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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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呼ばれてないのにやってくる



■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:死にたがりのラート


 副長と別れた後、改めてバレットと交国の件を考えてみた。


 どっちも信じたくない話だ。


 あのバレットがネウロンの一般人を殺した可能性。


 交国がそれを命じ、ネウロンで横暴を働いていた可能性。


 ネウロンに来る前の俺だったら「馬鹿馬鹿しい」と一蹴していた。


 当時の俺は交国の正義を信じていたはずだ。


 けど、アルやフェルグス達と出会って――。


「…………」


「ラート。どうかしたのか?」


 顔を覗き込んできたロッカに対し、「ちょっと考え事してただけだ」と誤魔化す。アルも心配そうに俺を見ているが、声をかけて安心させる。


 2人には適当に時間を潰して貰いつつ、俺は俺で色々考えてみたが……俺のショボい頭じゃ、いくら考えても答えは出なかった。


 そもそも結論を出すだけの情報が不足している気がする。


 何かが起きている。


 それを断片的に見聞きしている。


 けど、問題がでかすぎて、まだ全体像も見えていない気がする……。


「ラート、なんか端末鳴ってね?」


「おっ……。ホントだな」


 ロッカに指摘され、携帯端末に手を伸ばす。


 見ると、部隊員全員への連絡だった。


 この内容は、ロッカ達にも知らせておかないと。


「交国本土行きの方舟、今日は出せないらしい。明日の朝予定みたいだ」


「まーた延期するんじゃねえの?」


 その可能性もあるけどな、と言って笑う。


 悩みやら心配が多すぎて、作り笑いにしかなってない気がするが――。


「よしっ……! とりあえず、3人で遊ぶか」


 バレットが集めてきてくれた暇つぶしの道具を漁り、遊ぶ。


 いま下手に考えても、嫌な考えしか思い浮かんでこない。


 そのうえキチンとした答えも出ないから、今は2人と時間を潰そう。




■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:死にたがりのラート


「あれ? ラート軍曹、夜遊びですか?」


「ちょっと散歩してくるだけだよ」


 夜。アル達のことを他の隊員に頼み、宿泊所を抜け出す。


 少し待っていると、ヴィオラも「お待たせしました~……!」と言いながら追いかけてきてくれた。


 俺だけで考えても答えは出ない。ヴィオラと情報を共有したい。それと、フェルグスとアルの件についても話をしたかった。


 先にフェルグス達のことを話しつつ、町を歩く。


「……誰かついてきてますか?」


「わからねえ」


 視線は感じない。誰も俺達を追ってきてないのか?


 隊長と副長は……俺達がコソコソと動いている事を知っている。


 2人が追ってくるか、一部の隊員を使って尾行してくる可能性も考えてたんだが……俺にはわからねえ。ただ、一応、手は打っている。


 打ったところで、あまり意味のない手だが――。


「俺達が外で話をしてくることは、アルには説明している。アルが星屑隊の隊員の魂を見て、俺達を追ってきてた奴がいないか調べてくれる予定だ」


「あっ……なるほど」


「まあ、わかったところで……って話だし、隊長達も俺がこういう手を使うことなんてお見通しだろうけどな~……」


 聞かれても問題ない程度の話をしつつ、夜の町を歩いていく。


 しばらく歩いた後、人気の無い高台の広場に辿り着いた。この辺りなら俺達の話を盗み聞きするのも難しいだろう。


 フェルグスを襲撃した奴が、ヴィオラを狙う可能性もある。ヴィオラは巫術師じゃないが、敵が間違う可能性も十分ある。


 襲われた時の逃走経路は確保しつつ、周辺もよく警戒しておく。これでようやく安心して密談できる。……いや、全然安心できる状況じゃねえけど。


「バレットの過去について、副長に気になることを聞いたんだ」


「え? バレットさんですか?」


「ああ。けど、この件は他言無用な。……本来は言うべきじゃないけど、アル達に関係ある話かもしれないから、ある程度はヴィオラにも話しておきたい」


 心の中でバレットに「すまん」と謝りつつ、ヴィオラに話す。


 副長に聞いた話を――。


「バレットさんが、そんなことするわけ……! …………いや、交国軍の上官さんに命令されたら、逆らえない可能性は……あります……よね?」


「バレット自身が進んでやるとは思えない。けど、俺達は軍人だ。実家に残した家族のこともあるから……上の命令には基本、逆らえねえ」


「…………」


「俺だって、バレットと同じ立場だったら……何やるかわからん。幸い、ウチの隊長達はしっかりした人達だけど……。ヴィオラも色々と思うところはあると思うが、とりあえず、バレットのことは責めないでくれ」


 ヴィオラは頷き、「問題は交国そのものですよね」と言った。


 ヴィオラは魔物事件前のことは知らない。


 事件後、フェルグス達と出会って以降の記憶しか持っていない。


 だから事件前の状況はよく知らないそうだが……交国が横暴を働いていた話はちょくちょく聞いているらしい。


「さすがに罪のない一般人を殺したって話は聞いてないですけど……魔物事件前から交国軍が大きな顔をしてたって話は、収容所でも聞きました」


「す、すまん……」


「ラートさんが謝る話じゃないですよ」


 交国は「ネウロンを守るため」と言いながら、交国軍を派遣してきた。


 そして、交国軍をネウロン内で活動させ始めた。


「交国軍が……他国の軍隊が好き勝手に出歩いているのは、かなり異常な状況です。ネウロン連邦が認めていたとしても、認めざるを得ない状況がおかしいです」


「当時はまだ、タルタリカいなかったはずだもんなぁ……」


 魔物狩りのために必要だったわけじゃない。


 それでも「他国の軍隊」である交国軍が、どこの領地だろうが構わず、方舟を飛ばしたり、機兵を走らせるのは確かに異常な状況だ。


 ネウロンは交国に物申すだけの力が無かったみたいだが、余所の世界だったら国際問題に発展してもおかしくない。


「ネウロンは交国と比べたら、確かに技術水準の低い世界です」


「電子機器もほぼ無いからな。いや、存在しないか。ネウロン製のものは」


「交国のような携帯端末はありませんし、ネットもありません。交国軍が問題を起こしたところで……SNSで拡散したりも出来ませんね」


 何か問題が起きても、情報統制が比較的容易な場所だ。


 当時の事を知る人の多くは、魔物事件でもう亡くなっているし……。


 交国が「問題」を起こしていたとは、思いたくねえけど……。


「そもそも、例のテロ組織……<赤の雷光>が魔物事件を起こしたって話も疑わしいです。その事は交国政府しか言ってませんからね」


「けど、そういう名前のテロ組織がいたのは事実だろ?」


「バレットさんも対応してたみたいですけどね……」


 ヴィオラは悩ましげに息を吐き、俺の顔を見て言葉を続けてきた。


 俺も周りを警戒しつつ、ヴィオラの言葉にも集中する。


「カトー特佐がネウロンのために動いてくれるとはいえ……私達も、もっと情報を集めるべきだと思います」


「だな……。未だに色々と謎があるからな」


 しかも、掘り進めば掘り進むほど、新しい謎が出てきやがる。


 掘り進めた先にゴールが待っているのかすら、わからない。


 それどころか……俺達が墓穴を掘っているだけの可能性もある。


 気づいたら穴ごと埋められる可能性もあるかもしれない。それは「交国政府に消される」ってことかもだから……そうはならないと祈りたいが。


「問題は、情報が簡単に手に入らないってことですね」


「交国はネウロンで焚書まで行っている。……俺も、それに協力しちまった」


 ネウロンは後進世界。


 文献等があっても、間違った知識を羅列しているだけ。そのようなものは不要だから焼却処分しても良い――と言われている。


 俺も隊長に命じられ、いくつかの本を処分している。その場で処分せず、持ち帰って隊長に渡し、隊長が責任を持って処分してくれたはずだ(・・・)


「魔物事件が、どういう仕組みで発生したかも未だ不明ですからねー……」


「まあ、それは明かせないだろうよ。模倣犯が出たら大変だ」


「それは……そうかもですけど……」


「新しい情報を仕入れるとしたら、カトー特佐に聞く……とかかな?」


 繊三号奪還作戦に参加したことで出来た縁。


 特佐はフェルグス達の身を案じ、ネウロンを想って動いてくれている。


 元テロリストとはいえ、カトー特佐が所属していたエデンは単なるテロ組織じゃない。弱者のために動いていた組織だったらしい。


 特佐を信じ、こっちも色々と情報を明かしていいと思う。そうすることで特佐からも色々と情報を貰えるかもしれない。


 そう提案したが――。


「特佐に全てを明かすのは……まだやめておきましょう」


「やっぱ駄目か。……特佐が俺達を騙していると思うのか?」


「私はラートさんと違って、疑り深いイヤな女なので~……」


 ヴィオラは苦笑し、「慎重に行動したいです」と言った。


 ヴィオラの言いたい事もわかる。話が上手く運び過ぎている。


 カトー特佐に情報を明かすのは、特佐が玉帝との謁見を終えた後でもいいだろう。謁見がどういう結果に結びつくかを見た後でもいいはずだ。


 となると、カトー特佐には直ぐ頼れない。


「特佐以外に、情報を得るルートか~……。思いつかんぞ」


「いえ、あるじゃないですか。あの人に聞けば――」


「おいおい……まさか雪の眼の史書官に聞くつもりかぁ?」


「素晴らしい案だと思いますよ」


「「…………!?」」


 ヴィオラの声じゃない。


 別の女の声が、かなり近くから聞こえてきた。


 声の方向を見ると、微笑した金髪碧眼の幼女がいた。


 雪の眼の史書官。自称天才美少女のラプラスが、こっちに近づいてきた。




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