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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
232/875

闇中の突破口


■title:港湾都市<黒水>にて

■from:死にたがりのラート


 栄養補給後、皆でひとしきり遊ぶ。


 その後、「フェルグスとアルが仲直りした記念」という事で、2人を連れてドライブに向かう。気晴らしに遊ぶだけではなく、3人で話をするためにも。


 ヴィオラにはグローニャ達と行動してもらう事にした。あまり俺達4人でつるみ過ぎていたら怪しまれそうだし――。


「俺はお前達を助けたい」


 運転しつつ、後部座席の2人に話しかけていく。


「ただ、情けないことに助けるための妙案が思いつかない。考えている途中なんだが……助けたいと思っているのは本当なんだ」


 チラリとバックミラーを見つつ、問いかける。


「……信じてくれるか?」


「もちろんっ!」


 問いかけると、アルが元気よく答えてくれた。


 フェルグスは黙っていたが、アルが「にいちゃんっ」と促す声が聞こえた後、むずがゆそうに「いちいち言わなくてもわかるだろ~……」と言った。


「さすがにもう信じてるって。……いちいち言わせるなっ! 恥ずかしいっ」


「ありがとな。でも、言ってくれたらやっぱり嬉しいんだよ」


 俺達は未だ闇の中にいる。けど、今はフェルグスも一緒に歩いてくれている。


 出口は見えなくても、俺達は確かに進んでいるはずだ。


 とりあえずヴィオラと子供達は逃がす方向で考える。


 問題はどうやって逃がすかだが……考えても妙案は思いつかないまま。


 ただ、わかってきた事もある。


「パイプが軍事委員会の憲兵っぽいのは……ちょっとショックだが、悲観しなくてもいいはずだ。アイツはカトー特佐の件で少し疑いを持っているだけ」


「今まで通り接してたら、バレない?」


「そのはずだ」


 パイプだって、フェルグスが特佐のことを「師匠!」と呼んでいるのを知っている。他のヤツだって知っている。


 そこから懸念を抱いて、自分の立場から――憲兵という立場から動き出したんだと思う。けど、フェルグスは無実なんだ。特佐絡みは堂々としておけばいい。


「最終的にお前達を逃がすにしても、交国本土で逃がすのは無謀だ。かといって、ネウロンで逃がすのも色々問題がな……」


「焦って動く必要はねえよ」


 フェルグスが運転席に手をかけ、軽く揺すりつつ声をかけてきた。


「焦って動いたら、ろくなことにならねえ。妙案が思いつかねえ以上、とりあえずネウロンに戻って、今まで通り戦うしかない」


「うん……」


「今のオレ達は星屑隊と行動できてる。明星隊の時よりずっと平和でノビノビしてる。色々不安な話あるけど……オレ達が一緒ってことは、喜んでもいいだろ?」


 休暇終了がタイムリミットとは限らない。


 交国本土やネウロンへの帰路で出来る事が、ネウロンでは出来なくなるだろうけど……ネウロンに帰ったら何もかも終わりじゃない。


 多分、今まで通りの日々が戻ってくるだけだ。


「ネウロンで巫術使って機兵を動かすのは、オレ達を鍛える事にも繋がる。……多分、オレ達がヤバいのはタルタリカを倒し尽くした後だろ?」


「交国は、お前達に『タルタリカ殲滅後に解放』と約束してるからな……」


 目下最大の限界点はそこか。


 ただ、それは当分先の話だ。


 準備期間は十分にある…………はずだ。


「タルタリカを倒し尽くすまでは、今まで通りの生活は保障されるんじゃね? その後で『やっぱ解放やーめた』『別の戦場に行きなさい』と言われるかもだけど」


「そうだなぁ……」


「オレ達は羊飼いだって倒したんだ。今のネウロンに敵はいないはずだ」


「……うん」


 フェルグスの言う通りだ。


 けど……本当にそれでいいのか?


 タイムリミットがまだ先だとしても、それはあくまで推測だ。


 闇の中で「あの辺りが崖だ」と推測しているだけの話だ。


 その崖に到達する前に、大きな落とし穴があるかもしれない。


「なんか煮え切らない返事だなぁ……」


「あぁ~……。スマン。けど、確かにフェルグスの言う通りだ」


 焦って行動するべきじゃない。


 交国本土で焦って行動したら、何もかもしくじる可能性もある。


 本土の警備体制より、ネウロンの方がずっと緩いからな。


 本土でコイツらの死を偽装して逃がすのは、かなり難しい。というか思いつかない。ネウロンなら「タルタリカに食われました」って手が使えるが――。


「妙案が思いつかない限り、『ちょっと心配だな』と思っただけだ。交国本土で使える手が、ネウロンじゃ使えなくなる。後でそれに気づいても遅いだろ?」


「んー……。まあ、そりゃ確かに」


「にいちゃん、何か良い案ない……?」


「お前らが考えて思いつかない事を、オレが思いつくかよ~……」


 フェルグスはそう言ったものの、直ぐに言葉を続けた。


「……あの人と連絡取れれば、助けてくれるかもだけど……」


「ん? 誰の話だ?」


「明智先生。ネウロンに来てた……学者の先生かな? 交国人だよ。多分」


 交国軍がネウロンにやってきた後。


 そして、ネウロン魔物事件が起こる前。


 その狭間の時間に、「明智先生」という人物と出会ったらしい。


「そこそこエラい人みたいで、優しい人だったよ」


「学者の先生で交国人か……。ふむ……?」


「しかも、明智先生ってスゴいんだぜ! あの人は色んな術式を使えるんだ」


「巫術じゃなくてか?」


「巫術は使えなかったけど、『術式について色々と学んだから、手品程度の術式は色々使えるようになった』って言ってたぞ」


 フェルグスとアルの話だと、他者を治療する術式も使えたらしい。


 それを使い、怪我したフェルグスを治してくれたそうだ。


 多種多様な術式を使える人間か。稀にそういう人もいるとは聞くが……。


「学者センセイで術式に詳しいって事は……交国術式研究所の人間か?」


「そうかもって思って、ヴィオラ姉に探ってもらったけど――」


 見つからなかった。


 ヴィオラの権限でそれとなく探せる範囲だと、そんな人はいなかった。


 技術少尉にも問いかけたらしいが、「誰それ?」と怪訝そうな顔を浮かべられただけらしい。まあ、技術少尉はあんまり当てにならないか。


 第8巫術師実験部隊は、一応は交国術式研究所の所属だ。あそこは玉帝が直接関わっている研究機関だから、そこの人間ならそれなりの権限も与えられてるはず。


 ネウロンには「巫術」という術式があった。


 術式研究している人なら、巫術の研究しに来ててもおかしくないか。


「お前らのいた保護院には沢山巫術師がいたから、その子達の巫術を見せて~って来たんだな。その明智先生って人は」


「え? そんなことないけど?」


「ん? それはおかしくねえか? 巫術研究しに来たんじゃねえの?」


「それもあるみたいだったけど……」


 フェルグスが少し言葉を濁す。


 当時の事を思い出し、考えているようだ。


「明智先生は……巫術とは別のこと調べてるみたいだったかな? オレの巫術ならチョコッと見せたけど、他の奴らは全然見てないはず」


「術式研究している人が、術式を殆ど見ずに帰ったのか」


「つーか、保護院の書庫とか見てたぞ。なんか探してたっぽい」


 どういう事だ……?


 その人って、本当に術式研究してる学者さんか……?


「そもそも、何でその人なら『助けてくれるかも』って考えたんだ?」


「オレが知ってる交国人で、一番優しかったし、謝ってきたから」


「謝る?」


「そっ。交国がネウロンに来たのは、悪い事って謝ってきたんだ。先生は交国軍が我が物顔でネウロンを歩いているのは『とても恥ずかしいこと』って言って、ガキのオレにも頭下げてきたんだよ」


 術式研究所にいたっぽい人が、そんな風に考えるとは。


 ちょっと意外だな……。


 要は、交国人なのに「交国のネウロン『保護(しんりゃく)』批判者」だったらしい。


「しかも先生、『交国のネウロン侵攻は私にも責任があるの』って言ってた」


「なんで学者先生が、そんな事を……?」


「さすがに知らねえ。明智先生に聞いてくれ」


 問題は、その明智先生とどう連絡を取るかだ。


 交国のネウロン保護――というか、「ネウロン侵略」を批判していたなら、フェルグス達が置かれている現状にも心を痛めてくれそうだ。


 コイツらを逃がすのに協力してくれるかもしれない。


 あくまで、可能性の話だが……。


「……本当に学者先生なのか? 別の職業の可能性は?」


「例えば?」


「交国軍人だ。当時のネウロンに来ていた交国人で、一番多かったのは軍人やその関係者だったからな……」


「仮にそうだったとして、先生がウソつく必要あるか?」


「軍人として色々調べるより、学者のフリした方が警戒されづらいだろ?」


「あぁ、なるほど……」


 一応納得してくれたフェルグスだったが、「でも、先生は軍人には見えなかったぞ。全然……」と声を漏らした。


 ちょっと調べてみるか。


 路肩に車を停め、携帯端末を手に取る。


「ネウロン旅団か、その前のネウロン駐留軍に『明智』って名前の人がいるか調べてみる。ちょっと待っててくれるか?」


「うん。あ、そこの公園で遊んでていいか?」


「うーん…………。ま、いっか。あんま遠くに行くなよ」


 2人と一緒に車を降り、出来るだけ近くにいる。


 誘拐犯の件はあれ以降、何の動きもない。とはいえ、警戒はしておかないとな。


「ある程度は、名前も載ってるはず……」


 ここから軍のデータベースにアクセスするのは無理。


 だけど、手持ちの端末から調べられる事もある。


 ネウロン魔物事件では、多数の交国軍人も死んだ。


 当時、ネウロンにいた交国軍は「ネウロン駐留軍」という名前だった。あの事件に巻き込まれた人々は戦没者として記録が残っている。


 大体の人が氏名を公表されてるから――。


「お、あったあった」


 公表されている戦没者のリストがあった。


 その中に「明智」って名前がないか探してみる。……ここにあったらそれは「もう死んでる」って話になるから、見つからない方がいいけど。


「…………さすがに、いないな」


 明智なんて名前の人物はいない。


 俺が覚えている範囲で、駐留軍と旅団に明智って人はいなかった。まあ、旅団内で知ってる人って星屑隊と久常中佐と、一部の部隊の人間ぐらいだけど。


 フェルグスとアルも戦没者のリストを覗き込んできた。フェルグスは「明智」の名前がなくてホッとした様子だった。


「こんなとこに書かれてなくて良かった。……けど、軍人じゃないなら、魔物事件に巻き込まれてもここに名前載って無くてもおかしくないんだよな?」


「それは、まあ……そうだな」


 当時の報道も探してみたが、さすがに軍人以外の名前は公表されてなかった。


 軍人以外は誰も死んでいないとは思えないが、そこは明かされてないようだ。


「明智先生はホントに優しい人だったんだ。頼れる人って言ったら、オレは明智先生しか思い浮かばなかった」


 だから今までずっと探していた。


 星屑隊に来る前から、ずっと――。


「先生……魔物事件に巻き込まれてないといいけど……」


「だ、大丈夫だって。連絡先わからないだけで無事だよ」


 不安げなフェルグスの肩を叩き、元気づける。


 その明智先生に会わせてやるのが一番だろうけど、フェルグス達でも見つけられなかった人が簡単に見つかるとは思えない。


 術式研究していたのに、巫術はろくに調べてないってのが……ちょっと引っかかる。「明智」って名前は覚えておいた方がいいのかもな。


 本当に交国人で、その人が「交国のネウロン侵攻は私にも責任がある」と言ってたとなると……さすがに気になる。


 ひょっとしたら、色んな謎を知っている人かもしれない。


「明智先生っていう頼れる人がいる、ってのは重要な情報だ」


「連絡取れないんじゃ意味ないだろ~……」


「けど、誰かに頼るってのは、良いとっかかりになるだろ」


 俺達だけで悩んでいても八方塞がり。


 誰かに協力を頼むのは、1つの手だ。


 俺は……いっそのこと隊長や副長に頼るべきだと思う。


 慎重なヴィオラは、「さすがにそれは」と止めてくるけどな。


 まあ、心配なのもわかる。パイプが憲兵っぽい事を考えると、他にも素性を隠した憲兵いてもおかしくないのかも?


 仮に隊長や副長に頼ったところで、2人の権限はあくまで「一部隊と隊長と副長」だ。協力してくれたとしても、そこまでの事は出来ない。


 フェルグス達を逃がすのは楽になるだろうが……逃げた後の事まではな……。


「他に頼りになる人といえば――」


「やっぱ師匠だろ」


「カトー特佐か~…………」


 特佐は「ゲットーにおける反乱事件」と「玉帝暗殺未遂事件」の主犯として、捕まってしまった。


 どっちも「本当に特佐が関わっているのか?」と疑問視したくなる。俺達はカトー特佐と多少なりとも触れあってきたからな。


 けど、ネットを見ると……世の中の人達はカトー特佐を批判しまくっている。「所詮はテロリスト」「傲慢な神器使い」とか批判している。


 特佐を擁護している人なんて見当たらない。


「何とか師匠を助けられないのか? 師匠の脱獄を手伝うとかはともかく……師匠が悪くないってこと、証明できないのか?」


「さすがに俺達じゃ難しいよ。この件は下手に触るべきじゃない」


 カトー特佐の無実の証明は出来ない。証拠がない。


 仮に証拠があったとしても、握りつぶされる可能性もある。


 交国はどこかが腐っている。どこかに「腐った林檎」がいる。


 だからこそ、フェルグス達が騙されていたんだ。親から届いた手紙は偽物で、嘘をつかれている。……平気で嘘をつかれている以上、証拠を突きつけたところで叩き潰される危険性がある。


 お前達を守るためだ――とはさすがに言わないが、カトー特佐の件に不用意に手を出すのはやめよう、と説得する。


 さすがにフェルグスは納得していない様子だが、下手に動いたら皆が捕まる危険性あるから、慎重になってくれている。


「師匠は、絶対に良い人なんだけどな~……」


 そう言ったフェルグスは、遊具にもたれかかって目をつむった。


 それきり黙ってしまった。


 なんと言うか迷ったが、一応、言葉を絞り出す。


「わかるよ。俺もカトー特佐には世話になった。それなのに静観するのは不義理ってわかっているが……今回はさすがに静観させてくれ」


「…………」


「俺みたいな木っ端の軍人が動いたところで――」


「あ、あの、ラートさん」


 アルが服の裾を「くいくい」と引っ張ってきた。


「にいちゃん、いま遊具に憑依中で聞いてないです……」


「マジか」


 よく見ると、フェルグスの身体から力が抜けている。


 魂が遊具に入っているから、こっちの話など聞いてないようだ。


 アル曰く、遊具の中をダラダラと移動しているらしい。




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


「にいちゃ~ん……帰ってきて~」


 遊具の中をノロノロ移動している魂に声をかける。


 ダメだ。遊具だからこっちの声は聞こえてない。


 ラートさんのお話中なのに……。


「あっ、そうだ。にいちゃんの身体を遊具から離せば戻ってくるはず」


 ここにヤドリギはない。


 だから、今は遠距離の憑依はできない。


 にいちゃんの身体を引っ張ろうとしているとラートさんに止められた。


「まあ、いいじゃねえか。遊ばせてやんな」


「でも、ラートさんのお話中なのに……」


「話って言っても、実のある話は出来てなかったんだ。気分転換は大事だよ」


 アルも遊んできな、とラートさんに言われた。


 さすがに遊ぶ気分にはなれず、にいちゃんの魂を見る。


 遊具の棒を――真っ直ぐ伸びた棒の中を、にいちゃんの魂がウロウロしている。


 憑依先が棒だから、その棒に沿ってしか動けなくて――――。


「あっ……ああああああああぁぁぁっ!!!」


「どっ……! どうした!? 急に叫んで」


「これっ!! これですっ! ラートさんっ!!」


 にいちゃんの魂の動きを見て、気づいた。


 棒伝いに真っ直ぐ動いてる動きって――。


「ボクがお屋敷で観たの、これですっ!」


「お屋敷って……黒水守の屋敷か?」


「そうです。ネズミかと思ったけど、ネズミっぽくない魂の動き――」


 いまのにいちゃんの動きと、よく似ている。


「多分、領主様のお屋敷に巫術師(・・・)がいます」


「え? なんで?」


「なんでかはわかりませんけど……。ボクが観た魂の動き、巫術師が憑依した時の魂の動きに似ているんです。こういう棒に憑依した場合の動きに――」


 多分、屋敷の天井や床下に「棒」か「ワイヤー」が張り巡らされている。


 それが屋敷のどこかに繋がっている。


 その先に、巫術師がいる。


 棒かワイヤーにでも憑依して、ボクらの周りをうろついていたんだ。


「お屋敷に、巫術師が閉じ込められてるのかも?」


「…………」


 ボクの考えを伝える。


 ラートさんと2人で、お屋敷のある方向を見つめる。


 そうしていると、ラートさんが呟いた。


「……突破口が見えたかもしれねえ」




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:死にたがりのラート


「黒水守と交渉する……ですか?」


「ああ。上手くいけば強力な協力者になる」


 車に乗り込みつつ、アルとフェルグスに俺の考えを話す。


「それって上手くいくのか?」


「……わからん。博打になるかもしれん」


 賭けるのが俺の命だけなら、安いもんだ。


 ただ、あまりにも分が悪い賭けならやるべきじゃない。


 コイツらだけじゃなくて、隊の皆に迷惑かかるかもだからな。


 けど……このまま待っていても、誰かが助けてくれるとは限らない。


 自分達で行動を起こして、味方を見つけないと――。


「正直、もうちょっと交渉材料が欲しいとこだが……」


「「交渉材料?」」


「黒水守に、お前らを助ける利益を提示するとか……。もしくは、黒水守が利益なしでも助けてくれるだけの確証とか……。それか、もっと詳しい情報とか……」


 こっち側の手札(カード)が足りない。


 俺達が提示できるのは「黒水守、屋敷の中に巫術師がいるでしょ?」って情報だけだ。これ1枚で勝負を仕掛けるのは危ない。


 じゃあ、他のカードを用意すればいいんだが……それを用意するアテがない。


 妙案だと思ったんだが、冷静に考えるとリスクが高すぎるかな。


「黒水守のところにいる巫術師が、どういう扱い受けているかわかれば……あの人が信用できるか否かがわかるはず」


「忍び込むか?」


「それはさすがに……無理だろう」


 領主様の屋敷だからな。


 警備もしっかりしているはずだ。


 前に話をした縁があるから、運が良ければまた面会できるかもしれない。その時、便所に行くフリをして巫術師を探すとか? さすがに無理があるか。


 かといって、黒水守に「巫術師がいるでしょ」と言っても、誤魔化される可能性がある。誤魔化され、警戒されるだけかも――。


「……やっぱ、これは妙案じゃない。無理がある。お前も忘れて――」


「方法、あるかもです」


 アルが身を乗り出し、そう言ってきた。


 そして、その「方法」を教えてくれた。


 教えてくれたといっても――。


「具体的な方法に関しては……そのぅ……説明できないんですけど」


「…………? なんでだ?」


「説明しようがないんです」


 ボク達を信じてください。


 アルはそう言ってきた。真剣な眼差しで――。



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