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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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規格外×規格外



■title:交国本土の拘置所内にて

■from:泥縄商事のドーラ


「楽しいねぇ! 血みどろの戦場!」


 瀕死の交国軍兵士にトドメを刺してあげつつ、屍肉を踏み越えて進む。


 敵味方の肉片があちこちを汚している。


 泥縄商事(あたしたち)らしい戦場になってきた!


 もっともっと守備隊鏖殺(デコレーション)していこうねぇっ!


「社長。目的を忘れないようにしてください」


「おっとそうだった」


『社長。こちらに応援を頼みます』


「アイヨォ~!」


 指定地点の密室に人員手配(デリバリー)を行う。


 拘置所内だけじゃなくて、第7艦隊にも大量の兵士を送り込んでいるから……そろそろ夜行に関しては打ち止めかなぁ。


 上手く奇襲したつもりだったけど、さすがは交国軍。上手く対応している。こっちの本命である拘置所は何とかなりそうだけど――。


『社長。第7艦隊旗艦内部に近衛兵がいます』


「ゲッ!? マジッ!? 玉帝の近衛はさすがに無理だよ!?」


 奴らはバケモノだ。奇襲かけてもおそらく勝てない。


 他の第7艦隊艦艇内にも近衛兵の目撃情報が上がってきた。


 艦艇内に送り込んだ夜行達で敵を引っかき回し、ファイアスターター君の援護をしてあげるつもりだったけど……長くは持たないな~。


「破壊工作から籠城作戦にシフトして。近衛兵を出来るだけ釘付けにしといて」


『了解』


 持って10分ほどかな?


 第7艦隊に送り込んだ夜行は、近衛兵達に鏖殺されるだろう。


 これほどの数の近衛兵がいるって事は……玉帝が近衛兵を引き連れてこの戦場に来ているのかな? いるとしたら旗艦かな? まあ殺すのは無理だろうなぁ。


「ちょっとマズくなってきた! お客様~、急ぐよ~!」


 夜行に守らせているファイアスターターの部下達を連れ、拘置所の奥に急ぐ。


 先行させた部下達がカトー君を確保しようとしているけど、まだ合流できてない。エデンとの契約は「カトー総長代行」と「エデン第2実働部隊・隊員」を交国から逃がす事だ。


 ファイアスターター君の命まで保証できないけど、契約は守らないとね。


 その契約以外に、彼からも「最低限、カトーは生かせ」って言われてるしね。


「やっぱ交国相手はキッツイなぁ~ん……!!」


 追加料金貰わないとやってらんないよ! まったくぅ……!!


 ちょっと愚痴りつつ走っていると、近くに砲弾が飛んできた。


 窓ガラスが一斉に割れる直前、夜行の隊員が床に押し倒してくれたおかげで助かった。助けてくれた隊員は飛んできた破片で死んだけど、社長(あたし)が生きているならセ~~~~フっ!!


「い、いまの砲撃、交国軍から飛んできてなかったか……!?」


「どうだろね。まあ、まだ本格的に撃って来ないと思うよ」


 交国軍は、やろうと思えば拘置所を吹っ飛ばせる。


 第7艦隊の全力砲撃なら、この島も吹っ飛ばせるかもねん。


 けど、敵さんもそこまであからさまな手は打てない。


 先の「舐めプ」が響いている。


「まだ報道のドローンが飛んでる。大衆にこの戦闘をお送りしている以上、交国軍兵士もいる拘置所への全力砲撃はまだ出来ないはずだよん」


 報道入れた理由は「卑劣なテロリスト(ファイアスターター)を交国軍が粉砕した!」という絵を大々的に喧伝したかった――ってものだろう。


 実際、第7艦隊+αでファイアスターターは倒せるだろう。


 あたし達込みでも、最終的に交国軍が勝利する。


 けど、ちょっと舐めプしすぎだよ~……。「テロリスト粉砕」の絵を撮るために手段を選ばざるを得なくなっている。


 まあ、報道の立ち入り許可していなくても、友軍のいる拘置所への砲撃は現場の軍人が躊躇うだろうけど……より一層撃ちづらくなった方がこっちは助かる。


 助かるけど……近衛兵までこっちに来たら、さすがに逃げ切れないよ~……!


「突撃突撃っ! 巻いていこう! 時間はあたし達の敵だよっ!」


 今ならまだ、カトー君奪還出来る。


 けど、近衛兵以外の+αも来るだろうし……そうなる前に逃げる手筈を整えないと、交国軍の予定通りになっちゃ~う。そうなるのは癪だから頑張ろう。




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


 拘置所を中心に、交国軍と敵艦隊が激突し続けている。


 最初、敵は1隻だけだったのに……今では拘置所周辺にいる第7艦隊と同程度の方舟が揃い、砲撃戦を行っている。


「あんな近距離でバカスカ撃ち合う艦隊戦なんて、そうそうお目にかかれないな」


「敵地に無理矢理乗り込んだ時は、あれぐらいの砲火に晒されながら撃ち合う事もあるけどな……」


 方舟も流体装甲を装備している。


 機兵より上等な混沌機関を積んでいるため、機兵より上等な流体装甲を展開できる。機兵でもタダじゃ済まない砲撃を受けても、方舟なら耐えられる。


 ただ、あそこまで至近距離(クロスレンジ)の撃ち合いになると、方舟の流体装甲でも耐えきるのは難しい。


 両陣営、徐々に脱落していく艦艇が見えているが――。


「おわっ……!? なんだぁ? 敵の方舟が大爆発起こしたが――」


「<星の涙(・・・)>だ! 第7艦隊、用意してやがったな……!」


 中継を見ているレンズが叫ぶ。


 艦艇の数はほぼ同等だが、敵艦隊の方がダメージを受けている様子だ。


 どうやら、第7艦隊は宇宙(そら)にも展開しているらしい。


「星の涙って……ネウロン(ウチ)の世界に穴ぼこあけてるアレだろ?」


「ああ、その運動弾爆撃だ。普通は対拠点用に使うが、精密誘導式の<涙>を使えば……艦隊戦に使うのも不可能じゃねえ」


 通常の<星の涙>より高価だが、そういうものもある。


 普通は巨大な流体装甲を打ち出すだけだが、精密誘導式は遠隔操作用のスラスターもつけている。それで微調整し、精密爆撃を行う事も出来る。


 精密誘導(それ)でも航行中の方舟ならそうそう当たらないが、相手は拘置所に向かって移動中。進路は読みやすく、第7艦隊に足止めされて動きも鈍い。


 交国軍は艦隊戦になるのを睨み、複数の方舟を宇宙に待機させておいたんだろう。そして必要に応じて爆撃を行っている。


 友軍による爆撃だから、交国軍側はどこに<涙>が落ちてくるか把握している。敵はもっと距離を詰めない限り、良いマトになる。


「敵の方舟は神器で作った特別製みたいだが、さすがに<涙>なら一撃で大ダメージが入る。超高速で飛来する方舟に体当たりされるようなモンだからな」


 レンズの解説通り、敵艦隊に大きなダメージが入り始めた。


 拘置所周辺の撃ち合いは互角だが、第7艦隊はそれ以外で敵を上回っている。


 ここは交国本土。交国のホームグラウンドだ。


 テロリストが奇襲を成功させたとしても、そう簡単に勝てるはずがない。


 敵艦隊は次々と脱落…………していってるように、見えるんだが……。


「あ、あれっ? 気のせいか? 敵艦隊、そこまで減ってなくないか?」


「んなバカな。星の涙は確かにブチ当たってんぞ」


 星の涙も百発百中じゃない。


 精密誘導してもなお、さすがに直撃弾はポンポンとは入らない。


 それでも数を放ち、確かに当てているように見える。


 実際、敵の方舟も大爆発を起こし、海上に落ちていっている。


 それなのに……敵が減ってないように見える。


「どういうカラクリだ……?」


「ファイアスターターが神器を使い、方舟を呼び出し続けているためだ」


「あっ、隊長っ!」


 どこかに行っていたらしい隊長が、ロビーにやってきた。


 隊員に勧められた椅子を断り、立ったまま中継を見つつ説明してくれた。


「エデンのファイアスターターの神器は、『方舟を造る神器』だ。それはお前達も察していると思うが――」


 隊長は中継の一部分を指さし、「よく見ろ」と言った。


 砲撃や星の涙により、大きな爆発が起こっている箇所。そこをよく見る。


 見ると、爆発の奥から真新しい方舟(・・・・・・)の姿が見えた。


「奴は神器に貯蔵した混沌(エネルギー)がある限り、方舟を造り続ける。フェルグス特別行動兵が混沌機関を使って機兵を作ったように、混沌さえあれば方舟を補充し続ける事が可能なのだ。即座にな」


「じゃあ、交国軍が火力で勝っていても――」


「ファイアスターターは方舟を補充し、強引に対抗してくる」


 敵も同時に呼び出せる方舟の数には限りがあるらしい。


 おそらく、何十隻もまとめて操作できないのだろう――と隊長は言った。


「敵もノーガードで砲撃を続ける事で、拘置所周辺の第7艦隊は削っている。砲撃合戦が続けば……最終的にファイアスターターが押し勝つだろうな」


 今はまだ、交国軍が押している。


 ただ、隊長の想像通りならジリ貧だ。


「じゃあ拘置所にいる交国軍、勝ち目ないんですか?」


「勝ち目はある。敵の展開能力は神器ありきのものだ。神器を破壊するか、神器使いのファイアスターターを無力化してしまえば、敵艦隊は一気に崩壊する」


 ファイアスターター本人に一発当たればいい。


 その一発で一気に逆転できる。


 隊長は「それが敵の弱点」だと言ったが――。


「倒しそうな気配、無いんですけど……」


「敵も自分の弱点は理解している。だから方舟の装甲を上手く使い、砲撃から身を守っている。多少の攻撃なら生身でも通らんはずだ」


「じゃ、じゃあ、敵艦隊に白兵戦仕掛けてファイアスターターを倒せば――」


「それも1つの手だ。白兵戦に持ち込めるならな」


 戦場では砲弾が飛び交っている。


 星の涙も落ちてきている。


 あれをかいくぐって白兵戦を仕掛けるのはキツそうだ。敵の船に乗り込んだところで、味方からの砲撃で吹き飛んで死ぬかもな……。


 白兵戦で勝つつもりなら、砲撃や星の涙を程々にすればいいが――。


「仮に白兵戦に持ち込めても、ファイアスターターは潜伏中の方舟を捨て、別の方舟に乗り移ればいい。新しいのを作って、乗り込まれた方舟を消せば――」


「乗り込んだ奴らは、海に落ちていく……?」


「そうなるだろうな」


 白兵戦は現実的じゃなさそうだ。


 でも、それなら――。


「神器に貯蔵した混沌が切れると方舟の生成も出来なくなるなら、エネルギー切れ狙えばいいのでは……!? アレだけバカスカ撃って、ドンドコ生産していたら……さすがにもうエネルギー切れ起こすでしょ!?」


「おそらく、この調子で戦っていても敵は1~2時間(・・・・・)は持たせる」


 過去のファイアスターターの戦闘記録を見ると、それぐらいは余裕で持つらしい。これほどの艦隊決戦をそこまでブッ続けられるとか……化け物だ。


 さすがは神器使い、と言うべきなんだろうか。


 規格外すぎる……。




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:星屑隊隊長


 大火力をぶつけ合う消耗戦はファイアスターターに分がある。


 単騎で第7艦隊と打ち合える艦隊を即時展開。敵が火力で勝っていようと、艦隊を再展開する事でしぶとく敵を削っていく。


 敵はその手の奇襲と力業が得意なテロリストだ。


 さらに厄介なのが、「復帰の早さ」だ。


 通常、大打撃を受けた艦隊を立て直すには時間がかかる。数ヶ月、あるいは年単位で時間が必要になる。それ相応にコストもかかる。


 ファイアスターターの場合、混沌さえ補充できれば艦隊が復活する。


 壊滅的打撃を与えたところで、ファイアスターターさえ無事なら……奴は数日でケロリと万全の状態に戻る。インチキにも程がある神器(ちから)の持ち主だ。


 神器が破損し弱る前のカトーは「エデン最強の神器使い」と言って間違いないが、今のカトー相手ならファイアスターターの方が圧倒的に強い。


 人類連盟どころかプレーローマですら、ファイアスターターには大きな損害を与えられてきた。奴が破壊した基地と方舟の総額は、人連の強国すら傾かせるものだが、奴自身は何度もしぶとく復活し、破壊の限りを尽くす。


 ただ厄介なだけではなく、火力も間違いなくトップクラスの神器使い。


 それが奴だ。


「常任理事国の精鋭艦隊を引っ張ってきてやっと、ファイアスターター1人と釣り合うって……とんでもないですね」


「隊長、他に弱点無いんですか?」


「しいて挙げるなら、ファイアスターター自身はそれほど強くないという事だ」


 生身のファイアスターター自身はそこまで強くない――と言われている。


 玉帝の近衛兵が10人ほどいれば殺せるだろう。


 ただ、一瞬で終わらせなければ奴は艦隊を展開する。玉帝の近衛兵と言えど、圧倒的な火力に晒されれば一瞬で消し飛ぶ。


 ゆえにファイアスターターは「暗殺するしかない」と言われてきた。


 奴が大暴れしていた時代は、弱点をカバーする神器使いが護衛していた事もあった。少数精鋭を活かせていた頃のエデンは、本当にとんでもない強さだった。


 あの当時のカトーも、手がつけられない強さを誇っていた。


「ファイアスターターは確かに強い」


 今でも、特別に警戒すべきテロリストだろう。


 奇襲に徹されると、通常戦力では太刀打ち出来ん。


「だが、規格外の存在は交国にもいる」


 交国も、ファイアスターターの厄介さは認識している。


 ゆえに黒水守を招集した。


 彼だけではなく、あの御方も呼んでいるはずだ。


 ……そろそろ戦場に現れる頃合いだろう。





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