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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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赤毛の少年



■title:港湾都市<黒水>にて

■from:死にたがりのラート


「最近はくだらんゴミ掃除の日々だよ。ゴミ共を一つ一つ潰して回ってる」


「工作員やテロリスト対策ですか?」


 そう聞くと、特佐は「まあそんなとこだ」と言ってくれた。


 特佐の任務は多岐に渡る。犬塚特佐やカトー特佐のように一騎当千の力を持つ特佐達は敵対勢力との最前線で戦う事もある。


 犬塚特佐の場合、それ以外の特殊作戦を請け負う事も多いらしい。プレーローマの工作員捜索や、テロリストの拠点強襲も行っているはずだ。


「今回はゴミ掃除ついでに、ゴミ共を黒水に連れてきてやっただけだ」


 そう言った犬塚特佐は、検疫所で待っている人々を指さした。


 嫌悪に満ちた表情で指さした。


 つまり、彼らは犯罪者って事か……? でも、そのわりには――。


「……拘束、してないんですね?」


 検疫所で待っている人達は、一切拘束されている様子がない。


 周囲を特佐の部下達が警戒しているが、誰1人拘束されていない。


 みすぼらしい人々が肩を寄せ合い、特佐や特佐の部下に怯えている様子だった。快活に笑う特佐や部下達も、あの人達に対しては嫌悪を向けている。


 検疫待ちの人達が少しでも身じろぎしたり、ひそひそと話をしているだけで、特佐の部下が銃を向ける事すらあった。


 銃を向けられた人々は悲鳴を上げ、それを黙らせるためにより一層多くの銃口が向けられた。そんな光景が、いま、俺の目の前で繰り広げられている。


「まあ一応、犯罪者じゃないからな……。一応、な」


 特佐は検疫待ちの人々を睨みつつ、吐き捨てるようにそう言った。


 色々と思うところがあるらしい。


 特佐にここまで敵意を向けられるあの人達は、一体なんなんだろう?


 どこかから移送されてきた異世界人……なのか? 随分と人種がバラバラだ。


 交国は多種族国家だ。オークや只人種、獣人やエルフなど、様々な人種が暮らしている。ただ、地域によって偏りは存在する。


 特定地域から連れてきた人達なら、人種に偏りがあると思うんだが……。


 単なる異世界人ではなく、流民なのかもしれない。


 故郷を失い、混沌の海を放浪せざるを得なかった人々。そういった人達が身を寄せ合って生活するうちに何か重大なことをやらかし、特佐達に睨まれるようになった……といった感じだろうか?


「…………」


 女子供もいる。怯えた様子で母親らしき人物に抱きついている子もいた。


 そこまで危険な相手に見えない。


 軽く突けば死んでしまいそうなほど、痩せ細った人々が多い。


 俺達を見て、とても怯えている。


 特佐達はあくまで銃を向けて見張る程度で、実際に発砲はしていないみたいだけど……ここまでする必要がある相手なのか……?


「俺は『収容所にブチ込んでおけ』って進言したんだが、物好きな黒水守(くろうずもり)が手を回したみたいでなぁ。贖罪のためか何かしらんが……」


「黒水守って……黒水(ここ)の領主様ですよね?」


「そうだ。ウチのじゃじゃ馬(いもうと)の婿でもある」


 人々に対して嫌悪を向けていた特佐が、少しだけ笑みを浮かべた。


「黒水守は大した奴だよ。ただ……ちぃと甘すぎるな……。俺も借りがあるから、こうして護送してきたんだが……。こいつらは下手したら火種(・・)になる」


 特佐はそう言った後、検疫待ちの人々に対して向き直った。


 そして、恫喝するように声を上げ始めた。


「貴様ら、せいぜい黒水守に感謝しろよ!? 貴様らのようなゴミが交国本土の土を踏めるなんて、普通は有り得な――――」


「黙れぇッ!! ナルジス姉さんの仇ぃっ!!」


 人々の中から、誰かが飛び出してきた。


 赤毛の少年だった。


 フェルグス達と同年代に見えるが、骨の輪郭が見えるほど痩せ細っている。


 飛び出してきたその子は、何かの破片のようなものを掴んだまま、特佐に向けて突進してきた。怒りに満ちた表情を浮かべつつ、走ってきた。


 でも、きっと届かない。


 もう特佐の部下達が銃を向けている。


 けど、それより早く――。


「――――」


 特佐が撃った。


 いつの間にか拳銃を抜き放ち、誰よりも早く発砲した。


 赤毛の少年は、蹴られたボールのように吹っ飛び、群衆の中に戻っていった。検疫待ちの人々が悲鳴を上げ、あちこちに逃げようとしていたが――。


「ゴミクズ共が……」


 特佐がウンザリとした様子でボヤく中、特佐の部下達も発砲した。


 威嚇射撃を行い、あちこちに散らばろうとしていた群衆に対し、「両手を頭の後ろに回し、その場に伏せろ!!」と警告し始めた。


 離れた場所に待機していた複数の機兵も、機銃を生成しながら臨戦態勢に入っている。恐怖に突き動かされた群衆が、さらに大きな恐怖に対して屈していく。


 まるで、透明なハンマーで次々と打ち倒されていくように伏せていった。


 星屑隊(おれたち)ですら、特佐達の動きに身をすくませていたが――。


「何てことを……!!」


 ヴィオラは動いた。


 撃たれた少年のところに走って行こうとした。


 多分、手当しようと考え、動いた。


 けど、ヴィオラの後ろから伸びてきた隊長の手が、ヴィオラの口を塞いだ。そして、皆の後ろの方へと引きずっていった。


「とっ、特佐…………」


「まだ活きの良いゴミが混ざってたか。悪いな、騒がせて」


 特佐は「子犬がイタズラでもした」と言っているような苦笑を浮かべ、俺達に対して謝ってきた。


 部下達に群衆を任せ、拳銃をしまいつつ、「と、まあ……こんな感じなんだよ」と言葉を続けてきた。


「奴らはゴミだ。何故ここまでゴミなのかは……まあ、聞かない方が良い。耳が穢れるからな。こんな奴らでも黒水守は受け入れるって言うんだから……器が広いを通り越して狂人だよ。まったく……」


「…………」


 赤毛の少年は、大の字になったまま倒れている。


 群衆達はそれから目を背け、自分達の身を守っているようだった。


 いや、俺も――――。


「――すみません、特佐!」


「あっ。おい、ラート……」


 呼び止めてきた特佐を振り切り、倒れた少年に駆け寄る。


 特佐がここまでこの子達を嫌悪するのは、きっと深い理由がある。


 けど、それでも、見過ごせない。


 死にそうな子供を見捨てるわけにはいかない。


 それに、もし本当に死んじまったら、アル達もヤバい……!!




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:英雄・犬塚


 クソガキに駆け寄っていったラートを追い、歩いて行く。


 部下達がラートを止めようとしていたが、手で制する。


 機兵も下がらせ、ラートの好きにさせる。


 ブッ倒れているガキに駆け寄ったラートは、ガキを介抱し始めたが――。


「死んでないだろ?」


「え、ええ……。特佐、ひょっとして」


「ゴム弾だよ。さすがに」


 部下達には実弾を装備させているが、俺が撃ったのは暴徒鎮圧用のゴム弾だ。


 ガキは気絶しているようだが、それでも死んでないだろう。


 他の奴らにも弾は当ててない。脅して躾けただけだ。


 ラートは一瞬ホッとした様子を見せたが、それでもガキを介抱し始めた。


 そうしていると――――。


「特佐殿。困りますよ~」


 黒水の警備隊がゾロゾロと近づいてきた。


 大半の隊員はビビり散らかし、ウチの部下達を前に萎縮している。だが、先頭に立つ黒髪の大男は呆れ顔を浮かべながら近づいてくる。


「子供撃つとか。殺す気ですか? ここ、黒水(くろうず)ですよ?」


「だからゴム弾だっつーの。ちゃんと死なねえように急所は外した」


 多少、骨は折れているだろう。けど、良い教訓になったはずだ。


 黒髪の大男はジト目を浮かべつつ、「容赦ねえんだから」とボヤき、俺に対してさらに文句を言ってきた。


 いや、注文か――。


「ここは黒水警備隊(ウチ)が受け持ちます。犬塚特佐と愉快なお仲間達はお帰りください。この子達を黒水に護送していただき、ありがとうございました~」


(たつみ)。こいつらに甘い顔を見せていると後悔するぞ」


 こいつらは犯罪者じゃない。


 だが、それは罪が有耶無耶になっただけだ。


 キチンと精査しようにも……メチャクチャな状況だったからな。


 全員が全員、罪が無いにしても……絶対、奴らの加担者がいたはずだ。


 黒水に引き渡した後も、担当者が監視予定。そのうち尻尾を出してもおかしくない。……収容所にブチ込むのが手っ取り早いと思うが……。


「手に負えなくなったら言え」


「お気遣いありがとうございます。けど、それは交国軍の皆さんにとっても手間でしょうから……ウチでなんとかしてみせますよ」


 黒水の警備隊長は姿勢を正し、深々と頭を下げてきた。


 まあ、コイツらに任せたところで俺が直接困りはしないが……。


「あまり無理はするな。テメエや黒水守がくだらん意地を張った所為で、ウチの大事な妹が傷ついたら困るからな」


「それはもちろん気をつけます」


「ああ、それと、アイツらを先に通してやってくれ」


 星屑隊を指さし、頼んでおく。


 俺が護送してきたクズ共の所為で、無駄な時間を過ごさせちまっている。


 ネウロンの英雄達に休暇をしっかり楽しんでほしい。


 警備隊長が承知してくれたので、通信機越しに「撤収」と声をかける。


 部下達が方舟に向け、撤収を開始する。


 部下の機兵が近づき、しゃがんできたので、その手に乗る。


「じゃあな、ラート。お前の用事が終わったら、またスカウトするからな!」


 ラートに声をかけると、敬礼して見送ってくれた。


「――――」


 そのラートの傍に寝ていた赤毛のガキが、意識を取り戻している。


 震える身体を無理矢理動かし、俺を睨んでいるようだった。


 まったく……とんだ跳ねっ返りが潜んでいたもんだ。


 あの温厚な黒水守の手に負えるのか?


 いや、温厚といっても……ヤバい奴だからなぁ……。


「まったく……。アイツもとんでもねえ男を婿にもらいやがったな」


 ウチの妹も妹で問題児だが、黒水守も黒水守だぜ。




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