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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
224/875

過去:死に損ない


■title:

■from:死にたがりの死に損ない


 エミュオン攻略戦は、開始前から難しい作戦だとわかっていた。


 プレーローマは強い。


 交国領における防衛戦でも大変な戦いになるのに、敵地での作戦行動が難しいって事は、俺だってわかる話だった。


 難しい作戦だけど、頑張って成功させなきゃな! と呑気に考えていた。


 難しいけど「誉れがある」なんて考えていた。


 俺が所属している破鳩隊の先輩達は、攻略戦の話を聞いた時、軽く表情を引きつらせていた。部隊を率いるグラフェン中尉以外、全員、引きつっていた。


 多分、皆あの時点で察していたんだ。


 グラフェン中尉も、先輩機兵乗り達も……全員、どんな作戦になるか察していたんだ。あそこまで酷いものになるとは思ってなかったかもだが――。


『ラート、お前……ちょっとここから飛び降りてみろ』


『え? はっ……? ここ、機兵の肩っスよ? 骨が折れますよ、さすがに』


『…………。折れりゃいいんだよっ! おらっ! 飛べっ!!』


『えぇ~っ!? せ、先輩、何で急にパワハラしてくるんですかぁ~……!?』


 攻略戦に出発する前、先輩達は急に俺に厳しくなった。


 必死の形相で怪我させようとしてくるわ、妙なもの飲ませて体調崩させようとしてくるわ……急に当たりが強くなった。


 軍学校出たてのひよっこ機兵乗りの俺に、皆優しかったのに。厳しくしごかれていたけど、作戦や訓練中じゃなかったら、皆が家族みたいに優しかった。


 兄貴がいっぱい出来た気分で、すげー嬉しかった。


 それなのに……エミュオンに入る前まで、皆、すごく怖かった。


 最終的に、俺がわんわん泣いた。


 機兵乗りの先輩も、整備士の皆も、急に怖くなるから……俺……軍学校に入ったばかりの頃みたいに、大泣きしたんだ。


 皆、そんな俺を見て、怒ってた。泣きそうな顔しながら怒ってた。


『……やめなさい。気持ちは、わかるけど……』


 グラフェン中尉が止めてくれるまで、皆、ずっと怖かった。


 皆、俺のために(・・・・・)俺を脅していたんだ。


 攻略戦が酷いものになるって、察していたから……参加させないために。


 先輩達の危惧通り、エミュオン攻略戦は手こずった。


 いや……最終的に失敗したんだから、手こずったなんてレベルじゃなかった。


 事前情報だと「エミュオンの守りは薄い」「奇襲で片付く」「プレーローマの増援が来る前にエミュオンを落とせば、増援も簡単に対応できる」と聞いていた。


『そんな簡単にいかないだろうから、皆、覚悟しておいてね』


 グラフェン中尉は、上から来た情報をまるで信じていなかった。


 それでも……淡々と任務をこなしていた。


 エミュオンに配備されているプレーローマの戦力より、交国軍(おれたち)の方が多かった。……増援さえ来なければ数は圧倒していたんだ。


 増援が来たらマズい。


 それは最初からわかっていた。だから奇襲を仕掛けつつ、エミュオン攻略部隊が界内に侵入後、混沌の海で多数の爆弾を爆発させる予定だった。


 そうする事で海を荒らし、敵の増援を遅らせようとした。


 でも、工作部隊がしくじったらしかった。


 エミュオンにいたプレーローマ部隊から激しい抵抗にあって、失敗した。工作部隊だけじゃなくて、他の部隊も……敵の抵抗で予定通りには動けなかった。


 それでも、俺達は押していた。


 エミュオンの敵拠点は次々と落としていた。


 拠点そのものは……初日の奇襲で8割方落としていたんだ。


 けど、敵は拠点を放棄し、ゲリラ戦術で対応してきた。増援が来るまで俺達をかき乱し、何とか橋頭堡になる海門(ゲート)を隠し通そうとしてきた。


 敵の目論見は成功した。


 敵の増援部隊が来た事で、俺達は一気に押され始めた。


『眠漉隊が来てくれるはずじゃ……! あっちの戦線はどうなってんスか!?』


『――いま確認が取れた。眠漉隊壊滅。もう4つの機兵中隊がやられてる……!』


 形勢逆転。


 俺達は敵地で孤立し、各個撃破されつつあった。


 それでも何とか立て直し、残存部隊で抵抗を続けた。


 あの時ならまだ、撤退は可能だったはずだ。


 相当な被害は出たはずだが……それでも、最終的な被害を考えたら……。


 …………。


 多くの軍人が死んでも、撤退許可は下りなかった。


『敵側の通信を傍受した。ラジハールでも大規模な戦闘が起きているらしい』


『ラジハール……? それって確か、プレーローマ支配地の……』


 エミュオンから少し離れた場所。


 ラジハールという世界でも、戦闘が発生していると後で聞いた。


 しかも、ラジハール攻略に動いたのは友軍。


 俺達とは別の(・・)交国軍だった。


 それも、規模に関して言えば俺達と――エミュオン攻略部隊より僅かに少ない程度。敵の情報によると、質は向こうの方が圧倒的に上だったらしい。


『裏も取れた。くそっ……最初からエミュオンに派遣する部隊がおかしいと思ったんだ……』


『それだけじゃない。攻略戦に参加していた部隊の大半が、エミュオンに到着してない……。どうも、混沌の海の方に回っているらしい』


『どっ、どういう事ですか……?』


『上は、私達を囮にしたみたい』


 グラフェン中尉がそう言った。


 エミュオン攻略戦は最初から陽動。


 本命のラジハール攻略戦を成功させるための、陽動作戦。


 エミュオン攻略戦のために派遣した部隊の大半が、エミュオンでの作戦行動を行わず、「ラジハールに向かう敵部隊の航路妨害」のために動いていた。


 あるいは、敵増援がエミュオンに入った後に(・・)混沌の海で爆弾を使い、海を荒らす。そうする事でエミュオン内部に敵の大部隊を足止めする。


 俺達を囮に使って、敵をおびき寄せて――。


『隊長。最初から知ってたんですか? ……ラートもいるのに……!』


『知らないと言ったら信じてくれる? 実際知らなかった。ここまで酷いものだと知ってたら……もっと上手くやるわ』


『……スンマセン。ですよね……隊長だって、被害者っスよね……』


『気持ちはわかるよ。とにかく、しばらく撤退許可は出ないものと思って』


 エミュオンに来た交国軍は生きて帰れない。


 プレーローマの増援部隊に蹴散らされ、異郷の土に還る事になる。


 捕虜になった場合、もっと酷い目に遭う。


 上はそうなるのが目に見えているのに、エミュオン攻略戦という陽動作戦を行った。敵を騙すためにも現場には何も伝えていなかった。


『ラジハールが落ちたら、陽動(わたしたち)の仕事も終わり。そこまで行けば撤退許可も……下りるはず。何とか凌ぎましょう』


『了解』


『了解です』


『え……? えっ……?』


 状況についていけず、狼狽える俺の周囲で先輩達は淡々と動き出した。


 敵前逃亡は許されない。どんな状況だろうと許されない。


 だから、せめてこの状況で足掻こう。


 皆がそう考え、いつも通りに一致団結して動いていた。


『ラート。大丈夫だ。まだ望みはある』


『他部隊と連携して遅滞作戦に切り替えて、時間を稼げば大丈夫だ。方舟を隠して、守り通して……撤退許可が出たらそれに乗ってトンズラ。簡単な作戦だ』


『か、かんたん……』


『……大丈夫だからなっ! 絶対、何とかなるから!』


『み、皆で、生きて、故郷に帰れるんですよね……?』


『当たり前だろ』


 皆は淡々と動いていたが、俺が問いかけると少し、表情を引きつらせていた。


 俺は皆から「大丈夫」と言われた。


 ひよっこの俺が……ずっと、狼狽えているから……。


 皆大変なのに、皆……俺を、勇気づけてくれてて――。


『ラート! 邪魔だ、下がってろ!!』


『ま、まだやれますっ! まだ動けますっ!!』


『危ないから下がれって言ってんだ!! 敵の射程内なんだぞ!?』


『先輩達だって、同じじゃないですかっ……!!』


『ひよっこのお前じゃ無理だ! 下がっ――――』


 俺達は兵士。職場は戦場。


 危険と隣り合わせだから、いつか死ぬ。


 誉れある戦場で死ぬ。死んだところで無駄死にじゃない。


 俺達の死は、価値ある死。必死に戦って死ぬ事で、人類が勝利に近づく。


『先輩! せんぱいっ! 返事……返事してくださいっ……!!』


『ラート君。3番機を手放しなさい。もう運ばなくていい』


『で、でもっ! 中尉っ! 先輩がっ!! 先輩、まだ生きて……!!』


 操縦席から助け出せないだけ。


 身体がめちゃくちゃになってるだけ。


 操縦席ごと運んで、医者に診せれば……なんとかなる。


 敵の攻撃さえなければ、直ぐにでも――。


『ひ……ひよっこラートめ……。だれが……テメーの、世話なんかに……』


『先輩っ!』


『――軍曹。状態は』


『ごらんの、とおりでさぁ。……殿、まかせて、くださ……』


『先輩、なに言ってんスか!? その状態で、殿なんか――』


『ば、ぁか……! さっ……さっさと、行けぇ……!! 中尉と、はやく……』


 守れなかった。


 何もできなかった。


 俺は、弱かった。


 死ぬのなんて怖くない。


 そう言っていたのに。


 俺は、口先だけで――――。


『せ、整備班の皆! ダメだっ! 下がって!! 危ないっ! 砲撃が!!』


『敵の歩兵が来てる。今は、オレ達しか対応できない』


『こっち、直ぐ片付けますからっ!! 待ってて!! 直ぐ、俺が……!!』


『大丈夫だ。任せろ、ひよっこ(ラート)


『こっちは何とかする!! キミは自分のことだけ考えてなさい!』


 整備班の皆も、銃を持って戦って……。


 みんな、皆……。必死に、戦って……。


 おれ、なにも……。……なにも、できなくて……。


『ひよっこ。もう、いい』


『くるな……』


『あと1分! あと1分でそっちに……!!』


『来ちゃ、ダメだよ。敵の、機兵中隊が……』


『みんな待ってて!!』


 間に合わなかった。


 敵の機兵、やっと……なんとか退けて……。


 敵の歩兵も、機銃や脚で、グチャグチャにしても――。


『中尉、グラフェン中尉っ!!』


『ラート君、無事だったの!? 大丈夫!? ごめんなさい、私の落ち度で、別部隊が後方(そっち)に――』


『軍医さん呼んでくださいっ! み、みんなっ! 整備班のみんなが、ばらばらっ……! おれ、おれっ! 皆のこと、守るって誓ったのにっ……!!』


『――――』


『ラート! 聞こえるか!? 直ぐに……直ぐにそこを離れろ! 権能持ちの天使まで来てる! さすがにそいつは無理だ!! 早くっ!!』


『ま、まってください! みんな……みんなを運んでいきますからっ!! まだ、まだ助かるはずなんですっ! だからっ、だからぁっ……!!』


『ラート!!』


『じゃあ、敵……次の敵、教えてくださいっ!! さっきの奴らみたいに殺しますッ!! 俺は、まだ……まだ戦えますっ!!』


 俺は、最後の最後まで皆に守られた。


 後方支援に回されてばかりだった。


 後方にいる皆の護衛すら、こなせなかった。


 誰も、守れなかった。


『おれ、まだ戦えます。お願いです、整備班(みんな)のかたき、うたせてください』


『お前は、後ろに回れ。中尉の命令だ』


『おねがいします。おれ、みんなの盾になれます』


『っ……。ひよっこのお前じゃ、足手まといなんだよ!!』


『おねがいしますっ! おねがいしますっ!! なんでもしますっ! 戦えるなら、何でもしますっ! 先輩達の盾になって、お国のために立派に死――』


 殴られた。叱られた。


 何も守れなかったことは、怒ってくれなかった。


 黙って指示に従えって、何度も怒られた。


 でも怖くなかった。先輩達は怖くなかった。


 だって、先輩達、俺なんかよりずっとつらそうな顔してて――。


『ラート。栄養補給、ちゃんとしろ』


『ほら、スープだけじゃなくてゼリーパンも……』


『…………』


『……ちゃんと食べろ。これは、命令だ』


『頑張れ。良い子にしてたら、帰ったら……良いとこ連れてってやるから……』


 ラジハールの攻略が完了した――という連絡は来なかった。


 俺達が戦っている間は、来なかった。


 当然、撤退許可も出なかった。


 それでも、俺達は――いや、先輩達は、必死に戦っていた。


 国のために……人類のために……立派に戦っていた。


 ……俺は、先輩達みたいになれなかった。


『本部からの通信は?』


『途絶したまま繋がらない』


『ちと困ったなぁ。ラジハール攻略の報すら聞けないまま逝くのはなぁ……』


『お前の代わりに聞いておいてやるよ。で、あの世で教えてやらぁ』


『おぉ、すまねえな! じゃ、ちょっくら行ってくる』


『おう』


『あ、そうそう、ラートに伝えておいてくれ。次の休暇、ウチに連れていってやるって話……出来そうにねえって』


『…………おうっ』


『中尉、お先です』


『…………ええ、後でね』


 先輩達はとても強かった。


 本当にカッコよくて……俺の尊敬する立派な軍人だった。


 そんな先輩達も、どんどん、いなくなった。


 優しくて厳しい兄貴分が、みんな……どんどん……。


『方舟は――』


『まだ、何とか隠れているはずです。残り1隻っスけど……』


『中尉、敵の包囲が――』


『4番機との連絡が――』


 撤退できないまま、俺達は袋のネズミになっていった。


 皆、必死に足掻いたけど……勝てなかった。


 俺達の敗北は避けられない。


 でも、交国軍は勝利する。


 いつか、きっと……必ず……勝利する。


『1体でも多く、敵の天使を削ろう』


『ラート、よく見とけ。天使との戦い方を教えてやる』


『はいっ…………』


 俺達が死んでも、その死体の上に道が出来る。


 交国が、人類が……勝利というゴールに至るための道が出来る。


 俺もそれを信じていた。


 先輩達も、きっと……。


 …………。


 本当はわからない。


 怖くて、聞けなかった。


 優しい先輩達だったけど……本当のこと、知るの……怖くて……。




■title:

■from:死にたがりの死に損ない


『撤退だ!!』


 敵に包囲されつつ、何とか機兵を動かすために足掻いていた時。


 撤退、という言葉が聞こえてきた。


 通信ではなく、肉声で聞こえてきた。


 破鳩隊(おれたち)のところにやってきた、あの人がそう言った。


『撤退だ! エミュオン攻略作戦は、断念するっ!』


久常中佐(・・・・)……? ラジハール攻略が完了したって事ですか?』


『知らんっ!! 撤退はわたしの判断だ! これが一番だ! あぁ、中尉、貴様か! 貴様がこの部隊の長だな!? 貴様らにわたしの護衛を任せる!!』


 絶望的な状況の中、久常中佐がやってきた。


 中佐もエミュオン攻略作戦に参加していた。


 攻略戦の現場指揮官じゃなかったけど……それでも、プレーローマとの戦いの中でエライ人は死んでいって、あの時は久常中佐が現場で一番エラくなっていた。


 でも、中佐の判断は……交国軍人らしくなかった。


 まだ、俺達の陽動(たたかい)は終わってなかった。


 終わっていない。そう思っていた。


 でも、上官の命令は、絶対で――。


『中佐。どういう事ですか? 大佐は……』


『たっ、大佐は敵の凶弾(・・・・)に倒れた! わたしが指揮を引き継いだのだっ!』


『……………………』


『中尉、よく聞け! これよりわたしはエミュオンから脱出する! 隠していた方舟に辿り着くまで、護衛が必要だ! 破鳩隊は、残存部隊の中で一番マシだと聞いている! 喜べ、お前達はわたしの護衛として撤退を許すっ!』


 交国本土との連絡が取れない中で、現場判断の撤退。


 けど、全員が逃げられるわけじゃなかった。


 生きて、故郷の土を踏めるのは――。


『久常中佐。他の部隊は――』


『や、やつらは殿として残すっ! わっ、わたしたちが撤退するための血路を開かせるんだっ! おまえたちだって死にたくないだろ!? こっ……こんなところで……! わたしだってこんなところで死ぬわけにはっ……! 天使共に捕まったら、死ぬよりもひどいめにっ……!!』


『……中佐、冷静に聞いてください。私達全員の撤退は不可能です』


 グラフェン中尉の言葉を聞き、久常中佐は狂ったように叫んでいた。


 鶏が鳴いているような声で叫んでいた。


 叫んで、中尉の胸ぐらを掴もうとしていたけど……先輩達が割って入って止めていた。中尉には指一本触れさせない。そんな態度で――。


『ですが、私達も残れば……まだ、貴方1人ぐらいなら……』


『わっ、わたしに走って逃げろというのか!? む、無茶を言うなっ!』


『いえ、破鳩隊から1人、一番の腕利きを直属の護衛につけます』


 1人以外は、全員この場に残る。


 中佐を逃がすための血路を開き、敵を引きつける。


 グラフェン中尉はそう言いつつ、俺を見てきた。


『ラート君。久常中佐を操縦席に案内してあげて』


『はいっ! 中尉の機兵の操縦席に、ですよね? わかりました!』


 破鳩隊一の腕利き。


 それはもちろん、グラフェン中尉の事で――。


『いいえ。貴方の機兵よ。中佐の撤退支援(エスコート)をよろしく』


『え?』


『久常中佐。彼が貴方を本土まで連れ帰ります。その代わり、彼を――』


『こ、こんな新兵に!? ぼ、ボクをだれだとおもっている! ボクは玉帝の子供なんだぞっ!? 貴様、もっと真面目に――』


『彼が破鳩隊一の腕利きです。彼と一緒に逃げるのが、一番確実です』


『待ってください。中尉っ――――』


 それはおかしい。


 俺が逃げるのはおかしい。


 だから、中尉に言おうとしたけど――。


『黙れひよっこ。おらっ、さっさと操縦席に行け……!!』


『さあさあ久常中佐! ラートの後ろにどうぞ!!』


『もう敵が来ています! 早くっ!!』


『せ、せんぱいっ? なっ、なんでっ……』


 先輩達の手が、俺に伸びてきた。


 俺の口を塞ぎ、中佐と俺を操縦席に放り込んで――。


『やっと、お前の尻拭いから解放される』


『テメエみたいなザコが、破鳩隊配属になったのがおかしかったんだ』


『――――』


『邪魔だからさっさと失せろ。俺達の戦場を汚すな』


『クソ中佐と仲良くな。お似合いだぜ』


『まって』


『全機、発進急げ!! 敵がもう――』


『あっ…………』


『ラート! さっさと行けっ!!』


 頬を叩かれ、操縦席に押し込まれた。


 痛くなかった。


 俺はオークだ。痛みなんか感じない。


 痛くないのに、何故か「いたい」と思った。


『ひよっこ、早く行け!!』


『しくじるんじゃねえぞ……ッ!!』


『テメエがしくじったら、オレ達の家族への恩給を減らされるかもしれないんだ! 死んでも逃げろ! いや、死んだらブッ殺してやる!!』


『破鳩隊の看板に泥を塗ったら殺す!!』


『お前が死んだら、俺達全員、犬死にだろうがっ……!!』


『やだっ……やだッ……!!』


 俺は何もできなかった。


 だから、せめて、最期ぐらい立派に――。


『ラートっ……! 頼むっ……! 頼むからっ!!』


『先輩達と戦いますっ!! 戦わせてくださいっ!!』


 今度こそ、活躍してみせる。


 俺はバカで、ひよっこで、新米のダメ機兵乗り。


 それでも、皆の盾になるぐらいはできる。


 死体になっても、その上を皆が歩いて逃げてくれたら――。


『行きなさい。これは命令よ』


『中尉っ……! お願いしま――――』


『命令違反は重罪。貴方がここで無駄死にしたら恩給は出ない。貴方の家族は、玉帝の子を死なせた愚かな兵士の遺族として、交国中から責められる』


『――――』


『交国から追放されるかもね。それが嫌なら、行きなさい』


『……なんで、そんなこと、』


 わかってる。


 ぜんぶわかってる。


 せんぱいたちも、中尉も……みんな、みんな……やさしかっただけで……。


『破鳩隊、前進!!』


『――――』


 俺は逃げた。


 久常中佐を連れ、皆に背を向けて逃げた。


 逃げて、死に損なった。


 作戦は成功した。


 別働隊がラジハールを落とした。


 エミュオン攻略戦で、エミュオンに降り立った交国軍兵士。


 エミュオンから生きて撤退できたのは7人だけだった。


 その中に、破鳩隊の皆はいなかった。





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