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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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うそと嘘とウソ



■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


「返事来るの、遅かったな……」


「ネウロン出る前に出したものだから、返信先がネウロンになっていたみたいで……。到着が遅れていたみたいですね」


 ラートさん達の話を聞きつつ印刷してもらった電子手紙(メール)を手に、ヴィオラ姉ちゃんとグローニャちゃんの部屋に行く。


 ラートさんとヴィオラ姉ちゃんと一緒に、改めて手紙を見始めた。


 ボクは手紙にピッピのことを書いた。


 ネウロンで魔物事件が起こった時に飛んで逃げちゃったピッピ、元気にしてるかな? もう一度会えるかな? という内容(うそ)を書いた。


 返事の手紙には「ピッピはきっと無事」「鳥なんだからタルタリカに捕まるはずがない」「きっと元気に生きていて、いつか必ず再会できる」と書かれていた。


「再会できるから、交国の言う事を聞いて必死に戦いなさいって……」


「「…………」」


「ピッピが死んでること……お父さんもお母さんも知ってるはずなのに……」


 ピッピが死んだ日。ボクとにいちゃんは巫術師になった。


 ボク達家族にとって大変な事だったから……お父さんとお母さんが忘れるわけない。2人共忘れちゃうなんて、絶対にない。


「じゃ、じゃあ……誰なんだ? この手紙を書いてるやつは……」


 ラートさんもわからないみたいで、戸惑っている。


 すると、ヴィオラ姉ちゃんが表情を強ばらせながら口を開いた。


「交国でしょう。電子手紙の送受信は交国軍管理下のシステムを使っています。正確には軍事委員会……だったと思いますけど……とにかく、交国です」


「は、はぁ……? どういう事だよ……?」


「手紙の内容を考える担当者がいるか……もしくは文面を考えるAIを交国が管理しているんだと思います。だから、家族だけが知っている事を把握できていない」


 だから鎌かけ(うそ)に引っかかる。


 ボク達は最初から、お父さん達と手紙のやりとり……出来てなかった。


 ウソの手紙を一生懸命読んでただけ。


 ラートさんは「そんな馬鹿な」と言い、うめき、ベッドにドスンと座り込んだ。腰が抜けちゃったみたいに座り込んだ。


「…………」


 お父さんとお母さんと会えなくなった日。


 弱っちいボクが足手まといになって、2人が撃たれた日。


 あの時、観たものを思い出す。


 2人の魂が消えていく瞬間。……見間違いじゃなかったんだ。


 先に、お母さんの魂が消えていった。


 地面に向けて落ちていくように、すーっ……と消えていった。


 お父さんの魂も、その傍で消えていった。


 お父さんの魂は、ドロドロに溶けるみたいに――。


「ぼ、ボクが……にいちゃんと、はぐれてなかったら……」


「「…………」」


「ボクの、所為で……」


「おっ、お前の所為じゃないっ……!」


「そうだよ。アル君は何も悪くない。悪いのはっ……」


 ヴィオラ姉ちゃんがボクの両肩を持って、何か言おうとした。


 でも、言葉を詰まらせていた。


 ……ヴィオラ姉ちゃん達の顔が、よく見えない。


 何もかも歪んで、よく……見えない。




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


 手紙を書いているのは、ロイさん達じゃない。


 交国はそれを知っているのに隠している。騙している。


 騙して、子供達を戦わせている。


 そこまでするの? 何でそんな事を? 疑問と共にフツフツと怒りがこみ上げてくる。……交国がしている事は、明らかにおかしい。


「アル君……」


 泣いているアル君の背を撫でる。


 ラートさんも何を言ったらいいかわからない様子で――それでも泣いているアル君を抱き寄せてくれている。


 ラートさんに「交国はなぜ、こんなことを?」と聞いても答えはわからないだろう。ラートさんは私以上に戸惑っている様子だった。


「…………」


 手紙は嘘だった。


 そして、アル君は両親の行く先を観てしまっていた。


 巫術の眼で観た両親の魂。それが消えていく瞬間。


 多分、それは見間違いじゃなかった。


 おそらく……ロイさんとマウさんはもう……。


「……これから、どうすればいいと思う……?」


 泣いているアル君をラートさんに抱っこしてもらい、あやしてもらっていると……ラートさんがそんなことを聞いてきた。


「ぐ、軍事委員会に問い合わせるのは……ダメなんだよな?」


「それが一番マズいです。電子手紙は軍事委員会管理ですから……」


 少なくとも軍事委員会は真実を知っている。


 全ての軍事委員会の人が知っているとは限らないけど、手紙のやりとりに使用されているのが交国のシステムである以上、担当者や上層部は知っているはず。


 交国政府も真っ黒だろう。


 軍事委員会の独断で動いたところで、委員会には何の利益も無いはず。となると交国政府の指示で……玉帝の指示で動いているはず。


「カトー特佐にも頼れなくなった以上……」


「犬塚特佐は?」


 ラートさんが黒水の港で会った特佐さんの名前を出す。


 ラートさんは、あの人と親しい様子だった。


 だからこそ、「あの人なら力になってくれる」と言ったけど――。


「ゲットーの反乱を鎮圧し、カトー特佐を捕まえたのは犬塚特佐ですよ……」


「あっ……」


「カトー特佐の緊急逮捕そのものが怪しい以上、犬塚特佐もそれに深く関与しているはずです。……あの方は<玉帝の子>なんですよね?」


 国のトップと深い繋がりがある以上、信用できるとは思えない。


 外部から交国にスカウトされてきたカトー特佐とは、ワケが違う。


 そもそも私は犬塚特佐の人格に疑問を持っている。理由があったとしても、子供をあんな扱いする人が……アル君達を助けてくれるとは思えない。


「私達に出来るのは2つだけです」


「…………」


「何も知らないフリをして戦い続けるか……逃げるか……」


「脱走は不可能だ」


 ラートさんが硬い表情で首を横に振る。


 交国軍は強く、脱走兵にも容赦がない。正規の軍人が逃げただけでも銃殺されるのに、特別行動兵が逃げたとなると――。


「交国領は広い。俺達だけの力で逃げられるはずがない」


「……協力は、してくれるんですか?」


「当たり前だろ……! けど、脱走はさすがにムリだっ」


「じゃあ、どうすればいいんですか? 何も知らないまま――」


 泣いているアル君を見て、ひとまず落ち着く。


「……このまま戦い続けたとして、交国は約束を守ってくれるんですか……? タルタリカを殲滅したら、子供達を解放してくれるのは……嘘かもしれません」


「それは……」


「元々、交国のことは信用してません。けど、今回の事で決定的に……」


 既に騙されている以上、さらに騙される可能性はある。


 タルタリカを殲滅した後も、アレコレと理由をつけて他の戦場に派遣される可能性もある。もしくは、酷い実験に参加させられるとか……。


 そもそも、巫術師を特別行動兵にしたことが実験の一環とか――。


「巫術師による機兵運用実験をこのまま続けても、その成果に見合う待遇を約束してくれるとは……思えません。交国は、酷い国です……」


「…………すまん」


 ネウロンに戻れば、また戦いの日々が戻ってくる。


 ただ、おそらく星屑隊の人達と一緒に戦えるはず。


 星屑隊の人達は軍規に縛られているけど、私達が滅多なことをしない限りは「戦友」として戦ってくれるはず。……子供達の事を考えてくれるはず。


 マウさん達は……ひょっとしたら、まだ生きているかもしれない。


 遺体は見つかっていない。


 ネウロンで戦いつつ、ネウロンの街を見て回っていれば、どこかに捕らえられているのを見つけられる……かもしれない。


 ただ、アル君が観たものを考えると……もう亡くなっている可能性が高い。


 こんな手紙もある以上、無事である可能性はもう……。


「……アル達の巫術(ちから)なら、方舟を奪うのも可能のはずだ」


 ラートさんが口を開く。


 アル君が落っこちないよう、ギュッと抱きしめたまま――。


「黒水は大きな港だ。毎日沢山の方舟がやってくる。それを奪うのは不可能じゃないが……奪った後が問題だ」


「……逃げ切れませんか?」


「無理だ。交国本土防衛を行っている艦隊も動くだろうし……ここは交国の中枢だ。交国領の外に逃れるのも、交国領のどこかに潜むのも不可能だろう」


「…………」


「それよりもまだ、ネウロンへの帰りの便を奪うか……。ネウロンで方舟を奪うか。その方がまだ可能性あるけど……」


「帰りの便には、隊長さん達も乗ってます」


「だな。……隊長達を説得できない限りは、隊長達に止められるはずだ」


 隊長さんは真面目な軍人さん。脱走を許してくれるとは思えない。


「…………」


 携帯端末を開き、一般公開されている交国領の地図を見る。


 交国領は広大。その「保護下」に置かれているネウロンは交国領の端っこにある世界だけど……ネウロンの先には何もない。何も無い<絶海>があるだけ。


 ネウロンからまともな航路で交国領外に逃げようとしたら……交国領を通るのは避けられない。真っ暗の混沌の海を絶海経由で逃げるのは素人の私達には無理。


「隊長は、俺達の動きを警戒している。巫術で方舟を奪われる可能性も一応警戒しているはずだ。一度奪えたとしても、本体を締め上げられたら……」


 現状、脱走という選択肢はあまり現実的じゃない。


 そもそも、逃げたところでどこに行くのか。


 交国領の外に逃げたところで、救われるとは限らない。


 交国は人類連盟の常任理事国。人類国家の中でも特に力を持っているから、他国に働きかけ、脱走兵である私達を捕まえさせるかもしれない。


 誰もいない辺境の世界で細々と暮らすのも……現実的じゃない。未開の地で子供達を守り続けるのは……多分、無理だと思う。


 飢えや病気から、あの子達を守り続けるなんて……とても……。


 暗い考えばかりが浮かんでくる。


 身1つで混沌の海を漂っている気分になる。


 希望はあった。カトー特佐が玉帝に掛け合うという希望があった。


 けど、それは潰された。


 カトー特佐は神器使いなのに……替えの効かない人材なのに潰された。


 近日中に処刑される事が決まっている。


「…………」


 ラートさんという希望は、まだ消えていない。


 けど、ラートさんの力だけじゃ……。




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


「アル君は……アル君は、どうしたい?」


 泣き止んだアルに対し、ヴィオラが問いかけた。


 俺もヴィオラも、どうすればいいかわからない。


 子供達を守るべきなのはわかっている。


 だが、どうやって守ればいいか――。


「にいちゃんに、言いたい」


「「…………」」


「お父さんとお母さんのこと……にいちゃんに、言わなきゃ……」


 瞳を潤ませたアルがそう言った。


「む……無理しなくていいんだぞっ……」


 両親のことを伝えるのは、とても勇気がいるはずだ。


 それに、まだ、全ての希望が潰えたわけじゃない。


 ひょ、ひょっとしたら生きているけど、手紙の代筆されてる可能性も……。


「それに、フェルグスも……なっ? いま不安定だし……」


 どんな反応されるかわからない。


 余計にこじれるかもしれない。


「とりあえず、様子見でも――」


「もう、イヤなんです」


 アルは目頭を拭い、言葉を続けた。


「もう、にいちゃんにウソつきたくないんです」




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:機械に興味津々のロッカ


 手紙の返事が来た。


 アニキが、オレに返事をくれた。


 けど――。


「…………アニキ?」


 手紙の内容がおかしい。


 誰か別の人の手紙が間違って届いたのかと思ったけど……違う。


 オレの名前も書かれている。オレの事も書かれている。


 けど、でも……アニキの返事がおかしい。


 父さんと母さんのこと――オレの所為で2人が死んだこと、まるで何もなかったかのような手紙だ。


 アニキがオレを許してくれるわけがない。


 そうだとしても、勇気を振り絞ってまた謝ろうとしたのに――。


「なんで……?」


 父さんと母さんのこと、何で他人事みたいにしてるんだ?


 ……あんなに怒ってたじゃん。




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