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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
220/875

腐ったリンゴ



■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:狂犬・フェルグス


「に、にいちゃん……」


 アルが1人で部屋にやってきた。 


 入れてやろうとしたけど――。


『待て』


 何故かエレインが止めてきた。


『今からしばらく、私の声の返事をするな』


「はぁ……?」


『だから返事をするな。手振り、もしくは文字を使ってくれ』


 変な事を口走り、変なことをさせてから(・・・・・)、アルを部屋に入れる許可を出してきた。しかも、アルと喋る場所まで誘導してきた。


 よくわからん……と思いつつ、アルに一応謝っておく。


 悪いのはエレインだけど、部屋に入れるの遅れて――。


「って……お、お前……どうしたんだよ……」


 アルは泣きべそをかいていた。


 泣きつつ、1枚の紙を見せてきた。


 印刷した手紙。父ちゃんと母ちゃんから送られてきた返事。


 アルはそれを見せつつ、オレに語りかけてきた。


「お……おかしいの。全部……」


「…………」


「お父さんとお母さん、ボクを迎えに来た時に……撃たれてたの……」


「…………」


「でも、ボク、2人を見捨てて……逃げて……」


 理解が追いつかない。


 手紙に書かれたピッピの件。死んだはずのピッピと「再会できる」と呑気に書いている父ちゃんと母ちゃんの事。その父ちゃん達が撃たれたって話。


 アルを探しに行って、そこで交国軍に襲われて――。


「2人とも、血……流してて……。ボク、2人の魂が消えるの……観て……」


「…………」


「ごめんなさい。逃げて、ごめんなさい……。ボクの、所為で……」


「…………」


「ずっと、ヒミツにしてて…………。ごっ……ごめんな、さ…………」


 アルが泣いている。


 ワケわかんねえこと言いながら、泣いている。


 その話、ずっとオレには黙ってたんだな。


 ヴィオラ姉や交国軍人(ラート)には話しておいて、オレには黙ってたんだな。


 何でだよ。


 何で、そんな大事なこと……肝心なこと……ずっと黙ってたんだよ。


 兄貴(オレ)が……頼りないからか?




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


「……話したいことがある」


 泣きじゃくるアルの手を引っ張り、フェルグスがやってきた。


 アルを待っていた俺とヴィオラのところに、2人がやってきた。


 2人に連れられ、フェルグスの部屋に向かった。


 フェルグスは先にヴィオラを部屋に入れ、紙を手渡して何か頼んだようだった。


 その紙を受け取ったヴィオラはギョッとした様子だったが、硬い表情を浮かべたまま頷き、直ぐに動き出した。


 ヴィオラが何かしているうちに、フェルグスが俺に近づいてきた。


「…………」


 フェルグスは印刷された手紙を俺に突き出しつつ、「全部聞いた」と言った。


 硬い表情でそう言って――。


「ぁ…………ありがと……」


「えっ……?」


 フェルグスは、何故か俺に礼を言ってきた。


 俺に対してキレず、礼を言ってきた。泣きそうな表情で。


「オレの代わりに……。アルを、助けてくれて……ありがと……」




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:弟が大好きなフェルグス


 オレは、バカだ。


 大バカだ。


 アルは、ずっと1人で苦しんでいた。


 すっげーつらいことを……父ちゃんと母ちゃんのこと、1人で抱え込んでいた。


 つらいことだから家族のオレにすら言えず、1人で抱え込んでいた。


 そんなアルを、助けてくれる奴がいた。


 ヴィオラ姉と、ラートがいてくれたから……アルは抱え込まずに済んだ。


 今でもつらいままだろうけど、それでも……2人がいてくれたから……。


「アルも、ごめん。……オレのこと考えて、ヒミツにしててくれたんだよな?」


「違っ……。ぼ、ボクっ……に、にいちゃんに、きらわれたく、なくてっ……! 2人のこと、見捨てて……逃げたからっ……!」


「お前は見捨ててないっ。逃げてないっ……! ずっと、戦ってたんだ」


 1人で抱え込んで、ずっと戦っていたんだ。


 確かに、急に言われたらオレも……戸惑ったりしたかもしれない。というか、今でも信じられない。信じたくない話だ。


 いきなり打ち明けられていたら、多分きっと、オレは壊れてた。


 どうすればいいのかわからなくなって……絶対に壊れてた。


 いまはヴィオラ姉達がいるし……星屑隊みたいな……少しは信用できる奴らもいる。副長みたいに厳しいけど、なんだかんだで優しい大人が傍にいてくれる。


「オレがお前の立場でも……そんな、簡単に言える話じゃねえよっ」


「でも、でもっ……」


「お前は悪くない。悪いのは兄ちゃんだ。オレが……倒れたりせず、父ちゃん達と一緒にいたら……巫術で、2人のこと守れたかもなのにっ……」


「に、にいちゃんは悪くないもんっ……!」


「じゃあ、お前だって悪くねえよ。悪いのは……交国軍人だっ」


 母ちゃん達を襲ったのは、交国の奴ら。


 悪いのは交国なんだ。


 また泣き出したアルを、ギュッと抱きしめる。


 今度こそちゃんと、傍にいれるように。


「け、けど……お前まで、悪いって意味じゃないからっ……」


 ラートを見上げ、そう言う。


 悪いのは交国だ。母ちゃん達を撃った奴らだ。


 けど、こいつは違う。


 交国の人間だからって、全員が悪いわけじゃない。


 ラートは味方なんだ。交国にも優しい奴はいる。


 ラートは……ずっと……ずっと、オレ達の味方でいてくれたんだ。


 それなのにオレは、ガキっぽい事ばっかりして――。


「もし、アルじゃなくてオレが父ちゃん達の傍にいても……多分、守れなかった。それどころか、多分きっと、無駄死にしてた……」


 父ちゃん達が必死に守ってくれた命を、無駄遣いしていたと思う。


 オレは……よく考えずに行動すること、結構あるし……。


「つーか、誰でも無理だろ……! アルと同じ立場に置かれて、皆守るって……。そんなの、師匠みたいな神器使いじゃねえと出来ねえよっ……」


 オレ達はガキだ。巫術が使えるだけのガキだ。


 師匠みたいな勇者(ヒーロー)には、簡単にはなれねえよ。


 ああなりたいと思うけど、そんな簡単には……。


「アル。お前は何にも悪くないんだ」


 父ちゃんと母ちゃんも、絶対お前を責めないはずだ。


 2人は絶対、どんな時もお前を責めたりしない。


 むしろホッとしてるはずだ。


 立派な大人で、オレ達の親だもん……。


「お前は悪くないのに、気づいてやれなくてごめん……」


「ぅ…………うぅぅっ……!」


「あの時、一緒にいてやれなくてごめん……」


 オレが倒れてなきゃ、父ちゃんと母ちゃんと一緒にお前のとこに行けたはずだ。


 それでも何も変わらなかったかもしれない。


 オレは……弱っちい。口ばっかりのガキだ……。


 でも、それでも――――


「いっしょに、いたら……。お前だけにっ……背負わせずに済んだのに……!」


 お前だけ、苦しい目にあわせずに済んだ。


 それなのに、オレは……オレはっ……!


 アルの兄貴なのに、オレはホント……大バカだ!


「ごめんっ……ごめんなぁっ……! 肝心な時、いっしょにいられなくて……!」


 アルの涙声が聞こえる。


 にいちゃんはわるくないっ、と言っている。


 けど、悪いんだよ。オレは悪いやつなんだ。


 大事な弟を、こんな目にあわせて――。


「ホントっ……ごめんなぁっ……!」


 傍にいてやれなかった。


 気づいてやれなかった。


 一緒に背負ってやれなかった。


 自分のことばっかり考えていた。


 オレが周りからどう思われるかとか、ヴィオラ姉にどう思われるとか……。


 そんなこと、アルの苦しみに比べたらどうでも良い話だったのに――。


「っ…………」


 謝りたくても、声が上手くでなかった。


 代わりにアルを抱きしめる。


 こんな……弱っちい兄貴だから、アルも頼れなかったんだ……。


 オレが悪い。……せめてウジウジ悩まず、気づいてやるべきだったんだ。


 自分じゃなくて、もっとアルを見ておけば……こんな事には……。




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


「……ホントにごめん」


「あ、謝るなよ。お前も悪くないんだよっ……」


 泣き疲れて眠っちまったアルをベッドで寝かせる。


 寝かせていると、フェルグスが深々と頭を下げてきた。


 泣き腫らした顔が痛々しくて、もっと何か言ってやりたくなる。


 けど……上手い言葉は出てこなかった。


「ラートは、アルやヴィオラ姉だけじゃなくて……オレも守ってくれてたのに……。オレは、オレのことばっかりで……」


「そんな事ない。お前は周りの皆を守っただろ」


 繊三号での戦いで、フェルグスは最初から最後まで全力で戦っていた。


 コイツの力がなけりゃ、俺達はきっと――。


「ラートやヴィオラ姉みたいに、ちゃんと守れてない……」


「……俺達だって、そうさ。まだお前らを守れてないんだ」


 俺達は未だ、闇の中にいる。


 どこに向かえばいいのかすらわからない。


 でも、希望は確かにある。


 潰えていった希望もあるが、新しい希望もある。


「俺はこれからもお前達を守るために頑張る。協力してくれ、フェルグス」


 フェルグスの手を取り、頼む。


 フェルグスは頷いて、俺の手をギュッと握ってくれた。


 交国(おれたち)の所為で、コイツらの人生はメチャクチャになった。


 けど、それでも手を握ってくれた。……まだ希望はある。


「頑張るけど……ごめんな。お前ら家族がこんな事になった原因は、やっぱり交国だ。俺の母国で……俺も軍人として交国の蛮行に加担してる」


「お前は悪くねえよ」


 フェルグスはそう言い、唇をキュッと結んで俺を見つめてきた。


 そしてヴィオラに同意を求めた。


 ヴィオラも、フェルグスと同意見だと言ってくれた。


 俺達はちっぽけな存在だ。


 けど、手を取り合うことは出来る。


 1人1人はちっぽけでも……きっと、この闇に立ち向かえるはずだ。


「ところで……この話、他の奴らは……」


「……一応、伏せてある」


 隊長や副長は、俺達が何か調べているのを察している。


 そして、「藪をつつくな」と警告している。


「色々と察している人もいるみたいだが、アルの両親の件に関しては……さすがに知られていない。メチャクチャな問題だから……言っていいものか……」


「副長達は信用できる大人だと思うけど――」


 フェルグスは困り顔を浮かべ、「これ話したら、お前みたいに巻き込んじまうよな……」とこぼした。


 ヴィオラはフェルグスの言葉に同意しつつ、「全員が全員、信用できるとは限らない」と言葉を続けた。


「星屑隊の人達は信じたいけど……他の交国軍人さんは、さすがに危険。特に交国軍事委員会の人には……私達が掴んでいる情報を知られちゃダメ」


「知られたら、殺される?」


 フェルグスの問いに関し、ヴィオラは答えなかった。


 表情を強ばらせ、黙っていた。


 ただ、それでもフェルグスには伝わったらしい。小さく嘆息している。


「……俺は……」


 フェルグスとヴィオラに向け、語りかける。


「俺はずっと……交国は『人類のために戦う正義の国家』だと思っていた」


「「…………」」


「けど、お前らと出会って、『純粋な正義ではない』と思うようになった」


 コイツらは交国に苦しめられている。


 傍にいるうちに、それが理解できた。


 俺がバカで、交国を盲信しすぎていたって事も――。


「交国軍にも、隊長や副長……バレットやレンズ、それにパイプや他の星屑隊員みたいな良い奴らもいる。けど……交国は……多分どこかが腐っているんだ」


 どこかに『腐ったリンゴ』が混ざっている。


 その腐敗は、1カ所に留まらず、伝染している。


 ひょっとしたら、交国の中枢はもう……。


「どこまで腐っているか、正確なことは俺もわからん。だから……いま、誰に頼ればいいかもわからないんだ」


「…………。オレは、これからどうすればいい?」


 フェルグスが俺とヴィオラの顔を交互に見てきた。


 目の奥に強い意志を感じる。


 けど、少し不安げな感情も混ざっている。そう見えた。


「こういう場合って、どうすりゃ……いいんだ?」


「それは……」


「交国と戦っても、オレ達だけで勝てるとは思えない。けど、これって交国の誰かに訴えても何とかなる問題じゃねえよな……?」


「実は、カトー特佐にある程度相談してたんだ」


「師匠に……!?」


 驚くフェルグスに、情報を共有しておく。


 特佐に全てを話したわけではない。


 というかそもそも、特佐の方からネウロンの窮状に気づいてくれたんだ。


「特佐は玉帝に謁見し、ネウロンの事を『何とかしてください』と言ってくれるはずだった。それなのに……何故か、捕まっちまった」


「ひょっとして、師匠はオレ達(ネウロン)の所為で……?」


「いや、さすがにそうじゃない……はずだ」


 そうだとしたら、俺達も今頃無事では済んでいない……と、思う。


 交国側からのアプローチは、あれきり無い。黒水守の聴取以降は何もない。


 交国軍事委員会だって、俺達の事は気にしていないはずだ。特別行動兵は委員会の監督下にあるが……そこまで注視している様子はない。


 カトー特佐は、俺達にとって大きな希望だった。


 だが、それが交国という巨人に握りつぶされた以上は……他の手を考えないと。


「交国軍の言う通りに戦い続けて……タルタリカを全て倒しても、オレ達は解放されない可能性高いんだよな? 多分……」


「……そうかもしれない。交国は嘘をついている。嘘を重ねてもおかしくない」


 ヴィオラは左手をギュッと握りしめつつ、表情を歪めている。


 そして、「信用できないよ。交国という国は」と言った。


 悔しいが……今の俺は同意見だ。


 悔しいし、恥ずかしいよ……。交国の人間として……。


「でも、それでも……役に立ち続ければ、命だけは……取られないのかな?」


「わからん。だが、下手したらネウロン以外の戦線に投入される可能性がある」


 ずっと星屑隊(おれたち)で守れるとは限らない。


 ネウロンでの作戦行動が終われば、離ればなれになる可能性が高い。


 ヤドリギと巫術による機兵運用が認められても、さらに酷使されるだけかもしれない。……いまの交国は信用できない。


 いや、ひょっとしたら……ずっと前からもう、交国は……。


「このままじゃ絶対にダメ。交国の言いなりになって戦い続けても……都合よく使われて、そのうち……もっと酷いことになるだけ」


 ヴィオラはフェルグスの肩に触りつつ、諭すように言葉を続けた。


「交国の理不尽に、抗わないと」


「け、けど……ヴィオラ姉、交国はメチャクチャ強いだろ……」


「うん。だから、死んで逃げよう(・・・・・・・)





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