揺りかご
■title:港湾都市<黒水>にて
■from:死にたがりのラート
事件はあったものの、検疫自体は無事終わった。
星屑隊の面々は早々に終わったが、第8の方は少し時間がかかっているらしい。
それを待っていると、アル達も出てきた。ヴィオラは途中で検査ミスがあったとかで、少し遅れた。
「皆さん、すみません~……。お待たせしてしまって」
最後に出てきたヴィオラは申し訳なさそうに謝ってきたが、謝る必要なんてない。直ぐここから出られるわけじゃないしな。
「今は駅に向かう車両待ちだから、まったく問題ねえよ」
「ということは、ひとまずここでお別れですね」
ヴィオラはスアルタウとグローニャ、それとロッカの背に手を回しつつ、俺とレンズとバレットに「子供達をよろしくお願いします」と頭を下げてきた。
予定通りに行けば、子供達3人は俺達と一緒に行くことになる。
離れている間、万が一があった時のために鎮痛剤や他の薬も受け取りつつ、「任せてくれ」と請け負う。
ロッカとグローニャはバレット達相手に、さっそく「休暇の間なにをするか」を楽しげに話し込んでいる。
ただ、その輪の外にいる奴もいて――。
「フェルグスも~……せっかくだから俺と来ないか?」
「…………」
そう声をかけたものの無視された。
そっぽを向いてツンとしている。
何度か誘ったんだが、良い返事は貰えないままだ。
申し訳なさそうにしているヴィオラの肩を軽く叩き、「何かあったら連絡してくれ。飛んで行くから」と言っておく。
副長いるから大丈夫だとは思うが――。
「でも、さっきの特佐さんは何だったんですか。子供相手に、あんな……」
ヴィオラは犬塚特佐の事を思い出したのか、憤慨して表情を硬くしている。
怒る気持ちもわかるが、特佐達は特佐達で事情があるんだろう――となだめる。
特佐に撃たれた赤毛の子供は、一応無事だった。
黒水の警備隊に担架で運ばれていく間も、「離せ」「ひとごろし!」と言いながら暴れていた。暴れる元気があるなら、まあ何とか大丈夫だろう。
あの暴れっぷり。特佐に対する目つき。
出会ったばかりの頃のフェルグスを思い出すものだった。
交国に対する恨みは……ネウロン以外にも結構ありそうだな。
「どんな理由があろうと、あんな人は英雄だと思えません」
「おいおいおい……。ここには犬塚特佐ファンも多いんだから……」
休暇前ではしゃいでいる星屑隊には聞こえていないようだが、ヴィオラに声を潜めてもらうように頼む。
ヴィオラはムッとした様子で犬塚特佐に対し、怒り続けている。
「特佐とラートさんの会話、よく聞こえなかったんですけど……。ラートさんって、犬塚特佐とどういったご関係なんですか?」
「あ~……。ただの知り合いだよ」
検疫中、星屑隊の皆にも根掘り葉掘り聞かれたことをまた聞かれた。
本当にただの知り合いだよ――と返す。
有り難いことに犬塚特佐は俺を評価してくれている。だが、あれは明らかに過大評価だ。まさか、また誘われるとは思わなかった。
「詳細は話せないんだが、仕事の関係で会っただけだよ」
「そうなんですか……」
ヴィオラは納得した様子で頷いた後、問いを投げかけてきた。
「あと、なんか特佐の弟さんがネウロンいるって話も聞こえたんですが……」
「久常中佐だよ」
「えっ?」
「犬塚特佐の弟。ネウロン旅団長の久常中佐が、あの人の弟だ」
2人共、玉帝の子供だよ。
そう紹介すると、ヴィオラは素っ頓狂な声を出した。
「全然似てないし、そもそも姓も違うじゃないですか!」
「容姿はともかく、玉帝一家は姓が違うのが当たり前だよ」
玉帝の子供は何十人と存在する。
表に出てきていないだけで、数百人いるとも噂されている。
「玉帝の子供は、基本的に身分を明かすのを禁じられているんだ。兄弟それぞれ別の姓を与えられて、それで密かに生活していく」
犬塚特佐と久常中佐の姓が違うのは、その影響だ。
結婚の影響で姓が変わったとかではなく、「玉帝の子供だから」という理由で正体を隠して市井で暮らしたり、軍学校に通ったりするんだ。
「けど、功績を上げていけば公の場で『玉帝の子供』として認められるんだ。交国政府と玉帝にな。逆に功績を上げなきゃ~……公には認知されない」
「そ、それ、親として結構酷いことしてませんか……?」
「でも、最初から『玉帝の子供』って明らかにしておくと、周囲が忖度する可能性もあるからな……」
玉帝は身内びいきをしないが、官僚や軍人達もそうとは限らない。
玉帝の子供という事で気を遣い、ゴマをすってくる可能性がある。玉帝はそういう腐敗を嫌い、子供達にも厳しく接しているらしい。
「玉帝にとって自分達の子供は、自分の代わりに交国の多分野を担う存在なんだ。最高指導者の息子や娘が、責任を持って軍を率いていると……軍人達の士気も上がるんだよ」
「理屈はある程度わかりますが……倫理的にはちょっと、首をかしげます」
まあ、そう思う気持ちもわかる。
親としてはかなり厳しい対応だよな。
けど、玉帝は「親としての情」より「最高指導者としての責務」を優先している。交国を担う人材として自分の子供達にも切磋琢磨させ、十分な実力や功績を持ったら褒美として、公でも認知する。
「一国民としては『玉帝は真面目で頼れるなぁ』と思うよ」
「その感想はどうかと思いますが――」
微妙な顔を浮かべていたヴィオラが、「ん?」と呟いた。
「功績を立てないと、公には認知されないんですよね?」
「そうだ。功績立てても本人の意向で、関係性を明かさない事もあるらしいが」
「じゃあ、久常中佐の功績は?」
「えっ?」
「あの人、いつ交国に貢献したんですか?」
「び、微妙に失礼なこと言ってるな……」
周りに久常中佐ファンがいたら怒りそうな話だ。
犬塚特佐みたいに、中佐のファンがいるかどうか知らんが……。
「確か……その、それなりに功を立てていたはずだ。俺も功績について聞いたのは結構前だから、覚えてないんだが――」
確かに聞いた覚えがある。
功を立てていなきゃ、佐官まで上り詰めていないはずだ。
具体的に何やってたかは忘れたが、確かニュースになっていたような……。
端末使って調べてみたが――。
「あれっ? ねえなぁ……。どこで見たんだっけ……?」
「親の七光りで何とかしたんじゃあ……」
「んなわけねーって! そんな事、玉帝が許すはずがない」
久常中佐についてあーだこーだと話していると、通信のために席を外していた隊長が戻ってきた。俺達を乗せる車両もほぼ同時に来た。
ただ、隊長は残念な知らせを携えてきた。
「特別行動兵の黒水外への外出だが認められなかった」
「えっ? つまり――」
「貴様らの実家に行く許可が下りなかった」
隊長の知らせを聞いたグローニャとロッカが同時に不満そうに声を上げた。
アルも残念そうに肩を落としている。隊長も上にかけあってくれたみたいだが……こういう事は許可を取るのが難しいようだ。
「まあ仕方ねえだろ。黒水で休暇を楽しもうや」
副長が子供達の頭をポンポンと触り、慰めている。
ただ、それで子供達の表情が晴れるわけではなく――。
「「「…………」」」
レンズとバレットと顔を見合わせ、頷く。
2人も俺と同じ考えみたいだ。
「やっぱ俺、黒水残りますよ」
「自分も残ります」
「オレも。副長達だけでガキ4人の子守りは大変でしょ」
俺達の言葉を聞き、アル達が顔を上げた。
グローニャに「いいのん?」と聞かれたレンズが苦笑し、「いっそのこと逆をやるのも1つの手だ」と言った。
「逆って?」
「ウチの妹達を、逆に黒水に呼ぶんだよ! せっかく交国本土まで来たんだから、ウチの可愛い妹達を紹介してやろう」
「ホントっ!?」
「いやぁ……そりゃ無理だろう」
グローニャの表情がパッと明るくなる中、副長が口を挟んできた。
言いづらそうに声をかけてきた。
「交国人でも居住地近辺以外への移動は制限されている。許可申請を出せばいいんだが……下りるとは限らないし、結構……時間かかるしなぁ」
「あぁ、そういや……。そうでしたね」
レンズは困り顔を浮かべたが、グローニャはそんなレンズの尻を叩いた。
「レンズちゃん達、グローニャ達に構わず、おウチに帰ってダイジョブだよ!」
「いや、でもなぁ……。連れて行くって約束したし……」
「それは~……。……しょーがないじゃんっ」
グローニャは「むんっ」と腕組みをし、物分かりのいい事を言いだした。
隊長は最初から「確約できない」と言っていたし、行けないのは仕方ない。
そう言いだした。……自分でそう言いだした。
■title:港湾都市<黒水>にて
■from:甘えんぼうのグローニャ
レンズちゃんのおウチ行きたい。
レンズちゃんの妹ちゃん達と会って、友達になりたい~……。
でも、ダメなら……仕方ないっ。
レンズちゃんを困らせちゃ……だめっ!
それに――。
「いや、グローニャ。オレは別の機会に帰れるし――」
「それ、いつになるかわからないじゃんっ! 会える時に会わなきゃダメっ!」
レンズちゃん達、軍人さんだし……いつも危ないことしてる。
だから、会えなくなる事もあるかもしれない。
そうならないようグローニャもガンバルけどっ! でも……ダメだよ。
大好きな人とは、会える時に会っておかなきゃダメ。
グローニャ……会いたくても会えないのさびしいって、知ってるよ?
「妹ちゃん達のためにお土産買ったし、頑張って作ったぬいぐるみもあるでしょ? ちゃんと持って帰って渡さなきゃダメだよっ」
「それは別に、配送頼んでもいいし――」
「ダメっ! 手渡ししなきゃダメっ!」
レンズちゃん、「今回は家に帰れるし、直接渡せるぞ~」って嬉しそうにしてた。作ったぬいぐるみ、グローニャに見せつつ、「ウチの妹達、気に入ってくれるかなぁ」って言ってた。楽しそうにしてた。
「レンズちゃんがガマンできても、妹ちゃん達はガマンできないかもじゃんっ! 大好きなお兄ちゃんにまたしばらく会えなくなっちゃうんだよっ!?」
そう言うと、レンズちゃんはハッとした顔をした。
そんで、ほっぺをかいて「わかったよ」と呟いた。
「……お前が言ってる事が正しい。実家に帰るよ」
「うんっ!」
グローニャには副長おじちゃんがいるもんっ♪
おじちゃんと黒水でいっぱい遊んでもらうもん――って言いつつ、おじちゃんの脚に抱きつく。
すると、副長おじちゃんも笑って、「はいはい、遊ぼうな」と言ってくれた。レンズちゃんは……ちょっぴり寂しそうな顔してる気がするけど……。
「……休暇の期間が終わるまでには黒水戻ってくるから、そしたら遊ぼうぜ」
「…………! うんっ!」
レンズちゃんがしゃがんで、指切りをしてくれた。
遊ぶ約束。うれしいっ!
楽しみだな~……。
「皆も元気でねっ!」
車に乗っていく皆にブンブンと手を振って見送る。
皆も「直ぐ戻ってくるからな」「副長と仲良くな~」と言いつつ、手を振ってくれた。それを笑顔で見送った。
「…………」
「えらいぞ」
「えへへ~……」
副長おじちゃんが頭を撫でてくれた。
……グローニャ、平気だよ。
グローニャ、つよいレンズちゃんの相棒だもんっ♪
■title:港湾都市<黒水>の駅にて
■from:死にたがりのラート
「ハァ…………」
「ラート、テメエ、ため息やめろ。何度つけば気が済むんだよ」
肘で小突いてきたレンズを肘で突き返しつつ、「お前だって、グローニャと別れた後にため息ついてたじゃん」と指摘する。
「お前みたいに何度もついてねえし……!」
「アル達を実家に連れて行きたかった……」
「仕方ねえよ。テロ対策とかあるしな。それに、アイツらは悪さをしなくても、周りの奴らがなにするかわからんし……副長達の傍がいいよ。きっと」
レンズは自分に言い聞かせるようにそう言った後、「じゃあ、オレはこっちだから――」と言いつつ、列車に乗り込んでいった。
駅のホームに俺だけが取り残された。
皆はもう、自分の実家に向かう列車に乗り込んじまった。
「…………」
俺は実のところ、1つ見逃した。アレに乗ってればレンズ達より先に出発できたんだが……どうしても覚悟が決まらず、ホームに残ってしまった。
このままアル達のところに戻ろうかな?
けど、アルもロッカも、グローニャみたいに俺達を送り出してくれたしな……。
「……行くか」
覚悟は決まっていないが、ホームに滑り込んできた列車の搭乗口に向かう。
アル達が送り出してくれたんだ。いつまでもウジウジしていられない。
……実家に帰っても、あまり歓迎されないかもしれない。
電子手紙とかのやりとりだと、「いつでも帰ってきなさい」って感じだが……本当はどう思われているかわからない。
俺はラート家の恥さらしだ。
久常中佐の言う通り、逃亡兵なんだ。
だから家に帰ったら、近所の人達に冷ややかな目で見られるかもしれない。家族だって、本当は俺なんかに帰ってきてほしくなんか――。
「あ~っ……! もうっ……!」
自分で自分の頬を叩き、気合いを入れる。
家族を疑うのはダメだろ。……もし万が一、冷たく接されてもそれは軍でやらかした俺の責任だ。しっかりと受け止める必要がある。
送り出してくれたアル達のためにも、気合いを入れて帰ろう。
そう考え、静かにその時を待つ。
列車の中で到着の時を待つ。
しばらく時間はかかったが――。
「よしっ……!」
実家最寄りの駅のホームに降り立つ。
人気はない。交国本土とはいえ、地方都市だからな。テロ対策のためにも都市間の行き来が制限されている場所だし……人気がないのは仕方ない。
だが、町に行けば沢山の人がいる。
俺の故郷の人達が、町で平和な営みを続けている。
「み、土産も一応買ってきたしっ……!!」
とりあえず、黒水で木彫りの置物を買ってきた!
正直微妙な気がするが……無いよりはマシだろ!?
笑い話の種にはなるはず……!
「…………」
駅の検問所を潜り、個室で待つ。
係官が来るのを大人しく――――――――。
■title:都市番号AZ83にて
■from:第7揺籃機構
国民番号De4052101の睡眠:確認。
第7揺籃機構内への搬入:開始。
揺籃機構起動:確認。
機構正常稼働中。
所持品検査開始:走査完了。
所持品を第1007保管庫に移送:一時保管完了。
廃棄物確認。木彫りの置物:廃棄完了。
対象「オズワルド・ラート」に対する帰郷夢干渉開始。
愛国心刺激信号:例外処理。
処理理由:ネウロン案件。
家族愛刺激信号:通常処理。
揺籃機構:正常稼働中。
■title:都市番号AZ83にて
■from:死にたがりのラート
検問の係官と別れ、懐かしい故郷に足を踏み入れる。
「おぉっ……!」
駅の構内は寂しいもんだったが、やっぱり町中は活気があるな。
帰ってきたんだなぁ、としみじみ思っていると――。
「兄ちゃ~~~~んっ!!」
「おおっ……!!?」
ウチの可愛い弟がやってきた。
ブンブンと手を振りつつ、こっちに走ってくる。
「ど、どうした? 何でここいるんだよっ!」
「えへへっ……。兄ちゃん、そろそろ来るかなぁって思って待ってたの」
しゃがんで弟と視線を合わせると、ニコニコ笑顔の弟が抱きついてきた。
おかえり、と言いつつ、ギュ~~~~っと抱きしめてくれた。
その温かい対応に、思わず涙腺が緩む。……帰ってきて良かった。
「オズワルド」
「あっ……。か、母ちゃんっ……」
駅に迎えに来てくれたのは、弟だけじゃなかった。
母ちゃんも笑顔を浮かべつつ、俺に近づいてくる。
ゆっくり近づいてきて、弟ごと俺を抱きしめ、「おかえり」と言ってくれた。
「か、母ちゃん……。俺……」
緩む涙腺を押さえるのは無理だった。両手塞がってるし。
「俺、父ちゃんみたいになれなかったよ……」
父ちゃんみたいな勇敢な軍人になれなかった。
その事が情けなくて、家族の温かさが嬉しくて、涙がポロポロ出てきた。
「俺、父ちゃんみたいに立派な最期を――」
「せっかく帰ってこれたんだから、いまはつらいこと全部忘れて休みなさい」
母ちゃんの優しい言葉に、「うん」と返す。
返すつもりだった。
けど、胸がいっぱいで変な声しか出なかった。
……帰ってきて良かった。
■title:都市番号AZ70にて
■from:第2揺籃機構
国民番号Am1052102の睡眠:確認。
第2揺籃機構内への搬入:開始。
揺籃機構起動:確認。
機構正常稼働中。
所持品検査開始:走査完了。
所持品を第0002保管庫に移送:一時保管完了。
廃棄物確認。ぬいぐるみ。木工細工:廃棄完了。
対象「ダグラス・レンズ」に対する帰郷夢干渉開始。
愛国心刺激信号:例外処理。
処理理由:ネウロン案件。
家族愛刺激信号:通常処理。
揺籃機構:正常稼働中。
■title:都市番号AZ70にて
■from:狙撃手のレンズ
検問の係官に礼を言い、故郷への一歩を踏み出す。
「ふぅ……。懐かしい匂いがするな」
思わず、笑みがこぼれる。
オレの故郷は都会じゃあねえが、自然豊かで閑静な場所だ。
あんまり人がいないが、この静けさが――。
「「「兄ちゃ~~~~んっ!」」」
「ぬおっ……!? おっ、お前ら、何でここにいる!?」
静けさを破る大声。
声の聞こえた方向を見ると、超絶可愛いチビ3人が走ってくるところだった。
3人とも嬉しそうに笑って走ってきて、オレの足に抱きついてきた。
「オレの可愛い妹達。まさか、迎えに来てくれてたのか?」
「「「そうだよっ!」」」
「おぉ~っ……!! 時間つたえてなかったのに、よくわかったなぁ!?」
仲良し3姉妹が声を揃えている光景に、思わず顔がニヤけちまう。
静かな場所もいいが、オレの故郷といえばこれだよな!
妹達の元気な声! その妹達にさっそく土産を渡してやろうと思ったが――。
「ダグラス」
「……母さん」
迎えに来てくれたのは、義妹達だけじゃ無かったようだ。
再婚した母さんも来てくれていた。微笑しつつ、オレに近づいてくる。
母さんと会うのは少し気恥ずかしくて、その恥ずかしさを誤魔化すために自分の顔を触っていると、抱きしめようとしてきた。
さすがに恥ずかしいので、「やめてくれ」と言う。
嫌なわけじゃない。けど……オレはもう大人だしさぁ……。
「ええっと……色々、心配かけて悪かった。前の部隊の事とかさぁ……」
「せっかく帰ってこれたんだから、いまはつらいこと全部忘れて休みなさい」
母さんの優しく諭すような言葉に頷く。
いや、休む前にやる事あるよな。
「皆に土産があるんだ。それと……いつものヤツも作ってきた!」
グローニャに選ぶの手伝ってもらった土産。
それと、自作のぬいぐるみ!
少しドキドキしながら渡す。
妹達も少し大きくなったし、「もうぬいぐるみなんていらな~い」と言われるかもしれないと思いつつ渡す。心配していたが、杞憂だった。
「「「やったやったやった」」」
妹達は声を揃えて喜んでくれた。
……頑張って作った甲斐があった!
■title:都市番号AZ87にて
■from:星屑隊隊長
「…………」
駅から都市に足を踏み入れる。
太陽が照明のように光っている。
アレが来る。
「父さ~~~~んっ!」
「ああ。ただいま」
来た。
駆け寄ってきた息子の形をしたモノを抱き上げる。
妻の形をしたモノがやってくる。
ケミカル臭のする「家族の団欒」が始まる。
「いまはつらいこと全部忘れて休んでくださいね」
「ああ。いつも、お前に任せきりですまない」
定型句に対し、適当な定型句で返す。
数日、これをやり過ごす必要がある。
心を殺す。これも必要なことだ。
「…………」
揺籃機構。
夢葬の魔神モドキ。どこまで火種を虚仮にする気だ。




