表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
228/875

カッコわるい男達



■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


 ヴィオラに抱きしめられて、顔がめちゃくちゃポカポカする。


 こっちから抱きしめ返すと、胸がドキドキして苦しくなった。


 熱いし苦しいのに、もっとギュッとしてたい。


 結構な時間、ギュッとし合っていると、ヴィオラがそっと離れた。


「…………」


 ヴィオラが離れていった空間に、夜の空気が流れ込んでくる。


 その冷たさが、余計に名残惜しさを強めてきた。


「…………」


「…………」


「……ヴィオラ、めちゃくちゃ顔赤くねえか……?」


「なっ……!!」


 暗闇の中、ヴィオラの顔をよく見ると顔真っ赤になっていた。


 ヴィオラは両手をバタバタ動かしつつ、「これは医療行為(ハグ)の副作用ですっ……! 仕方のないことなんですっ……!」などと口走った。


「ラートさんだって顔赤いですよっ!」


「うっ……。だ、だろうな……。メチャクチャ身体がポカポカする……」


「ねっ!? そうなるでしょっ!? これはですねっ、そこまで効果の高い医療行為なんです……! ぜんぜんっ、やましい行為ではないんですっ!」


 ヴィオラが「わかりましたか?」と言いながら指を突きつけてきたので、コクコクと頷いておく。疑ったら怒られそうだし……。


「ま……また、ギュッとしあいましょうねっ? これ、医療行為ですからっ……。必要なことだから、またやりましょうねっ!?」


「おっ、おうっ……!」


「ではっ、おやすみなさいっ……!」


「おやすみっ……!!」


 ヴィオラは何故か慌ただしく去っていった。


 送ってやりたかったが、胸がドキドキしっぱなしで身体がおかしい。


 ドッと疲れ、近くのベンチに腰掛ける。疲れたといっても……悪い疲れではない気がする。でも、足がフニャフニャになる疲れだ……。


 まだドキドキしている胸をさすりつつ、何とか落ち着こうと試みる。そうしていると、誰かが保養所の建物からトコトコやってきた――。


「ヴィオラ――――じゃねえ、フェルグスっ!?」


「…………おう」


 ヴィオラが戻ってきたのかと思ったが、全然違った。


 フェルグスが、何故か不機嫌そうな顔でこっちにやってきた。


 顔がまた火照り出す。まさか、俺らが抱きしめ合ってたの見られてたのか?


 見てたのか? と聞くと、フェルグスは嫌そうで――それでいて気まずそうな表情を浮かべながら「仕方ねえだろ……」とこぼした。


「部屋にヴィオラ姉もアンタもいなくなってたから、どこ行ったのかと思って探しにきて……。庭に2人分の魂が観えたから見に来たら……」


「お、俺とヴィオラを見つけた、と」


「おう……」


「は、話も聞こえてたのかっ……?」


 フェルグスは手を振りつつ、「いや、さすがにそこまでは……」と言った。


 言いつつ、俺の隣に座ってきた。


医療行為(いりょーこーい)云々の話しか聞こえてねえ。……なにやってんだよアンタら」


「それは、そのぅ……」


「…………ハァ。まあいいや。……こっちはヒヤヒヤしてたんだからなっ」


 フェルグスは俺の足を軽く蹴りつつ、「お前から抱きしめに行って、ヴィオラ姉が嫌がってたらオレは絶対許してなかったぞ」と言った。


「ヴィオラ姉からガバッと抱きしめに行って……お前も、ヴィオラ姉に優しくしてたから……。まあ、許してやるけどよっ……!」


「メチャクチャ見られてた……!」


「そっちがダラダラとイチャイチャしてんのが悪いんだろぉ……!?」


 オレだって見たくなかったよっ! なんて言われた。


 なんか……よくわからんが、ごめん。


「……お前にも、ちゃんと言っておいた方がいいよな」


「あん?」


「どういう経緯で、医療行為が発生したかなんだが――」


 過去の話をする。


 俺の過去の話を。


 フェルグスは最初、どうでもよさそうに聞いていたが、次第に真面目な表情になって最後まで黙って聞いてくれた。


「……で、ヴィオラ姉はアンタを悪くないって言ったわけだな」


「うん……」


「実際、悪くねえだろ。悪いと思ってんのはアンタぐらいだよ」


「そんなことは……無い」


 久常中佐は俺が悪いと思っているはずだ。


 攻略戦の酷い状況と、「中佐」の職務の重さや、「玉帝の子」という立場の重さに心をやられてしまったんだと思う。


 あの人も……被害者なんだ。多分……。


「アンタが幸せになったら、昔の仲間も喜んでくれるよ」


「そんなことは……」


「は? お前、昔の仲間のこと、悪く考えてんの? お前の不幸を願う性格の悪い集団だと思ってんの?」


「そんなことねえよっ……! 皆、俺の家族みたいに大事な人達で……!」


 すごく大事な人達だった。


 皆とずっと一緒にいたかった。


 それなのに、俺だけ生き残っちまって……。


「家族なら、アンタの幸せを願ってるだろ」


「…………」


「その人達のためにも、幸せになればいいじゃん。その方が喜ぶ人達だろ?」


「……そうかも、しれないけど……」


「…………。ま、いいや」


 フェルグスはベンチに横になり、空を見上げた。


 俺の太ももに足を置きつつ、嘆息した。


「ヴィオラ姉が、なんとかしてくれるだろ」


「……ヴィオラ、俺のこと『情けない男』と思ったかなぁ……?」


「ハァ?」


「だって、俺……カッコ悪いだろ? カッコ良いとこ1つもないだろ?」


 俺は今までずっと虚勢を張っていただけ。


 お前らやヴィオラ相手に「頼りがいのある交国軍人」のフリをしていただけ。


 全部ウソなんだ。「ラート軍曹」なんて存在は――。


 軍曹の皮の下には、「オズワルド・ラート」という情けない男しかいないんだ。


「カッコ悪い奴って、バレちまったんだ」


「まあ確かに……今のアンタ、しんなりしてて情けない雰囲気たっぷりだな」


「うぅ……」


「けど、ヴィオラ姉は……そういうのも好きだと思うぞ」


「そっ、そうなのかっ?」


 フェルグスに顔を近づいて問いかけると、「キモい。顔近づけんな」と手で顔を押し返された。


「ヴィオラ姉、お世話大好き人間だし……。アンタのこと、世話のしがいのある……かわいいやつだって……思ってんじゃねえの……?」


「そ、そうかなぁ…………」


「…………。ヴィオラ姉は、アンタにもっと頼ってほしいんだと思う。アンタの弱さを見て、『守ってあげたい』って強く思ってんじゃねえの?」


 フェルグスの言葉を受け止め、よく考えてみる。


 けど、よくわからなかった。


 情けない男なんて、ウケる要素ないだろ――と思った。


 それを素直に伝えると、フェルグスは起き上がった。


 イライラした様子で起き上がってきた。


「なんでわかんねえかなぁ~……! このクソオークはよぉ~……!! 味覚と痛覚だけじゃなくて、感情も死んでんのか……!?」


「ごっ、ごめんっ……!」


 でも、俺はそこまでおかしいこと言ってるか?


「ヴィオラ姉は、アンタのこと守りたいんだよっ……!」


「な、なんで? ヴィオラの方が賢いけど、腕っ節はさすがに俺の方が上だぞっ? お前らに対して『守ってあげたい』と思うならともかく、俺はおかしいだろ?」


「おかしくねーよっ! ばかっ!」


 フェルグスはイライラがさらに増しているらしく、立ち上がった。


 頭をワシャワシャと掻きつつ、苛立った様子で「何でオレがこんな……気を揉まないといけねーんだよっ……!」とボヤき、言葉を続けた。


「何でわかんねーんだよっ!? ヴィオラ姉は、お前のことっ……!」


「…………?」


「っ……! くっ……! あぁぁぁっ……! もうっ……!!」


 フェルグスの手が伸びてくる。


 叩かれるかと思って、少し身構えていると――小さな手が俺の肩に置かれた。


 フェルグスは正面から俺を睨みつつ、口を開いた。


「要するに、ヴィオラ姉は……! お前のこと『好き』ってことだよっ!」


「は? はあ……?」


「言っとくけど、この『好き』はヴィオラ姉がオレ達…………アル達に向けてる『好き』とは、違うからなっ!? ……特別な、好きだ」


「特別って――」


「さすがに、ここまで言えばわかるだろ!?」


 頷く。わかる。フェルグスが言いたい事は、一応わかるが――。


「いや、さすがにそれはねえだろ……」


「なんでだよ!? わかれよ!」


「俺は戦うしか能がねえバカだ」


 今までずっと軍人としての人生を歩んできた。


 軍人に特化した人生だ。それはこれからもそうだろう。


 その事に後悔はないけど――。


「ヴィオラと俺じゃ、釣り合いが取れねえだろ……」


 俺は不細工だ。同じオーク相手ならともかく、それ以外の種族には怖がられる強面だ。慣れてもらったら「アホ面」って言ってもらえる事もあるけど。


 どっちにしろ、不細工だ。イケメンじゃねえ。


「ヴィオラは可愛い。可愛いうえに優しくて、頭もメチャクチャ良い。技術者とか研究者としてやっていけそうで……あんな気立てが良ければ、相手もよりどりみどりだろ? 俺なんかじゃ――」


「ばか! ヴィオラ姉が可愛くて優しくて頭良いのなんて当たり前だろっ!?」


 フェルグスは俺の肩を持って揺さぶりつつ、語りかけてくる。


 何故か、必死の様子で――。


「他の誰かと比べたら、確かにお前はヴィオラ姉と釣り合ってねえかもだけど……重要なのは本人達の気持ちだろ!? お前、ヴィオラ姉のこと嫌いなのか!?」


「す、好きだよっ……!」


 あまりにも必死の様子だから、俺もそれにつられた。


 釣り合ってないのはわかってる。


 でも、惹かれているのは事実だ。


「そりゃ……好きだよっ! ヴィオラのこと……! でもっ……」


 俺の気持ち(こたえ)は決まってる。


 けど、それは重要な話じゃねえ。


「ヴィオラは、さすがに俺のこと別に……そんな……」


「どうでもいいって思ってたら、あんな風に抱きしめたりしねーよっ!」


「い、いやっ、でもっ……ハグぐらい、お前ら相手にもしてるだろ?」


 よくしているのを見かける。


 ニコニコ笑顔を浮かべたヴィオラが、ギューッ! と子供達を抱きしめているのは何度も見てきた。グローニャも同じテンションでハグを返していた。


 フェルグスとか、アルとか、ロッカは恥ずかしがってたけど――。


「あんなの、ヴィオラにとってフツーのことで……」


「フツーじゃない。ヴィオラ姉、顔真っ赤にしてただろっ?」


 フェルグスは建物に入っていくヴィオラの横顔を見たらしい。


 オレからチラッと見えたヴィオラ姉は、耳まで赤くしてたぞ――と言ってきた。


「オレ達相手に……あんな、反応……するわけ、ねえじゃん」


「そりゃ……俺相手には慣れてないだけだって……」


「いい加減、わかれよバカっ! ヴィオラ姉はお前のこと好きなんだよっ!」


「そんなの、お前にわかる話じゃないだろっ!」


 フェルグスは俺の両頬に手を伸ばし、俺に視線を逸らさないよう促してきた。


 その手を退けてもらい、言う。


 俺の気持ちは、俺にしかわからない。


 俺はヴィオラが好きだよ、そりゃあ好きになっちゃうよっ!


 ヴィオラ優しいし可愛いし……子供達のこと大事にしてるしっ……! か弱いくせに、子供達を救うために頑張ってる姿……カッコいいもん! そりゃ惚れるよ!


 でも、ヴィオラの気持ちは、ヴィオラにしかわからない。


「お前はヴィオラじゃない。ヴィオラの気持ちなんて、わからないだろっ!?」


 俺の言葉は正しい。


 正論だ。


 そう思って言ったのに――。


「わかるよっ!!」


 フェルグスは、そう叫んできた。




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:フェルグス・マクロイヒ


「わかるんだよっ! オレはお前よりヴィオラ姉と付き合い長いんだ!」


 ずっと傍にいた――つもりだった。


 ヴィオラ姉が……オレのこと、「弟」としか見てなくても……それでも……。


「ずっと見てたから、わかるんだよっ……!」


 悔しいけど、わかっちゃうんだよ。


 お前と話している時のヴィオラ姉が、すごく楽しそうだってこと。


 お前と一緒にいるヴィオラ姉が、お前に寄り添って信頼預けてることも。


 全部……全部見てきた。


 全部わかってる。


 お前に対するヴィオラ姉の振るまいは、お前に対してだけのモノってこと。


 ……オレのことは、同じように扱ってくれないってこと……。


「オレには、わかっちまうんだよっ……。ヴィオラ姉がアンタに向ける視線が、オレらに向けるものとは別物だって……」


「…………」


「お前は、ヴィオラ姉の特別(・・)なんだ」


 認めたくない。


 イヤだ。いやだ、いやだ、いやだ、いやだ……!


 そんなのイヤでも……事実だってわかっちまうから……。


 オレじゃ、敵わないから……。


「ヴィオラ姉は、お前のこと好きなんだよ……」


「ふぇ、フェルグス……?」


 ラートがオレの顔を見ないよう、手のひらで目に覆いをしてやる。


 いま、見られるの、ぜったいにイヤだ。


 それだけは許せない。それだけは、ムリだ。


 ヴィオラ姉は……コイツと一緒の方が……幸せに、なれるんだ。


「お前と話してると、イライラする……」


「す、すまん……。ええっと……?」


「とにかく、わかれよっ! オレより年上のくせに……! 女の子の気持ちとか、ちゃんと……見てやれよっ! ばかっ……!」


 自分の気持ちは、自分だけのものだ。


 オレの気持ちは、オレだけのものだ。


 こいつにはわかりっこない。


 ヴィオラ姉のことも、きっと理解できないだろうよ。


 けど、ちゃんと真っ直ぐ見てたら……わかることもあるんだよ。


 全部わからなくても、それでも……わかっちまうんだよ。


「もう寝る。おやすみ」


「お、おうっ……」


 オレを送って行こうとするラートに、「ついてくんな!」と叫ぶ。


 いま一緒に来られたら、きっと耐えられない。


「……また明日な」


 お前に対して怒ってるわけじゃない。


 それを伝えるためにも、何とか言葉を絞り出す。


 ……多分、なんとかギリギリ涙声には聞こえなかったと思う。


 軽く走って保養所の中に入っていくと、マーリンが「にゃぁん」と鳴きながらオレの胸に飛び込んで来た。


 それを抱き留めつつ、物陰で立ち止まる。


 マーリンをギュッと抱きしめて、堪える。


『兄弟。……よく頑張ったな』


 エレインもやってきて、オレに声をかけてきた。


 妙に優しい声で、イライラする。


 ……イライラするのに、目がキュッと熱くなってきた。


 ガマンしてたものが、ポロリと――。


「どっか行けぇっ……! ばかっ……!」


『カッコ良かったぞ』


「うるせぇ~っ……!!」


 オレのどこがカッコ良いんだよ。


 カッコ悪いからダメなんだ。


 ラートみたいになれないから……オレは『特別』になれなかったんだ。


 アイツみたいに……信頼してもらえなかったから……。


「下手なお世辞、やめろっ……。ばぁか……! ばぁ~かっ……!」


『世辞ではない。私は、お前の全てを好ましく思っている』


「おまえなんかに……好かれても……うれしくねーや……」


『そうか? 私は兄弟のことが大好きだぞ』


『ふんっ……!』


 負けだ。


 完全に、オレの負けだ。


 それを認めたら……ちょっとだけ、楽になった。




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


 駆け去って行くフェルグスを見送った後、またベンチに腰掛けた。


 ヴィオラが俺のことを、特別に思っている?


 そんなわけない。


 俺なんかとヴィオラじゃ、全然釣り合わない。


「…………」


 釣り合わないとしても、嬉しく思ってしまう。


 もし……本当にヴィオラが俺を特別に想ってくれているなら……すごく嬉しい。


 アイツと一緒になれたら、きっと……もっと嬉しい。


「…………はぁ」


 けど、そんな未来は存在しない。


 俺は交国軍人で、ヴィオラは特別行動兵だ。


 交国がアルやフェルグスにウソをついているのは確定していて……このままじゃ、もっとキツい目にあう可能性が高い。


 子供達を戦場から――いや、交国から逃がしてやらないといけない。


 ヴィオラは子供達についていく。逃がした後も大変だからな。子供達だけじゃ……交国から逃げた後、野垂れ死んでしまうかもしれない。


 でも、ヴィオラがいれば、きっと安心だろう。


「…………」


 俺は一緒にいけない。


 ヴィオラを選べない。


 その時点で、俺じゃダメなんだ。


 俺には家族がいる。交国に母ちゃんと弟を置いていけないし……俺の都合で2人と一緒に交国の外に逃げるなんて許されない事だ。


 それに、俺は俺なりに軍人仕事に誇りを持っている。


 今後もずっと、交国軍で戦っていきたいと思っている。


 交国は確かに腐っている。どこかが腐っている。けど、俺が頑張っていれば……そのうち、国の内側から腐っているところを直せるかもしれない。


 戦い続けていれば……中尉達の仇も取れるかもしれない。


 国のために、人類のために、家族のために、皆のために戦い続けなきゃ。


「……大丈夫。ヴィオラ達なら、きっと上手くやれる」


 ヴィオラは可愛いし頭良いしな。


 逃げた先で、めちゃくちゃいい男と出会えるだろう。


 そしたら、そいつと一緒になって……家庭作ったりして……。


「……………………あぁぁ…………」


 顔面を両手で覆う。


 いま考えたのは、ヴィオラが幸せそうにしている姿のはず。


 好きな女が幸せになった姿。


 それを考えただけなのに、めちゃくちゃ……嫌な気分になった。


 ヴィオラに幸せになってほしい。


 本気でそう思っているのに、今の想像で……めちゃくちゃ嫌な気分になった。


 ヴィオラの隣にいるのが、俺の知らない奴と想像したら――。


「…………ハァ~……」


 心臓が、ギュッと締め付けられる気持ちになった。


「……オークに生まれて良かった」


 俺達は痛みを感じない。


 それなのに、これだけ苦しいんだ。


 俺、オークじゃなかったら……今ので死んでたかも。


「交国軍人で、オークだから……俺は、幸せなんだ」


 皆のために戦える。


 これほど素晴らしいことはない。


 オーク以外に生まれていたら、弱っちい俺はもう死んでいただろう。


 オークという下駄を履いていることで、何とかなっているんだ。


「……これでいいんだ」


 ヴィオラと子供達を逃がす方法を、何とか考えよう。


 それは交国に逆らう行為かもしれない。


 それでも、アイツらも幸せにしてやりたいんだよ。


 全部守りたいんだ。国も家族もアイツらも。


 全部何とかする方法……考えないと。


 …………このまま、待っているだけじゃ、多分ダメだ。


「待っているうちに……カトー特佐は捕まった」


 このまま流された先に、酷い運命が待っているなら行動しなきゃ。


 流されて、これ以上状況が悪くなる前に……何とかしないと。


 俺の行動で、運命を変えるんだ。


 どうすりゃいいのかわからないけど、俺にだって出来ることはあるはずだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ