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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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遠隔憑依の疑似再現



■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


「ハァ~……」


 副長に「いまはフェルグスに近づくな」と命令されちまった……。


『お前は何もわかってない。……いや、無理もない話なんだが……』


 理由がわからず、戸惑ってしまう。


 いや、怒らせている原因は明らかに俺だと思うんだが……もう顔見ただけでキレられるレベルだから……どうすりゃいいのか……。


 原因は俺だと思う。


 けど、俺のどの行動があそこまで怒らせちまったのか……わからん。


 副長に「近づくな」と言われた時、アドバイスを求めたが――。


『まあ、そこまで気にするな。生死にかかわる深刻な話じゃない。……いや、難しい問題なんだが……。マジで難しいんだよ!? なんで休暇中のオレがここまでデリケートな問題に頭を悩ませなきゃいけないんだ……!?』


 いつもは飄々としている副長が、軽くキレていた。


 とりあえず俺がフェルグスに土下座します。何でもします――と言ったんだが、副長に止められた。


『フェルグスがキレてる理由を理解出来てないのに、ただ謝るだけじゃ何も意味がない。というか……お前はそこまで悪くないんだよなぁ……』


『でも、実際、俺に対してキレてるっぽいですし――』


『ややこしくなるから、とりあえずお前は距離を取れ! 頼むから』


 そう言われ、遠ざけられてしまった。


 アルはオロオロしているし、ヴィオラも頭抱えてるし……どうすりゃいいんだ。


「なあ……レンズ、俺はどうしたらいいと思う?」


「いや、何でオレに聞くんだよ」


 夜。部屋で作業中のレンズに問いかける。


 こういう事が起きていて、俺どうすりゃいいかわからねえよ――と言ったんだが、レンズは面倒くさそうに俺を見てきた。


「当事者のお前がわからねえなら、オレが知るかよ」


「まあ、そりゃそうだけどよ……」


「ガキはワケもなく情緒不安定になるもんだ。ほっとけ。時間が解決する」


「いや、それが時間は全然頼りになってないんだよ。俺、最近はフェルグスとろくに会ってなかったし……」


 フェルグスが部屋に引きこもっているから、軽く様子を見に行ったりはしたが全然会えてない。話も出来ていない。


「俺が交国軍人ってだけで、もう関係修復しようがないのかもだけど――」


「けど、同室の副長とはそんな問題になってないだろ」


「それは……副長の人徳とか?」


「それもあるかもだが、軍人である以外にも色々あるんじゃねえの?」


「……うーん」


 俺がアル達とコソコソ動いているの、そこまで気に入らねえのか。


 けど、なあ……カトー特佐が捕まっちまった以上、俺ぐらいしかアル達のために動ける人間いないし……。もう、フェルグスに説明するしかないのか?


「…………」


 レンズに対しても、全部の事情は明かせず困る。


 困り黙りつつ、レンズが集中している作業を見守る。


 こっそり、後ろから覗く。


「つーかレンズ、何してんだ? 黒水の観光名所でも調べてんの?」


「そんなのとっくの昔に調べ尽くしてるっつーの」


 レンズは端末の画面を軽く見せてくれた。


 機兵運用のシミュレーションをしているみたいだが――。


「……これ、ひょっとして巫術師と協働前提の機兵運用か?」


「ああ。アイツらの力は有用だからな。オレなりにちょくちょく考えてんの」


「ほー……」


 見ると、機兵の流体装甲で背部に砲塔を作ったり、遠隔地に作った砲塔を有線操作する運用について考えているみたいだ。


「グローニャはまだまだ未熟な兵士だけど、狙撃の才能がある。オレの機兵を任せてもいいけど、どうせなら狙撃手2人いた方がいいだろ?」


「確かに。どうせなら2人共バンバン撃てた方がいいな」


 繊三号で、グローニャは巫術とワイヤーによる遠隔操作をやっていた。


 機兵全体を常に掌握しないといけないわけじゃない。


 レンズが機兵使って狙撃しているうちに、流体装甲でグローニャ用の砲塔や狙撃銃を使って2人でバンバン撃った方が効率的かもな。


「もしくは、ロッカ辺りと相棒交代するとか?」


「は?」


「いや、パイプの機兵を使ってグローニャが狙撃したら、お前はお前で狙撃に集中できるじゃん? で、グローニャはダスト4で狙撃に集中できるだろ?」


 その方がさらに効率的かもよ? と言ってみる。


 けど、レンズはちょっとムッとした顔を浮かべ、「非効率だ」と言った。


「グローニャには確かに狙撃の才能があるが、経験が不足している。そこは狙撃手として先輩のオレが直接指導してやるべきだ。となると、同じ機兵を担当する方がいいんだよ」


「でも――」


「それに……アイツはじゃじゃ馬だからなっ! パイプの手には負えねえよっ。オレはちょっと慣れてきたしっ……!」


「ほ~ん…………」


「んだよっ! 言いたいことあるなら聞くぞ!? 喧嘩か!?」


 前とは180度違う反応に、ちょっと微笑ましくなっちまった。


 なだめ、落ち着いてもらう。


 ……ちょっと羨ましい。


 レンズはグローニャと上手くやれてるんだよなぁ……。


 それなのに、俺はフェルグスと――。


「休暇終わってネウロンに戻ったら、またアイツらと戦う事になるんだ。巫術師による機兵運用実験も続行だろ?」


「うーん……。まあ、そうだな」


「今のうちに運用方法を考えた方が、効率的だ」


 レンズはそう言い、端末を操作して「こんな考えもある」と披露してくれた。


「巫術師の魂を、弾丸に(・・・)宿らせるんだ?」


「弾丸に?」


「そう。で、その弾丸を敵に向けて放つ。弾丸越しに敵に憑依したら一撃必殺だ。タルタリカ相手には意味ないかもだが――」


「あの子達は流体も操作できるから、タルタリカにも多少効果あるかもだぞ?」


 巫術師は流体装甲を操れる。


 タルタリカは全身が流体で出来ている。流体装甲と根本的にはよく似た構造だ。流体装甲を操る感覚でタルタリカを倒す事もできるかもしれない。


「それはともかく……機兵相手なら、マジで一撃必殺の技かもな」


「相手が羊飼いみたいな巫術師じゃなければな」


「けど、弾丸に憑依してもらって放つなら、一発限りの技じゃないか?」


「いや、命中したら直ぐに再使用可能だ」


 レンズの組み立てた運用シミュレーションデータを見つつ、聞かせてもらう。


 命中後の魂の回収方法。


 高速で飛ぶ弾丸から敵に憑依する方法。


 そういうのを結構ガッツリと考えてくれたようだ。この方法なら確かに……ヤドリギさえあれば使えそうだな。


 羊飼いがやっていた遠隔憑依を、疑似再現可能かも……?


「これ、結構無法なことやってないか? 機兵戦の常識が変わるぞ」


「そんなもん、とっくに変わってる」


 レンズが俺の胸を軽く叩きつつ、言ってきた。


 お前らが模擬戦で巫術の可能性を見せた時点で、変わり始めている


 そう言ってきた。


「ただまあ、この方法は外したらキツいんだよな……。グローニャ達に頭痛の問題さえなければ、生身で機兵に搭乗できる。そしたらほぼノーリスクで『憑依弾頭』の連射が可能に…………ああ、いや、そもそも機兵に乗せるのが危ないか……」


 端末とにらめっこしつつ、真面目に考えているレンズの横顔に見入る。


 マジで前とは変わったよなぁ……。


「…………」


「まあ、仮に失敗してもドローンで中継して戻って――おい、聞いてるか?」


 レンズがムッとしつつ、オレを睨んできた。


 睨み、端末から視線を離した隙に操作をミスった。


 シミュレーションのソフトが閉じ、別窓で開いていたものがチラリと見えた。


「ん? なんだそれ?」


「あ?」


 何か、可愛らしい図が描かれている。


 これ、ひょっとしてぬいぐるみの設計図か?


 そう思い見ていると、レンズが慌てた様子でそれを隠した。


 隠し、「み、見たか!?」と問いかけてきた。


 ぬいぐるみぐらいで今頃照れるもんか?


 いや、待てよ? さっきの設計図、何かに似て――。


「……あ。いまの、動物じゃなくて人間がモデルになってなかったか?」


「い、いや、違う。そんなことはないっ!」


「頭身は可愛らしくなってたが、グローニャに似た人形じゃなかったか?」


 図星だったらしく、レンズが端末隠しながら誤魔化し始めた。


 誤魔化していたが、直ぐに観念した。いや、開き直り始めた。


「あ、アイツは可愛いものが好きだからなっ! アイツの人形とか、ついでに……ついでに! 作ってやれば、士気が上がると思って~……」


「ほ~……」


「作戦中、アイツは船で待機するけど……この人形だけ操縦席に乗せてやったら、機兵に乗ってる気分が高まるだろ!? だ、だからだよっ……!」


「ほぉ~ん……なるほどなぁ。さすがですなぁ~……」


「ああああああああああっ!! クソがっ!! 出てけっ!!」


 本日2度目の部屋からの追い出しを食らった。


 からかい過ぎたか。


「2度と来んなボケッ!」


「ぬおっ……!?」


 トドメにケツを蹴られ、その勢いで廊下の壁に激突する。


 軽く頭を打って呻いていると、風呂上がりでポカポカしているグローニャが「あっ! ラートちゃん! レンズちゃんっ!」と言いながらやってきた。


「2人で何してるのん? 新しい遊び?」


「何でもねーよ。良い子は寝てな」


「はぁ~い。おじゃましま~すっ」


「あっ、コラっ。ここはオレの部屋だぞっ!」


 グローニャは遠慮無しにレンズの部屋に入っていった。


 レンズもレンズで、「もーっ……仕方ねえなぁ……」と受け入れている。まだ濡れているグローニャの髪にタオルをかけ、拭いてやってる。


「いいなぁ……」


 第8の子との仲良し具合で、レンズに負けた気がする。


 まさか、こんな事になるなんて……模擬戦前は想像できなかったなぁ。


「あっ、ヴィオラ。グローニャならレンズに遊んでもらってるぞ」


 グローニャを追いかけ、風呂上がりのヴィオラがパタパタと走ってきた。レンズが面倒見ていることを伝えると、ヴィオラも「レンズ軍曹さんなら大丈夫ですね」と微笑み、レンズに軽く挨拶だけしている。


 俺も、ひとまず風呂に行こっかな……。


「あっ。アル~。一緒に風呂に行かねえか?」


 キョロキョロしつつ、廊下を歩いていたアルに声をかける。


「…………」


 アルは何故か青ざめていた。


 様子がおかしい。


 駆け寄り、「どうした?」と聞くと――。


「と……届いたんです。お父さんとお母さんからの……返事……」





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