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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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死者蘇生技術の真偽



■title:<繊一号>外縁部の広場にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「真白の魔神は1000年以上前にネウロンを訪れ、プレーローマの置き土産からネウロン人を救いました。その後、ネウロンの発展に寄与しましたが――」


「ネウロン人に反抗され、ネウロンを去る事にした」


「そう、その通りです」


 真白の魔神――もとい、叡智神はネウロンを救った。


 けど、当時のネウロン人は力をつけた後、叡智神に逆らった。


 その鎮圧を、叡智神は使徒に命じた。


「羊飼いの正体は、当時、ネウロンを焼いた裁きの雷――」


「使徒・バフォメットか……?」


「おや……よく勉強していますね」


 ラプラスさんの代わりに名を呼んだラートさんが、「アルに教えてもらったんだ」と言いつつ、言葉を続けた。


「あれは実際にあった事なのか?」


「ええ。私はネウロンが雷によって焼かれた証拠も掴んでいます」


「……けど、ネウロン人は死ななかったんだよな? いや、生き返ったんだっけ」


「使徒・バフォメットの雷は、都市も方舟(ふね)も知恵も富どころか、人も焼き尽くしたと言い伝えられています」


 当時のネウロン人は、反抗の報いとして殺された――はずだった。


「しかし、死んだ人々は蘇生された……と言い伝えられています」


「真白の魔神は、本当に死者蘇生が出来るのか……?」


「そこに関しては、わかりません。ただ、ネウロンに限らず、真白の魔神は死者蘇生伝承を各地に残しているのですよ」


 ただ、本当に死者を蘇らせたかは不明。


 ラプラスさんは「少なくとも死者蘇生研究を行っていたのは確かです」と言った。けど、その研究が成功した確かな証拠は見つかっていないらしい。


 本当に死者蘇生に成功していたら、その技術も多くの人が欲しがるだろう。


 交国ですら、喉から手が出るほど欲しがるかもしれない。


 寿命等の事情で死んでいった偉人の蘇生だって出来るかもしれないし……。


「使徒・バフォメットが表舞台に出てきたのは、短い期間なのですが……それでも大活躍だったようです。真白の魔神の敵対者を次々と屠っていたようです」


「実際、繊三号で戦った奴は強かったな……」


「いえいえ、あんなものじゃ無いのですよ」


 ラプラスさんは半笑いで手を振りつつ、使徒を強さを具体的に教えてくれた。


「使徒・バフォメットは、雷光並みの速さで動き、一撃で方舟艦隊に大打撃を与えるほどの武闘派でした」


「雷光並みって……速いにもほどが……」


「いや、俺らが戦った奴は、そこまで速くなかったぞ……!?」


「弱くなったか、手を抜いていたのでしょうね」


 使徒・バフォメットの戦闘記録は、プレーローマにも残っているらしい。


 雪の眼のラプラスさんはプレーローマからも情報を得ているらしく、その戦闘記録は確かなものなんだとか。


「使徒・バフォメットは、プレーローマに大打撃を与えるほどの強者でした。だからこそ皆さんが勝ったと聞いてビックリしたんですよ。勝てるわけないですもん」


「速度に関してはともかく……破壊の規模は記録通りかもですね?」


「かもなぁ……。あの雷撃(ビーム)は方舟すら落とすっぽいし……」


 ラートさんがアゴをさすりつつ、「改めて考えてみると、よく俺ら勝てたな……」と呟いた。


「使徒がそこまで強いと、真白の魔神も相当強いんだな」


「いえ、むしろ魔神の中でも最弱クラスですよ」


「え~……? そ、そうなのか?」


「基本的な身体構造は常人と大差ありません。拳銃で脳天を撃てば死ぬレベルです。実際、それやられて倒れた記録も残っています」


 真白の魔神本人は、そこまで強くない。


 ただ、戦闘能力以外の能力は高く、部下である使徒も強者揃い。


 使徒・バフォメットですら、使徒最強の存在では無いんだとか――。


「羊飼いは……神器使いなのか?」


「過去の記録だと、そうなっています。雷に関する神器だったようですねぇ。ただ、ここ数日の騒乱の中では神器は使っていないはずです」


「えっ。あれだけムチャクチャな攻撃をしてきたのに……?」


「私は直接、目にしたわけではありませんが……全盛期の使徒・バフォメットの力がネウロンで振るわれていたら、ネウロン旅団はとっくの昔に壊滅していますよ」


 それこそ、過去にネウロン人が焼かれたように――。


「繊三号で貴方達が戦った使徒・バフォメットが神器を使っていたら、皆さんは一瞬で壊滅してますよ。雷光並みの速度で動くんですよ、雷光並みの速度で」


「うーん……。強かったけど、そこまで反則な速度は出してなかったな」


「ちなみに、使徒・バフォメットの記録は、真白の魔神がネウロンに来た頃辺りを境に残っていません。死亡説もあるほどです」


「ひょっとして……ネウロンで隠居生活を送っていたとか?」


 真白の魔神はネウロンを去った。


 だけど、使徒・バフォメットだけは残ったとか……。


「その可能性はありますね。もしくは1000年間、ずっと眠っていたとか?」


「1000年も寝てたら死ぬ…………いや、長寿族とか、不老不死の存在なら何とかなるのか……?」


「使徒・バフォメットは普通の人間ではありません。1000年程度は楽勝かと」


 ラプラスさんはそう言った後、別の可能性を提示してくれた。


 ネウロンで隠居、あるいは眠っていた以外の可能性を。


「ひょっとすると、表舞台から退いていただけで、ずっと真白の魔神に付き従っていたのかもしれません」


「と、言うと……?」


「真白の魔神がネウロンに戻ってきた。だから使徒・バフォメットもついてきた」


 ネウロンに戻ってきた真白の魔神は――叡智神は、ネウロンの惨状を知った。


 ネウロンを救うために、使徒・バフォメットを戦わせた……って事?


「そういう可能性もあります。私は1000年眠っていた説だと思いますが、真白の魔神は今どこにいるか不明なので、いまネウロンにいてもおかしくない」


 ラプラスさんはそう言い、奇妙な笑みを浮かべた。


 そして、私の顔を触りつつ、「真白の魔神は神出鬼没で、忘れっぽい御方なのです」と言った。


「ひょっとしたら、貴女達の傍にいるかもしれませんね?」


「まさかぁ。そんなヤバイ奴、俺らの傍にはいねえよ」


 ラートさんが可笑しそうに笑い、「まあ、あんまりお近づきにならない方がいい存在なのは確かだろうな」と言った。


「魔神全般が危ないんだ。『叡智神』はそこそこ良い神だったかもしれないけど……真白の魔神そのものはヤバそうだ」


「その通りです。善悪の境界で反復横跳びしている方ですからね。下手に近づいたら実験体にされて、どんな身体になるかわかりませんよ。身体すら失うかも」


「怖っ……。近づかんとこ」


「でも、ラプラスさんは真白の魔神を追っているんですよね?」


 ラプラスさんがネウロンに来たのは、真白の魔神の痕跡を追うため。


 それは確かにあった。叡智神という形で残されていた。


 痕跡を追うという事は、魔神自体も追うって事では……?


「ええ、私は真白の魔神とお話したいので。キャッキャと仲良く過ごしていた時期もあるのですが、あの御方は本当に神出鬼没なので……ここ数年は雪の眼でも所在が掴めていないほどです。寂しいですよ」


「怖い物知らずだなぁ……。殺されるかもしれないんだろ?」


「まあ、私は簡単には死にませんから。実は私、時間を巻き戻す力を持っているのですよっ! なので仮に死んでも復活するのです。えっへん」


「あー、はいはい。スゴイでちゅね。そんな力あるわけねーだろ」


 ラートさんが呆れ顔でラプラスさんの頭を撫で、あしらう。


 ラプラスさんは子供のように不満げな顔を浮かべていましたが、不敵な笑みを浮かべて「まあ、私には優秀な護衛がいるので大丈夫ですよ」と言った。


 真白の魔神そのものは弱くても、強い使徒を従え、複数の世界を滅ぼした相手に護衛1人で事足りるのかな……。


 そう思ったのでそれとなく聞いたけど、ラプラスさんは得意げに胸を張り、「ウチのエノクは強いので大丈夫ですよ」と言い切った。




■title:<繊一号>外縁部の広場にて

■from:死にたがりのラート


 雪の眼の史書官に、ネウロンに関する話を聞く。


 ただ、程々のところで切り上げる。


 史書官の護衛曰く、隊長達は俺達を見張っていないらしいが……あんまり長く宿泊所にいないと怪しまれるだろうし……。


「色々ありがとな。参考になる話が聞けた」


「謎は解けましたか?」


「深まるばっかりだよ……」


 余計にわからなくなった、と言っていいかもしれない。


 赤の雷光が設立されたキッカケに関しては……そこまで重要じゃない。


 大事なのは第8の子供達だ。あの子達を守るために、既に壊滅したテロ組織の成り立ちを細かく解き明かしていく必要はない。


「ただ……アンタの話を聞いていると、交国がネウロンで『公言できないようなこと』を結構やっていたっぽく思えてきた」


「でしょうね。交国への忠誠が揺らぎましたか?」


「多少は。でも、交国は俺の母国だからなぁ」


 家族もいるし、多少は疑っても信じるよ。信じたいよ。


 そう思うのは、副長が言うような枷の影響かもだけど――。


 でも、俺の家族は確かに存在するんだ。


 そして俺が交国の人間なのは確かだ。


 これは枷かもしれないが、家族との大事な繋がりでもあるんだ。


「とりあえず、今日のところはこれで解散……。続きは後日ですかね」


「アンタはこれからどうするんだ?」


「私はまだネウロンに残って調べ物です。ようやくニイヤド調査です」


 史書官は「ニイヤドに行きたい」と希望していた。


 けど、ネウロン旅団側の都合もあって――殲滅作戦や繊三号での作戦の影響もあって、予定が延び延びになっていた。


 その件に関して久常中佐に抗議したところ、「いま忙しいのに……」とボヤかれながら、ニイヤドに向かう部隊を都合してくれたらしい。


「皆さんは交国本土で長期休暇ですよね? 楽しんで来てください」


「ああ。アンタは、あんまり危ない橋を渡りすぎるなよ」


「ラプラスさん、ありがとうございました」


 そんな話をして別れようとしたが、史書官が呼び止めてきた。


 ヴィオラを呼び止め、駆け寄ってきた。


「最後に1つ、質問させてください」


「え? はい、どうぞ?」


「ヴァイオレット様。貴女、記憶は戻りそうですか?」


「…………」


 問いかけられたヴィオラを見る。


 ヴィオラは僅かに眉根を寄せ、困った様子で「いえ……」と答えた。


「ふとした拍子に、『知識』を思い出すことはあるんです……。過去の記憶の方は……全然、思い出せなくて……」


「ふーむ。そもそも、貴女は本当に(・・・)記憶喪失なのでしょうか?」


「えっ?」


「失うだけの記憶が、本当に、貴女の中にあったのでしょうか?」


 よくわかんねえことを言いやがる。


 史書官は意味深なことを言った後、「まあでも、そのうち真実に辿り着けますよ」と言い、静かにその場を去って行った。


 俺と、困惑顔のヴィオラを残し、街中に消えていった。


「アイツ、何が言いたかったんだ?」


「さあ……?」


 とにかく帰ろう。そう言い、ヴィオラと一緒に宿泊所に戻る。


 すると、宿泊所の入り口にいた隊員が声をかけてきた。


「ラート。ヴァイオレットさん。こんな時間にどこ行ってたの?」


「パイプ」


 出迎えてくれたパイプに何と言うか迷う。


 土産を見に行ってたんだよ、と言うと、「何を買ってきたの?」と問われた。何も買ってきてないので焦りつつ、「ピンと来るものがなかったんだ」と誤魔化す。


 パイプは「ふぅん」と言いながら俺達を見た後――。


「フェルグス君が襲われた事件は未解決なんだ。こんな時間にヴァイオレットさんが出歩くのは、正直どうかと思うよ?」


「そ、そうかもな」


「すみません。私がラートさんに無理言ってついてきてもらったんです……」


 ヴィオラと2人でちょっと焦りつつ、宿泊所の中に戻る。


 パイプに不審に思われたかもだが、隊長達が俺達を尾行していた様子はないし……大丈夫、だよな?




■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:星屑隊のパイプ


「…………」




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