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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
205/875

海の人間、陸の人間



■title:砂浜近くの道路にて

■from:死にたがりのラート


「フェルグス!?」


 覆面野郎にフェルグスが蹴飛ばされ、砂浜に倒れる。


 死んだわけじゃねえ。倒れたが、身じろぎしている。


 無事を祈りつつ、誘拐されたヴィオラを優先して追う。




■title:砂浜にて

■from:機械に興味津々のロッカ


「グローニャ、大丈夫か!? 撃たれてねえな!?」


「うっ、うんっ」


 砂浜に押し倒したグローニャの無事を確かめた後、フェルグスに声をかける。


 ちゃんとした返事はないが、何とか無事に見える。


 けど、ヴィオラ姉がさらわれた……! 覆面の奴らに――。


「待ちやがれ!! 誘拐犯ッ!!」


「ラート……!?」


 実家に戻っているはずのラートが、覆面の奴らを追っている。


 そのラートに少し遅れる形で、レンズ軍曹が走ってくるのも見えた。


 けど、覆面の奴らは銃を持っている。


 それでラート達を撃ちつつ、逃げ続けている。


 今のところ弾は当たってないけど、このままじゃ――。


「ろ、ロッカちゃん! どうしよっ……!?」


「グローニャはフェルグスを頼む!」


 覆面の奴ら、オレ達から遠ざかっていく。


 けど、このままじゃラート達もヴィオラ姉も危ない。


 援護してやらねえと……!




■title:砂浜近くの道路にて

■from:死にたがりのラート


「大苦追跡! 牽制銃撃! 早!!」


「解! 女連行急! 車使!」


「和語で喋れ! 和語で!!」


 覆面野郎共も俺の存在に気づいたのか、逃げつつこっちに銃を向けてきた。


 姿勢を低くし、防波堤で銃撃を凌ぎつつ走る。撃ち返したいが、銃がねえ!


 ネウロンならともかく、交国本土で休暇中に拳銃携帯許可が下りるわけもない。だが、弾丸如きにビビっていたらヴィオラが連れて行かれるし――。


「おうおうおうッ!! 待ちやがれ!! 逃がさねえぞッ!?」


 大声で叫びつつ、腕で頭部を守りながら全力疾走する。


 俺に注意を引きつけないと。フェルグス達を撃たれるわけにはいかない。


 周囲の一般人が悲鳴を上げ、騒動の中心にいる覆面野郎共から逃げていく。野郎共はそれに構わず、砂浜から車道の方に逃げてくる。


「――――」


 ヴィオラを抱えて連れて行く野郎共を睨みつつ、考える。


 アルは(・・・)どこに行った?


 砂浜にいたのはヴィオラとフェルグスとグローニャ、そしてロッカの4人だけ。


 アルの姿はなかった。副長の傍にもいなかった。


 まさか、もう奴らに連れて行かれた後――。


「っ――――!」


 弾丸が直ぐ傍を通り過ぎていく感覚。


 多少、撃たれたところで問題はない。俺はオークだ。痛みはない。


 けど、足の骨や関節を撃たれたら転ぶ可能性はある。


「あぁっ、クソッ! 奴ら、やっぱ車で逃げる気か……!?」


 砂浜から脱出したら覆面野郎共が、車道に停められた車に走って行く。


 ヴィオラを抱え、先行していた奴が車の扉を開けた。そして、ヴィオラを無理矢理車内へと押し込んでいく。


 ヴィオラも抵抗しているが、さすがにはね除けるのは無理――。


「うおっ!?」


 近くにあった道路標識に火花が散る。


 弾丸が次々飛んできている。当たったところで痛くはないが――。


「もう遮蔽物が……!」


 車道まで来た奴らと、俺の間にまともな遮蔽物がない。


 とはいえ、このままじゃヴィオラを連れて行かれる。


「…………!」


 銃撃の圧が消える。


 車まで辿り着いている奴らが、周囲を飛び回る(・・・・)ものに気を取られ、僅かに浮き足立っている。アレはまさか――。


「ドローンか……!」


 見覚えのあるトイドローンが、奴らを牽制し始めた。




■title:砂浜にて

■from:機械に興味津々のロッカ


「さすがにムズいなっ……!」


 コントローラーでトイドローンを操作し、覆面の奴らを襲う。


 ヤドリギが無いから遠くの物体に憑依できないけど、コントローラーを使えばドローンの操作はできる。プロペラが当たれば、少しは武器になるだろ!


「ラート! 頼む! ヴィオラ姉を助けてくれ!」


「おう、任せとけ!」


 ラートはもう走り出していた。


 車に辿り着いた誘拐犯に向け、全力疾走していた。


 けど、あれ? 何かおかしい。


 あの誘拐犯達、何でまだ(・・)車のところでモタモタしているんだ……?


 もう車が動き出してもおかしくないのに――。




■title:砂浜近くの道路にて

■from:死にたがりのラート


「車早出! 何遊!?」


「無動! 機関無動!?」


 ロッカが飛ばしたドローンが牽制してくれるおかげで、銃撃の圧力が緩んだ。


 そのうえ、あの馬鹿共もたついてやがる!


 1人運転席に乗り込んでいるのに、一向に発進しない。エンジントラブルか!?


「大苦! 対早――」


「退けボケェッ!!」


 強引に距離を詰め、誘拐犯の1人を殴り飛ばす。


 車内にいるヴィオラを何とか連れ出そうとしたが、銀色の何かが飛んできた。


「…………!」


 上体を反らして回避。誘拐犯の1人が肉厚のナイフを抜き放っている。


 それで俺の目を狙ってきた。随分と慣れた動きをしてやがる。


「テメエら、やっぱ交国軍じゃねえな!?」


 最初からわかりきっていたが、一応聞いておく。鼻で笑う音は聞こえた。


 誘拐犯のうち2人がナイフを抜き、俺に斬りかかってきた。軍学校で習い、軍でさらに鍛えてきた総合格闘術で応戦するが――さすがにキツい!


 まだ銃を持っている誘拐犯の1人が、周囲を飛び回るドローンを殴りつけた。ドローンは大きくバランスを崩し、砕けながら車道に転がっていった。


 ドローンによる奇襲の効果は確かにあったが……こいつら、やり慣れてるな。


 運転席で1人、大いに焦りながら車を動かそうとしている馬鹿がいる。だが、車の始動で手間取っている以外はやり慣れている感じだ。


「交国本土でこんな事やっておいて、無事に逃げられると――」


「殺大苦」


「「解」」


「だから和語で喋れよっ……!」


 2人が斬りかかってくる。防御に専念しても、凌ぐのが精一杯。


「っ――――」


 そのうえ、リーダー格っぽいのが、俺に向けて銃を――。


「――――」


 銃声が響く。


 だが、弾丸は空に飛んで行った。


「ぬおっ……!?」


 覆面野郎共を牽制しつつ、横っ飛びに逃げる。


 ヴィオラを乗せていた車が、急発進(・・・)してきた。


 俺は何とか回避したが、覆面野郎3人が跳ね飛ばされた。


 奴らにとっても不意の一撃だったらしい。車はそのまま思い切り進み、道路標識に向けて突っ込んでいった。


 運転ミス? いや、そうじゃない――。


アル(・・)!?」


「わ、わっ……!?」


 車の下に(・・・・)スアルタウがいた!


 車がなかなか発進しなかったのは、アルの仕業か!!


 こっそり誘拐犯の車の下に忍び込み、接触憑依していたんだろう。


 憑依で車の発進を阻止したのか!


 そのうえ、車を急発進させて3人まとめてなぎ倒してくれた。


「っと……!!」


 足下の銃を蹴る。


 車に跳ね飛ばされ、震えながら銃に手を伸ばしていた輩から銃を遠ざける。フェルグスがやられた仕返し……! と思いつつ、その顔面も蹴りつけてやる。


「アル! まだ車押さえておいてくれ!」


「はいっ!」


 アルがワタワタと起き上がり、標識に激突していた車に張り付く。


 跳ね飛ばされ、道路に倒れていた残りの2人はナイフを手にしていたが――。


 また跳ね飛ばされた。


 今度は別の車に。


 さっきより勢いよく――。


「ラート! スアルタウ! 無事か!?」


「何とか! ありがとうございます副長!」


 車を走らせてきた副長が、容赦なく誘拐犯を撥ねた。


 殺す勢いで撥ねたから、結構エグい音が聞こえた。副長は「後でオレを弁護しろよ!?」と言いながら車から下り、誘拐犯を取り押さえにかかった。


「おいおいおい……! 何がどうなってんだよ!?」


「レンズ! そこのやつ頼む!」


 副長だけではなく、レンズも追いついてきた。


 あとは運転席の奴を捕まえれば、ヴィオラを助ける事ができる。


「テメエらはもう終わりだ! 大人しくしろ!!」


 アルが憑依で止めてくれている車に走る。


 運転席から発砲してきたが、弾はかするだけで済んだ。


 好都合だ。弾丸で割れた窓から手を伸ばし、運転席の誘拐犯を殴りつける。


 敵も悲鳴を上げながら抵抗してきたが、単純な殴り合いで俺達(オーク)が負けるもんかよ。銃持った手を掴みつつ、顔面に拳の連打をごちそうしてやる。


 誘拐犯は直ぐにノビて動かなくなった。死んでない。多分!


 ちょっと顔面潰れたっぽいが、死んでないだろ。多分!


「ヴィオラ!!」


「ら、ラートさん……」


 後部座席の扉を開け、押し込められていたヴィオラを助け出す。


 押し込まれる時に叩かれたようで、咳き込んでいる。見た感じ、大怪我は負っていないようだ。手を貸してやると、自分の足で歩き出した。


 脚がちょっと震えているので、そっと手を添えて杖代わりになってやる。


「こ、この方達は一体……」


「わからん。交国軍人じゃないのは確かだ」


 だが、完全な素人じゃねえ。


 アルやロッカの助けがないと、俺も負けていたかもしれない。




■title:砂浜近くの道路にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 1人でおしっこに行ってきた帰り、怪しい人達を見つけた。


 覆面をして明らかに怪しいから、怖くて物陰に隠れていたら……砂浜の方から悲鳴が聞こえてきた。見ると、ヴィオラ姉ちゃんが連れ去られていた。


 助けないと――と思ったけど、怖くて動けなかった。


 でも、ラートさんの声が聞こえた。


 ラートさんが近くにいると思うと勇気が湧いてきて……足が動いた。


 悪い人に体当たりしてでも止めようと思って――。


『待て待て待て兄弟……! そっちじゃない! 死ぬ気か!?』


『えっ? えっ?』


『あっちだ! 急げ!』


 急に出てきたエレインさんに導かれ、別の場所に走る事になった。


 悪い人達の使っていた車に向け、駆け寄る事になった。


『やるなら敵の脚を潰しなさい。正面から立ち向かわず、頭を使おう』


『う、うんっ!』


 エレインさんに導かれながら車の下に転がり込んだ。


 そして車に憑依した。


 憑依で車を止めておけば、ラートさんを援護できる。そう信じて。


 ラートさんもちょっぴり危なかったみたいだけど――。


『よし動かせ!』


『うんっ!』


 エレインさんに、ボクの目の代わりになってもらった。


 ボクが車に憑依中、ボクの代わりに周囲を見張ってもらった。


 そのおかげで、悪い人達に車で体当たりできた。


「ヴィオラ姉ちゃん! だっ、大丈夫だった……!?」


「うん……。ご、ごめんね……」


 ヴィオラ姉ちゃんに駆け寄ると、弱々しいけど返事をしてくれた。


 生きている。無事みたい。


「アル! お手柄だったぞ!!」


「あ、うぅ…………」


「アル!?」


「アル君!?」


 ラートさんの笑顔で完全に気が抜けた。


 ケガしたわけじゃないけど、怖くてたまらなかったから……ラートさん達が来てくれて、安心しすぎて……腰が抜けちゃった。


 ヘニャヘニャになっていると、ラートさんが抱っこしてくれた。


 ラートさんがいてくれて良かった。


 おしっこも、しておいて良かった。


 してなかったら、多分きっと、怖くて漏らしてたと思う……。


「マジで助かったけど、危ないことしやがって~……!」


「ご、ごめんなさい。でも、エレインさんも手伝ってくれたし――」


 ラートさん達の前で、エレインさんのこと言っちゃった!


 ラートさん達には見えないのに……。


「エレ……なんだって?」


「な、何でもないですっ」




■title:砂浜近くの道路にて

■from:死にたがりのラート


「エレ……なんだって?」


「な、何でもないですっ」




認識操作開始(ナイトノッカー)考察妨害(ミスディレクション)




 アルが変なことを……いや、違う、アレか。


 例の幻覚かな? 大して気にすることじゃないか。


 テキトーに話を合わせるだけでいいだろう。




認識操作(ナイトノッカー)休眠状態移行(スリープモード)




 とにかく、ヴィオラを助けられて良かった。


 アルも無事で良かったよ、本当に……。




■title:砂浜近くの道路にて

■from:狂犬・フェルグス


「ヴィオラ姉――」


 ズキズキ痛む顔を押さえつつ、ヴィオラ姉のところに走る。


 走ったけど、もう全部片付いた後だった。


 ラートがいる。


 ヘロヘロになってるアルを抱っこし、さらにはヴィオラ姉も抱き寄せている。


 アルもヴィオラ姉も、交国人相手に……安心して身体を預けてる。


「…………」


 なんでだ。


 ポッと出の交国人のくせに。


 オレよりアルとヴィオラ姉のこと、知らねえくせに。


 知らないはず……なのに……。


 オレの方が、巫術使えてスゴいのに……。なんで……。


「…………」


「…………? フェルグスちゃんっ、皆のとこ行かないの?」


「…………」


「…………??」




■title:砂浜近くの道路にて

■from:肉嫌いのチェーン


「ラート! コイツら何者だ!?」


「俺が聞きてえですよ……! 急にヴィオラ連れて行ったんだもん!」


 ちょっと目を離した隙に大変な事になった。


 ラート達がいないと、ヴィオラは連れて行かれてただろう。


「副長、手錠ありますか?」


「さすがに無い。とりあえず武器は全部取り上げておくぞ」


 ラートとレンズと手分けして、倒した誘拐犯から武器は奪っておく。


 衣服も奪い、それで手足を縛っておく。頑張れば抜け出せないこともない拘束だが、抜け出そうとした時点で頭をサッカーボールキックするぞ。


「みんなだいじょうぶ~?」


「あっ、グローニャこっちに来るな。ロッカ達と砂浜で待ってな?」


「バレット! ガキ共を見ててやってくれ!」


 遅れてやってきたバレットにガキを頼んでおく。


 さて、コイツらの覆面も剥いで――。


「げっ……!! コイツら、深人(ふかびと)かよ……!?」


 覆面に隠されていたのは半魚人面だった。


 深人。流民に多くいるバケモノ。


 一応人間の一種らしいが……生理的に嫌悪感を抱く外見の奴も多い。オレが覆面を剥いだ奴は、特に魚っぽさが強くて吐き気がした。


「つーことはコイツら、流民か……?」


「素人らしくない動きでした。やりなれてたみたいです」


「人さらいかねぇ」


 ヴィオラは容姿整っているし、人身売買の商品になるだろう。


 でも、わざわざ交国本土で人さらいするかぁ?


 かなりリスクあるだろうし、この場を逃げても界外に逃げられるはずが――。


「副長。黒水の警備隊が来たみたいですよ」


「遅い……いや、十分早いか?」


 誘拐犯達を取り押さえていると、黒水警備隊の車がいくつもやってきた。


 その辺にいた一般人が通報したんだろう。


 警備隊の奴らがドタバタと車から下りてきて、銃を構えてきた。


「お前達! 膝をついて両手を上げろ! その場で待機しろ! 我々は黒水警備隊だ! 無駄な抵抗はやめ、大人しくしていろ!」


「いや、もう犯人達はノビて――」


 違う。


 警備隊の奴らは、倒れた誘拐犯以外に銃を向けている。


 オレ達に(・・・・)銃を向けている。


 やばい、勘違いされてる。オレ達が騒動を起こしたと思われている。


 ラートとレンズが「俺達じゃない!」と抗議の声をあげたが、警備隊の奴らは表情を強ばらせながら銃を向けてきている。


「チッ……。2人共、抵抗するな。言う通りにしろ」


「でも副長――」


「話せばわかるさ」


 誤解があるようだ。


 両手を上げつつ、努めて冷静に状況を説明する。


 だが、警備隊の奴らは「喋るな!」と言いつつ、散弾銃の銃口をオレに押しつけてきた。あーあー……これは面倒な事になったなぁ~……。


 まあ、何とかなるだろ。


「…………」


 オレの携帯端末は、今も隊長と通信中。


 この騒ぎを聞いた隊長が手を打ってくれるはずだ。……多分!


「貴様! なんだこれは!」


「あっ、ちょっ……! 通信切るのは反則――」




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:星屑隊隊長


「…………」


 端末から聞こえていた音声が途切れる。


 誰かが通信を切ったらしい。


 おそらく、黒水警備隊の誰かだろう。


「…………しくじったか」




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