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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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めでたしめでたし



■title:港湾都市<黒水>の黒水守の屋敷にて

■from:死にたがりのラート


 アルに聞いた通りの特徴の女の子が、部屋に入ってきた。


 この子が黒水守の匿っている巫術師か……。


 後ろで護衛の人が「こ、こらっ……!」と焦り顔を浮かべていたが、黒水守はニコニコと笑顔を浮かべ、「ちょうど良かった」と女の子を招き寄せた。


「ラート軍曹、紹介させてください。この子はメイヴ。先程、話をしていた巫術師の女の子です」


「ど、どうもっ……」


「ほぉぉぉ~ん……」


 メイヴって子は、どたどたと俺に近づいてきて、ジロジロと見てきた。


 見てきた後、俺を指さしながら、「この子、巫術師なの!?」と黒水守に聞いた。黒水守は笑って「巫術師ではなくて、軍人さんだよ」と言った。


「ふぅ~ん。オークのオジさんも、どっか逃げたいの?」


「いや、逃がしたいのは俺じゃ――」


「逃げる!? 逃げる悪い子はこうだ!!」


 女の子は「バッ!」と銃を構える仕草をして、「バババババッ! ババババババッ!」と口で発砲音を真似た。


 急に妙な事をするからギョッとしていると、女の子は「ふひゃひゃひゃっ!」と笑い、「似てた!? 似てたっ!?」と言ってきた。


「パパをころした交国軍人のマネぇ~! どうっ? 似てるでしょぉっ!?」


「ぇ……あ…………」


「あひゃひゃひゃひゃっ!! イヒヒヒヒっ!!」


 笑う女の子の肩に、黒水守の手がそっと添えられた。


 黒水守は何とも言いがたそうな顔をしつつ、女の子に「メイヴ、少し休んでなさい」と言った。


 女の子は笑い続ける。笑っているが、目は笑っていないように見える。そんな女の子を黒水守の護衛が抱え、部屋の外に連れて行った。


 笑い声が遠ざかっていく。


「ごめんね。境遇が境遇だけに、軍人というだけで良く思ってくれないんだ」


「い、いや……。俺が来た所為で……。すみません……」


「キミは悪くない。けど、あの子も悪くないと許してやってほしい……」


 黒水守は深々と頭を下げてきた。


 さすがに直ぐ、頭を上げてもらう。この人が謝る必要もない。


 さっきの光景はショックだった。俺が傷ついたんじゃなくて、あんな小さな子が……アルと同年代の子が、あんな風になっているのが怖かった。


 俺は交国の正義を信じていた。


 アル達と出会う前までは。


 けど、あんな境遇の子を生み出すような国に、「正義」はあるのか……?


「…………。ラート軍曹、キミは交国という国をどう考えているのかな?」


「ええっと……?」


 質問の意図がわからず戸惑っていると、黒水守は「率直な答えでいい」と言った。今度は笑みなど浮かべず、真面目な表情で俺を見詰めてきている。


「…………」


 俺の中の正義は――軍学校で教わった「正義」は、もう揺らいでいる。


 交国はアル達にウソの手紙を出してまで戦わせているし、そもそも「巫術師」というだけ罪人扱いし、特別行動兵にして戦わせている。


「軍人として、あるまじき意見かもですけど……交国はおかしいです」


「悪い事をしているから?」


「……はい」


「交国は滅ぶべきなんだろうか?」


 優しい声色で恐ろしいことを言ってきたので、「さすがにそれは」と否定する。


 交国の中には、腐った林檎がいる。


 それが誰かはわからない。特定個人なのか、組織なのか、あるいはもっと大きなものが腐っているのかは……わからない。


 けど、交国が滅べば万事解決じゃないはずだ。


 多次元世界(せかい)には、交国以外にも沢山の国があるし――。


「仮に交国が滅んだら、一番得をするのはプレーローマです。交国が悪事を働いていて、それが許せない事でも……交国は実際にプレーローマの侵攻を止めている」


「…………」


「人類の盾になっているのは事実です。交国が滅べば、プレーローマの思うつぼです。だから……交国は滅ぶべきじゃない」


 交国だけでプレーローマと戦っているわけじゃない。


 けど、対プレーローマ戦線で交国が担っている役割は大きい。


 交国が欠けたら、その穴から一気にプレーローマという大きな波が流れ込んできて、人類文明を滅ぼしかねない。


 俺の考えを正直に告げると、黒水守は満足そうに頷いた。


「私も同じ考えだ。交国は『悪い国』だけど、滅ぶべきじゃない」


「…………」


「交国は強い。人類文明指折りの巨大軍事国家で、プレーローマにとってはかなり厄介な相手だ」


「交国が対プレーローマ戦線から抜けた場合、その穴はバカデカいものになりますよね? プレーローマが一気に形勢をひっくり返しかねないほどに……」


「だろうね。だからこそ、プレーローマは工作員を派遣している」


「工作員……」


「交国領内に潜入し、火種を作って大火を起こす。それによって交国を揺るがす。そういう事は今まで何度も行われてきた」


 交国政府も工作員を警戒し、対策を打ってきた。


 交国軍事委員会の二課所属憲兵などに工作員を探させ、捕まえる。


 場合によっては特佐を派遣して対応する。


 交国の対プレーローマ政策は苛烈。玉帝はプレーローマ相手には一切妥協しない。プレーローマの甘言は一切信じないスタンスで立ち向かっている。


「玉帝は頑固な御方だけど、その頑固さのおかげで交国はプレーローマに驚異だと思われている。実際、強いしね。一国でプレーローマを倒せるほどじゃないけど」


「けど、無傷じゃないですよね……?」


 プレーローマも交国を何とか切り崩したいはずだ。


 メチャクチャな数の工作員が送り込まれていてもおかしくない。


 それによって、それなりに被害を受けているはず……。


「プレーローマの工作が政府の中枢に及んで、滅んだ国もあります。交国は……」


「それはさすがに大丈夫だよ~。プレーローマの工作員如きが、交国政府の中枢に入り込めるはずがない。試みてきた事は何度もあるだろうけどね」


「で、ですよね」


「まあ、とにかく、交国は滅びるべきじゃない」


 しかし、悪事が許されるわけじゃない。


 大義があるからといって、全てが許されるわけじゃない。


 黒水守はそう言い、言葉を続けた。


「今の交国は、明らかにやり過ぎている。傲慢の病毒に冒されている」


「…………」


「だからといって短絡的に滅ぶべきじゃない。だから、私は交国は正しい方向に変わっていくべきだと思っている。今の強さを維持したままでね」


 そう言った黒水守は、俺に手を差し出してきた。


「キミにも、その手伝い(・・・)をしてほしい」


「お、俺がっ……!? いや、俺はそんな大それたこと……!」


 俺はただ、ヴィオラや子供達を助けたいだけだ。


 理不尽な目にあっているアイツらを助けたいだけだ。


 交国は、確かに変わるべきだと思うけど――。


「私はキミの願いを聞き、特別行動兵の子達を助ける。リスクを冒す以上、それなりの報酬が欲しいな」


 黒水守はイタズラっぽく笑いつつ、さらに言葉を続けてきた。


 直ぐに笑みを消し、真っ直ぐ俺を見つめながら――。


「私は理不尽な目にあっている子達を助けたい。だから手を差し伸べているけど、全て慈善事業でやれるほどの甲斐性はなくてね……」


「…………」


「黒水で保護した子達も全員、将来的には事業を手伝ってもらうつもりなんだ」


「事業、ですか……?」


「例えば、この黒水の運営とかだね」


 黒水は少し前まで、人が住めない土地だった。


 けど、黒水守がその環境を改善させ、交国本土最大級の港に成長させようとしている。土地が豊かになれば、そこで養える人々は多くなる。


 だからこそ、黒水守は「ただ助ける」だけではなく、「助けた人達に職を与える」という考えで動いているらしい。


 それはかなり大変なことだろうけど――。


「善意だけじゃ世界は変わらない。善意は素晴らしく尊いものだけど、悪意に弱いからね。だから――汚く見えるかもしれないけど――お金儲けも大事なんだ」


「な、なるほど……」


「黒水を大きくする以外にも事業も興そうとしているところでね。頼りになる人材は沢山欲しいんだ。若い子を教育して育てるだけじゃ間に合わないし……」


「あのっ、俺は……! 商売とか全然やったことなくて……!」


 協力の見返りが欲しいのは、わかる。


 けど、俺なんかが手伝える話とは――。


「さすがに、軍を辞めてサラリーマンになれとは言わないよ! キミには軍内部から国を変えていく力になってほしいんだ」


「軍内部から……?」


「黒水だけじゃダメなんだ。交国という国そのものを変えなければ、多くの人を救えないし、プレーローマも倒せない」


「いや、俺は――」


 そんな大した人材じゃないです。


 ただの機兵乗りなんです。


 そう言ったが、黒水守は笑って「キミは自分を過小評価しすぎだ」と言った。


「キミは今の交国のあり方に疑問を持ち、実際に行動をしている。子供達を助けるために行動している」


 その心が大事。


 黒水守はそう言ってきた。


「心ある人物の助けが、私には必要なんだ。私達1人1人の力は弱くても、皆で手を取り合っていけば……いつか必ず交国を変えられる」


「…………」


「キミと私は同志(・・)になれる。是非、手を貸してくれ」


「俺は…………いや、でも……」


 この手を取っていいのか?


 黒水守が言っている事は正しい。


 正しいが――。


「仮にキミが協力してくれなくても、特別行動兵の子達は助けるよ。けど、協力してくれるならそれ以上の見返りを用意しよう」


「み、見返りっ!?」


「私の協力者になってくれれば、あの子達が交国領外に行こうと、会うチャンスを作ってあげられるよ?」


「――――」


「交国が正されれば、あの子達も大手を振って交国領に戻ってこれるだろう。そしたら、交国のどこでも会う事ができるよ」


 逃がして、それで終わりだと思っていた。


 皆の無事を祈る事しか出来ない日々になると思っていた。


 出来るとしても、1人でコソコソと調査とかするぐらい。


 皆を逃がした後でも……また、会えるのか?


 ヴィオラと……アル達と、また――。


「――――」


 気づいたら黒水守の手を取っていた。


 黒水守は微笑み、「交渉成立だね」と言った。


 この手を取ったのは、間違っていない……はずだ。


 黒水守は交国を変えようとしている。


 良い方向に変えようとしている。


 この人は実際、キツい立場に置かれた流民や異世界人を助けているようだし……本気で弱者のために動いているはずだ。


 けど――。


「く、黒水守は何で……そこまで……」


 疑問を口にする。


「貴方は交国生まれの人間じゃないでしょう? 交国を正すなんて……貴方がそこまで真面目に取り組む必要は……」


「交国を『真っ当な国家』にした方が手っ取り早い(・・・・・・)からだよ」


「えっ?」


「新しい国家(もの)を作るより、そっちの方が早いってことさ」


 黒水守は笑って「お店を開くようなものだ」と言った。


 新しく店を開く時、土地と建物を新しく用意すると金がかかる。


 それより、既にあるものを改造した方が早い。


「居抜き物件を使った方が初期投資は安く済むからね。建物という決まった枠がある以上、新築より自由度が下がるけど……『国家の新築』なんて多次元世界では難しいからね。先行者達がバンバン潰そうとしてくるから」


「は、はあ……」


「交国は話のわかる国家なんだよ。余所の強国と比べたらまだ理性的だ」


 交国を変えた方が手っ取り早い。


 交国を変えた方が、より多くを救える。


 黒水守はそう言っているが――。


「何でそこまでするんですか? 弱者を救うのが目標なんですか?」


「それもある。けど。それ以外にも目標がある」


 黒水守は流民。


 交国に対し、別に愛着はないはずだ。


 今は交国人の一員だけど――。


「私は、プレーローマに復讐(・・)したくてね」


「……復讐」


「そのためには交国の力を借りるのが手っ取り早いと思ったんだ。交国のような強国の力があれば、弱者も救いやすいしね」


 弱者を救い、さらにはプレーローマと戦う。


 そのために交国を変える。


「幸い、機会に恵まれた(・・・・・・・)おかげで交国に迎え入れてもらえたから……ちょうどよくてね」


 黒水守は元々座っていた場所に戻り、腰掛けた。


 そして、「少し自分語りをすると――」と言って言葉を続けた。


「私はプレーローマに故郷を滅ぼされたんだ。そこで死ねたら楽だったかもしれないけど……私は神器使いとしての才を持っていた」


「…………」


「そのため、他の神器使い達と共にプレーローマに捕らえられ、実験体として酷使されていてね……。当時のことで、色々と恨みを持っているんだよ」


 穏やかな表情で言っているが、過酷な人生を送ってきたんだろう。


 プレーローマからよく逃れる事が出来ましたね――と聞くと、黒水守は「父とその仲間達が逃がしてくれたんだよ」と言った。


「ただ、それで終わりじゃなかった。私は……流民として多次元世界を放浪せざるを得なくなった。その過程で、沢山の悲劇を見てきた」


「…………」


「多次元世界は無茶苦茶だ。悲劇と戦争が当たり前のものになっている。それを始めたのはプレーローマだ。全てをプレーローマの所為にするつもりは無いけど」


 最初に悲劇を始めたのはプレーローマ。


 そのプレーローマを作った源の魔神(アイオーン)


 源の魔神は何者かに殺されたらしいが、プレーローマの天使達は創造主である源の魔神の意志を次ぎ、人類と敵対し続けている。


「人類がプレーローマと和解するのは難しい。だからプレーローマは滅ぼす。そしたら、対プレーローマに使っていたリソースを他に使う事が出来る」


 他のこと……例えば人類同士の戦争の調停に使える。


 黒水守は「プレーローマがいなくなっても、人類はどうせ身内同士で争うだろうけどね」と言って苦笑しつつ、言葉を続けた。


「けど、だからといって諦めちゃいけない。大人の私達は、子供達のために血を流しながら世界をより良いものにしなきゃいけないんだ」


「…………」


「プレーローマとの和平が不可能な以上、まずはプレーローマを滅ぼす。そのためには交国を『強く正しい』国にする必要がある」


「…………」


「私の考えは甘いかもしれない。『正しさ』と『強さ』は両立困難なものだ。両取りを狙った結果、交国が滅ぶかもしれない……」


 それでも見過ごせない。


 強者に踏みにじられる弱者を見過ごせない。


「私は長く流民をやっていたから、弱者の気持ちを理解しているつもりだ。流民だけではなく、紛争地帯で暮らす異世界人……そして、タルタリカと交国という2つの驚異に挟まれたネウロン人も救うべきだと考えている」


「…………」


「正しさを失えば、後世に必ず禍根が残る。禍根が残れば争いは止まらない。そこもよく考えて戦うべきだと思っているんだ」


 黒水守の言葉に驚き、言葉を失ってしまう。


 黙っていると、黒水守は苦笑して「呆れたかな?」と言った。


「要は、復讐者がそれっぽい大義をこねているだけ……と呆れてる?」


「そ、そんなことは……!」


 ビックリしたけど、呆れているわけじゃない。


 壮大に感じた。それに……共感もした。


 弱きを助け、強きをくじく。それこそが……俺の理想の正義だ。


 それに――。


「プレーローマに対する復讐心は……俺も、持ってますから」


 黒水守ほど立派なものじゃない。


 けど、俺だって破鳩(はきゅう)隊の皆の仇を取りたい。


 グラフェン中尉達の仇を――。


「俺に……俺にも、協力させてくださいっ!」


 この人は、俺と同じ方向を見ている。


 いや、俺よりずっと先を走っている。


 ヴィオラ達を逃がした後も、この人についていけば国を変えられる。


 それどころか、ヴィオラ達とも、またどこかで――。


「特別行動兵の子達を助けるための方策は、こちらで用意する。直ぐ用意するのは難しいけど……キミ達の休暇終了までには手筈を整える」


「はい。よろしくお願いしますっ……!」


「実際に助ける時は、キミにも助力を頼む事になる。その時はよろしくね?」


「はいっ……!!」


 黒水守が動いてくれる。


 黒水守を信じ、今日のところは帰ろう。


 期待していた以上の成果だ!


 皆を助けるだけじゃなくて、根本的な問題も解決する事ができる……!


 カトー特佐という希望は潰えたけど、俺達はまだ――。






















■title:港湾都市<黒水>の黒水守の屋敷にて

■from:黒水守の石守


「これからよろしくね。ラート軍曹」


 元気に帰って行くラート軍曹を見送り、書斎に戻る。


 ラート軍曹、来た時はさすがに緊張した様子だった。


 けど……こちらの話を喜んでくれたのか、最後は笑顔で帰ってくれた。


 プレーローマへの復讐、という話も共感してくれたようだ。


 私がそれほど立派な復讐者(もの)ではないと知らず――。


 まあ、いいよね?


 彼も喜んでくれてたし、「めでたしめでたし(ハッピーエンド)」だ。


「キミの部下は優秀で善人だね。アダム」


「恐縮です。しかし、黒水守――」




■title:港湾都市<黒水>の黒水守の屋敷にて

■from:影兵


「今の私は、アダムではありません」


 笑みを浮かべつつ、着席した黒水守に告げる。


 アダム・ボルトは死んだ。


 妻と子と共に、死んだ。


「あぁ……そうだったね。星屑隊隊長、サイラス・ネジ中尉」




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