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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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秘密結社の女



■title:<繊一号>にて

■from:死にたがりのラート


「なっ……! お、お前、どこから現れた……!?」


「普通に歩いて。ラート様がヴァイオレット様の話を聞くのにリソース割いた隙をついて、スルスル~っと近づいてきただけですよ。死角をついて」


 マズい。


 ヴィオラとコソコソ話をしているのは隊長達にもバレているだろうけど、雪の眼相手に話をしているのもバレると、非常にマズい……!


 そう思ってあたふたしていると、自称天才は笑顔で「星屑隊の隊長さん達なら見張っていませんよ」と言い切った。


「私の護衛が――エノクが見張りに立ってくれてますから、仮に後からやってきても直ぐ察知できます。その時は大人しく去りますよ」


「アンタ、交国政府の監視……もとい、護衛はどうしたんだ」


「彼らの目を欺くのは簡単です。私は雪の眼の史書官ですよ? 可愛くて愛らしいだけではなく、各国政府やプレーローマの目を盗んで色んなところに潜り込み、情報を漁ってきたプロの史書官です」


 数人の監視ぐらい、ワケないらしい。


 何度も抜け出されていることが交国政府に発覚したら、監視の人達のクビが飛ぶんだろうなぁ……。心配だ……。


「そもそも、監視の方々との話はもうついてますからね」


「えっ? マジ?」


「だってあの方々、もう何度も私の監視に失敗してますからね。私は自撮りでその証拠をいくつも作っているので、『これを交国政府に提出したら、貴方達の身が危ういですよ! ゲラゲラ!』と脅しているのです」


「コイツ、最悪だ……。天使並みにタチが悪い」


 クビの皮一枚繋がってるだけで、こいつに命を握られてるじゃん!


 弱みを握られているから、どっちにしろ上手く動けないんだな。


 自称美少女(コイツ)が監視を撒いた証拠を自撮りしつつ、「イエーイ!」と言ってる光景を思い浮かべると……面白いような、恐ろしいような……。


「今回はフツーに抜け出してきただけなので、ご心配なく。何ならおふたりとも一緒に証拠写真撮りましょうか? 共犯ですよ、共犯」


「冤罪だ、やめろ……!」


 史書官が取り出した携帯端末を取り上げ、高くに持ち上げる。


 史書官は幼女背丈なので、ぴょんぴょん飛び跳ねても届かない。「むぅぅぅ! それは卑怯です……!」と抗議してくるので、撮らない約束で返してやった。


「さてさて、調べ物なら史書官(わたし)にお任せを。何でも聞いてくださいな」


「交国について色々教えてください」


「おい、ヴィオラ……」


 雪の眼を頼るのは危険だ。


 だから止めようとしたんだが――。


「…………」


 伸ばした手を引っ込める。


 史書官が微笑み、「ラート様も覚悟を決めましたか」と聞いてきた。


「俺達には……情報が必要だ。既に危ない橋を渡っているうえに、アンタ以上に頼れそうな相手もいない。話を聞かせてもらっていいか?」


「ええもちろん。私の出番だと考えたから、接触したのです」


 胸に手を当て、「えっへん」とふんぞり返る史書官に問いかける。


「けど、俺達の質問に答えて、アンタに何の得がある? 見返りは――」


「しいて言うなら恩を売れます。ヴァイオレット様にね」


「わ、私ですか……?」


 戸惑い、自分を指さしているヴィオラに対し、史書官が頷く。


「貴女は、重要な情報を握っている可能性が高い」


「いえ、私は何も……。記憶もなくて……」


「失っている記憶の中に、重要な情報を隠し持っている可能性が高い」


 史書官は小さな指をヴィオラの胸に突きつけつつ、言葉を続けた。


「思い出した時でいいのです。色々と話を聞かせてくださいな。私は先払いで情報を出しているに過ぎません」


「「…………」」


 ヴィオラと顔を見合わせる。


 よくわからんが……まあ、それが見返りになるなら……コイツを頼れるのか?


「あ、でも、いま貰えるものは貰っておきますね」


「ひゃっ!?」


「おぉっ……?」


 史書官がヴィオラの胸を無遠慮に触り始めた。


 着衣の上から、ヴィオラの胸をこねている……のか?


 ヴィオラが赤面して戸惑っているので、史書官の腕を軽く叩いてやめさせる。同性同士とはいえ、何やってんだコイツ!


「女の子同士とはいえ、勝手に身体触るなんて最低だぞっ……!」


 史書官は満足げな笑みを浮かべつつ、手をワキワキさせている。


「ふぅ……。なかなか素晴らしいモノをお持ちで……」


「何がやりたいんだテメー」


「実は私、副業でとある秘密結社に所属し、<おっぱいソムリエ>もやっておりましてね……。おっと、ラート様の胸も味見させていただきましょう」


「うおっ、やめろ……!」


「ほう……。硬く張りのある()っぱいですねぇ。隊長様に次ぐレベル」


「ら、ラートさんの胸に触らないでくださいっ……! えっちっ!!」


「あら、ヴァイオレット様も触りたいのですね? では間接パイタッチどうぞ」


「ひゃ~……!! ひぃ~!! 微かなぬくもりが……!!」


 やっぱこの史書官、イカれてやがる。


 こんなバカ、本当に信じていいのか……?






【TIPS:おっぱいソムリエ】

■概要

 おっぱいソムリエとは、胸部を愛でる趣味人達である。特に人間女性の胸部を愛で、品評する者達が多いが、人間以外の胸に強い興味を持つ者達もいる。


 雪の眼の史書官・ラプラスもソムリエの1人として活動しており、「ソムリエ界の黒幕(フィクサー)」と呼ばれるほど強い影響力を持っている。



■エフェソスクラブ

 おっぱいソムリエ達が集まり、作られた秘密結社の名称。ソムリエ達が集い、胸という胸を品評し、自分が見つけた素晴らしい乳房を紹介しあっている。


 単なる乳好きの集まりではなく、中心メンバーは人類文明の政財界の重鎮どころか、プレーローマの天使も在籍しているほど。


 敵対関係にある者達も少なくないが、エフェソスクラブの会合に参加する際は一切のしがらみを捨て、1人のソムリエとして参加する事を求められている。


 だが俗世の立場を全て捨てられるわけではなく、会合にソムリエとして参加して乳談義をしているうちに仲を深め、俗世の外交関係が改善に向かった例もある。


 逆に会合で乳談義がヒートアップした結果、俗世で全面戦争に至った大人げないソムリエ達もいる。会合中、自分の推す乳房を馬鹿にされたという理由で殴り合いの喧嘩を行ったり、「自分好みの乳房を餅で作ろう」と企画された餅つき中に杵でどつき合うソムリエ達もいる。


 オンラインの会合中、議論が過熱しすぎて議論相手の国に向けてミサイルを発射した国家元首もいるほど、ソムリエ達の会合は戦場となりやすい。


 一口に「おっぱい」と言っても色んな胸があるので、ソムリエ達はお互いの好みを衝突させ、争う事も少なくない。好みによる派閥まで形成されている。



■ソムリエ界の与党「巨乳派」

 エフェソスクラブにおける最大派閥は「巨乳」であり、他の追随を許さないメンバー数を誇っている。


 巨乳派は「ソムリエ界の与党」と言っても過言ではない力を持っており、エフェソスクラブの会合も巨乳派が主催になりがち。


 巨乳派のソムリエ達は「我々は豊かな乳房のように寛大な心を持っている」と自称しており、会合でも余裕のある立ち回りを是としている。


 ただ、他派閥のソムリエ達からは「寛大なフリをして酔っているだけ」「俺の大好きな貧乳を鼻で笑いやがった」「巨乳派は陰湿」などと言われている。


 それでも最大派閥として強い影響力を持っているため、長年に渡ってソムリエ界の主導権を握り続けている。


 しかし巨乳派も一枚岩ではなく、巨乳派内にも派閥が存在している。乳のサイズや形で「最良の巨乳」に関する意見がわかれるだけではなく、人間以外の巨乳を至高とするソムリエも在籍している。



■交国とエフェソスクラブの敵対関係

 エフェソスクラブは秘密結社であり、参加者は基本的に正体を隠して参加している。他の参加者が「A国の国王だろ」「プレーローマの重鎮だろう」と気づいても指摘し合う事も俗世でリークするのも禁止されている。


 多くのソムリエにとって、おっぱいに対する愛情は大事なものだが、「おっぱいソムリエとして活動している」という事実はスキャンダルになりかねない恥ずかしいものである。


 そのため多くの記者達がエフェソスクラブ参加者の素性を明らかにすべく、調査に挑んでいる。しかし、参加者が権力者ばかりのため、表の権力を使って記者達に圧力をかけ、その調査を拒んでいる。


 そんな中、交国はエフェソスクラブメンバーの捕縛を試みた事がある。


 交国は多次元世界指折りの巨大軍事国家であり、他国の圧力に屈しない力を持っている。エフェソスクラブでさえ、簡単には倒せない強国である。


 そんな交国の最高指導者である玉帝は「いやらしいことばかり考えている結社メンバーを捕まえ、その素性を暴けば多次元世界でさらなる影響力を持つ事ができる」と考え、交国軍を動かしてメンバーの捕縛を試みた。


 つまり、脅迫の材料としてメンバーの素性を暴きにかかったのだ。


 お前ら裏でいやらしいことしているな、と脅すために動き出したのだ。


 かくして交国の特佐長官が現場を指揮し、神器使いを含めた部隊が動き出した。対プレーローマ作戦でもなかなか見られない精鋭が揃っており、さすがのクラブメンバー達も追い詰められる結果となった。


 会合を強襲されたメンバー達は表の権力を使い、交国を何とか止めようとした。しかし、交国にも玉帝にも一切通用しなかった。


 メンバー達は焦り、三輪車にまたがって縦隊を作り、必死に逃げたが最終的に追い詰められた。


 もはやこれまで……と思われていたその時! 巨乳派の主要人物として知られ、「長乳紳士」と名乗っていた覆面の男が覆面を脱ぎ捨て、交国軍の前に飛び出した。


 その覆面の下には、玉帝の側近として知られる石守回路の顔があった。石守回路は自身の権限で部隊を引かせ、他の結社メンバーのメンツを守った。


 自身の懐剣が「いかがわしい集まり」に参加していた事を知った玉帝は卒倒し、そのまま一週間寝込んだ。交国による「エフェソスクラブメンバー捕縛作戦」もうやむやのうちに終わった。


 何食わぬ顔で交国に帰ってきた石守回路は玉帝に対し、「儂がエフェソスクラブのメンバー? そんなわけなかろう。きっと悪い夢を見たんじゃ」と諭し、現実を受け止められない玉帝は虚ろな目でコクコク頷き、その言葉を信じる事にした。


 しかし、この事件は玉帝の心に深い傷を残し、交国がエフェソスクラブに関わる事はなくなった。その影響で石守回路以外にも交国の人間がクラブに参加している事実は明るみにならなかった。


 ソムリエ達は今も闇に潜み続けている。



闇の政府(ディープステート)

 エフェソスクラブは交国による強襲事件後も元気に活動し、石守回路の死後も「長乳紳士」の名は語り継がれていった。


 交国の強襲事件後もさらに「多次元世界の主要人物」達を集め、クラブメンバーの表の権力はさらに大きなものになっていった。


 様々な国家・組織の調査をはね除け、交国すら退けたエフェソスクラブは「闇の政府」として「多次元世界の情勢を操っている」と言われ続けている。


 おっぱいソムリエとしての会合は隠れ蓑であり、本当は「国家や組織の談合会場」と言われることさえある。


 実際、談合なり会談のためにソムリエメンバーの立場が利用される事もある。雪の眼の史書官であるラプラスも、調査のためにソムリエメンバーとの繋がりを使う事もある。


 しかし、ソムリエ達は本気でおっぱいを愛でており、闇の政府と言われるほどの活動はそこまでしていない。概ね、単なるいかがわしい集まりである。


 後の世の識者であるアリス・タイラー嬢は、エフェソスクラブについて「いい年した大人がいかがわしい会合を開いて恥ずかしくないんですか?」とコメントしている。





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