過去:死に損ない
■title:
■from:死にたがりの死に損ない
エミュオン攻略戦は、開始前から難しい作戦だとわかっていた。
プレーローマは強い。
交国領における防衛戦でも大変な戦いになるのに、敵地での作戦行動が難しいって事は、俺だってわかる話だった。
難しい作戦だけど、頑張って成功させなきゃな! と呑気に考えていた。
難しいけど「誉れがある」なんて考えていた。
俺が所属している破鳩隊の先輩達は、攻略戦の話を聞いた時、軽く表情を引きつらせていた。部隊を率いるグラフェン中尉以外、全員、引きつっていた。
多分、皆あの時点で察していたんだ。
グラフェン中尉も、先輩機兵乗り達も……全員、どんな作戦になるか察していたんだ。あそこまで酷いものになるとは思ってなかったかもだが――。
『ラート、お前……ちょっとここから飛び降りてみろ』
『え? はっ……? ここ、機兵の肩っスよ? 骨が折れますよ、さすがに』
『…………。折れりゃいいんだよっ! おらっ! 飛べっ!!』
『えぇ~っ!? せ、先輩、何で急にパワハラしてくるんですかぁ~……!?』
攻略戦に出発する前、先輩達は急に俺に厳しくなった。
必死の形相で怪我させようとしてくるわ、妙なもの飲ませて体調崩させようとしてくるわ……急に当たりが強くなった。
軍学校出たてのひよっこ機兵乗りの俺に、皆優しかったのに。厳しくしごかれていたけど、作戦や訓練中じゃなかったら、皆が家族みたいに優しかった。
兄貴がいっぱい出来た気分で、すげー嬉しかった。
それなのに……エミュオンに入る前まで、皆、すごく怖かった。
最終的に、俺がわんわん泣いた。
機兵乗りの先輩も、整備士の皆も、急に怖くなるから……俺……軍学校に入ったばかりの頃みたいに、大泣きしたんだ。
皆、そんな俺を見て、怒ってた。泣きそうな顔しながら怒ってた。
『……やめなさい。気持ちは、わかるけど……』
グラフェン中尉が止めてくれるまで、皆、ずっと怖かった。
皆、俺のために俺を脅していたんだ。
攻略戦が酷いものになるって、察していたから……参加させないために。
先輩達の危惧通り、エミュオン攻略戦は手こずった。
いや……最終的に失敗したんだから、手こずったなんてレベルじゃなかった。
事前情報だと「エミュオンの守りは薄い」「奇襲で片付く」「プレーローマの増援が来る前にエミュオンを落とせば、増援も簡単に対応できる」と聞いていた。
『そんな簡単にいかないだろうから、皆、覚悟しておいてね』
グラフェン中尉は、上から来た情報をまるで信じていなかった。
それでも……淡々と任務をこなしていた。
エミュオンに配備されているプレーローマの戦力より、交国軍の方が多かった。……増援さえ来なければ数は圧倒していたんだ。
増援が来たらマズい。
それは最初からわかっていた。だから奇襲を仕掛けつつ、エミュオン攻略部隊が界内に侵入後、混沌の海で多数の爆弾を爆発させる予定だった。
そうする事で海を荒らし、敵の増援を遅らせようとした。
でも、工作部隊がしくじったらしかった。
エミュオンにいたプレーローマ部隊から激しい抵抗にあって、失敗した。工作部隊だけじゃなくて、他の部隊も……敵の抵抗で予定通りには動けなかった。
それでも、俺達は押していた。
エミュオンの敵拠点は次々と落としていた。
拠点そのものは……初日の奇襲で8割方落としていたんだ。
けど、敵は拠点を放棄し、ゲリラ戦術で対応してきた。増援が来るまで俺達をかき乱し、何とか橋頭堡になる海門を隠し通そうとしてきた。
敵の目論見は成功した。
敵の増援部隊が来た事で、俺達は一気に押され始めた。
『眠漉隊が来てくれるはずじゃ……! あっちの戦線はどうなってんスか!?』
『――いま確認が取れた。眠漉隊壊滅。もう4つの機兵中隊がやられてる……!』
形勢逆転。
俺達は敵地で孤立し、各個撃破されつつあった。
それでも何とか立て直し、残存部隊で抵抗を続けた。
あの時ならまだ、撤退は可能だったはずだ。
相当な被害は出たはずだが……それでも、最終的な被害を考えたら……。
…………。
多くの軍人が死んでも、撤退許可は下りなかった。
『敵側の通信を傍受した。ラジハールでも大規模な戦闘が起きているらしい』
『ラジハール……? それって確か、プレーローマ支配地の……』
エミュオンから少し離れた場所。
ラジハールという世界でも、戦闘が発生していると後で聞いた。
しかも、ラジハール攻略に動いたのは友軍。
俺達とは別の交国軍だった。
それも、規模に関して言えば俺達と――エミュオン攻略部隊より僅かに少ない程度。敵の情報によると、質は向こうの方が圧倒的に上だったらしい。
『裏も取れた。くそっ……最初からエミュオンに派遣する部隊がおかしいと思ったんだ……』
『それだけじゃない。攻略戦に参加していた部隊の大半が、エミュオンに到着してない……。どうも、混沌の海の方に回っているらしい』
『どっ、どういう事ですか……?』
『上は、私達を囮にしたみたい』
グラフェン中尉がそう言った。
エミュオン攻略戦は最初から陽動。
本命のラジハール攻略戦を成功させるための、陽動作戦。
エミュオン攻略戦のために派遣した部隊の大半が、エミュオンでの作戦行動を行わず、「ラジハールに向かう敵部隊の航路妨害」のために動いていた。
あるいは、敵増援がエミュオンに入った後に混沌の海で爆弾を使い、海を荒らす。そうする事でエミュオン内部に敵の大部隊を足止めする。
俺達を囮に使って、敵をおびき寄せて――。
『隊長。最初から知ってたんですか? ……ラートもいるのに……!』
『知らないと言ったら信じてくれる? 実際知らなかった。ここまで酷いものだと知ってたら……もっと上手くやるわ』
『……スンマセン。ですよね……隊長だって、被害者っスよね……』
『気持ちはわかるよ。とにかく、しばらく撤退許可は出ないものと思って』
エミュオンに来た交国軍は生きて帰れない。
プレーローマの増援部隊に蹴散らされ、異郷の土に還る事になる。
捕虜になった場合、もっと酷い目に遭う。
上はそうなるのが目に見えているのに、エミュオン攻略戦という陽動作戦を行った。敵を騙すためにも現場には何も伝えていなかった。
『ラジハールが落ちたら、陽動の仕事も終わり。そこまで行けば撤退許可も……下りるはず。何とか凌ぎましょう』
『了解』
『了解です』
『え……? えっ……?』
状況についていけず、狼狽える俺の周囲で先輩達は淡々と動き出した。
敵前逃亡は許されない。どんな状況だろうと許されない。
だから、せめてこの状況で足掻こう。
皆がそう考え、いつも通りに一致団結して動いていた。
『ラート。大丈夫だ。まだ望みはある』
『他部隊と連携して遅滞作戦に切り替えて、時間を稼げば大丈夫だ。方舟を隠して、守り通して……撤退許可が出たらそれに乗ってトンズラ。簡単な作戦だ』
『か、かんたん……』
『……大丈夫だからなっ! 絶対、何とかなるから!』
『み、皆で、生きて、故郷に帰れるんですよね……?』
『当たり前だろ』
皆は淡々と動いていたが、俺が問いかけると少し、表情を引きつらせていた。
俺は皆から「大丈夫」と言われた。
ひよっこの俺が……ずっと、狼狽えているから……。
皆大変なのに、皆……俺を、勇気づけてくれてて――。
『ラート! 邪魔だ、下がってろ!!』
『ま、まだやれますっ! まだ動けますっ!!』
『危ないから下がれって言ってんだ!! 敵の射程内なんだぞ!?』
『先輩達だって、同じじゃないですかっ……!!』
『ひよっこのお前じゃ無理だ! 下がっ――――』
俺達は兵士。職場は戦場。
危険と隣り合わせだから、いつか死ぬ。
誉れある戦場で死ぬ。死んだところで無駄死にじゃない。
俺達の死は、価値ある死。必死に戦って死ぬ事で、人類が勝利に近づく。
『先輩! せんぱいっ! 返事……返事してくださいっ……!!』
『ラート君。3番機を手放しなさい。もう運ばなくていい』
『で、でもっ! 中尉っ! 先輩がっ!! 先輩、まだ生きて……!!』
操縦席から助け出せないだけ。
身体がめちゃくちゃになってるだけ。
操縦席ごと運んで、医者に診せれば……なんとかなる。
敵の攻撃さえなければ、直ぐにでも――。
『ひ……ひよっこラートめ……。だれが……テメーの、世話なんかに……』
『先輩っ!』
『――軍曹。状態は』
『ごらんの、とおりでさぁ。……殿、まかせて、くださ……』
『先輩、なに言ってんスか!? その状態で、殿なんか――』
『ば、ぁか……! さっ……さっさと、行けぇ……!! 中尉と、はやく……』
守れなかった。
何もできなかった。
俺は、弱かった。
死ぬのなんて怖くない。
そう言っていたのに。
俺は、口先だけで――――。
『せ、整備班の皆! ダメだっ! 下がって!! 危ないっ! 砲撃が!!』
『敵の歩兵が来てる。今は、オレ達しか対応できない』
『こっち、直ぐ片付けますからっ!! 待ってて!! 直ぐ、俺が……!!』
『大丈夫だ。任せろ、ひよっこ』
『こっちは何とかする!! キミは自分のことだけ考えてなさい!』
整備班の皆も、銃を持って戦って……。
みんな、皆……。必死に、戦って……。
おれ、なにも……。……なにも、できなくて……。
『ひよっこ。もう、いい』
『くるな……』
『あと1分! あと1分でそっちに……!!』
『来ちゃ、ダメだよ。敵の、機兵中隊が……』
『みんな待ってて!!』
間に合わなかった。
敵の機兵、やっと……なんとか退けて……。
敵の歩兵も、機銃や脚で、グチャグチャにしても――。
『中尉、グラフェン中尉っ!!』
『ラート君、無事だったの!? 大丈夫!? ごめんなさい、私の落ち度で、別部隊が後方に――』
『軍医さん呼んでくださいっ! み、みんなっ! 整備班のみんなが、ばらばらっ……! おれ、おれっ! 皆のこと、守るって誓ったのにっ……!!』
『――――』
『ラート! 聞こえるか!? 直ぐに……直ぐにそこを離れろ! 権能持ちの天使まで来てる! さすがにそいつは無理だ!! 早くっ!!』
『ま、まってください! みんな……みんなを運んでいきますからっ!! まだ、まだ助かるはずなんですっ! だからっ、だからぁっ……!!』
『ラート!!』
『じゃあ、敵……次の敵、教えてくださいっ!! さっきの奴らみたいに殺しますッ!! 俺は、まだ……まだ戦えますっ!!』
俺は、最後の最後まで皆に守られた。
後方支援に回されてばかりだった。
後方にいる皆の護衛すら、こなせなかった。
誰も、守れなかった。
『おれ、まだ戦えます。お願いです、整備班のかたき、うたせてください』
『お前は、後ろに回れ。中尉の命令だ』
『おねがいします。おれ、みんなの盾になれます』
『っ……。ひよっこのお前じゃ、足手まといなんだよ!!』
『おねがいしますっ! おねがいしますっ!! なんでもしますっ! 戦えるなら、何でもしますっ! 先輩達の盾になって、お国のために立派に死――』
殴られた。叱られた。
何も守れなかったことは、怒ってくれなかった。
黙って指示に従えって、何度も怒られた。
でも怖くなかった。先輩達は怖くなかった。
だって、先輩達、俺なんかよりずっとつらそうな顔してて――。
『ラート。栄養補給、ちゃんとしろ』
『ほら、スープだけじゃなくてゼリーパンも……』
『…………』
『……ちゃんと食べろ。これは、命令だ』
『頑張れ。良い子にしてたら、帰ったら……良いとこ連れてってやるから……』
ラジハールの攻略が完了した――という連絡は来なかった。
俺達が戦っている間は、来なかった。
当然、撤退許可も出なかった。
それでも、俺達は――いや、先輩達は、必死に戦っていた。
国のために……人類のために……立派に戦っていた。
……俺は、先輩達みたいになれなかった。
『本部からの通信は?』
『途絶したまま繋がらない』
『ちと困ったなぁ。ラジハール攻略の報すら聞けないまま逝くのはなぁ……』
『お前の代わりに聞いておいてやるよ。で、あの世で教えてやらぁ』
『おぉ、すまねえな! じゃ、ちょっくら行ってくる』
『おう』
『あ、そうそう、ラートに伝えておいてくれ。次の休暇、ウチに連れていってやるって話……出来そうにねえって』
『…………おうっ』
『中尉、お先です』
『…………ええ、後でね』
先輩達はとても強かった。
本当にカッコよくて……俺の尊敬する立派な軍人だった。
そんな先輩達も、どんどん、いなくなった。
優しくて厳しい兄貴分が、みんな……どんどん……。
『方舟は――』
『まだ、何とか隠れているはずです。残り1隻っスけど……』
『中尉、敵の包囲が――』
『4番機との連絡が――』
撤退できないまま、俺達は袋のネズミになっていった。
皆、必死に足掻いたけど……勝てなかった。
俺達の敗北は避けられない。
でも、交国軍は勝利する。
いつか、きっと……必ず……勝利する。
『1体でも多く、敵の天使を削ろう』
『ラート、よく見とけ。天使との戦い方を教えてやる』
『はいっ…………』
俺達が死んでも、その死体の上に道が出来る。
交国が、人類が……勝利というゴールに至るための道が出来る。
俺もそれを信じていた。
先輩達も、きっと……。
…………。
本当はわからない。
怖くて、聞けなかった。
優しい先輩達だったけど……本当のこと、知るの……怖くて……。
■title:
■from:死にたがりの死に損ない
『撤退だ!!』
敵に包囲されつつ、何とか機兵を動かすために足掻いていた時。
撤退、という言葉が聞こえてきた。
通信ではなく、肉声で聞こえてきた。
破鳩隊のところにやってきた、あの人がそう言った。
『撤退だ! エミュオン攻略作戦は、断念するっ!』
『久常中佐……? ラジハール攻略が完了したって事ですか?』
『知らんっ!! 撤退はわたしの判断だ! これが一番だ! あぁ、中尉、貴様か! 貴様がこの部隊の長だな!? 貴様らにわたしの護衛を任せる!!』
絶望的な状況の中、久常中佐がやってきた。
中佐もエミュオン攻略作戦に参加していた。
攻略戦の現場指揮官じゃなかったけど……それでも、プレーローマとの戦いの中でエライ人は死んでいって、あの時は久常中佐が現場で一番エラくなっていた。
でも、中佐の判断は……交国軍人らしくなかった。
まだ、俺達の陽動は終わってなかった。
終わっていない。そう思っていた。
でも、上官の命令は、絶対で――。
『中佐。どういう事ですか? 大佐は……』
『たっ、大佐は敵の凶弾に倒れた! わたしが指揮を引き継いだのだっ!』
『……………………』
『中尉、よく聞け! これよりわたしはエミュオンから脱出する! 隠していた方舟に辿り着くまで、護衛が必要だ! 破鳩隊は、残存部隊の中で一番マシだと聞いている! 喜べ、お前達はわたしの護衛として撤退を許すっ!』
交国本土との連絡が取れない中で、現場判断の撤退。
けど、全員が逃げられるわけじゃなかった。
生きて、故郷の土を踏めるのは――。
『久常中佐。他の部隊は――』
『や、やつらは殿として残すっ! わっ、わたしたちが撤退するための血路を開かせるんだっ! おまえたちだって死にたくないだろ!? こっ……こんなところで……! わたしだってこんなところで死ぬわけにはっ……! 天使共に捕まったら、死ぬよりもひどいめにっ……!!』
『……中佐、冷静に聞いてください。私達全員の撤退は不可能です』
グラフェン中尉の言葉を聞き、久常中佐は狂ったように叫んでいた。
鶏が鳴いているような声で叫んでいた。
叫んで、中尉の胸ぐらを掴もうとしていたけど……先輩達が割って入って止めていた。中尉には指一本触れさせない。そんな態度で――。
『ですが、私達も残れば……まだ、貴方1人ぐらいなら……』
『わっ、わたしに走って逃げろというのか!? む、無茶を言うなっ!』
『いえ、破鳩隊から1人、一番の腕利きを直属の護衛につけます』
1人以外は、全員この場に残る。
中佐を逃がすための血路を開き、敵を引きつける。
グラフェン中尉はそう言いつつ、俺を見てきた。
『ラート君。久常中佐を操縦席に案内してあげて』
『はいっ! 中尉の機兵の操縦席に、ですよね? わかりました!』
破鳩隊一の腕利き。
それはもちろん、グラフェン中尉の事で――。
『いいえ。貴方の機兵よ。中佐の撤退支援をよろしく』
『え?』
『久常中佐。彼が貴方を本土まで連れ帰ります。その代わり、彼を――』
『こ、こんな新兵に!? ぼ、ボクをだれだとおもっている! ボクは玉帝の子供なんだぞっ!? 貴様、もっと真面目に――』
『彼が破鳩隊一の腕利きです。彼と一緒に逃げるのが、一番確実です』
『待ってください。中尉っ――――』
それはおかしい。
俺が逃げるのはおかしい。
だから、中尉に言おうとしたけど――。
『黙れひよっこ。おらっ、さっさと操縦席に行け……!!』
『さあさあ久常中佐! ラートの後ろにどうぞ!!』
『もう敵が来ています! 早くっ!!』
『せ、せんぱいっ? なっ、なんでっ……』
先輩達の手が、俺に伸びてきた。
俺の口を塞ぎ、中佐と俺を操縦席に放り込んで――。
『やっと、お前の尻拭いから解放される』
『テメエみたいなザコが、破鳩隊配属になったのがおかしかったんだ』
『――――』
『邪魔だからさっさと失せろ。俺達の戦場を汚すな』
『クソ中佐と仲良くな。お似合いだぜ』
『まって』
『全機、発進急げ!! 敵がもう――』
『あっ…………』
『ラート! さっさと行けっ!!』
頬を叩かれ、操縦席に押し込まれた。
痛くなかった。
俺はオークだ。痛みなんか感じない。
痛くないのに、何故か「いたい」と思った。
『ひよっこ、早く行け!!』
『しくじるんじゃねえぞ……ッ!!』
『テメエがしくじったら、オレ達の家族への恩給を減らされるかもしれないんだ! 死んでも逃げろ! いや、死んだらブッ殺してやる!!』
『破鳩隊の看板に泥を塗ったら殺す!!』
『お前が死んだら、俺達全員、犬死にだろうがっ……!!』
『やだっ……やだッ……!!』
俺は何もできなかった。
だから、せめて、最期ぐらい立派に――。
『ラートっ……! 頼むっ……! 頼むからっ!!』
『先輩達と戦いますっ!! 戦わせてくださいっ!!』
今度こそ、活躍してみせる。
俺はバカで、ひよっこで、新米のダメ機兵乗り。
それでも、皆の盾になるぐらいはできる。
死体になっても、その上を皆が歩いて逃げてくれたら――。
『行きなさい。これは命令よ』
『中尉っ……! お願いしま――――』
『命令違反は重罪。貴方がここで無駄死にしたら恩給は出ない。貴方の家族は、玉帝の子を死なせた愚かな兵士の遺族として、交国中から責められる』
『――――』
『交国から追放されるかもね。それが嫌なら、行きなさい』
『……なんで、そんなこと、』
わかってる。
ぜんぶわかってる。
せんぱいたちも、中尉も……みんな、みんな……やさしかっただけで……。
『破鳩隊、前進!!』
『――――』
俺は逃げた。
久常中佐を連れ、皆に背を向けて逃げた。
逃げて、死に損なった。
作戦は成功した。
別働隊がラジハールを落とした。
エミュオン攻略戦で、エミュオンに降り立った交国軍兵士。
エミュオンから生きて撤退できたのは7人だけだった。
その中に、破鳩隊の皆はいなかった。




