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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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過去:最悪の戦場、最悪の部隊



■title:

■from:死にたがりの死に損ない


 犬塚特佐の勧誘を断った俺は、宙ぶらりんのままでいた。


 プレーローマとの最前線に派遣してほしい。


 機兵無しでいいから派遣してほしい。


 そう希望していたが、それは中々聞き届けられなかった。


『正直、キミは軍内部の腫れ物になっているのだよ』


『…………』


『エミュオン攻略戦の生き残りで、久常中佐の一件で……その……微妙な扱いでね? そのうえ、あの犬塚特佐からも配慮を頼まれているから……』


『…………』


『キミも、まあ、大変だっただろう? 後方支援に回るのは――』


『最前線を希望します』


 厳しい戦地がいい。破鳩隊の皆と、同じところに立ちたい。


 そう希望し続け、軍の訓練施設で訓練を積みつつ、待機していた。


 そして、何とか最前線に回してもらう事になった。


 最前線といっても、対魔物の最前線(ネウロン)だったけど――。


『オズワルド・ラート軍曹です。本日付で星屑隊に配属となりました。以後、よろしくお願いします』


『ああ。よろしく頼む』


『なんかお前硬くねえか? もっと楽にしろよ』


 副長がヘラヘラと笑ってそう言い、隊長が咳払いしていた。


 何とか、戦う事が出来る。


 全て望み通りの戦場じゃない。ここじゃ、グラフェン中尉達の仇を取れない。


 それでも……とにかく、戦おう。


 戦って、戦って、より多くを守って、より多くを殺して死ぬ。


 軍人らしい最期を迎えるために頑張ろう。


 ここでも微妙な立場で……色々、あるかもしれない。


 そう覚悟していたが――。


『おい、ラート。暇だから釣りでもするか?』


『……敵が近くにいないとはいえ、作戦行動中ですよ……』


『いやぁ、これも作戦に必要な事だよ! 食料の現地調達だよ』


 副長は魚を食べるんですか、と聞いた。


 副長は笑って「ゼリーパンに飽きた時とかはな」と言っていた。


 ただ、その日は釣れたところで「おっと、手が滑った」と魚を放していた。


『星屑隊はどうよ。慣れてきたか?』


『……あまり』


『何だ。他の隊員にイジメられてんのか?』


『そういうのは、全然……』


 何もなかった。


 誰もちょっかいを出してこないし、腫れ物みたいに遠ざけるわけでもない。


 普通だった。陽気な隊員達は、ほどよい距離感に立ってくれていた。


『詮索とかも、されなくて……』


『皆、興味津々ではあるんだよ。お前、エミュオン攻略戦の生き残りだろ?』


『…………!』


『ド辺境でも、エミュオンの噂は流れてくる。まあくだらん噂も混じっているが……信じるに足らないものはスルーしておけばいい』


 皆がほどよい距離感にいるのは、隊長や副長が事前にそう命じたから。


 気になるだろうが、あまり詮索するな――と言ったらしい。


 俺が「微妙な立場」なのを事前に知っていたから――。


『まあ、オレらが何か言わなくても、皆そこまで詮索しなかったかもな』


『……なんでですか?』


『星屑隊に限らない話なんだが……ネウロン旅団はスネに傷のあるヤツが多いみたいでさ。お互い、痛い腹は探らないようにしてんだよ』


 星屑隊は特にそういう傾向がある。


 隊長が皆をよく躾けているからな――と、副長は自慢げに言っていた。


『お前さんほどの実力者なら、ウチの部隊なんて一時的な腰掛けに過ぎないだろう。まあ、ウチでゆっくり休みな。人手不足だからついでにタルタリカ狩りも頑張ってくれると大変助かる』


『…………』


『スネに傷がある者同士、ほどほどに仲良くしようや』


 休んでいる暇なんてない。


 もっと戦わないと。


 もっと殺さないと。


 そうしなければ、俺は……。


隊長(わたし)が退けと命じたのに。何故、突出した』


『……すみません』


『謝罪の言葉を言えと言ったわけではない。理由を答えろ』


 殺せると思ったから。


 それ以上に、殺してもらうチャンスだと思ったから。


 都合の良い死に場所があると、思ったから――。


 ……そんなの、さすがに正直に答えられなかった。


『ラート軍曹。我々は葬儀屋ではない』


『…………』


『軍の備品である機兵を貴様の棺桶にするのはやめろ。私の指示に従わず死ぬのであれば、貴様の遺族への恩給査定に口だしさせてもらう』


『なっ……』


 隊長は、俺の考えなんてお見通しだった。


 無表情のまま、冷たい目で俺を射貫いてきた。


 淡々と「指示に従え」と命じてきた。


『隊長もお前を心配してんだよ』


 隊長に淡々と詰められた後は、決まって副長が来た。


 ヘラヘラと……俺を見透かすような笑みを浮かべて、俺を慰めに来た。


 ……正直、不快だった。


『……ほど良い距離感を保ってくれるんじゃ、なかったんですか?』


『オレと隊長は例外に決まってんじゃん』


『なんですか、それ……』


『部隊として必要な事だからな。オレだってガキのメンタルケアなんざ専門外だよ。けど、お前ほど優秀な隊員がいると何かと都合がいいんだ。お前が死んだらメチャクチャ迷惑だし、自殺なら余所でやれよ』


『家族への恩給が出るなら、いま直ぐに死んでやりますよ……!!』


 そう叫ぶと、副長は笑って「クソガキめ」と言った。


 メンタルケアなんて面倒くさい。


 人間関係そのものが面倒くさい。


 そう言いつつ、副長はしょっちゅうちょっかいを出してきた。


 イライラした。


 副長も、隊長も、正論ばかりぶつけてくるから――。


『よぉしッ! 上出来だラート! 今回はちゃんと言う事聞けまちたねぇ~♪ ヨチヨチヨチィ~♪』


『だって……命令聞かねえと、副長がウザいし……!』


『ハハッ! わかってきたじゃねえかッ! その調子で頼むぜ!』


 副長の軽薄な笑みが嫌だった。


 あの面倒見の良さが……嫌だった。


 だって、だって…………破鳩隊の先輩達と、おなじ、だったから……。


『っ…………』


 皆のところに逝きたい。


『ぅ…………』


 グラフェン中尉のところに逝きたい。


『あぁぁぁぁぁ…………!!』


 でも、家族に迷惑かけたくない。


 星屑隊の皆にも、迷惑かけたくない。


 死にたい理由はたくさんあるのに、死ねない理由が俺を縛ってくる。


 軍人としての立場が、国が、家族が、俺を縛ってくる。


 生きるのがつらい。


 楽になりたい。


『ラートさんっ!』


 第8巫術師実験部隊(おまえら)の存在も、俺を縛ってくる。


 何で俺なんかの前に現れたんだよ。


 最悪だ。


 何で楽に死なせてくれないんだ。


 ……死ねない理由ばっか増えていく。


『「生きてて良かった」って言わせるぐらい、幸せにしちゃいます』


 そんなこと言うなよ。


 俺を肯定しないでくれ。


 俺は、幸せになっちゃダメなんだ。


 お前といたら、俺は――。




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