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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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歩く死体達



■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「ロイさんもマウさんも、本当は無事なのかもしれない」


 手紙を書いているのは別人。あるいは人ですらない。


 けど、ひょっとしたら手紙のやりとりさせてくれないだけで、まだ生きているかもしれない。どこかに捕まっているだけの可能性も……まだある、はず。


 遺体は(・・・)まだ見つかっていない。


 2人が生きている可能性は「低い」だけで、ゼロじゃないはず……。


 アル君が観たものを踏まえて考えると、かなり厳しいけど……。


「普通に逃げると、皆の家族が危うくなるかもしれない」


「もしも母ちゃん達が生きていたとしたら……オレらが逃げたら人質にされる?」


「そう」


 もしも(・・・)無事だったとしても、人質として利用される。


 大人しく投降するよう言いつつ、皆の家族を殺そうとするかもしれない。


 それで私達を脅し、戻ってくるよう言うかもしれない。


「それは避けたい。だから、表向き死んだ事にして逃げよう」


 私達の死を偽装する。


 交国軍に私達が「死んだ」と誤認させる。その隙に逃げて、どこかに潜伏する。落ち着いたら戻ってきて、なんとか……所在も生死も不明の家族を探す。


「このまま交国軍で戦っていても、いいように使われるだけ。それどころかもっと酷い状況になるかもしれない。皆が散り散りになる可能性だってある」


「けど、どうやって死を偽装して――」


 口を開いたラートさんが、ハッとした様子で口を手で覆った。


 あたふたしながら「悪い。交国軍人の俺が聞かない方がいいよな……?」と言ってきたけど、首を横に振って「大丈夫です」と返す。


「ラートさん相手に隠すなら、ここまでの事は言いません。心配させたくないですし……。ただ、黙っててもらうだけで大丈夫です」


 正規兵だろうと特別行動兵だろうと、脱走は重罪。


 その場で銃殺になってもおかしくない。


 そんな危ない橋を、立場のあるラートさんに渡ってもらうのは――。


「バカ言え。ここまで来たらもう、最後まで付き合うよ」


「ダメです。ラートさんには交国で暮らすご家族がいるんですから……」


 私がそう言うと、ラートさんは少し迷う様子を見せたけど――。


「俺はお前らを守る。そう誓った。家族のことは大丈夫だよっ。要は……バレなきゃいいんだろ? お前らの死を偽装するなら、俺が関わっていることも上手く偽装すればいいだけの話だ」


「ですが――」


「ここまで来て、除け者は無しだぜ」


 ラートさんはニッと笑って、「アルもフェルグスもヴィオラのことも、グローニャとロッカの事も守ってみせる」と言ってくれた。


「俺が脱走についていくのは無理だが……手伝いは出来る」


「うーん……」


「交国に残る人間に、協力者がいた方が都合が良いだろ? 死体を上手く偽装するとか、後処理とか……色々とやるやつが必要だ」


「それは、そうですが……」


「それに、俺は今後もネウロン旅団で戦う予定だ。ネウロンで戦っていたら、お前らの家族に関する情報が掴めるかもしれない」


 ラートさんは「任せてくれ」と言った。


 ラートさん自身の家族がいる以上、交国から離れられない。


 それに、ラートさんは交国軍で戦う事を望んでいる。


「交国は確かに、どこかが腐ってる。けど、それでも対プレーローマ戦線を支えている人類国家の1つなんだ。俺は家族やお前らを守るために、今後も人類のために戦い続けたい」


「「…………」」


「お前らは逃げろ。でも、俺は今後も交国軍で戦う」


 フェルグス君と顔を見合わせた後、ラートさんに遠慮気味に問う。


 人類のために戦っているラートさん達を置いて逃げるのは、裏切り行為なのでは――と聞いたけど、ラートさんは笑って「そんなことない」と言った。


「俺とお前らじゃ立場が違う。俺は全て納得して(・・・・・・)軍に入った。けど、お前らは交国の都合で戦わされているだけだろ?」


「それは……そうですけど……」


 子供達は巫術師(ドルイド)というだけで罪人扱い。


 特別行動兵にされ、無理矢理戦わされている。


 星屑隊の皆さんと出会えた事で、かなり環境が改善されたけど……皆さんとずっと一緒にいられるとは限らない。


 子供達の命は、ずっと交国の手のひらの上に置かれている。


「交国がお前らを騙しているのは確かなんだ。先に裏切ったのは交国だ。お前らは何も負い目を感じる必要はない」


「お前は大丈夫なのかよ……」


 フェルグス君が少し表情を歪め、ラートさんに問いかけた。


「お前、本当に交国で戦い続けてて大丈夫なのか……? ネウロン旅団のナントカ中佐みたいなクソ指揮官がいて、無茶な命令で戦わされてるお前らも……オレらみたいに危ないじゃん」


「いやぁ……さすがに久常中佐みたいなのは例外中の例外だよ。むしろ、何であの人が中佐やれてるのかよくわからん(・・・・・・)というか……」


 ラートさんは苦笑し、「ともかく、俺は大丈夫だ」と言った。


「それで、俺は何をすればいい? どうやって死を偽装して逃げて、交国軍の監視下から逃れるんだ? 交国領に潜伏するのは難しいぞ」


「それは、そのぅ……まだ考え中でして……」


 脱走しないと、交国の無茶振りでいつ死んでもおかしくない。


 単に脱走すると――もしも家族が生きていた場合――家族が危なくなる。


 だから、逃げるなら死を偽装する。


 そしたら家族を守れる……はず。


 死を偽装した方が私達も追っ手を差し向けられずに済む。


 身近な追っ手は、星屑隊(・・・)


 星屑隊の皆さんは優しい人達だけど、それでも私達の脱走を知ったら連れ戻さないといけないはず。……ラートさん達と戦いたくない。


 グローニャちゃんが懐いているレンズ軍曹さんと戦うのも、ダメ。


 ロッカ君が懐いているバレットさんに銃を向けるなんて、絶対にダメ。


 ラートさんをこれ以上、苦しい立場に置くなんて……出来ない。私達と星屑隊の間で板挟みになって、苦しめるのは絶対にダメ。


「交国軍から逃げた後の事も……考え中です。交国と敵対関係にある国家に逃げたら……交国の追跡の目も完全に躱せると思うんですが……」


「交国と敵対関係…………。竜国とかか」


 ラートさんは交国が戦争中の人類国家の名を口にした。


 人類(・・)国家といっても、竜国は「竜」が治める国らしいけど――。


「いや、さすがに竜国に行くのは自殺行為だ。あそこは……多分、数年のうちに滅びる。交国どころか人類連盟と敵対して戦争中だからな……」


「でも、竜国以外にも交国の敵はいますよね?」


「残念ながら、わりといる」


 逃げる先は確かにある。


 問題はどうやって逃げるか、ということ。


「まだ決まっていないとこは、今後考えていくしかねえ。こっそりとな……!」


 ラートさんは周りを気にして、コソコソと声を出した。


 周りと言っても、この部屋にいるのは私達だけだけど。


 ……いや、さっきのこと(・・・・・・)を考えると正しい行動か。


 フェルグス君に頼まれた件、ラートさんにも後で説明しておかないと。


「死を偽装する方法を見つける。交国の外に逃げる方法を見つける。その後のことは……まあ、とりあえず逃げた後に考えても遅くないはずだ」


「……はい」


「ある程度の目星は、つけた方がいいかもだけどな」


 脱走成功がゴールじゃない。


 その後も、子供達の人生は続いていく。


 子供達の安全が完全に確保されるまで……頑張らないと。命がけで。


「脱走するなら、戦闘のドサクサに紛れるのがいいと思うんですけど――」


「例えば、タルタリカに食われた事にする……とか?」


 私達は休暇を終えたらネウロンに戻る。


 そして、再びタルタリカと戦う日々に戻る。


 タルタリカは人間や天使の兵士と違って、言葉が通じない。交渉は通じないけど、交国軍もタルタリカに尋問して情報を引き出す事も出来ない。


 いつもは怖いタルタリカも、今回は頼りになるはず。


「けど、ネウロンで逃げたら詰むぞ。ネウロンには未だ沢山のタルタリカがウヨウヨしているんだ。装備無しで逃げ続けるのは不可能だ」


「例えば機兵を奪取できても、偵察衛星で発見されちゃいますかね……」


「オレやアルなら混沌機関で機兵が作れるけど、それも見つかるよな……?」


 フェルグス君の言葉に「多分ね」と返す。


 機兵を作ったところで、逆に見つかりやすくなるはず。


「でも……死を偽装するなら、ネウロンの方がやりやすいはずです」


 ネウロンならタルタリカを偽装に使える。


 巫術師による機兵運用実験をしているから、子供達は船で待機しているけど……そこは「流体甲冑のテストもしたいので~……」と誤魔化して出撃できるはず。


 子供達が死んだ事になったら、星屑隊の皆さんも心配するだろうけど……。


 バレットさんやレンズ軍曹さんが……必死に探しに来るかもしれない。子供達が死んだはずないって、そう信じながら……。


 それでも、ネウロンなら……逃げやすいはず。


 問題は逃げた後。


 逃げた後もタルタリカという驚異がウジャウジャいる。


 そもそも、逃げて界外にどうやって逃れるか――。


「オレの巫術なら方舟も奪える。テキトーな方舟を盗むのは?」


「方舟がなくなったら、交国も警戒するはず。方舟を追ってきて、私達が死を偽装した事もバレちゃうかも」


「あ、そっか……。混沌の海を爆弾で荒らして、それで死んだ事にするのは?」


「上手くいけば、それもアリだけど――」


「さすがにやめとけ。混沌の海で上手くやるのは、ほぼ不可能だよ」


 ラートさんはそう言い、止めてきた。


 実際、その言葉は正しい。混沌の海はマッチの火にすら反応し、殺到してくる。爆弾で意図的に海を荒らし、それに紛れて逃げるのは非常に難しい。


 方舟があったとしても、荒れた混沌に押しつぶされ、圧壊する可能性がある。素人の私達にそういう偽装は……ハードルが高すぎる。


「ネウロンで逃げて、どっかで方舟作れねえの? タルタリカも交国軍もあんま来ない場所で……隠れて方舟作って、それでコソコソ逃げれば……」


「うーん……」


「ヴィオラ姉なら方舟ぐらい作れるんじゃね?」


「カレー作るのとはワケが違うんだぞ」


 フェルグス君の発言を聞いたラートさんが、フェルグス君を肘で軽く突きつつそう言った。呆れ顔でそう言った。


「方舟には混沌機関が必要だ。混沌機関は大半の人類国家が自力で作れないんだ」


「あれ? でもヴィオラ姉って確か……混沌機関イジれるだろ?」


「そりゃあ……あくまで整備知識持ってるだけだろ? 作るのはさすがに――」


「多分、作れます」


「なっ? さすがに作れな――作れるのかよっ……!?」


 前は無理だった。


 けど、逃げる方法を考えている時……頭の中にジンワリと湧き出してきた。


 混沌機関の作り方。それを理解(・・)した。


 ヤドリギの作り方を知った時と、似た感覚だった。


 思い出した……と、言うべきなのかな?


「作成の知識はあります。ですが、設備や材料がありません。設備に関してはアテがありますけど……それは交国軍の管理下にある場所なので……」


「まあ、そうだよなぁ……。作れるだけでかなりスゴいけど」


「ネウロンのどこかに、交国軍すら知らない秘密の地下造船所があって……そこに都合よく混沌機関の材料が無いと無理かな……」


「そっかぁ……」


「いや、でも良い情報が共有できた。フェルグス、その調子で色々言ってくれ」


「んだよっ、オレを慰めてるつもりか~?」


 ラートさんとフェルグス君がじゃれるのを見つつ、考える。


 秘密の地下造船所。


 ひょっとしたら……ある可能性も、あるかもしれない。


 ラプラスさんの話だと、ネウロンには魔神がいた。


 ネウロンでは<叡智神>と呼ばれる<真白の魔神>がいた。


 真白の魔神がネウロンにいた当時、どこかに基地なり造船所を作っていてもおかしくない……はず。ネウロン人より先進的な技術を持っていたはずだし。


 ああ、でも……1000年前にネウロン出て行ったんだし……仮に都合のいい施設が隠されていても、もう使えなくなってるよね……?


「…………」


 真白の魔神の使徒と思われる存在。


 羊飼いなら、何か知っていたのかな……?


 あの人は混沌の海で死んじゃったはずだけど……。というか私が殺して……。


「あっ、でも、混沌機関作れても海門(ゲート)はどうするよ?」


「海門の制御装置も作れます」


「お前、マジで何でも作れるな……」


「ただ、そっちも材料の問題が……」


 方舟ほどハードルの高いモノじゃないけど、やっぱり材料問題がある。


 工具や設備は、どこかで混沌機関を確保できたら……流体装甲を使って代用する事もできる。巫術師の皆の力を借りたら、そこはクリアできるはず。


 でも、流体装甲じゃ全ての代用はできない。


 流体装甲だけじゃ全ては解決できない。


「死を偽装したうえで、密航した方がまだ現実的かな……? ただ、密航するのも簡単ではありませんし……」


巫術師(おれたち)が、途中で方舟奪うのはダメなの?」


「ダメではないけど……。奪った時点で事件になっちゃうから、交国が黙ってないと思う。追跡が怖いかな~……」


 正体不明のまま逃げ切れればいいけど、強奪事件を起こす時点でリスクがある。


 ひっそりこっそり逃げるのがベスト。


 言うは易しだけどね……。


 脱走は重大な罪。大きな事である以上……多少のリスクは、覚悟する必要がある。けど、子供達を危険に晒すのは……。


「……密航なら、いっそのこと隊長達に相談して……」


「さ、さすがに手伝ってくれないでしょう……」


 隊長さん達は何だかんだで優しいけど、脱走を手伝ってくれるとは思えない。


 バレたら脱走の協力者として裁かれる。隊長さん達には何の利益もない。


「ただなぁ……俺らがコソコソしているのは隊長達にもバレているんだ。これからどうすればいいかの相談ぐらいは……してみても……」


「オレも、相談(それ)いいと思う。副長とかに言ったらオレ達叱られるだろうけど……それでも『じゃあ、どうすればいいか?』の助言くれるかもだぜ?」


「私は反対かな……」


 脱走の相談した時点で、さらに警戒されると思う。


 本当にどうしようもない時は相談するのもアリ……かもしれない。


 あくまで私からの相談。責任は私だけが取る形で。


「……ネウロンへの帰路で逃げるのは、どうでしょうか?」


「うーん……。まあそれならネウロンからの界外脱出の手間は省けるな」


「タルタリカを使った死の偽装は出来ませんが、混沌の海は利用できるかと」


 海難事故で行方不明になれば、交国軍も私達を探さないはず。


 混沌の海での捜索活動はかなり難しいから、上手く行方をくらませれば追跡もされない。……と、思う。


「混沌の海で意図的に事故を起こして、その隙に乗じて行方不明になるんです」


「いや、だからそりゃ危ないって……」


 ラートさんが心配そうな顔でそう言った。


「事故起こすのは不可能じゃない。例えば、海で爆発物を弾けさせれば近海が一気に荒れるからな。けど、それやったら、お前らも逃げるの難しいだろ」


「うーん……それはそうですけど……」


「星屑隊だって壊滅しちゃうぜ。混沌の海に押しつぶされてさ」


 ラートさんは軽く右手を上げつつ、「それはさすがに勘弁な」と言った。


 私も星屑隊の皆さんに迷惑かけたくない。


 3人でその後も提案しあったけど、妙案は出なかった。


 ただ、「脱走」の方向で考えていく事になった。


 ……他に手はない。交国と戦っても勝てっこないんだから。


 交国に従順になったところで、報われるとも思えない。


 となると、もう脱走しか……。


「4人でしっかり考えよう。大丈夫、これからはフェルグスにも頼れるしな」


 ラートさんが笑みを浮かべ、前向きな事を言ってくれた。


 その通りですね、と言って一緒に笑う。


 フェルグス君も「任せろ」と言って、大げさに胸を張ってくれた。


「けど、ラートはいつ下りてもいいからな。もちろん、ヴィオラ姉も」


 胸を張っていたフェルグス君が、私達を交互に見つめた。


「ラートは交国に家族がいるし、ヴィオラ姉は……そもそも巫術師じゃない」


「「…………」」


「2人共、オレ達のために危ない橋を渡る必要ないんだ。だから――」


「嫌がられても手伝うぜ、オレは」


「私も。ついていくよ、どこまでも」


 私はフェルグス君とロイさん、マウさんに命を救われた。


 そして、ロイさん達に頼まれた。フェルグス君達の事を。


 ……どうせ私は行く当てもないしね。


「じゃあ、まだ頼らせてもらうけど……」


 フェルグス君は困り顔を浮かべつつ、言葉を続けた。


「ロッカとグローニャも一緒に逃げるって事でいいんだよな?」


「私はそのつもり。2人も、交国にいたらきっと危ない」


 2人の家族に関しては、まだ安否を確かめる材料がない。


 手紙は出せるけど、フェルグス君達みたいに偽装されている可能性もある。


 特別行動兵として戦わされている以上、とりあえずは逃がした方がいいと思う。


 私達の死さえ偽装すれば……家族も……守れるはず。


「ただ、とりあえず……この話は私達だけに留めた方がいいかな? グローニャちゃんはうっかり言っちゃいそうだし。ロッカ君も不必要に心配させたくない」


「そっか。まあ、2人ならわかってくれると思うけどなー……」


「グローニャは『レンズちゃん離れたくないっ』って言うかもだけどな」


「えっ、あの2人、そこまで仲良しになってたのか……?」


 とりあえずは私達だけの話に留める。


 もし、バレた時も……ロッカ君とグローニャちゃんは責任を問われないように。


 相談するのは、もうちょっと目処が立ってからかな。


「2人がいてくれて良かった。……兄弟(おれたち)だけじゃ、危なかった」


 フェルグス君は再び私達の顔を見てきた。そして微笑んだ。


「2人がいてくれるから、『まだ大丈夫かも』って信じられる」


「フェルグス君……」


「父ちゃんと母ちゃんが死んでいたとしても……希望は、まだある」


 フェルグス君がベッドに視線を移した。


 そこで眠っている希望(おとうと)を、優しい目で見つめてる。


「…………」


 この子達を守りたい。


 どんな手を使ってでも……私の命を使ってでも……守らなきゃ。




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:弟が大好きなフェルグス


 アルはずっと、1人で頑張ってきた。


 途中でラートとヴィオラ姉も助けてくれたけど……1人で抱え込んでいた。


 きっとつらかったはずだ。


 生き残ったことを負い目に思って、苦しんでいたはずだ。


 それなのに、今も生きてくれている。今も戦っている。


 強い奴だ。強くなったよ、アルは。


 昔は……ずっと、オレの背中に隠れていたのに……。


 いつの間にか、自分だけで歩き始めたんだな。


 もうオレがいなくなっても大丈夫なぐらい……強くなったんだなぁ。


 まだ不安でいっぱいだけど、少しだけ安心した。


 オレだけ地獄(バッカス)に行ったとしても、アルはきっと大丈夫だ。


 1人でも戦えるし、1人じゃない。


 ヴィオラ姉とラートがいる。


 ロッカとグローニャもいる。


 だからもう、大丈夫。
























■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:憲兵


「…………」


 部屋にいるのは4人。


 ラート、ヴァイオレットさん、フェルグス君、スアルタウ君。


 カトー特佐を「師匠」と呼ぶ少年と、ラートが密談している。


 ラートも彼らの協力者。


「キミは、そういう男だよな」


 残念だよ。


 交国軍人としては、とても残念だ。





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