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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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頼りになる味方



■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


 ヴィオラを部屋まで送り届けた後、ロビーに戻る。


「ラート。お前は主にヴィオラの護衛をやってくれ」


「了解です!」


 誘拐犯の正体は不明。実行犯を捕まえたとはいえ、黙秘が続いている。


 子供達を狙わず、ヴィオラだけを狙ったのも解せない。


 副長の言う通り、まだまだ警戒しないと。


「隊長もこっちに来てくれる予定なんだが、それまでオレ達でアイツらを守るぞ。フェルグスがアホやらかさないよう、監視も兼ねてな」


「了解。……おっ? なんか団体さんが来たみたいですけど……」


 3人で話をしていると、保養所の外から車の音が聞こえてきた。


 1台だけではなく、複数台やってきたようだ。


 まさか軍事委員会が俺達を捕まえに……と思ったが、違った。


「「「隊長っ!」」」


「すまん。遅れた」


 やってきたのは星屑隊(ウチ)の隊長と、星屑隊の隊員達だった。


 全員が来たわけではないが、大半が「お~い」とか「おっすー」と言いながら、ドカドカと保養所にやってきた。


 3人で出迎え、話を聞く。


 カトー特佐の件があり、皆も聴取を受けたらしい。


 1時間程の聴取で済んだらしいが、皆もカトー特佐の件は不安みたいだ。どっかで集まろう、という話になったようだ。


 それに、そもそも――。


「ぼちぼち黒水戻るか~って話をしてたんで」


「俺達だけ家族と会えて、子供達を放置しているのは……ちょっとなぁ」


 皆も同じ気持ちだったようだ。


 レンズと顔を見合わせ、肘で突き合う。


 ちょっと不安な状況だが……皆が来てくれて良かった!


 どうやら他の星屑隊の隊員も、続々と合流してくるようだ。


 これだけの人数がいれば、誘拐犯は怖くないぜ! 軍人委員会はともかく!




■title:港湾都市<黒水>の交国軍保養所にて

■from:死にたがりのラート


 ロビーでの話を終え、子供達のところに向かう。


 星屑隊の仲間が来てくれて、めちゃくちゃホッとした……。


 特に隊長が戻ってきてくれたのが心強い。副長も頼りになるけど、どんな状況でもドッシリ構えている隊長いてこその星屑隊だよな~。


「……言うべきなのかな」


 隊長は、俺とヴィオラが陰でコソコソ動いていることを察している。


 カトー特佐が捕まった以上、一気にネウロンを変えることは出来なくなった。


 休暇が終わったらネウロンに戻って、任務も今まで通り。……タルタリカ討伐をコツコツやっているだけでいいんだろうか?


 繊三号での戦闘が行われる前なら、それでも納得できた。


 アルとフェルグスの両親の話を聞いた今では、嫌な考えばかり浮かんでくる。タルタリカを倒しきったところで、本当にアイツらは解放されるのか……?


 隊長は俺を咎めていた。けど、隊長は何だかんだで子供達を気遣っていた。繊三号の戦いでは、第8を逃がそうとしてくれていたんだ。


 隊長が俺達の行動を察している以上、開き直って相談するのはどうだ?


 隊長は俺を叱るだろうが、軍事委員会に突き出すとは思えない。


 いつも無表情だけど、ホントは優しい人なんだ。


 何だかんだで助言をくれるんじゃ……?


「ラート軍曹? どうしたんですか?」


「お、おうっ……。バレットか」


 子供達の部屋の前で考え込んでいると、中から出てきたバレットに出くわした。


 トイドローン修理のために、道具を取りに行くところだったらしい。


 子供達やヴィオラの事は俺の方で請け負い、バレットを見送ると――部屋の中からアルとグローニャがひょっこりと顔を出してきた。


「ラートちゃん!」


「ラートさん……」


「おう」


 トテトテと近寄ってきた2人と視線を合わすためにしゃがむ。


 グローニャは退屈で遊びたいらしいが……アルの様子がちょっとおかしい。


 フェルグスとまた何かあったのかと思ったが……そうではないらしい。


「領主様の屋敷って、どこもあんな感じなんですか?」


「屋敷?」


 俺もそんな詳しくないが、ネウロンの建築様式とは大分違うよな――という話をする。だが、アルがしたいのはそういう話じゃないらしい。


「屋敷の中に、変な魂(・・・)が観えたんです」


「変な魂?」


「グローニャも観た~」


 会食と聴取をしている間、2人は巫術の眼で「変な魂」を観たらしい。


 屋敷の天井や床下を走る魂が観えたらしい。


「気のせいかもですけど……なんか、見られている気がして……」


「その『変な魂』にか?」


「は、はい……」


「ネズミじゃねえのか?」


 俺は気づかなかったが、天井や床下にいるとしたらネズミだろう。


 あんな立派な屋敷でも、ネズミっているんだなぁ。


「う~ん……そうなのかなぁ……?」


「ちがうよぉ。あんなのネズミさんじゃないもんっ」


 訳知り顔で「むふん♪」と笑ったグローニャが、廊下を軽く走り始めた。


「ネズミさんの走り方は、こうっ♪ ちゅちゅ! ちゅちゅちゅちゅちゅ♪」


 トトト、と走ったかと思えば、ピタリと止まっている。


 止まったかと思えばパッと走り出した。


 ネズミの動きを、グローニャなりに再現しているらしい。


「あのおウチのは、こう! ぬーん…………ぬーん…………」


 グローニャは急に無表情になり、姿勢正しく歩き出した。


 時折、立ち止まったりしている。動く時はやけに角張った動きをしている。


「こう! わかった?」


「何もわからん」


「そうそう、グローニャちゃんの言う通りです」


「お前はわかるのかよ……!?」


 巫術師には通じる肉体言語だったらしい。


 俺にも巫術が使えれば、わかるようになるのか……?


「ボクらがお屋敷で観た魂は、直線的な動きが多かったんです。ネズミみたいな動物の魂なら、もっとフワフワした動きなんです」


「つまり……どういう事だ? ネズミ以外の何がいるんだ?」


「いや、それがわからなくて……」


 交国人の俺なら何か知っているかと思い、話を聞きに来たらしい。


 期待に添えなくてスマン――と謝っておく。


「あと、お屋敷から離れた後もその魂を見張ってたんですけど……。ボクらが離れてしばらくした後、黒水守さんの傍に近づいていました」


「ふーむ……? 機械的な動きをするペットがいたって事か?」


「うーん……?」


「しらにゃ~い」


 3人で腕組みをし、考えてみる。


 グローニャは俺達の真似っこしてるだけみたいだが――。


 アル達が巫術の眼で観たって事は、魂なんだよな?


 よくわからんが……。


「考えていれば、そのうちわかるだろ」


「うん……。でも、別にそこまで気にしなくてもいいのかな?」


「どうだろうなぁ」


 黒水守の屋敷で観た魂より、よっぽど大きな問題が山積みだ。


 どの問題も解決の目処は立っていない。それどころかカトー特佐が捕まっちまった事で、「一気に解決するかも」という希望は潰えてしまった。


 俺達は……どうすればいいんだ?


 このまま任務をこなすだけでいいのか?


 このまま……流されっぱなしでいいのか?


 けど……行動を起こすとして、何をすればいい。


 何をしたら、カトー特佐並みの希望が得られるんだ?




■title:交国首都<白元(びゃくがん)>にて

■from:憲兵


「カトー特佐が事件を起こしたのは……本当だったんですね」


「ああ、奴はとんでもない事をやらかしてくれた」


 委員会に呼ばれ、首都にやってきたが……首都には厳戒態勢が敷かれている。


 反乱に玉帝暗殺未遂。


 処刑は免れないだろう。


 やっぱり、テロリストなんてろくでもない……。


 実家でノビノビしつつ、「そろそろ黒水に戻って、副長の手伝いをしないと」「子供達も退屈しているかもしれないし――」と思ってたんだけど……そんな呑気なことを考えられる状況じゃなくなった。


 いや、どっちにしろ黒水には戻るべきだな。


 副長も困っているだろうし――。


「で、キミを呼び出したのは……キミが星屑隊に所属しているからだ」


 星屑隊とカトー特佐は行動を共にしていた。


 だから何か気づいた件は無いか――と聞かれたけど、特に何も言えない。カトー特佐の件は本当に寝耳に水だったから、何も言えない。


「大それた事をしている様子は、まったくありませんでした。カトー特佐とは親しくないので、演技していたとしたら見抜く自信ないんですけど……」


「カトー特佐は、交国に来た時から問題の多い人物だった。奴は大した権限も持っていないのに独断専行を繰り返し、軍部でも悪い噂が流れていた」


「所詮はテロリストって事ですか……」


 カトー特佐は品のない人だったから、ちょっと納得してしまう。


 神器使いだから特別扱いされていたんだろうけど――。


「所詮テロリスト。そして、所詮は流民上がりの学のない男だ」


「…………」


「いくら特佐とはいえ、奴も交国軍人だ。委員会としても奴の問題行動は看過できないから、特佐長官を通じて警告はしていたが……当たり障りのない返事だった」


「で、結局、こんな大事件を起こしたと……」


「そうだ」


「今回の事件、軍事委員会(ウチ)の担当なんですか?」


「いや……特佐案件だ」


 やっぱりそうか。


 カトー特佐を取り押さえたのは、犬塚特佐らしい。


 犬塚特佐は素晴らしい御方だけど、特佐という立場は……委員会の人間としては色々と思うところがある。こっちの縄張りを平気で侵してくるからなぁ……。


 権限的に特佐達の方が強いから、違法ではないけど――。


「ですが、事件を起こしたのは特佐です。特佐サイドで情報隠蔽が行われないよう、軍事委員会が主導権を握るべきでは……? 特佐長官を通じて警告していたのに、改善が見られなかったなら尚更……」


「その通り。だからこそ、捜査権を奴らから取り戻す必要がある」


 そのための材料が必要。


 だから、何かないか? と再度問われた。


 僕は1ヶ月以上、カトー特佐の近くにいた。


 けど、会話すらろくに――――。


「あっ」


「どうした?」


「えっと、その――」


 とても些細な話だ。


 それでも、これが突破口になる可能性はある。


「休暇中の第8巫術師実験部隊。あそこには、カトー特佐の弟子がいます」





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