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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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揺りかご



■title:港湾都市<黒水>にて

■from:死にたがりのラート


 事件はあったものの、検疫自体は無事終わった。


 星屑隊の面々は早々に終わったが、第8の方は少し時間がかかっているらしい。


 それを待っていると、アル達も出てきた。ヴィオラは途中で検査ミスがあったとかで、少し遅れた。


「皆さん、すみません~……。お待たせしてしまって」


 最後に出てきたヴィオラは申し訳なさそうに謝ってきたが、謝る必要なんてない。直ぐここから出られるわけじゃないしな。


「今は駅に向かう車両待ちだから、まったく問題ねえよ」


「ということは、ひとまずここでお別れですね」


 ヴィオラはスアルタウとグローニャ、それとロッカの背に手を回しつつ、俺とレンズとバレットに「子供達をよろしくお願いします」と頭を下げてきた。


 予定通りに行けば、子供達3人は俺達と一緒に行くことになる。


 離れている間、万が一があった時のために鎮痛剤や他の薬も受け取りつつ、「任せてくれ」と請け負う。


 ロッカとグローニャはバレット達相手に、さっそく「休暇の間なにをするか」を楽しげに話し込んでいる。


 ただ、その輪の外にいる奴もいて――。


「フェルグスも~……せっかくだから俺と来ないか?」


「…………」


 そう声をかけたものの無視された。


 そっぽを向いてツンとしている。


 何度か誘ったんだが、良い返事は貰えないままだ。


 申し訳なさそうにしているヴィオラの肩を軽く叩き、「何かあったら連絡してくれ。飛んで行くから」と言っておく。


 副長いるから大丈夫だとは思うが――。


「でも、さっきの特佐さんは何だったんですか。子供相手に、あんな……」


 ヴィオラは犬塚特佐の事を思い出したのか、憤慨して表情を硬くしている。


 怒る気持ちもわかるが、特佐達は特佐達で事情があるんだろう――となだめる。


 特佐に撃たれた赤毛の子供は、一応無事だった。


 黒水の警備隊に担架で運ばれていく間も、「離せ」「ひとごろし!」と言いながら暴れていた。暴れる元気があるなら、まあ何とか大丈夫だろう。


 あの暴れっぷり。特佐に対する目つき。


 出会ったばかりの頃のフェルグスを思い出すものだった。


 交国に対する恨みは……ネウロン以外にも結構ありそうだな。


「どんな理由があろうと、あんな人は英雄だと思えません」


「おいおいおい……。ここには犬塚特佐ファンも多いんだから……」


 休暇前ではしゃいでいる星屑隊には聞こえていないようだが、ヴィオラに声を潜めてもらうように頼む。


 ヴィオラはムッとした様子で犬塚特佐に対し、怒り続けている。


「特佐とラートさんの会話、よく聞こえなかったんですけど……。ラートさんって、犬塚特佐とどういったご関係なんですか?」


「あ~……。ただの知り合いだよ」


 検疫中、星屑隊の皆にも根掘り葉掘り聞かれたことをまた聞かれた。


 本当にただの知り合いだよ――と返す。


 有り難いことに犬塚特佐は俺を評価してくれている。だが、あれは明らかに過大評価だ。まさか、また誘われるとは思わなかった。


「詳細は話せないんだが、仕事の関係で会っただけだよ」


「そうなんですか……」


 ヴィオラは納得した様子で頷いた後、問いを投げかけてきた。


「あと、なんか特佐の弟さんがネウロンいるって話も聞こえたんですが……」


「久常中佐だよ」


「えっ?」


「犬塚特佐の弟。ネウロン旅団長の久常中佐が、あの人の弟だ」


 2人共、玉帝の子供だよ。


 そう紹介すると、ヴィオラは素っ頓狂な声を出した。


「全然似てないし、そもそも姓も違うじゃないですか!」


「容姿はともかく、玉帝一家は姓が違うのが当たり前だよ」


 玉帝の子供は何十人と存在する。


 表に出てきていないだけで、数百人いるとも噂されている。


「玉帝の子供は、基本的に身分を明かすのを禁じられているんだ。兄弟それぞれ別の姓を与えられて、それで密かに生活していく」


 犬塚特佐と久常中佐の姓が違うのは、その影響だ。


 結婚の影響で姓が変わったとかではなく、「玉帝の子供だから」という理由で正体を隠して市井で暮らしたり、軍学校に通ったりするんだ。


「けど、功績を上げていけば公の場で『玉帝の子供』として認められるんだ。交国政府と玉帝にな。逆に功績を上げなきゃ~……公には認知されない」


「そ、それ、親として結構酷いことしてませんか……?」


「でも、最初から『玉帝の子供』って明らかにしておくと、周囲が忖度(そんたく)する可能性もあるからな……」


 玉帝は身内びいきをしないが、官僚や軍人達もそうとは限らない。


 玉帝の子供という事で気を遣い、ゴマをすってくる可能性がある。玉帝はそういう腐敗を嫌い、子供達にも厳しく接しているらしい。


「玉帝にとって自分達の子供は、自分の代わりに交国の多分野を担う存在なんだ。最高指導者の息子や娘が、責任を持って軍を率いていると……軍人達の士気も上がるんだよ」


「理屈はある程度わかりますが……倫理的にはちょっと、首をかしげます」


 まあ、そう思う気持ちもわかる。


 親としてはかなり厳しい対応だよな。


 けど、玉帝は「親としての情」より「最高指導者としての責務」を優先している。交国を担う人材として自分の子供達にも切磋琢磨させ、十分な実力や功績を持ったら褒美として(・・・・・)、公でも認知する。


「一国民としては『玉帝は真面目で頼れるなぁ』と思うよ」


「その感想はどうかと思いますが――」


 微妙な顔を浮かべていたヴィオラが、「ん?」と呟いた。


「功績を立てないと、公には認知されないんですよね?」


「そうだ。功績立てても本人の意向で、関係性を明かさない事もあるらしいが」


「じゃあ、久常中佐の功績は?」


「えっ?」


「あの人、いつ交国に貢献したんですか?」


「び、微妙に失礼なこと言ってるな……」


 周りに久常中佐ファンがいたら怒りそうな話だ。


 犬塚特佐みたいに、中佐のファンがいるかどうか知らんが……。


「確か……その、それなりに功を立てていたはずだ。俺も功績(それ)について聞いたのは結構前だから、覚えてないんだが――」


 確かに聞いた覚えがある。


 功を立てていなきゃ、佐官まで(・・・・)上り詰めていないはずだ。


 具体的に何やってたかは忘れたが、確かニュースになっていたような……。


 端末使って調べてみたが――。


「あれっ? ねえなぁ……。どこで見たんだっけ……?」


「親の七光りで何とかしたんじゃあ……」


「んなわけねーって! そんな事、玉帝が許すはずがない」


 久常中佐についてあーだこーだと話していると、通信のために席を外していた隊長が戻ってきた。俺達を乗せる車両もほぼ同時に来た。


 ただ、隊長は残念な知らせを携えてきた。


「特別行動兵の黒水外への外出だが認められなかった」


「えっ? つまり――」


「貴様らの実家に行く許可が下りなかった」


 隊長の知らせを聞いたグローニャとロッカが同時に不満そうに声を上げた。


 アルも残念そうに肩を落としている。隊長も上にかけあってくれたみたいだが……こういう事は許可を取るのが難しいようだ。


「まあ仕方ねえだろ。黒水で休暇を楽しもうや」


 副長が子供達の頭をポンポンと触り、慰めている。


 ただ、それで子供達の表情が晴れるわけではなく――。


「「「…………」」」


 レンズとバレットと顔を見合わせ、頷く。


 2人も俺と同じ考えみたいだ。


「やっぱ俺、黒水残りますよ」


「自分も残ります」


「オレも。副長達だけでガキ4人の子守りは大変でしょ」


 俺達の言葉を聞き、アル達が顔を上げた。


 グローニャに「いいのん?」と聞かれたレンズが苦笑し、「いっそのこと逆をやるのも1つの手だ」と言った。


「逆って?」


「ウチの妹達を、逆に黒水に呼ぶんだよ! せっかく交国本土まで来たんだから、ウチの可愛い妹達を紹介してやろう」


「ホントっ!?」


「いやぁ……そりゃ無理だろう」


 グローニャの表情がパッと明るくなる中、副長が口を挟んできた。


 言いづらそうに声をかけてきた。


「交国人でも居住地近辺以外への移動は制限されている。許可申請を出せばいいんだが……下りるとは限らないし、結構……時間かかるしなぁ」


「あぁ、そういや……。そうでしたね」


 レンズは困り顔を浮かべたが、グローニャはそんなレンズの尻を叩いた。


「レンズちゃん達、グローニャ達に構わず、おウチに帰ってダイジョブだよ!」


「いや、でもなぁ……。連れて行くって約束したし……」


「それは~……。……しょーがないじゃんっ」


 グローニャは「むんっ」と腕組みをし、物分かりのいい事を言いだした。


 隊長は最初から「確約できない」と言っていたし、行けないのは仕方ない。


 そう言いだした。……自分でそう言いだした。




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


 レンズちゃんのおウチ行きたい。


 レンズちゃんの妹ちゃん達と会って、友達になりたい~……。


 でも、ダメなら……仕方ないっ。


 レンズちゃんを困らせちゃ……だめっ!


 それに――。


「いや、グローニャ。オレは別の機会に帰れるし――」


「それ、いつになるかわからないじゃんっ! 会える時に会わなきゃダメっ!」


 レンズちゃん達、軍人さんだし……いつも危ないことしてる。


 だから、会えなくなる事もあるかもしれない。


 そうならないようグローニャもガンバルけどっ! でも……ダメだよ。


 大好きな人とは、会える時に会っておかなきゃダメ。


 グローニャ……会いたくても会えないのさびしいって、知ってるよ?


「妹ちゃん達のためにお土産買ったし、頑張って作ったぬいぐるみもあるでしょ? ちゃんと持って帰って渡さなきゃダメだよっ」


「それは別に、配送頼んでもいいし――」


「ダメっ! 手渡ししなきゃダメっ!」


 レンズちゃん、「今回は家に帰れるし、直接渡せるぞ~」って嬉しそうにしてた。作ったぬいぐるみ、グローニャに見せつつ、「ウチの妹達、気に入ってくれるかなぁ」って言ってた。楽しそうにしてた。


「レンズちゃんがガマンできても、妹ちゃん達はガマンできないかもじゃんっ! 大好きなお兄ちゃんにまたしばらく会えなくなっちゃうんだよっ!?」


 そう言うと、レンズちゃんはハッとした顔をした。


 そんで、ほっぺをかいて「わかったよ」と呟いた。


「……お前が言ってる事が正しい。実家に帰るよ」


「うんっ!」


 グローニャには副長おじちゃんがいるもんっ♪


 おじちゃんと黒水(くろ~ず)でいっぱい遊んでもらうもん――って言いつつ、おじちゃんの脚に抱きつく。


 すると、副長おじちゃんも笑って、「はいはい、遊ぼうな」と言ってくれた。レンズちゃんは……ちょっぴり寂しそうな顔してる気がするけど……。


「……休暇の期間が終わるまでには黒水戻ってくるから、そしたら遊ぼうぜ」


「…………! うんっ!」


 レンズちゃんがしゃがんで、指切りをしてくれた。


 遊ぶ約束。うれしいっ!


 楽しみだな~……。


「皆も元気でねっ!」


 車に乗っていく皆にブンブンと手を振って見送る。


 皆も「直ぐ戻ってくるからな」「副長と仲良くな~」と言いつつ、手を振ってくれた。それを笑顔で見送った。


「…………」


「えらいぞ」


「えへへ~……」


 副長おじちゃんが頭を撫でてくれた。


 ……グローニャ、平気だよ。


 グローニャ、つよいレンズちゃんの相棒だもんっ♪




■title:港湾都市<黒水>の駅にて

■from:死にたがりのラート


「ハァ…………」


「ラート、テメエ、ため息やめろ。何度つけば気が済むんだよ」


 肘で小突いてきたレンズを肘で突き返しつつ、「お前だって、グローニャと別れた後にため息ついてたじゃん」と指摘する。


「お前みたいに何度もついてねえし……!」


「アル達を実家に連れて行きたかった……」


「仕方ねえよ。テロ対策とかあるしな。それに、アイツらは悪さをしなくても、周りの奴らがなにするかわからんし……副長達の傍がいいよ。きっと」


 レンズは自分に言い聞かせるようにそう言った後、「じゃあ、オレはこっちだから――」と言いつつ、列車に乗り込んでいった。


 駅のホームに俺だけが取り残された。


 皆はもう、自分の実家に向かう列車に乗り込んじまった。


「…………」


 俺は実のところ、1つ見逃した。アレに乗ってればレンズ達より先に出発できたんだが……どうしても覚悟が決まらず、ホームに残ってしまった。


 このままアル達のところに戻ろうかな?


 けど、アルもロッカも、グローニャみたいに俺達を送り出してくれたしな……。


「……行くか」


 覚悟は決まっていないが、ホームに滑り込んできた列車の搭乗口に向かう。


 アル達が送り出してくれたんだ。いつまでもウジウジしていられない。


 ……実家に帰っても、あまり歓迎されないかもしれない。


 電子手紙(メール)とかのやりとりだと、「いつでも帰ってきなさい」って感じだが……本当はどう思われているかわからない。


 俺はラート家の恥さらしだ。


 久常中佐の言う通り、逃亡兵なんだ。


 だから家に帰ったら、近所の人達に冷ややかな目で見られるかもしれない。家族だって、本当は俺なんかに帰ってきてほしくなんか――。


「あ~っ……! もうっ……!」


 自分で自分の頬を叩き、気合いを入れる。


 家族を疑うのはダメだろ。……もし万が一、冷たく接されてもそれは軍でやらかした俺の責任だ。しっかりと受け止める必要がある。


 送り出してくれたアル達のためにも、気合いを入れて帰ろう。


 そう考え、静かにその時を待つ。


 列車の中で到着の時を待つ。


 しばらく時間はかかったが――。


「よしっ……!」


 実家最寄りの駅のホームに降り立つ。


 人気はない。交国本土とはいえ、地方都市だからな。テロ対策のためにも都市間の行き来が制限されている場所だし……人気がないのは仕方ない。


 だが、町に行けば沢山の人がいる。


 俺の故郷の人達が、町で平和な営みを続けている。


「み、土産も一応買ってきたしっ……!!」


 とりあえず、黒水で木彫りの置物を買ってきた!


 正直微妙な気がするが……無いよりはマシだろ!?


 笑い話の種にはなるはず……!


「…………」


 駅の検問所を潜り、個室で待つ。


 係官が来るのを大人しく――――――――。




■title:都市番号AZ83にて

■from:第7揺籃機構


 国民番号De4052101の睡眠:確認。


 第7揺籃機構内への搬入:開始。


 揺籃機構起動:確認。


 機構(システム)正常稼働中。


 所持品検査開始:走査完了。


 所持品を第1007保管庫に移送:一時保管完了。


 廃棄物確認。木彫りの置物:廃棄完了。


 対象「オズワルド・ラート」に対する帰郷夢干渉開始。


 愛国心刺激信号:例外処理。


 処理理由:ネウロン案件。


 家族愛刺激信号:通常処理。


 揺籃機構(クレイドル):正常稼働中。




■title:都市番号AZ83にて

■from:死にたがりのラート


 検問の係官と別れ、懐かしい故郷に足を踏み入れる。


「おぉっ……!」


 駅の構内は寂しいもんだったが、やっぱり町中は活気があるな。


 帰ってきたんだなぁ、としみじみ思っていると――。


「兄ちゃ~~~~んっ!!」


「おおっ……!!?」


 ウチの可愛い弟がやってきた。


 ブンブンと手を振りつつ、こっちに走ってくる。


「ど、どうした? 何でここいるんだよっ!」


「えへへっ……。兄ちゃん、そろそろ来るかなぁって思って待ってたの」


 しゃがんで弟と視線を合わせると、ニコニコ笑顔の弟が抱きついてきた。


 おかえり、と言いつつ、ギュ~~~~っと抱きしめてくれた。


 その温かい対応に、思わず涙腺が緩む。……帰ってきて良かった。


「オズワルド」


「あっ……。か、母ちゃんっ……」


 駅に迎えに来てくれたのは、弟だけじゃなかった。


 母ちゃんも笑顔を浮かべつつ、俺に近づいてくる。


 ゆっくり近づいてきて、弟ごと俺を抱きしめ、「おかえり」と言ってくれた。


「か、母ちゃん……。俺……」


 緩む涙腺を押さえるのは無理だった。両手塞がってるし。


「俺、父ちゃんみたいになれなかったよ……」


 父ちゃんみたいな勇敢な軍人になれなかった。


 その事が情けなくて、家族の温かさが嬉しくて、涙がポロポロ出てきた。


「俺、父ちゃんみたいに立派な最期を――」


「せっかく帰ってこれたんだから、いまはつらいこと全部忘れて休みなさい」


 母ちゃんの優しい言葉に、「うん」と返す。


 返すつもりだった。


 けど、胸がいっぱいで変な声しか出なかった。


 ……帰ってきて良かった。




■title:都市番号AZ70にて

■from:第2揺籃機構


 国民番号Am1052102の睡眠:確認。


 第2揺籃機構内への搬入:開始。


 揺籃機構起動:確認。


 機構(システム)正常稼働中。


 所持品検査開始:走査完了。


 所持品を第0002保管庫に移送:一時保管完了。


 廃棄物確認。ぬいぐるみ。木工細工:廃棄完了。


 対象「ダグラス・レンズ」に対する帰郷夢干渉開始。


 愛国心刺激信号:例外処理。


 処理理由:ネウロン案件。


 家族愛刺激信号:通常処理。


 揺籃機構(クレイドル):正常稼働中。




■title:都市番号AZ70にて

■from:狙撃手のレンズ


 検問の係官に礼を言い、故郷への一歩を踏み出す。


「ふぅ……。懐かしい匂いがするな」


 思わず、笑みがこぼれる。


 オレの故郷は都会じゃあねえが、自然豊かで閑静な場所だ。


 あんまり人がいないが、この静けさが――。


「「「兄ちゃ~~~~んっ!」」」


「ぬおっ……!? おっ、お前ら、何でここにいる!?」


 静けさを破る大声。


 声の聞こえた方向を見ると、超絶可愛いチビ3人が走ってくるところだった。


 3人とも嬉しそうに笑って走ってきて、オレの足に抱きついてきた。


「オレの可愛い妹達。まさか、迎えに来てくれてたのか?」


「「「そうだよっ!」」」


「おぉ~っ……!! 時間つたえてなかったのに、よくわかったなぁ!?」


 仲良し3姉妹が声を揃えている光景に、思わず顔がニヤけちまう。


 静かな場所もいいが、オレの故郷といえばこれだよな!


 妹達の元気な声! その妹達にさっそく土産を渡してやろうと思ったが――。


「ダグラス」


「……母さん」


 迎えに来てくれたのは、義妹(いもうと)達だけじゃ無かったようだ。


 再婚した母さんも来てくれていた。微笑しつつ、オレに近づいてくる。


 母さんと会うのは少し気恥ずかしくて、その恥ずかしさを誤魔化すために自分の顔を触っていると、抱きしめようとしてきた。


 さすがに恥ずかしいので、「やめてくれ」と言う。


 嫌なわけじゃない。けど……オレはもう大人だしさぁ……。


「ええっと……色々、心配かけて悪かった。前の部隊の事とかさぁ……」


「せっかく帰ってこれたんだから、いまはつらいこと全部忘れて休みなさい」


 母さんの優しく諭すような言葉に頷く。


 いや、休む前にやる事あるよな。


「皆に土産があるんだ。それと……いつものヤツも作ってきた!」


 グローニャに選ぶの手伝ってもらった土産。


 それと、自作のぬいぐるみ!


 少しドキドキしながら渡す。


 妹達も少し大きくなったし、「もうぬいぐるみなんていらな~い」と言われるかもしれないと思いつつ渡す。心配していたが、杞憂だった。


「「「やったやったやった」」」


 妹達は声を揃えて喜んでくれた。


 ……頑張って作った甲斐があった!




■title:都市番号AZ87にて

■from:星屑隊隊長


「…………」


 駅から都市に足を踏み入れる。


 太陽が照明のように光っている。


 アレが来る。


「父さ~~~~んっ!」


「ああ。ただいま」


 来た。


 駆け寄ってきた息子の形をしたモノを抱き上げる。


 妻の形をしたモノがやってくる。


 ケミカル臭のする「家族の団欒」が始まる。


「いまはつらいこと全部忘れて休んでくださいね」


「ああ。いつも、お前に任せきりですまない」


 定型句に対し、適当な定型句(ことば)で返す。


 数日、これをやり過ごす必要がある。


 心を殺す。これも必要なことだ。


「…………」


 揺籃機構(クレイドル)


 夢葬の魔神モドキ。どこまで火種(われら)を虚仮にする気だ。




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