…………?」
どこかで聞いた覚えのある声。
誰かが部屋に押し入ってきた。
声をかけられる。どうやら、「エデン第2実働部隊」の奴ららしい。
「懐かしいな……。ついに、こういう幻覚も見え始めたか……」
「幻覚じゃありませんよ。まあ何とかなりそうだな……!」
「助けに来たんですよ! ファイアスターター隊長が……!」
拘束を解かれ、助け起こされながら状況を聞く。
……こいつら、幻覚じゃなくて本物なのか。
余計に有り得ない。バカか、こいつら……。
「なんで、来た。罠に……ハマりに来たようなもんだろうが……」
このままじゃ、マーレハイトの二の舞だ。
あの時みたいに壊滅する。相手は交国なんだぞ。
「隊長は『仮にそうだとしても、罠ごと蹂躙してやる』と言ってました」
「担架あるよな!? 早くっ!!」
「オレを連れて逃げても……何にもならんぞ……」
「何を弱気になってんですか、神器使い……! アンタらは俺達とは違う――」
「その神器を奪われたんだ」
第2実働部隊隊員の顔色が変わる。
オレはもう、神器使いじゃない。
方法はわからんが……神器を奪われた。
交国の奴らはオレを捕まえた後、尋問の前に人体実験を始めた。薬を打たれ、何らかの器具を使われて……気がついたらオレの中から神器がなくなっていた。
玉帝が自ら、「貴方の神器を頂戴しました」と言ってきた。オレから抽出した神器を、どこかに持っていった。
神器を奪われた以上、オレは凡人と大差ない存在になった。
おそらく、寿命も――。
「くそっ……。戦力として頼りにならないか……」
「ここまで来たのに……」
第2実働部隊の連中は明らかに落胆していた。
だが、それでも「とりあえず逃がす」と言い始めた。
「ここまで来たんだ。隊長の命令を果たさないと……!」
「逃げますよ、総長代理!」
「置いていけ……」
「いいから……! 行きますよ!」
自分が何の価値もない男って事は、よくわかっている。
オレは、アイツみたいになれなかった。
神器すら失ったオレに、出来ることなんて、もう――。
■title:交国本土の拘置所内にて
■from:エデン第2実働部隊隊員
「いいから、オレを置いて――」
「うるさい! 隊長が助けるって言ってんだから! ついてきてくださいよ!」
自分で立つ事すら出来ない総長代理を担架に乗せ、勝手に連れて行く。
正直、総長代理には何の期待もしていない。
前々から神器が破損してメチャクチャ弱くなっていたし、総長代行のくせに「エデンを解体する」なんてバカな事を言い出すし……!
こんな人より、ファイアスターター隊長が総長を務めるべきだったんだ。それなのに隊長はコイツと別れた後も、あくまで「隊長」の地位にこだわった。
新しいエデンの「総長」には、なってくれなかった。
コイツを連れて逃げるのが、どれだけ大変なことかわかっている。
相手は交国。人類連盟の常任理事国であり、血塗れの大義名分を振りかざして沢山の弱者を蹂躙してきた巨大軍事国家だ。
それでも、ファイアスターター隊長は戦うと決めた。
『戦友を助けたい』
そう言い、1人で金を工面して泥縄商事と渡りをつけ、1人で交国本土に向かおうとしていた。隊長1人で行かせたくないから、俺達もついていく事にした。
総長代理に価値がなくても、それでも俺達はファイアスターター隊長についていく。そう決めたんだ。
「隊長! カトー総長代理を確保しました! 何とか無事です!」
『でかした! 拘置所から脱出しろ! 予定通り撤退だッ!』
「はいっ!」
急がないと。
俺達がこうしている間も、隊長は第7艦隊と戦い続けている。
隊長は強い。
単騎で第7艦隊を圧倒できるような最強の神器使いだ。俺達、エデン第2実働部隊「ファイアスターター隊」の自慢の隊長だ。
けど、交国は恐ろしい存在だ。
敵の神器使いまで大量にやってきたら……さすがに隊長でも――。
「よしよしよしよし、カトー君確保したねっ!?」
「泥縄の社長……!」
泥縄商事の社長が笑顔でやってきた。部下の夜行を従え、やってきた。連戦でかなり数を減らしたようだが――。
「んじゃ、ちょっとシツレイ~」
「なっ……!? ばっ! お前……!?」
社長が銀色に光るものを振りかざした。
ナイフだ。それが閃き、カトー総長代理の腹に突き刺さった。
総長代理が呻く。止めようとしたが、周囲の夜行に止められた。
「何しやがる! 泥縄!」
「裏切ったのか……!?」
「違うよ、これ取ってたんだよっ!」
泥縄の社長は総長代理の腹から、黒い何かを抉り出した。
抉り出された痕に、医療用のジェルが塗りたくられる。ただでさえボロボロの総長代理が呻いているけど……これで死なないだろうな……?
「何だそれ」
「発信器だよ。交国が念のため仕掛けたみたい」
これはこっちで預かって、陽動に使うね――と言ってきた。
こいつ、よくピンポイントで発信器がある場所に気づけたな……。
「で、予定通り逃げるわけだけど、逃走経路変更ね」
「は? ちょっと待て――」
「拘置所の西側に抜けるよ。案内はつけるから、キミ達だけで行って」
「話が違う!」
「仕方ないじゃ~ん。敵が上手なんだ。第7艦隊内部に送り込んだ夜行がもう殲滅された。向こうも対策打ってるからこれ以上は送り込めない」
「それがどうした! アンタらには最初から期待してない」
「あはっ! 言うじゃ~ん」
こいつらは所詮、下劣な犯罪組織だ。
逃走手段と経路の確保以外、何も期待してない。
「けど、金魚の糞が何言ってんの。キミらもファイアスターターいないと何もできないバブちゃん達でしょ~?」
「なっ……! 侮辱する気か、お前っ!」
「おいっ! いまは喧嘩してる場合じゃない! で、何がどうなってんだ!?」
割って入ってきた仲間が、社長に問いかける。
社長は「この戦場に、玉帝の近衛兵がいる」と言った。
「近衛兵に艦隊内部の夜行を片付けられた以上、近衛兵は拘置所に乗り込んでくる。あたし達が囮と殿を務めるから逃げて」
「玉帝の近衛兵って、そんなマズい相手なのか?」
「かなりね。神器使いほどじゃないけど」
■title:交国軍・第7艦隊旗艦<堅尾>にて
■from:玉帝・近衛隊隊員
艦隊内部の夜行は排除した。
二度とわかないよう、対処も行った。
後は――。
「主上。我らは拘置所に向かいます」
『泥縄の社長を優先確保。カトーは二の次でよろしい』
「了解」
主上との通信を済ませ、飛行中の方舟から飛び降りる。
近衛隊の仲間達と共に、拘置所に向かう。
3人1組で動き、拘置所の敵を制圧。目標を確保する。
そのためには――。
「権能起動」
『権能起動』
『権能起動』
『権能起動』
『権能起動』
『権能起動』
『権能起動』
『権能起動』
『権能起動』
いつも通り、動けばいい。




