頼りになる味方
■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて
■from:死にたがりのラート
ヴィオラを部屋まで送り届けた後、ロビーに戻る。
「ラート。お前は主にヴィオラの護衛をやってくれ」
「了解です!」
誘拐犯の正体は不明。実行犯を捕まえたとはいえ、黙秘が続いている。
子供達を狙わず、ヴィオラだけを狙ったのも解せない。
副長の言う通り、まだまだ警戒しないと。
「隊長もこっちに来てくれる予定なんだが、それまでオレ達でアイツらを守るぞ。フェルグスがアホやらかさないよう、監視も兼ねてな」
「了解。……おっ? なんか団体さんが来たみたいですけど……」
3人で話をしていると、保養所の外から車の音が聞こえてきた。
1台だけではなく、複数台やってきたようだ。
まさか軍事委員会が俺達を捕まえに……と思ったが、違った。
「「「隊長っ!」」」
「すまん。遅れた」
やってきたのは星屑隊の隊長と、星屑隊の隊員達だった。
全員が来たわけではないが、大半が「お~い」とか「おっすー」と言いながら、ドカドカと保養所にやってきた。
3人で出迎え、話を聞く。
カトー特佐の件があり、皆も聴取を受けたらしい。
1時間程の聴取で済んだらしいが、皆もカトー特佐の件は不安みたいだ。どっかで集まろう、という話になったようだ。
それに、そもそも――。
「ぼちぼち黒水戻るか~って話をしてたんで」
「俺達だけ家族と会えて、子供達を放置しているのは……ちょっとなぁ」
皆も同じ気持ちだったようだ。
レンズと顔を見合わせ、肘で突き合う。
ちょっと不安な状況だが……皆が来てくれて良かった!
どうやら他の星屑隊の隊員も、続々と合流してくるようだ。
これだけの人数がいれば、誘拐犯は怖くないぜ! 軍人委員会はともかく!
■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて
■from:死にたがりのラート
ロビーでの話を終え、子供達のところに向かう。
星屑隊の仲間が来てくれて、めちゃくちゃホッとした……。
特に隊長が戻ってきてくれたのが心強い。副長も頼りになるけど、どんな状況でもドッシリ構えている隊長いてこその星屑隊だよな~。
「……言うべきなのかな」
隊長は、俺とヴィオラが陰でコソコソ動いていることを察している。
カトー特佐が捕まった以上、一気にネウロンを変えることは出来なくなった。
休暇が終わったらネウロンに戻って、任務も今まで通り。……タルタリカ討伐をコツコツやっているだけでいいんだろうか?
繊三号での戦闘が行われる前なら、それでも納得できた。
アルとフェルグスの両親の話を聞いた今では、嫌な考えばかり浮かんでくる。タルタリカを倒しきったところで、本当にアイツらは解放されるのか……?
隊長は俺を咎めていた。けど、隊長は何だかんだで子供達を気遣っていた。繊三号の戦いでは、第8を逃がそうとしてくれていたんだ。
隊長が俺達の行動を察している以上、開き直って相談するのはどうだ?
隊長は俺を叱るだろうが、軍事委員会に突き出すとは思えない。
いつも無表情だけど、ホントは優しい人なんだ。
何だかんだで助言をくれるんじゃ……?
「ラート軍曹? どうしたんですか?」
「お、おうっ……。バレットか」
子供達の部屋の前で考え込んでいると、中から出てきたバレットに出くわした。
トイドローン修理のために、道具を取りに行くところだったらしい。
子供達やヴィオラの事は俺の方で請け負い、バレットを見送ると――部屋の中からアルとグローニャがひょっこりと顔を出してきた。
「ラートちゃん!」
「ラートさん……」
「おう」
トテトテと近寄ってきた2人と視線を合わすためにしゃがむ。
グローニャは退屈で遊びたいらしいが……アルの様子がちょっとおかしい。
フェルグスとまた何かあったのかと思ったが……そうではないらしい。
「領主様の屋敷って、どこもあんな感じなんですか?」
「屋敷?」
俺もそんな詳しくないが、ネウロンの建築様式とは大分違うよな――という話をする。だが、アルがしたいのはそういう話じゃないらしい。
「屋敷の中に、変な魂が観えたんです」
「変な魂?」
「グローニャも観た~」
会食と聴取をしている間、2人は巫術の眼で「変な魂」を観たらしい。
屋敷の天井や床下を走る魂が観えたらしい。
「気のせいかもですけど……なんか、見られている気がして……」
「その『変な魂』にか?」
「は、はい……」
「ネズミじゃねえのか?」
俺は気づかなかったが、天井や床下にいるとしたらネズミだろう。
あんな立派な屋敷でも、ネズミっているんだなぁ。
「う~ん……そうなのかなぁ……?」
「ちがうよぉ。あんなのネズミさんじゃないもんっ」
訳知り顔で「むふん♪」と笑ったグローニャが、廊下を軽く走り始めた。
「ネズミさんの走り方は、こうっ♪ ちゅちゅ! ちゅちゅちゅちゅちゅ♪」
トトト、と走ったかと思えば、ピタリと止まっている。
止まったかと思えばパッと走り出した。
ネズミの動きを、グローニャなりに再現しているらしい。
「あのおウチのは、こう! ぬーん…………ぬーん…………」
グローニャは急に無表情になり、姿勢正しく歩き出した。
時折、立ち止まったりしている。動く時はやけに角張った動きをしている。
「こう! わかった?」
「何もわからん」
「そうそう、グローニャちゃんの言う通りです」
「お前はわかるのかよ……!?」
巫術師には通じる肉体言語だったらしい。
俺にも巫術が使えれば、わかるようになるのか……?
「ボクらがお屋敷で観た魂は、直線的な動きが多かったんです。ネズミみたいな動物の魂なら、もっとフワフワした動きなんです」
「つまり……どういう事だ? ネズミ以外の何がいるんだ?」
「いや、それがわからなくて……」
交国人の俺なら何か知っているかと思い、話を聞きに来たらしい。
期待に添えなくてスマン――と謝っておく。
「あと、お屋敷から離れた後もその魂を見張ってたんですけど……。ボクらが離れてしばらくした後、黒水守さんの傍に近づいていました」
「ふーむ……? 機械的な動きをするペットがいたって事か?」
「うーん……?」
「しらにゃ~い」
3人で腕組みをし、考えてみる。
グローニャは俺達の真似っこしてるだけみたいだが――。
アル達が巫術の眼で観たって事は、魂なんだよな?
よくわからんが……。
「考えていれば、そのうちわかるだろ」
「うん……。でも、別にそこまで気にしなくてもいいのかな?」
「どうだろうなぁ」
黒水守の屋敷で観た魂より、よっぽど大きな問題が山積みだ。
どの問題も解決の目処は立っていない。それどころかカトー特佐が捕まっちまった事で、「一気に解決するかも」という希望は潰えてしまった。
俺達は……どうすればいいんだ?
このまま任務をこなすだけでいいのか?
このまま……流されっぱなしでいいのか?
けど……行動を起こすとして、何をすればいい。
何をしたら、カトー特佐並みの希望が得られるんだ?
■title:交国首都<白元>にて
■from:憲兵
「カトー特佐が事件を起こしたのは……本当だったんですね」
「ああ、奴はとんでもない事をやらかしてくれた」
委員会に呼ばれ、首都にやってきたが……首都には厳戒態勢が敷かれている。
反乱に玉帝暗殺未遂。
処刑は免れないだろう。
やっぱり、テロリストなんてろくでもない……。
実家でノビノビしつつ、「そろそろ黒水に戻って、副長の手伝いをしないと」「子供達も退屈しているかもしれないし――」と思ってたんだけど……そんな呑気なことを考えられる状況じゃなくなった。
いや、どっちにしろ黒水には戻るべきだな。
副長も困っているだろうし――。
「で、キミを呼び出したのは……キミが星屑隊に所属しているからだ」
星屑隊とカトー特佐は行動を共にしていた。
だから何か気づいた件は無いか――と聞かれたけど、特に何も言えない。カトー特佐の件は本当に寝耳に水だったから、何も言えない。
「大それた事をしている様子は、まったくありませんでした。カトー特佐とは親しくないので、演技していたとしたら見抜く自信ないんですけど……」
「カトー特佐は、交国に来た時から問題の多い人物だった。奴は大した権限も持っていないのに独断専行を繰り返し、軍部でも悪い噂が流れていた」
「所詮はテロリストって事ですか……」
カトー特佐は品のない人だったから、ちょっと納得してしまう。
神器使いだから特別扱いされていたんだろうけど――。
「所詮テロリスト。そして、所詮は流民上がりの学のない男だ」
「…………」
「いくら特佐とはいえ、奴も交国軍人だ。委員会としても奴の問題行動は看過できないから、特佐長官を通じて警告はしていたが……当たり障りのない返事だった」
「で、結局、こんな大事件を起こしたと……」
「そうだ」
「今回の事件、軍事委員会の担当なんですか?」
「いや……特佐案件だ」
やっぱりそうか。
カトー特佐を取り押さえたのは、犬塚特佐らしい。
犬塚特佐は素晴らしい御方だけど、特佐という立場は……委員会の人間としては色々と思うところがある。こっちの縄張りを平気で侵してくるからなぁ……。
権限的に特佐達の方が強いから、違法ではないけど――。
「ですが、事件を起こしたのは特佐です。特佐サイドで情報隠蔽が行われないよう、軍事委員会が主導権を握るべきでは……? 特佐長官を通じて警告していたのに、改善が見られなかったなら尚更……」
「その通り。だからこそ、捜査権を奴らから取り戻す必要がある」
そのための材料が必要。
だから、何かないか? と再度問われた。
僕は1ヶ月以上、カトー特佐の近くにいた。
けど、会話すらろくに――――。
「あっ」
「どうした?」
「えっと、その――」
とても些細な話だ。
それでも、これが突破口になる可能性はある。
「休暇中の第8巫術師実験部隊。あそこには、カトー特佐の弟子がいます」




