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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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親殺し



■title:港湾都市<黒水>の黒水守の屋敷にて

■from:黒水守の石守


「私はね。カトー特佐のご両親を殺したんだよ」


 事実を告げる。


 カトー特佐にとって、私は親の仇だ。


 フェルグス君も詳細は聞いていなかったらしく、驚き、目を見開いている。


「それだけじゃない。私は神器を使い、彼の故郷を滅ぼしたんだ。世界1つを壊し尽くし、そこに暮らす大勢の人を殺したんだよ」


「こ……交国の作戦でか?」


「いや、それよりずっと前だ。カトー特佐が幼い頃の話だよ」


 54年前。私は世界を焼いた。


 罪なき人々が大勢死んで、その中に彼の家族もいた。


 卑怯な私はそれを彼に黙っていた。罪の意識と自己保身から真実を隠していた。


 後に真実を知った彼は正当な怒りを抱き、私を憎んだ。


 きっと今も憎んでいるんだろう。


 謝罪のためにも……カトー特佐には何度か連絡を取ってみたものの、和解の機会は得られなかった。いや、会って謝ったところで許してくれないだろうね。


「彼が私を憎むのは正しい。私は許されない大量虐殺(こと)をした」


「…………」


「キミが私を『悪い奴』として軽蔑の目を向けるのも、正しい事だ」


 ただ、キミの発言次第で周囲の人間も大変なことになる。


 キミ達は苦しい立場に置かれている。特別行動兵に対する風辺りは民衆だけではなく、キミ達を管理している軍事委員会や交国政府からも厳しいものだ。


「だからせめて、カトー特佐の『弟子』と言うのは控えなさい」


「お……オレ様を脅しているのか?」


「その通り。私は悪い奴だからね」


 フェルグス君の肩をポンポンと叩き、悪そうな笑みを浮かべてみせる。


 巽達に見られたら笑われそうだが……。


「とりあえず……ここでの話は、私の胸の内に秘めておきます」


 立ち上がり、この場に来てくれた皆さんに対して告げる。


 部下達にも他言無用とさせる。私もこの件を大事にしたくない。困るからね。


「誘拐未遂事件で皆さんに迷惑をかけた件と、師匠云々の話は相殺……という事でどうでしょうか?」


「い、いいんですか……? 玉帝暗殺未遂事件に関わる話ですけど……」


「師匠発言程度で子供を罰するのは、あまりにも横暴ですよ」


 ただ、交国政府は平気でそれをやりかねない。


 隙を見せれば直ぐに強権を振るってくるからね。


 情報や印象の操作もお手の物だから、都合の良い情報だけ切り抜いてフェルグス君達を「テロリスト一味」として罰しかねない。


 あるいは、もっと過酷な実験に参加させるとか……かな? 現状でも庇いきれるか怪しいところだけど、これ以上、埃を立てたくない。


「この話を政府に報告したら、キミ達の立場は相当苦しくなるかもしれない」


「…………」


「それをしない代わりに、私と取引しませんか?」


 警戒している星屑隊の方々に対し、笑顔を向けつつ言葉を続ける。


「カトー特佐に関する情報を教えてください」


「…………? それは、元々……オレ達を聴取する予定だったから――」


「聞かせてもらうつもりでしたけどね。些細な事でいいから教えてください」


 フェルグス君に視線を向け、さらに語りかける。


「キミ達の証言次第では、カトー特佐を助けられるかもしれない」


「えっ!? ど、どういうことだ……?」


「実のところ、私も今回の事件に納得していないんだ」


 ゲットーで発生し、犬塚特佐が鎮圧した反乱事件。


 あの事件はある意味、起こるべくして起こったものだ。ただ、自然発生的な反乱ではなく、何者かが裏で糸を引いていた可能性が高い。


 交国政府は黒幕(それ)を「カトー特佐」と言い、さらには交国首都で起きた爆発事件と玉帝暗殺未遂事件の容疑も含め、カトー特佐を逮捕した。


 表向きはそう言い、実際にカトー特佐を逮捕している。


「首都で爆発事件が起こったのは確かだけど、それはまあ……カトー特佐じゃなくても起こせる。玉帝暗殺未遂事件に関しては、事件詳細を隠されているからちょっと何とも言えないけど……」


 左腕の肘を右手で持ちつつ、左手で自分の唇を触る。


「それら全てをカトー特佐がやったと言われても……ピンと来ない」


「…………」


「私はカトー特佐と親しくないどころか憎まれているけど、私は彼のファン(・・・)でね。前々から注視していたんだ」


「ふぁ、ファンですか……?」


「そう、ファンだ。ファンであり親の仇である身から言わせてもらうと、カトー特佐が今回の事件を起こしたなんて納得できないんだよ」


 星屑隊の副長君が「暗殺未遂は現行犯だったはずです」と言った。


「犬塚特佐が取り押さえたそうなので、そこは確かなのでは……?」


「どうなんだろうね~」


 そこに関し、ハッキリ言うのは避ける。


 ハッキリ言えば交国政府に――犬塚特佐に嫌疑をかけちゃうからね。


 領主といっても「交国の犬」だから、強いこと言えない。所詮、私は玉帝の作った薄氷の上に立つものだ。交国政府が本気で動いたら氷海に叩き落とされる。


 実際、既に睨まれている。監視もつけられている。


 交国と人類のために全力で働いているんだけど、なかなか信じてもらえないんだよね。まあ、多分、なにやっても信じてもらえない。


 玉帝は「疑わしくても役に立てば良し」と思っているけど、あの人は(・・・・)玉帝の判断を支持しつつ……私を睨んでいるからね。


「とにかく私はカトー特佐のファンとして、今回の件に納得していないんだ」


「なるほど……?」


 彼は情に厚い男だ。


 エデン時代も正義のために活動していた。


 損な立ち回りをしがちだったけど、それでも彼らは流民の希望だった。


 マーレハイトで罠にハメられて、エデンが壊滅的な被害を受けた事で……前のように活動できなくなった。


 それでも彼は保護している流民(みんな)のために、交国へ身売りする道を選んだ。彼は未だ正義のために動いている素晴らしい男だ。


 交国には彼の家族もいた。


 彼が家族を――姪を大事にしていた事は、私も調査を通して知っている。


 家族や元エデンの仲間達が交国領にいたのに、そんな彼らの身を危険に晒してまで「反乱事件」や「玉帝暗殺未遂事件」なんて起こすと思えないんだよね。


 思いたくないんだよね~……。


 家族のことは「やらない理由」になるけど、「やる動機」にもなる。


 逆転させてしまえば、一気に事情が変わってしまう。


 そこはちょっと、怖いところかな。


 彼は……本当に情に厚い男だから……。


「カトー特佐は何もしていないかもしれない。それでも何者かの罠にハメられ、冤罪で捕まったのかもしれない」


「…………! 誰だよ!? そいつが本当に悪い奴なんだな!?」


 フェルグス君は本当に彼を慕っているらしい。


 わかるよ。私も彼のファンだからね。


「あくまで可能性の話だ。けど、キミ達がカトー特佐関係で重要な情報を持っていれば、カトー特佐の無実を証明出来るかもしれない」


「……ほ、本当か……?」


 フェルグス君は少しは希望を抱いたようだけど、発言者が私ということもあり、怪訝そうな顔で睨んできている。


 慎重で素晴らしいね。キミは正しい。


「これもあくまで可能性の話だ。キミ達が持っている情報次第だよ」


「ひょっとして、オレ達から情報を引き出すためにテキトー言ってんじゃ……」


 そう言ったフェルグス君が、また星屑隊に咎められた。


 笑って止めつつ、語りかける。


「私がキミ達からカトー特佐の情報を引き出して、交国政府に売り渡すつもりだと言いたいのかな? それならフェルグス君の不用意な発言を報告するだけでいいんだよ? 『カトー特佐を師匠と言う子がいます』とね」


「うっ……」


「そんな報告したところで、私は交国政府に恩を売れるわけじゃない。けど、そうする方が無難だ。キミの発言を隠しても領主としては何の得もないしね?」


「や、やめろ……。やめて、ください……」


 フェルグス君が弱々しい声で喋りつつ、土下座しようとしてきた。


 さすがに止める。しまった……子供相手に大人げないこと言いすぎたかな?


 最近、嫌な人の相手ばっかりしてるからな~……。元々ひねくれている性根がさらにねじ曲がってしまっている。いけないいけない……。


「まあ、私はカトー特佐のファンだし……師弟関係程度で子供のキミを政府に突き出すのは心苦しい。そこに関してはお互い聞かなかった事にしよう」


「あ、ありがと……」


「キミ達は私を信じなくていい。言いたくない事は喋らなくていい」


 ただ、キミ達の発言がカトー特佐への援護射撃になるかもしれない。


 だから、言える範囲で教えてください。


 そうお願いし、聞く事にした。


 領主とはいえ、本来なら私如きが「テロ関与疑いのある者達」への聴取を担当する事はない。多分、これは本当に形式上のものだろう。


 普通なら……軍事委員会か特佐連中が出張ってくる案件だからね。


 そうなっていないからこそ、裏で糸引いてる人が見えてきて嫌な気分になるね。


 薄氷の上に立っていたのは、私だけではない。そういう事だろう。




■title:港湾都市<黒水>の黒水守の屋敷にて

■from:死にたがりのラート


 1人1人、庭に呼ばれて黒水守と話をする事になった。


 子供達には――不用意な発言をしないよう――副長が付き添うのが認められた。


 黒水守を敵視している様子だったフェルグスは、部屋で待機している俺達にも聞こえるほどの大声で一生懸命、特佐を擁護しているようだった。


 けど、手応えのある聴取にはならなかったらしく、ガックリと肩を落として戻ってきた。戻ってきた後、携帯端末を見てカトー特佐関連の報道を漁り、表情を強ばらせていた。


「…………」


 フェルグスが何か知っている様子はない。


 カトー特佐から「玉帝を殺そうと思う」なんて発言は一切聞いてなかったんだろう。あの動揺っぷりから察するに……。


 やっぱり、カトー特佐が「事件を起こした」のはおかしい。


 黒水守もそう思ってくれている様子だ。


 特佐とはメチャクチャ複雑な関係みたいだけど……。


「オズワルド・ラート軍曹~」


「あっ……! はい!」


 ヴァイオレットと入れ替わりに呼ばれ、慌てて走って黒水守のところに行く。


 黒水守は笑顔を浮かべ、庭の池のほとりで待っていた。


 頭を下げて「よろしくお願いします」と言うと、黒水守は少し声を潜めながら「ヴァイオレットさんから聞いたんだけど――」と言ってきた。


「カトー特佐が玉帝に『ネウロンの現状』を訴えようとしていたんだって?」


「えっ? あ、あぁ……。はい……」


 ヴィオラ、あの件を黒水守に言っちまったのか。


 そのわりにはさっき、フツーに戻ってきていたが――。


「はい。その……カトー特佐はネウロンの事で胸を痛めてくれていて……」


「ふむふむ」


「特別行動兵やネウロン旅団とかについて、副官さんと一緒に色々調べて……その調査結果を持って、玉帝のところに行ったんです。元々、別件で呼ばれていたようで……その機会に……」


「ネウロンを何とかしてください、と?」


「はい」


「さすがカトー特佐だね。ところで今の、鎌をかけたんだよね」


「え?」


「ごめんね」


 どういう意味かわからず、困惑しつつヴィオラ達のいる方を見る。


 見た後、ゆっくりと黒水守を見ると――もう笑っていなかった。


キミも(・・・)、カトー特佐と繋がっていたわけか。なるほどね」


「…………黒水守?」


「…………」


「…………」


「…………。やっ! ちょっとイジワルしただけで、深い意味はないよっ!」


 黒水守は満面の笑みを浮かべつつ、パパンッと手を叩いた。


 え? あれっ……? 俺、言っちゃダメなこと言ったのか……?


 今のが鎌かけ?


 ヴィオラは、何も話してなくて……俺が……特佐との繋がりをバラした……?


 ヴィオラを先に呼んで、その後直ぐに俺を呼んで――。


「ああ、大丈夫大丈夫。この件も政府に報告するつもりはないよ」


「く、黒水守……。俺、カトー特佐の事件に関しては……何も……」


「だろうね。ただ、キミも『カトー特佐が事件起こした』と信じている様子がなかったから、『何か繋がりがあるのかな~』と思って鎌をかけただけだよ」


 黒水守は笑ったまま、「心配しないで」と言って俺の背を撫でてきた。


「言ったでしょ。私はカトー特佐のファンで、彼が事件を起こしたことに『疑い』を持っているんだ。彼は正義の人だからね」


「…………」


「彼はネウロンに行った。彼ほど正義漢が強い人なら、ネウロンの現状を見たら憤慨する。だから『玉帝に改善を訴える』と予想しただけさ」


「あぁ、なるほど……」


 鎌かけのカラクリ。黒水守の推理を聞き、納得する。


 でも、黒水守もネウロンの現状を知っているんですね。


 そう疑問すると、黒水守はまた申し訳なさそうな笑みを浮かべた。


「黒水は流民だけではなく、異世界の人間を大勢受け入れているからね。その中にはネウロン人もいるんだよ。少数だけどね?」


「その人達から、伝え聞いていたって事ですか……」


「うん。それなのに何も行動を起こしていないのを軽蔑するかい?」


「えっ? いや、そんな……」


「ごめんね。私はカトー特佐ほど、勇気のある男ではないから……」


 黒水守はため息をつき、「黒水だけで手一杯なんだ」と漏らした。


 その後、話を続けてきた。


「しかし……キミ達の話を聞いて、ますます『カトー特佐が事件を起こした』というのが信じられなくなってきた」


 俺達が知る限り、カトー特佐が事件を起こす雰囲気はなかった。


 レンズや副長は「元テロリスト」であるカトー特佐を懐疑的に見ている様子だった。その考えも一応わかるけど……実際に話をすると、やっぱり……。


「黒水守は……カトー特佐を信じているんですね。政府発表を聞いても」


「うん。私は彼のファンだからね」


「…………」


「実は私がカトー特佐と繋がっていて、事件に加担していると思ってる?」


「いや、そんなことは……」


 笑顔の黒水守に手を振りつつ、否定する。


 2人が繋がっていたとしたら、カトー特佐がフェルグスに「黒水守は人殺し」なんて言うはずがない。


 それが事実だったとしても、2人が和解して仲間になっていたとしたら……弟子と仲間の関係をこじらせる発言はしないはずだ。


 カトー特佐の事件は、やっぱり違和感がある。


 黒水守が交国政府や軍事委員会の間に立ってくれているおかげで、俺達は拘束とかされずに済みそうだけど……他の皆は大丈夫かな……?


 ヴィオラが誘拐されかけた件も、まだキチンと解決したわけじゃない。マジで何で誘拐されかけたんだろ……? あぁ、考える事が多すぎる……!


 ネウロンや、アルやフェルグスの両親の件もあるのに!


 それに関しては、カトー特佐が希望だったのに……。


 いったい、何がどうなってんだ……?


 何かが起きている。


 けど、全体像が見えないし、関与もできない。


 大きな河の流れの中で、押し流されているだけ。


 このままでいいのか?


 でも、この状況で……俺に何ができる?




■title:港湾都市<黒水>の黒水守の屋敷にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


「…………」


 なにかいる。




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