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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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黒水警備隊・隊長



■title:港湾都市<黒水>の警備隊事務所にて

■from:狂犬・フェルグス


「フェルグス君、本当に大丈夫……?」


「平気だって! あの程度、なんともねえもんっ」


 ヴィオラ姉がメチャクチャ心配そうにオレを見てくる。


 逃げても詰め寄ってきて心配してくる。


 ……正直、やめてほしい。


 さっき砂浜で、めちゃくちゃダサいところを見られた。


 悪い奴らに蹴飛ばされ、やられちまった。


 エレインが『後ろに飛べ!』って急に言ってきて、思わずその通りにしちまったから……そこまで思い切り蹴られなかったけど……。


 それでもまだ、蹴られた顔がヒリヒリする。


「ちょっとヒリヒリするだけだって……。大丈夫だって!」


 心配してくるヴィオラ姉を押し返し、離れてもらう。


 距離近すぎ。恥ずかしすぎ。


 ……マジで恥ずかしい。マジでダサい。


 あんなダサいやられ方するとか、マジで最悪だ。


 くそっ……流体甲冑か機兵があれば、あんな奴らオレだけで蹴散らしてやったのに……。オレはサクッとやられ、ヴィオラ姉に心配されてるだけ……。


「…………」


 ラートは活躍してた。


 アイツは……物語の主人公みたいに、カッコよくヴィオラ姉を助けていた。


 オレみたいな特別な巫術(ちから)なんて無いくせに……。


 くそっ……なんで、オレは……。


「あっ……! ラートさんっ!」


 アルが声を上げ、走り出した。


 事務所の奥からラートと副長達が出てきた。


 アルはラートが無事に「取調室」から出てきたのが嬉しいらしく、笑顔でラートに駆け寄っていった。……本当に嬉しそうに駆け寄っていった。


「…………」




■title:港湾都市<黒水>の警備隊事務所にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


 ラートさん達が取調室から出てきた。


 何とも言いがたそうな表情をしているけど、とりあえず疑いは晴れたみたい。


 ホッと胸を撫で下ろしていると、ラートさん達の後ろから笑い声を上げながら男の人が出てきた。ラートさん達の肩を叩きつつ出てきた。


「いやぁ、すまんね軍人さん達! ウチの部下が早とちりしちまったみたいで! まあ誤解も解けたんだから、水に流しましょうや!」


 笑っている男の人に対し、ラートさん達がジト目を向けている。


 そりゃ……冤罪で捕まったわけだから、良い気分はしないよね。


 いま笑っている男の人は――黒髪で背の高い男の人は――ラートさん達を解放してくれたみたい。だけど、警備隊側の人なら笑うのは失礼のような……。


「誤解が解けたのは本当に良かったよ。警備隊長殿……」


 副長さんが、笑っている背の高い人を見上げつつ、呆れ顔で言葉を続けた。


警備隊長(アンタ)が来なかったら、アンタの部下達に延々と尋問されていたんだろうけどよぉ~……! おかげで助かったよ! ケッ!」


 さすがの副長さんもお怒りのご様子。


 警備隊長さんは左手を腰に当てつつ、右手で後頭部を掻きながら「だから悪かったって!」と言った。笑顔のまま……あんまり反省していない様子で……。


「もう2回謝ったんだから許してくれよ! なっ!?」


「2回で『もう』かよ……」


 呆れ顔で見られている警備隊長さんは、「ハハハハ!」と笑い続けている。


 無駄に元気な人だなぁ……。


 元気で背も高い。只人(ヒューマン)種っぽく見えるけど……オークのラートさん達より背が高い。2メートルぐらいあるかも?


 ただ、体つきはスラリとしている。


 ガッシリした体つきのラートさんと違って細身の大男さんだ。


「そんな事よりお嬢さん。怪我はなかったかい?」


「あっ、えっ?」


 警備隊長さんは副長さん達から視線を切り、私の前で跪いてきた。


 そして私の手を取りつつ、カッコつけた立ち振る舞いで「良かったら医務室に行かないか? 怪我がないかよく調べるべきだ」なんて言ってきた。


 ラートさんが割って入ってきて、「セクハラだぞアンタ!」と言ってくれた。ホッとしつつ、そそくさとラートさんの背中に隠れさせてもらう。


「ええっと……警備隊長さん、ですよね? ラートさん達は私を助けてくれたので……まったくの無罪です。部下の方々にもそう説明したんですが――」


「いやぁ、それね! 悪いね! ウチの部下達も仕事に一生懸命になりすぎててさ! 事件起きてビックリしてんのよ。オレに免じて許してやってくれ」


「は、はあ……」


「いま、交国本土はピリピリしてんのよ。大事件が起きたからさぁ」


「…………?」


「あっ! それよりオジサンとお話しようよ。ささっ、あちらの部屋に――」


 警備隊長さんがまた私の手を取ろうとしてきたので、ラートさんがササッと動いて庇ってくれた。私もラートさんに合わせて動き、警備隊長さんから逃げる。


「おい! もう誤解は解けたんだから帰っていいだろ!?」


「まあ待てよオーク君。彼女は被害者だ。改めて事情を聞かせてくれ」


 警備隊長さんは微笑しつつ、「お嬢ちゃんとボクちゃん達への自己紹介はまだだったな」と言いつつ、自分の胸に手を当てた。気取った仕草で。


「オジサンの名前は立浪(たつみ)。副業で黒水の警備隊長やってるもんだよ」


「たつなみたつみさん……。警備隊長って副業できるんですね……」


 そう言うと、警備隊長さんは手を振りつつ、「いやいや! 警備隊長の方が副業なんだよ!」なんてトンデモないことを言いだした。


「本業は別。本業の雇用主が人使い荒くてね……俺は警備隊の応援もさせられてるわけ! なかなか酷い話だと思わない?」


「はあ……」


「そもそも警備隊がちと人手不足でさ。まだ経験の足りていない警備隊員も多いから、今回みたいな冤罪もたまにあんの! 笑えるだろ?」


「「「笑えねーよ!!」」」


 笑って語る警備隊長さんに対し、ラートさん達が揃ってツッコミを入れた。


 ツッコミがハモっていたので、警備隊長さんは手を叩いて大笑いしている。


 警備隊の長がこんなので……大丈夫なのかな……。


「いやぁ、ホントにすまなかった! 黒水はちと特殊な土地でね。まだまだ発展途上なんだよ。警備隊も土地と共に成長中で未熟なんだ」


 警備隊長さんは腰に手を当ててウインクしつつ、説明を続けた。


「アンタらも知ってると思うが、黒水はまだ新しい町だ。人材は余所からやってくる奴が多い。それも交国人じゃなくて、異世界人や元流民が多いのさ」


「そうなんですか……」


 そういえば黒水に来た時も、余所の人を受け入れている様子だった。


 犬塚特佐達が敵意を向けていた人達を――。


「やっぱり、界外の人間をガンガン受け入れているのか……」


 副長さんはアゴを撫でつつ、「そりゃ治安維持も大変でしょうよ」と漏らした。


「そのわりには結構平和に見えるが……」


「苦労してるよ。でも、わりと頑張ってる方だろ?」


 警備隊長さんの言葉を聞いた副長さんは、静かに頷いた。


 私も治安がいいと思った。ここ数日、黒水にいたけどトラブルなんて……さっきの事件ぐらいしか見ていない。まさか自分が当事者になるとは思わなかったけど。


「外から人を受け入れまくるのは大変だよ。けど、異世界人や元流民も似た境遇の奴らでグループを作っているんだよ」


 そのグループから主だった人を警備隊にスカウトする。


 そうする事で、各グループへの橋渡し役もしてもらう。


「黒水警備隊は治安維持活動しつつ、黒水住民同士の話し合いの仲介役もしてんのよ。話せばわかる、ってな!」


「今回みたいな事は……普通は起きないんですよね?」


「ああ、さすがにな。たまに大きなトラブルもあるけど……最近だと今日の事件や、犬塚特佐の部隊が起こした事件ぐらいかねぇ」


 特佐の起こした事件……ゴム弾発砲の件かな。


 アレは一応、事件ではない気がする。酷い話ではあったけど。


「今回はアンタらのおかげで、何とか未遂で終わった。こんな可愛らしいお嬢さんが誘拐されかけるなんて大事件だよ! 俺も仕事サボって釣りしてたら『隊長! 誘拐&発砲事件発生です!』なんて連絡来てビックリしてさぁ……!」


 サボってたんだ。


 ますます心配になるね。黒水警備隊……。


「急いで駆けつけたわけ! 事件解決後に!!」


「いや絶対急いで駆けつけてない。だってアンタ、取調室に『お疲れちゃ~ん』って言いながら呑気に入ってきたじゃん……!」


 疑われたことで怒っているのか、ラートさんが拗ねた顔を見せている。


 警備隊長さんは顔を逸らし、「ピュピュピュイィ~♪」と口笛を吹いている。それで誤魔化したつもりになった後、話を続けてきた。


「まあともかく、事件について聞かせてチョーダイよ! 俺には黒水の警備隊長として、今回の事件を解決する義務があるワケ。町を守る良い警備隊長なのさ」


「黒水に警察の方は――」


「警備隊が兼ねてる」


 だから、事件捜査もお仕事の一環なのだとか。


「未遂で終わったとはいえ、犯人側が発砲までした事件だからねぇ。捜査に協力して欲しいんだ。色々とわからないことだらけでさ」


「ええっと……私は何をすれば……」


 警備隊長さんは微笑しつつ、「ちょいと話を聞かせてもらうだけで大丈夫」と言いつつ、少しだけで真面目な顔になっていった。


「ちなみに軍人さん達が捕まえてくれた犯人達は尋問中。けど黙秘を貫いていてね。奴らが何者かもハッキリわかってないのよ」


「黒水には元流民が多いんだろ?」


 レンズ軍曹さんが腕組みしたまま口を開き、言葉を続けてきた。


「誘拐犯は深人。深人は流民に多い。元流民で黒水の住民が犯人じゃないのか?」


「違うんだなぁ~。それが」


 さすがにそこは照会済みらしい。


 黒水の住民ではない。


 けど、「じゃあどこから来たのか?」も不明。


 警備隊長さんは困り顔で腕組みしつつ、「黒水住民の手引きで来た可能性は否定できないけどよ」と言った。


「実行犯は黒水在住の奴じゃない。ウチには確かに元流民多いし、深人もいるよ? けど、無闇に受け入れているわけじゃない。ウチで暮らしている奴らは基本的に真面目に暮らしてるよ。基本的に」


「交国本土の別の場所から来た可能性は……?」


「交国本土で深人がいるのは、基本的に黒水(うち)ぐらいさ」


 深人も人類の一種。


 只人種やオークのように種族が異なるだけ。


 当然、人語も通じるけど……深人は流民に多い種族で、外見も特徴的だから差別されやすいらしい。そういう話は私もチラッと聞いている。


「ただ……黒水は新参者の集まりだからなぁ……」


「…………? どういう事ですか?」


「余所の交国人に(・・・・)嫌われてるのさ」


 領主である<黒水守>は一代で成り上がった新参者。


 黒水に受け入れられている住民は、純粋な交国人は少ない。混沌の海を放浪していた流民も受け入れているため、交国本土の人達にも嫌われている。


 余所者として嫌われている。


「だから結構……嫌がらせを受けるんだよ」


「なるほど。交国本土の別地域経由で犯罪者が送り込まれる事もあるってか?」


 副長さんがそう言うと、警備隊長さんはウンザリした様子で「そういう事」と漏らした。それは……余計に捜査が難しそう。


「黒水住民は皆結構、頑張っているのさ。文化の違う連中が集っているから、色々と衝突する事もある。けど、それでも、面倒事を起こすと大変だって自覚はあるから……大事は起こさないようにしている」


「じゃないと、自分達が黒水から追い出される。黒水の環境は結構いいみたいだし……混沌の海の放浪生活には戻りたくないだろうなぁ……」


「海以外にも、色々ヤバイとこから来てる奴が多いよ。プレーローマとの最前線とか、それ以外の戦場から逃れてきた難民も多いのさ」


 警備隊長さんは憂いを帯びた表情でそう言った。


「アンタらのおかげで誘拐事件が未遂に終わったとはいえ、犯人の正体や『どういうルートで黒水に来たか』とかは明かしておきたいんだ。今後のために」


 ちゃらんぽらんな人と思ったけど、真面目に黒水の事を考えているみたい。


 警備隊長さんは「アンタらの方で、奴らが何者か心当たりがないか?」と聞いてきた。その質問はもう他の人にも答えたけど――。


「すみません、私も……全然心当たりがなくて……」


「そっかぁ……。参ったねぇ、どうも」


「しいて挙げるなら、私が特別行動兵って事です」


 首元をよく見えるようにして、警備隊長さんにもチョーカーを見せる。


 特別行動兵の証。


 ネウロンの繊一号でフェルグス君が狙われたのも、これの影響だと思う。


 けど、あの時とは事件の種類が違うし、場所も全然――。


 警備隊長さんは私のチョーカーを見て、目をパチクリさせていたけど、直ぐに隠すよう促してきた。


「アンタら結構、複雑な事情があるみたいだなぁ……」


「すみません……」


「嬢ちゃんが謝ることじゃない。胸を張りな」


 警備隊の人にも説明済みだけど、警備隊長さんにも改めて私達の所属を明かす。


 警備隊長さんは「ふむふむ」とさっきとあまり変わらない調子で話を聞いてくれた。そのうえで「多分、嬢ちゃん達の立場は関係ないと思う」と言った。


「交国本土じゃ、ネウロンの事なんてほぼ報道されてない。交国本土の人間は『ネウロン? なにそれ?』って奴も多いよ。ぶっちゃけオジサンもそう」


「ただ、特別行動兵はネウロンに限らずいますし――」


「交国本土ではそうそう見かけねえからなぁ……。交国の一般人は大して知らないと思う。実際、黒水に来て特別行動兵絡みで絡まれたことある?」


「無い……ですね。服屋さんに言った時も、特に何も言われなかったです」


 従業員の人には「あら~、皆さんお揃いのチョーカーをつけているんですね~」って言われたぐらいだった。


 チョーカーを見られ、対応が変わっている様子はなかった。


 ネウロンではコレを見られるだけで、さっと顔色変わっていたけど……それは「ネウロン魔物事件」が身近にあった影響なのかな。


「けど、確かに他には無い特徴だ」


「すみません……」


「だから謝らないでくれよ、お嬢ちゃん。オジサンは特別行動兵に対して思うところは特にないよ。ただ……一般人以外なら何かあるかもな」


「どういう……?」


「あくまでオジサンの与太話として聞いて欲しいんだが……。今回の実行犯の裏には、『特別行動兵に対して悪感情を持っている奴』がいるかもしれない」


 ただ、それはネウロンの人間ではない。


 特別行動兵なら誰でも憎い、という類いの人間――。


「例えば、特別行動兵に個人的な(・・・・)恨みを持つ交国軍人とかな……。そいつが裏で実行犯を雇って、お嬢ちゃんにけしかけたのかもしれない」


 私が特別行動兵という事を知っていて、人をけしかけた。


 その可能性は……確かにありそう。


「いや、そりゃ無いだろ」


 否定の言葉が出た。


 それは副長さんの口からだった。





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