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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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敵意の理由



■title:港湾都市<黒水>の黒水守の屋敷にて

■from:死にたがりのラート


 おエラいさんとの食事会とか、クソ緊張する。


 緊張のあまり、味がわからなくなる――なんて事は別にない。


 俺達はオークだ。味なんていつもわからん!


 けど、マナーわからず粗相するの怖いよー……!!


 なんて思いながら屋敷の一室で震えていると――。


「はいはい、皆さん、焼きたてを食べてね」


「――――」


 出てきたのは香ばしくて平たいものだった。


 ピザだ。


 見たことはある。特に「食べたい」と思ったことないから、食べるのは初めてだけど……まさか領主様の屋敷で食べる事になるとは……。


「交国って、エライさんとの食事でこんなもの食べるのが普通なのか?」


 眉間にシワを寄せたフェルグスが、ピザを掴みつつ、皆が思っていることを言ってくれた。いやでも、領主に直接言うなよ……!


 黒水守は笑顔を浮かべつつ、「さすがに違うかなぁ」と言った。


「けど、領主なんかの屋敷に急に招かれて、格式張った料理を出されたら皆さん困るでしょ? こういう場だと箸を使って食べる和食が定番だけど……ネウロンだと箸はほぼ使わないようだし……。こういう方がいいかな、と」


「ハシってなんだ?」


「木の棒を2本使って、料理をつまむ道具だよ」


「交国人って変なもの使うんだな……」


 領主相手だろうが不遜なフェルグスの頬を、副長がつまんで注意している。


 けど、黒水守は笑って「気にしないで」と言ってくれた。それを鵜呑みにするのは危険だと思うが……気安く食べられるもの用意してくれるのは助かるな。


 実際、子供達は目を輝かせてピザを食べている。ヴィオラも「あっ、これ美味しい……」と口元を押さえながら丁寧に食べている。


 第8の反応を見た黒水守は笑みを深め、「石窯で焼いてもらったんだよ。ウチの料理人は何でも作ってくれて、腕もいいんだ」と嬉しそうに語った。


 こういう屋敷でアツアツのピザを食べるのは……なんか、妙な感じがするが……第8の皆が喜んでいるのは良かった。


 俺達、オークは味にこだわりないんだが……皆の笑顔は嬉しい。それにピザの匂いも悪くないかも? 白い何かが「みょ~ん」と伸びるのは戸惑うが……。


 色んな種類のピザが運ばれてきて、子供達はお腹パンパンになるまでそれを堪能していた。ヴィオラと一緒に黒水守に礼を言っておく。


「どういたしまして。少しでも喜んでもらえたなら、私も嬉しいよ」


「…………」


「ん? ラート軍曹、どうかしたのかな?」


「ああ、いや、何でもないっス!」


 態度も対応も柔らかい黒水守を見ていると、「おエライさんにも色々いるんだな……」と思っただけだ。……久常中佐とは全然違う。


 感慨にふけっていると、黒水守は「食後のデザートも用意したから、それも食べてね」と子供達に話しかけていた。


 グローニャが特に元気に応じている。ロッカも緊張が解けてきたのか、落ち着いた様子で「ありがとうございます」と頭を下げた。


 アルは……なんかずっと、そわそわしてる。


 しきりに視線を動かし、部屋の天井や床を見てそわそわしっぱなしだ。


 何か気になることがあるんだろうか――と思い、こっそりアルに話しかけようとしたが、その前に黒水守が口を開いた。


「さて……皆さんに、また謝らないといけない事がありまして……」


「えっ?」


「それについて話す前に……。皆さんはカトー特佐が捕まった件をご存知かな?」


 黒水守がそう言うと、室内で「ガタッ!」と椅子を鳴らして立ち上がる音が聞こえた。見ると、フェルグスが目を見開いて立ち上がっていた。


「は? えっ!? た、逮捕っ……!?」


 フェルグスは狼狽えている。


 そうか、俺達だって知ったばっかりだし……フェルグスも当然知らないか。


 黒水守は護衛から受け取った携帯端末を操作し、そこに特佐に関する報道動画を表示させ、フェルグスに渡した。


 フェルグスは目を見開いたまま、その報道を見つめている。


「…………。カトー特佐とは我々の任地(ネウロン)から交国本土に来るまでの間、お世話になっていました」


 副長は黒水守にそう言い、「ただ、カトー特佐と会ったのはネウロンが初めてです」「今回の件は完全に寝耳に水でした……」とこぼした。


 黒水守は頷き、カトー特佐に関する話を続けてきた。


「大変申し訳ないのですが……私は交国政府から皆さんに対して聴取(・・)するよう命じられておりまして……。黒水を預かる領主として」


「「「…………」」」


「誘拐未遂事件後、警備隊が貴方達と直ぐ接触出来たのは……そもそも聴取の影響なんです。貴方達からお話を聞きたいから、迎えとして警備隊を出したんです」


 確かに……警備隊が来るのが速かった。


 来たのは1人2人じゃない。最悪、戦闘になる覚悟だったって事か?


「皆さんが問題を起こそうとしていた……とは思っていません。むしろ問題を解決してくださった。会食でお話をした感触も踏まえて、私はそう判断しています」


会食(これ)も聴取の一環だった、って事ですか……」


 黒水守は申し訳なさそうに頷いた。


「実は皆さんだけではなく、星屑隊の全員に各区の担当者が聴取に向かっています。それによると特に問題なく、お話を聞けているようで――」


「カトー特佐は爆発事件を起こして首都の守備隊を誘導した。その隙に玉帝の暗殺を行おうとしていた」


 副長が表情を強ばらせつつ、「オレ達もそれに加担した疑い、かかっているんですね」と言った。


「カトー特佐の本命はおそらく、玉帝暗殺。その前に爆発事件を起こしておいたように、交国本土各地に散らばった星屑隊(おれたち)も事件を起こすと疑われている……って事ですか……」


「あくまで疑いです。皆さんが本当にカトー特佐に加担してテロを起こそうとした場合、特佐が失敗した後で行動を起こしても手遅れですからね」


 星屑隊は何もやっていない。第8巫術師実験部隊も当然同じ。


 だからこそ、俺達はもう「白」だと判断されているらしいが――。


「それでもカトー特佐が首都に向かう直前まで一緒にいた貴方達は……その……疑わざるを得なかったわけでして……」


「…………」


「今の聴取も、あくまで形式上のものです。お気を悪くされたと思いますが、どうかご勘弁を――」


師匠(・・)が悪い事するはずがないっ!」


 フェルグスが端末を投げだし、そう叫んだ。


 黒水守をキッと睨みつつ、そう叫んだ。


「悪い事するとしたら交国だ! 師匠は……師匠はきっとハメられたんだ!」


「…………? 師匠? ひょっとして、キミは――」


「あっ……! あああああ、いやっ、黒水守! 気にしないでやって――」


「オレ様は、カトー特佐の弟子だ!!」


 し……しまったっ……!! フェルグスの口止め忘れてた!!


 俺達は何もしようとしていない。


 けど、カトー特佐が実際に捕まって、俺達も特佐の一味として疑われている状況で「師匠」とか呼ぶ子供がいたらさすがに――。


「意味わかんねえよっ! なんで師匠が捕まってんだよ!? お前の仕業か!?」


 フェルグスは黒水守に掴みかかろうとした。


 だが、血相を変えた副長に羽交い締めにされた。


 黒水守の護衛は臨戦態勢に入り、護衛対象である黒水守に部屋から退出するよう促している。マズい……かなり、マズい……!


「黒水守! おっ、俺達は何も……!」


「ええ、そうですね。皆さん落ち着いて」


 黒水守は立ち上がりつつ、手のひらを床に向け、「どうどう」と落ち着かせるような動きをした。


 警備隊長ほどではないが、それなりに長身の黒水守が立ち上がると圧がある。けど、黒水守は相変わらず柔和な笑みを浮かべたままだ。


 その笑みを浮かべたまま、黒水守は護衛達に退出するよう促した。


 護衛達は明らかに困惑していたが――。


「巽」


「はいはい。おい、お前らも外に出とけ」


 部屋の外に控えていたらしい警備隊長がやってきて、護衛達に退出を促し始めた。護衛達は黒水守を心配そうに見つつ、それに従って出て行った。


 代わって、警備隊長は残ろうとしていたが――。


「巽。キミもだ。悪いが退出してくれ」


「まあいいけど……。お前、また刺されても知らねえぞ。悪い意味で大人気なんだから、ナイフで内臓ぐちゃぐちゃにされたら痛いぞ~?」


「彼らはそんなことしないよ。失礼なこと言わないで出て行って」


「チッ! はいはい……わかりましたよっと」


 警備隊長が出て行くと、黒水守は部屋の扉を閉めた。


 いきり立っているフェルグスにも「座ってください」と丁寧に促しつつ、自分は席についた。……フェルグスも副長に肩を押され、無理矢理座らされた。


 座らされたフェルグスは、眉間にシワを寄せて黒水守を睨んでいる。


 黒水守はその視線を受けつつ、「参ったなぁ……」と言って頬を掻いた。


「カトー特佐との師弟関係か……。そういう話は全然聞いてなかった……。特佐も尋問で何も喋ってないんだろうなぁ……」


「黒水守……。コイツは、神器使いであるカトー特佐に憧れて……勝手に『師匠』って言っているだけです」


「師匠も認めてくれたもんっ!」


「頼むから! お前は黙ってろ! なっ!?」


 副長が弁解しても、フェルグスは威勢良く叫び続けている。


 黒水守はその様子を見て苦笑している。


「ま、まあ……師弟関係といっても、ネウロンで出会ってからのものですよね? カトー特佐の計画について何も聞かされていなかった。そうですよね?」


「お前は悪いやつだ! お前には何も教えてやんねー!」


「フェルグス! お前、状況わかってんのか……!?」


「少し時間を置いてからの方がいいかな……? この戸惑いようは、特に何も聞いていなかったものだろうけど……話は落ち着いてした方が――」


「うるさい! 人殺し(・・・)!!」


 部屋の空気が冷えた。


 いや、この部屋の空気じゃない……?


 部屋の外の空気が、スッと変わった感じがした。


 警備隊長達が、今の言葉に反応したのか……?


「師匠が言ってたぞ! お前は大勢殺した、虐殺犯(・・・)だって……!」


 副長がフェルグスの口を塞いだが、もう遅かった。




■title:港湾都市<黒水>の黒水守の屋敷にて

■from:肉嫌いのチェーン


 終わった。ああ、オレら終わったな。


 玉帝暗殺未遂事件への関与疑い&領主への失言。


 しかも、相手はただの領主じゃねえ。


 玉帝の娘に婿入りした領主だ。


 ガキが舐めた口を利いて、許されるはずが――。


「そうだね。キミの言う通りだよ。私は人殺しだ」


 怒っているフェルグスを前にして、黒水守は笑みを浮かべ続けていた。


 さっきより一層柔らかい雰囲気で、子供を諭すような声を出している。


「私は大勢殺している。カトー特佐が言った事は全て正しいはずだよ」


 そう言い、黒水守はオレに手を退けるよう促してきた。


 フェルグスの口を塞いでいる手を――。


「つ、つまり、お前は悪いやつだ!」


「そうだよ」


「悪いやつだから、師匠が捕まったなんてウソをついているんだっ!」


「いや、カトー特佐が捕まったのは嘘じゃない。逮捕されたのは事実だ」


 黒水守は端末を使い、調べてごらんと言ってきた。


 どの報道でも玉帝暗殺未遂事件――カトー特佐が緊急逮捕された件で持ちきりだ。黒水守1人が適当を言っている話ではない。


 オレもフェルグスもレンズも、そしてバレットも「カトー特佐が捕まったのは事実」と認めている。そのことを話しても――。


「う、うそだ……。師匠が、悪い事するわけっ……」


 フェルグスは認めてくれなかった。


 ただ、その声は涙声になりかけていた。


 黒水守は微笑したまま、「まあ……親しい人が捕まったなんて、なかなか信じられないよね……」と漏らした。


「けど、交国政府は主張している。『カトー特佐は反乱事件を扇動し、玉帝暗殺未遂事件を起こした』と主張している」


「…………」


「カトー特佐が捕まったのは事実だから、キミも彼のことを『師匠』と呼ぶのは、出来るだけ控えなさい」


「なんでだよっ!」


「交国政府はカトー特佐の件で、かなりピリピリしている」


 それはそうだろう。


 反乱扇動どころか、玉帝の暗殺未遂だからな……。


 いま、オレ達も捕まってもおかしくないぐらい大事だ。関与の疑いがあるってだけで拘束され、そのまま無茶な尋問されてもおかしくない。


 フェルグスが「師匠」なんて言葉を出すから……。


「カトー特佐の『弟子』なんて話を聞いたら、交国政府は確実にキミを拘束するだろう。共犯者の1人としてね」


「じゃあ捕まえてみろよっ! オレは師匠の味方――」


冷静になりなさい(・・・・・・・・)


 ここで初めて、黒水守は声に圧を込めた。


 今までずっと丁寧――悪く言えば弱腰だったが、今の言葉に関しては領主らしい威厳がこもっているように感じた。


「キミ1人の問題じゃない。キミの発言1つで、キミの周りの人達もまとめて捕まる可能性がある。……交国の尋問はかなり厳しいものだよ」


「でっ、でもっ……! 師匠は何も悪い事してないしっ……!」


「交国政府はそう思っていない。一度、カトー特佐を『首謀者』と発表した以上、簡単には前言を撤回しないだろう。メンツもあるからね」


「お前の馬鹿発言1つで、スアルタウ達も捕まるんだよ。最悪、死刑にされるんだぞ!? スアルタウもロッカも、グローニャもヴァイオレットも……!!」


 黒水守の言葉に続き、そう言ってやるとさすがにフェルグスも震えた。


 混乱しているから、そこまで考えが及ばなかったのか。


 けど、マジでこいつの発言1つでどうなるかわからん。


 ある程度は、事の重大さを理解したようだが――。


「で……でも、師匠は……アンタのこと、悪い奴だから近寄るなって……。交国に来る方舟の中で、言ってたし……」


「お前なぁ……!!」


 いい加減にしろよ、と思いながら手を上げる。


 だが、いつの間にか傍に来ていた黒水守がオレの腕を掴んでいた。


 叩いてはいけない。


 そう言いたげに首を横に振り、フェルグスの前にしゃがんできた。


「カトー特佐の言っている事は正しい。キミは彼の言いつけを守ってもいい。けど……彼に何か『特別なこと』を言われていないか教えてくれないかな……?」


「……アンタ、師匠に何したんだよ」


 フェルグスがギュッと拳を握り込み、黒水守を睨んでいる。


 カトーめ……。ガキに何を吹き込みやがった……?




■title:港湾都市<黒水>の黒水守の屋敷にて

■from:黒水守の石守


 この子は――フェルグス君は、ずっと私を睨んでいた。


 何故か不思議に思っていたけど……なるほど、彼に色々言われていたんだね。


「私はね。カトー特佐のご両親を殺したんだよ」




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