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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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ほしくず



■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:狙撃手のレンズ


「おーい。副長達とどこ行くんだ?」


「ないしょっ!」


 グローニャはそう言い、副長達と朝から出かけちまった。


 オレはついて行っちゃダメらしい。


 最近はずっとベタベタとオレについてきて、「レンズちゃん! レンズちゃん!」って言ってニコニコしてたくせに……今日はダメらしい。


「まぁ…………別にいいけど。ふんっ」


 今日は一緒にぬいぐるみ作るか――とこっそり準備してたが、無駄になった。


 パイプは副長達についていったが、ラートとバレットも置いてきぼりで手持ち無沙汰の様子。久しぶりに3人で遊ぶか~……と思ったんだが――。


「…………」


 いまいち気乗りせず、1人でぬいぐるみを作ることにした。


 いいさいいさ。これがいつも通り。むしろ、あのうるさいチビがいなくて作業が捗る! アイツ、アレコレ聞いてきて、オレの作業を止めてくるもん。


 そんで、コロコロと元気に笑うんだ。


「…………。おっ? 帰ってきたか……?」


 作りかけのぬいぐるみを手に「ぼー」っとしていると、車が戻ってくる音が聞こえた。グローニャ達が帰ってきたらしい。


 出迎えてやりますか~……と出て行ってやると、グローニャは――。


「レンズちゃんはダメっ!」


「は~?」


「お部屋で良い子しててっ! メメメッ!」


「いや、どこ歩いててもオレの自由だろ……」


「メメメッ!!」


 グローニャはほっぺを「ぷくぅ!」と膨らませ、オレの手を引いて部屋まで連れてきた。そんで、「大人しくしててねっ!」なんて言って扉を閉めやがった。


 犬扱いかよ……と呆れる。


 まあいいさ。作業を再開すりゃいいだけだ。


「…………」


「ムッ! レンズちゃん! メメメメッ!」


「くっ……! さすがに巫術師相手に偵察はムズいな……!?」


 暇だから冷やかしに行ってやったが、早速グローニャに見つかった。


 仕方ないので走って逃げる。逃げても逃げても「メメメメッ!」と怒ってくるグローニャが追いかけてくる。仕方なく諦め、部屋に撤退する。


 くそー……。厨房で何かしてるっぽいが、なにしてんだ……?


「メメメメメッ!」


「くそっ! 撤退だ!」


「グローニャちゃんに勝てねえ……!」


「むぅぅぅぅぅ~~~~んっ!!」


 グローニャは他の奴らも追い回しているらしい。


 厨房に近づかないように。


 あいつが怒り、皆を追い回している声を聞いていると、苦笑しちまう。


 そのうち、今の「謎の遊び」も終わるだろ――。


「レンズちゃんっ! レンズちゃんっ!」


「んだよ~……。やっと牢屋から出ていいのか……?」


 夕方。扉を蹴破る勢いでやってきたグローニャが、ベッドに寝転がって携帯端末を触っていたオレを起こしにきた。


 ニッコニコの笑顔を浮かべ、オレの手をぐいぐい引いてくる。


 少し前まで「メメメッ!」と怒ってたくせに、今は急に引っ張り出そうとする。まったく……ガキの気分には困ったもんだ。


 そう思いつつ、手を引かれて保養所の庭に行くと――。


「おおっ……?」


 庭にはテーブルと椅子が並べられ、鍋と皿が置かれていた。


 そして、第8の面々が揃っていた。


 フェルグスの姿はないが、第8主導でこれを準備していたらしい。


 けど……こりゃあ何を準備していたんだ? 栄養補給(メシ)か? 集まった星屑隊の面々も聞かされていないらしく、不思議そうな顔をしている。


「……副長、あいつらなにやってんすか?」


「まあ見てな」


 事情を知っているらしい副長に聞いたが、笑って答えてくれなかった。


 そうこうしているうちに、グローニャがマイクを手に「おほんおほんっ!」なんて声を上げた。フェルトで作ったヒゲをつけ、何やらえらそうにしている。


『第8巫術師(ふじゅちゅし)実験部隊から、星屑隊の皆に大事なお話があるよっ! マジメに聞いてねっ! おほんっ、おほんっ!』


 グローニャはマイクを手に、オレ達に席につくよう命じてきた。


 言われた通りにすると――。


『星屑隊のみんなは、とってもがんばってるねぇ! と、グローニャたちはおもった! いっぱいグローニャたちのこと守ってくれてるねぇ! まあ、グローニャはカワイイからねっ……!』


「なに言ってんだアイツ?」


 妙なスピーチを始めたので、星屑隊の皆も笑っている。


 時折、「いいぞー!」「カワイイぞー!」とおだてる声も上がっている。


 それを聞いたグローニャは「むふぅぅぅ♪」と上機嫌になり、余計ウキウキしながら謎のスピーチを続けていった。


『みんながんばってて、グローニャたちにやさしくしてくれるから、グローニャたちはかんがえました! みんなに、お礼したいって! おほんっ!』


 グローニャは咳払いっぽいことをし、傍らに控えていたヴァイオレットを「ちょいちょい」と手招きした。


 苦笑しているヴァイオレットから何かを受け取ると、それを小さな指で持ちながらオレ達に見せつけてきた。


『だから今日は、みんなに勲章(くんしょー)を用意したよっ!』


「勲章?」


『クンショーの名前は……星屑(ほしくず)勲章だよっ!』


 どっかで見たような流れだ。


 繊三号でやった名誉オーク勲章授与式のパクリ――もとい、踏襲した勲章授与式の手筈を整えていたらしい。


『なまえ呼んだ人から来てねっ! ええっと……隊長ちゃんの名前って……? ああ、サイラス・ネジちゃんね? サイラス・ネジちゃ――!』


「グローニャちゃんっ……! 階級……!」


『おっと。サイラス・ネジ中尉(ちゅーい)っ!』


「はっ……!」


 子供のお遊びなのに、隊長はド真面目に応じ、本当の勲章授与式であるかのように振る舞った。


 言われた通りにグローニャ達の前に歩いて行き、その隊長に近づいたスアルタウが隊長に「勲章」をつけた。


 その後も順番に名前が呼ばれていき――。


『ダグラス・レンズ軍曹っ!』


「初めて階級呼びしてくれたな……。はいはい」


 苦笑しつつ、希望通りにしてやる。


 グローニャのところまで歩いていくと、グローニャは「むふぅ♪」と鼻を膨らませつつ、ちょっとエラそうに「こっちに来なさい」と言ってきた。


 グローニャ自身の手で、オレに勲章をつけてくれた。


「おっ……。これ、手作りの勲章か?」


「だよっ♪」


 勲章は貝殻で作られていた。


 こっちが手製の勲章を贈ったように、コイツらも作ってくれたらしい。


 勲章をしげしげ眺めていると、グローニャはオレに屈むよう促してきて――。


「あんねっ? レンズちゃんのクンショー、貝殻の内側にこっしょり書いてあることあるから……後でこっそり見てねっ」


「おう……?」


「他の人には、ナイショだよっ! 軍事機密(ぐんじきみちゅ)だからっ」


 内緒らしいが、マイクが音声拾っている。


 その事に苦笑しつつ席に戻ると、他の隊員が「軍曹、なんて書かれてたんですか?」なんて聞いてきた。ニヤニヤと笑いながら。


「これは軍事機密だ。言えねえな」


「え~?」


「貝殻で作られた勲章なんですか?」


「みたいだな。全員分あるみたいだ」


 貝殻の内側は見せないようにしつつ、軽く見せてやる。


 材料の正体を知ると、星屑隊の中でも心当たりのある奴がいた。どうやらグローニャ達は前からコソコソと準備を進めていたらしい。


「砂浜で材料集めからやってたみたいっスね」


「可愛いことしてくれるじゃん」


「ウチの弟でも、こんなことしてくれた事ねえぞ」


 周囲の隊員が笑みを浮かべ、言葉を交わしている。


 そして、自分達の名前が呼ばれるのを今か今かと待ち受けている。


「…………」


 皆がそわそわ待っているうちに、自分の勲章をよく見る。


 貝殻の内側をよく見ると――。


「……アイツ」


 マジで文字が書いてある。


 それをチラリとだけ見て、隠す。


 これは確かに軍事機密だ。


 他の奴には、とてもじゃないが見せられない。


 その後、勲章授与式は概ねつつがなく進んだ。


 途中、交国本土には来ていない整備長やキャスター先生の名前が間違って読まれ、グローニャが慌て、皆が笑うトラブルもあったが……つつながく進んだ。


 整備長達には後で勲章を渡す事になり、授与式はひとまず終了した。


『んじゃ、次は宴会っ! グローニャたちがもてなすよぉ~!』


 グローニャ達が各テーブルを回り、鍋の中身をよそってきた。


 その中身は――。


「カレーか?」


「そっ! グローニャ達が作ったんだよぉ~!」


 オークのオレには馴染みがない――というか、特別食べようとも追わなかった食べ物があった。馴染みのない匂いで、ちょっとだけ戸惑う。


 グローニャはエラそうに胸を張っているが、近くを通ったスアルタウが「大体、ヴィオラ姉ちゃんが作ってくれました……」と苦笑しながら教えてくれた。


 グローニャはムッとしつつ、「グローニャだって、いっぱいお手伝いしたもんっ!」と言い張っている。


「あっ! このニンジン、グローニャが型抜きしたやつっ! レンズちゃん、食べて食べてっ!」


「おう」


「軍曹いいなぁ~……」


「むふぅ♪ 心配しなくても、皆のもあるからねっ!」


「グローニャちゃ~ん! オレにもくれ~!」


「いいよぉ♪」


 スプーンでカレーを突き、グローニャが型抜きしたニンジンを見る。


 星型のニンジンだ。


 それをそっと皿の端に避け、皆と一緒に食べ始める。


 焼いた白パンにカレーをつけ、口に運ぶ。ゼリーパンとはかなり違うが――。


「レンズちゃん! どーお!? グローニャのカレー、どーお!?」


「まあ、悪くないな」


 味はわからん。オレ達はバカ舌だからな。


 馴染みのない香辛料の匂いにはちょっと戸惑ったものの、慣れてくると悪くない。むしろいい。


「旨いよ」


「…………!? れ、レンズちゃん、味わかるの!? 舌さん治った!?」


「いや、そういうのじゃなくてだな――」


 味はわからなくても、わかる事はある。


 お前らの頑張りから「味」を計るぐらいなら、オレだって出来るぜ。


「あっ! レンズちゃん! ニンジン残してる!? ニンジン嫌いだった!?」


「ちげーよ。味覚ねえから好き嫌いも特別ねえし――」


 これはアレだ。


 お前ら風に言うなら、「ケーキのイチゴを最後に食べる」ようなアレだ。


 そう言ったが、グローニャには「んぅ?」と首をかしげられた。


 わからなくていいんだよ、と言って笑った後、星型のニンジンを口に運ぶ。


 旨いって感覚は、正直よくわからない。


 けど、コレはいつもの栄養補給より特別な感じがした。


「おかわり。あるのか?」


「あるよぉ! グローニャが取ってきてあげるっ!」


「いいって。自分でやる。ああ、コラ! 走るな~……!」


 危なっかしい相棒(ヤツ)だぜ。まったく……。





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