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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
238/875

打ち金



■title:市街地にて

■from:帆布第2防衛部隊・隊長


 市街地で爆音が響き、建物が倒壊する音も聞こえてきた。


 敵の攻撃により、南検問所との通信が途絶した。偵察ドローンから送られてきた映像を見ると、検問所にいた者達は……生存が絶望に見える。


 それほど酷い破壊が起こっている。


 検問所に隕石でも落ちたように見える。


 実際は隕石も星の涙も落ちていないが――。


 その破壊を引き起こした方舟(・・)が悠々と拘置所に向け、飛んで行くのが見える。地上で起きている火災の煙など目もくれず、移動している。


 全長100メートル超の方舟が、交国の空を我が物顔で飛んでいる。


『隊長! ファイアスターターが現れました!』


「いま、出現した方舟だな?」


『はい! 方舟に乗り込むところも押さえました! 確かに奴です!』


 山地側に展開していた偵察部隊からの送られてきた映像を見る。


 機械と人間が融合したような異形が映っている。間違いなくエデン残党のファイアスターターだ。今まで潜伏していたのに、正面から乗り込んでくるとは……。


 奴を運んでいたと思しき運搬車が逃走したため、そちらの運転手は既に殺害した。だが、ファイアスターターはそこまで簡単に殺せそうもない。


 奴は方舟を呼び出した。


 それも、普通の方舟じゃない。神器で創造された戦闘艦だ。テロリスト如きが交国の最新鋭艦を凌ぐ性能の方舟を呼び出し、拘置所に向かっていく。


 アレに乗る前に片をつけたかったが――。


「歩兵部隊は待避しろ。機兵部隊はまだか!?」


 そう言った瞬間、市街地の外に展開していた砲兵部隊が砲撃を開始した。


 ファイアスターターが乗り込んでいる方舟への着弾が始まっているが、小揺るぎもしない。破損した端から流体装甲で修復している。


 機兵部隊が市街地の道路を走り、敵方舟に向かっているが――。


「――――」


 閃光が、大気を赤く染めた。


 敵船から伸びた熱線が機兵部隊を焼いた。


 初撃が機兵3機を抉り、通信途絶。戦場の状況を捉えている偵察ドローンが、熱線によってドロドロに溶けた機兵の残骸を映した。


「建物を盾にしろ! 住民の待避は既に完了している!」


 そう命じた次の瞬間、敵船が無数の誘導弾を発射した。


 降り注いだ誘導弾が機兵部隊の走っていた区画を吹き飛ばす。高層建築が倒壊し、誘導弾の難を逃れた機兵が建物に押しつぶされるのが見えた。


 誘導弾は砲兵部隊の方にも降り注ぎ、彼らを次々と吹き飛ばしていった。


 敵は未だ無傷。傷を負った端から流体装甲を修復している。


「化け物め……!」


 赤く不気味な光の線が血管のように走った船体。


 そこから落ちる大きな影が、街と味方部隊を黒く染めていく。


 的確に放たれる熱線が、機兵を一撃で屠っていく。操縦席だった場所(・・・・・)に、流体装甲以外のモノも溶けているのが見えた。


 一方的な蹂躙。


 やはり、機兵部隊と砲兵部隊だけでは歯が立たん。


 だが、それでも――。


「遮蔽物に隠れつつ、攻撃を続けろ!」


 砲兵部隊は退避させ、機兵部隊には抵抗を続けさせる。


 少しでいい。相手の混沌(エネルギー)も無限にあるわけじゃない。攻撃と防御に流体装甲を使わせている以上、確かに敵を削っている。


 ウチの火力では敵に致命傷を与えることなど出来ないが――。


『ファイアスターターの方舟が、海上に出ます!』


 市街地は直ぐ突破された。


 奴は明らかに拘置所に向かっている。


 あそこには元エデンのテロリスト・カトーがいる。


 やはり、目的は奴の奪還か……!


「海上には出るな! 遮蔽物のある場所から攻撃を続けろ!」


『ですが、それでは止められませんっ……!』


「どちらにせよ止められん! とにかく生き残って攻撃を続行しろ!」


 拘置所と奴を隔てるのは、もう海しかない。


 奴が空飛ぶ方舟(ふね)に乗っている以上、海は障害にならない。


 かといって、遮蔽物のない海上に機兵を行かせたところで味方を死なせるだけ。


 我々の仕事は、陸から少しでも奴を削ることだ。


「っ…………!」


 敵船の背部に、流体装甲の砲塔が生えてきた。


 そこから殊更巨大な熱線が横一閃に伸び、市街地を両断した。


 熱線の通り過ぎた場所で爆発が発生する。その中には機兵もいた。退避が遅れた歩兵もいたはずだが……敵は容赦なく攻撃をしてきた。


『機兵部隊の損耗、6割を超えました!』


 機兵がいるとはいえ中隊程度でどうにかなる相手じゃない。


 それでも攻撃を続けなければ――。


『隊長、報道のドローンが作戦空域に侵入しています』


「許可は出ている。好きに飛ばしておけ!」


 鬱陶しいが、無視すれば済む蝿だ。


 交国政府が撮影を許可している以上、こちらからは何も言えん。非人道的な兵器を使うテロリストの残虐さを全国民に伝えてくれ――と言うしかない。


 いや、それだけではない。


 我々が情けなく敗北する姿を放送しても意味がない。


 悪は裁かれる。


 正義を騙るテロリストが無惨に敗北する。


 そういう絵も放送してもらわねば――。


「来たな」


 孤島にある拘置所の近海。


 その海面が盛り上がり、海中に潜んでいた方舟が浮上する。


 テロリストの方舟ではない。交国軍(・・・)の方舟だ。


 その方舟が、空に海門(ゲート)を開いた。




■title:拘置所近海にて

■from:炎陣・ファイアスターター


 拘置所の近くに現れた方舟が海門(ゲート)を開いた。


 その海門から、次々と方舟が乗り込んでくる。


「やはり来たか。第7艦隊」




■title:市街地にて

■from:帆布第2防衛部隊・隊長


 敵は強力な方舟を呼び出し、拘置所に向かっている。


 だが、それならこちらも強力な方舟を出せばいい。


 頼れる仲間が――<第7艦隊>が応援にかけつけてくれた。


「隊長! 第7艦隊の艦艇が続々と界内に……!」


「見えているさ」


 第7艦隊は交国本土及び、本土近隣世界の防衛を担っている。


 交国の「脳」と言っても過言ではない交国本土を守っている艦隊である以上、精鋭揃いだ。多数の攻撃艦が拘置所を守る形で展開し始めている。


 エデン残党(テロリスト)のファイアスターターが交国本土に現れた情報は、ウチの部隊だけではなく第7艦隊にも伝わっている。


 奴が方舟を呼び出す前から、奴が本土に現れたのはわかっていた。


 だから第7艦隊は本土各地の要所に1隻だけ方舟を待機させ、ファイアスターターが現れた時は<海門>を開く役割を担わせた。


 第7艦隊の本隊は混沌の海に待機する事で、ファイアスターターが現れたら直ぐに艦隊を展開できる手筈を整えていた。


 交国本土の各地に艦隊を分散させるより、大半の方舟を混沌の海に待機させておく方が効率的に対応できる。界内を移動するより、界外の混沌の海の方が圧倒的に移動距離は短く済むからな。


「奴がどれだけ強かろうと、方舟同士の戦いなら……互角以上の戦いが出来る」


 使える火力は方舟に限らない。


 地上部隊(われわれ)もまだ動ける。退避していた砲兵部隊の生き残り達は、既に体勢を立て直し、敵船を背後から撃つ準備が出来ている。


 それ以外の火力も、宇宙(そら)に待機している。


 対するファイアスターターは、方舟一隻のみ。


 その方舟を拘置所に向け、突撃させているが――。


「第7艦隊の砲撃、及び部隊展開が始まっています!」


 拘置所周辺に展開した艦隊から、多数の砲弾あるいは誘導弾が飛ぶ。


 敵船も反撃をしているが、所詮は方舟一隻の火力。


 対して、第7艦隊の方舟は続々と集結してくる。


 火力差は一気にひっくり返った。


 おそらく、奴の方舟は拘置所に辿り着く前に撃沈される。


 遮蔽物のない海上の空。そこを飛ぶ船体は良いマトだ。


 第7艦隊も遮蔽物は利用できないが……殴り合いで負ける事はないだろう。


 敵は<神器使い>といっても、所詮はテロ屋の残党だ。


 大国の精鋭相手に……第7艦隊に勝てるものか。


「拘置所からの攻撃も開始しろ!」


 拘置所の守備隊を増員し、伏せておいた部隊を動かす。


 奴も拘置所に向け、無差別攻撃は出来まい。流れ弾でお仲間(カトー)が死ぬぞ。




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


「本土で戦闘が起こってるって、マジか!?」


「マジですよ軍曹! いま、ロビーで皆集まって、その話題でもちきりです!」


 黒水守の屋敷から保養所に戻る途中。ラジオで臨時のニュースが流れてきた。


 交国本土で大規模な戦闘が発生中。幸い、黒水から遠い場所だからアル達が頭痛でのたうち回る事は無いが……大事件だ。


 アルと一緒に保養所に駆け込み、状況を聞く。


 どうやらカトー特佐のいる拘置所が狙われているらしい。攻撃を仕掛けてきたのはテロリストで、第7艦隊が防衛に出張ってきて対応中らしいが――。


「テロリストって、どこのテロリストだ?」


「エデン残党のファイアスターターですよ。神器使いの――」


 カトー特佐と同じ「エデン所属の神器使い」か。


 エデンの神器使いは大半がプレーローマの罠にかかって死んだらしいが……カトー特佐ともう1人は生き残った。そのもう1人がファイアスターター。


 交国軍に入ったカトー特佐と違い、ファイアスターターはその後もテロリストとして放浪していたって話だったが……。


「目的は……やっぱりカトー特佐の奪還か?」


「どうなんでしょうね。犯行声明はまだ出てないっスけど――」


「おい! テレビ繋げたぞ! 報道で戦闘の様子まで出てる!」


 留置所周辺はファイアスターターと交国軍が激突しているらしいが、報道の撮影も許可されているらしい。その中で一番よく戦闘の状況を映している番組を映す。


 携帯端末で映像を見ていた皆も、ロビーに設置した大型テレビの前に集ってきた。スポーツの世界大会を見守っているように皆で齧り付きになっているが……さすがに囃し立てる奴はいない。皆、真剣な表情を浮かべている。


 中でも、フェルグスは一番真剣な表情だった。テレビの直ぐ前にいる。


「戦況は――」


「さすがに第7艦隊が押してる。方舟(フネ)の数が桁違いだからな」


 敵は奇襲で機兵部隊を屠ったみたいだが、第7艦隊の対応も早い。


 拘置所周辺に多数の攻撃艦が展開し、凄まじい砲撃を繰り返している。


 砲撃が向かう先に、ファイアスターターが神器で作り出した方舟が飛んでいるらしいが……爆発や煙でチラチラとしか見えない。


「ファイアスターターの方舟、防御性能も中々のものみたいですけど……さすがに流体装甲の修復が追いついてないみたいですよ」


「そりゃあ、アレだけバカスカ撃たれたらな……」


 少し前まではファイアスターター側も反撃をしていたらしい。


 けど、防御すら間に合っていない状況だ。


 砲塔は既に吹っ飛んでいる。誘導弾を不用意に放とうとすれば、第7艦隊の砲撃で容易く撃ち落とされる。それどころか自艦の傍で爆発が起こる危険性が高い。


 防御を固めつつ、何とか拘置所に辿り着こうとしているが――。


「アレはさすがに……持たないな」


 星屑隊の誰かがポツリと呟いた。


 異を唱える声はない。


 たった1隻で第7艦隊に挑んで、実際にタコ殴りにされている。


 まだ沈まずにいるだけでもスゴい事だが……遠からず沈むだろう。


「…………」


 カトー特佐の件は、さすがに気になる。


 特佐のエデン時代の仲間だったファイアスターターは、カトー特佐の無実を信じているのか? だからこそ助けに来たのか?


 あるいは……特佐が本当にエデン残党を扇動していたからこそ、「交国外に逃げたエデン残党」であるファイアスターターも諸々の事件に協力しているのか?


 テレビでもネットのニュースでも、そこまでは触れられていない。特に声明も出ていないらしい。ただ、暴れているのは確かにファイアスターターらしい。


「おい、まだ第7艦隊の方舟が増えるぞ」


 拘置所の後方に海門が開き、さらに増援がやってきた。


 やってきた方舟は直ぐに攻撃に参加している。拘置所にも交国軍の部隊が展開しているらしく、そこからも敵船に向けて苛烈な攻撃が飛んでいる。


 ファイアスターターの方舟が飛んでいる場所。


 そこから、大きな爆発が発生した。


 ……かなり致命的なダメージを受けたみたいだな。


「な、なあ……! 師匠も、師匠を助けに来た人も殺されちゃうのか……!?」


 テレビに齧り付きそうな勢いで見守っていたフェルグスが、後ろを振り返ってそう言った。泣きそうな顔で俺達に問いかけてきた。


「殺されるだろうな」


 そう返したのは副長だった。


 ロビーのソファにゆったり座ったまま、酒片手に観戦しつつそう言った。


「フェルグス、よく見ておけ。何の勝算もなく交国に刃向かったテロリストの末路がアレだ。神器使いとはいえ、巨大な軍事国家相手には……あんなもんなんだ」


 副長がそう言った瞬間。


 再び大きな爆発が起きた。


 爆風と煙の奥に、内部を大きく露出させた方舟が見えた。


 砲撃が混沌機関に命中し、機関が爆発したらしい。


 内部からの衝撃で、艦が真っ二つに裂けかけている。


「あぁ…………」


 フェルグスが声を漏らした。


 涙声だった。


 ファイアスターターの方舟が海に落ち、大きな水しぶきが上がった。


 それでもなお、第7艦隊の砲撃は激しさを増し続けた。


 ……完全に死体蹴りだ。アレは……。




■title:交国軍・第7艦隊旗艦<堅尾>にて

■from:二等権限者・肆號玉帝


 愚かなファイアスターター(テロリスト)の乗船が大爆発を起こし、高度を落とす。


 あの方舟はもう沈む。


 奴はまだ生きているでしょうけど――。


「如何ですか、玉帝! 技研の新型砲撃艦は! いくら神器によって生み出された方舟とはいえ、我が方の砲撃艦の手にかかれば……!」


 両手を広げた技術者が、笑顔でこちらに近づいてくる。


 近衛兵に阻まれてもなお、歯茎を見せ、戦果を自慢してくる。


 ……敵に背を向けている。


 軍人達は未だ攻撃の手を緩めず、対応し続けているというのに……。


「今回も玉帝の期待に添うものが作れたという自負が――」


「あなたは私ですか?」


「えっ?」


「あなたは何故、いまの戦果で『玉帝(わたし)の期待に添うものが作れた』と語ったのですか? それはあなたの意見であって、私の意見ではない」


 そう返すと、技術者はハンカチを取り出して額の汗を拭き始めた。


 弁解を始めたが、どうでもいい。


「そんなことより、よく見ておきなさい。戦闘はまだ終わっていない」


「いえ、ですが、奴はもう終わりでは……?」


「本番はここからです」


 だからこそ、軍人達は一切手を緩めていない。


 奴はまだ生きている。


 絞りかすの総長代理(カトー)如きを助けるために、命を賭けている。


 ……実に愚かしい。


 ただ、奴の神器(ちから)は高く評価するべきです。


まだ(・・)一隻沈めただけです」


 エデンのファイアスターター。


 奴が厄介なのは、ここからです。




■title:沈みゆく方舟の中にて

■from:炎陣・ファイアスターター


「もう少し持つと思ったが、まあ良しッ!!」


 拘置所への距離は大分詰めることが出来た。


 出来れば第7艦隊との距離も、もっと詰めたかったが――。


「さぁ、第2ラウンドと行こうか」


 足がかりとして使い潰した方舟(ふね)から飛び出す。


 敵の容赦ない砲撃が雨あられと降り注いでくるが、問題無しッ!


「虚数の海より来たれッ! 我が軍勢! 我が不滅艦隊(プロメテウス)ッ!!」





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