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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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皆それぞれの事情



■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:死にたがりのラート


「さっきは、ゴメン……。言い過ぎた」


 俺の部屋にやってきたフェルグスは、開口一番、アルに向けて謝った。


 フェルグスを見て固まっていたアルも、直ぐに「いや、ボクが悪くて……」と言いつつ、上目遣いでフェルグスを見つめ返した。


「ウソついてゴメン……」


「ん……」


「えと……。えとっ……」


「じゃ……」


 フェルグスは謝るだけ謝ると、アルと会話せずに去って行こうとした。


 だが、付き添っていたヴィオラが立ちはだかり、フェルグスに「ラートさんにも謝らないとダメでしょ」と言った。


 そう言われたフェルグスは立ち止まったものの、黙り込んでいる。


「ヴィオラ、いいんだ。俺に謝る必要はない」


「でも……」


「フェルグスが交国人に対して思っている事は、正しい事が多い。俺達がどう考えていたところで、ネウロンがこんな事になったのは、交国の責任もある」


 ヴィオラを手で制しつつ、フェルグスに向けて片膝つきつつ話しかける。


 俺からも「ごめんな」と言ったが、フェルグスは背を向けたまま走り去っていった。……少しは仲良くなれたと思ったんだが、振り出しに戻ったか……。


 まあ、根本的な問題は解決してないもんな。


 それどころか、アルの話だとフェルグス達の両親すら危ういからな……。


「ぼ、ボク、にいちゃんと話を……」


「もうちょっと時間を置こう」


 オロオロしつつ、フェルグスを追おうとしていたアルを止める。


 俺の部屋で待ってな――と言い、部屋の中に戻し、ヴィオラと2人で話をする。


 今回の件、ちょっと……いや、かなり尾を引きそうだ。アルもフェルグスもお互いを嫌いになったわけではないから、関係修復は不可能ではないと思うが――。


「あの件、フェルグス君にも言うべき……なんでしょうか」


「いや、さすがに止めておこう」


 ひとまず、フェルグスはヴィオラに見ておいてもらう。


 アルは俺の方で引き続き預かり、ヴィオラをフェルグスのところへ送り出す。階段を上っていったから、宿の外には出ていないだろう。


「…………」


 どうするのが最善なんだ――考えつつ、廊下にたたずんでいると、不安げな表情のロッカが廊下をウロウロしているのが見えた。


 手招きして呼び寄せ、屈んで視線を合わせて問いかける。


「何かあったのか?」


「いや、バレットが具合悪いみたいでさぁ……!」


 どうも、俺達が去った後、バレットが身体の調子を崩したらしい。


 あるいは、子供達のために動いてくれていた時から調子が悪かったんだろう。


 キャスター先生の診断だと、異常らしい異常は無かったらしい。けど、いまは部屋で静かに休んでいるところみたいだ。


「俺もちょっと様子見てくるわ。ロッカ、アルを頼めるか?」


「ああ、うん。任せて」


 ロッカも俺の部屋に入ってもらい、2人に留守番を頼む。


 そしてロッカのところに向かっていると、廊下でキャスター先生と立ち話をしていた副長を見かけた。


「副長もバレットの見舞いっスか?」


「ああ」


 俺がバレットのいる部屋に入ろうとすると、副長は「オレも行く」と言い、一緒に部屋に入ってきた。


 バレットは俺達に気づき、ベッドから起き上がろうとしていたが……さすがに寝かせる。階級を気にして体調悪化したらアホらしい。


「す、すみません……。ご迷惑おかけして。もう、大丈夫ですから」


「大丈夫かどうかはキャスター先生が判断する。その先生が『休みなさい』って言ってんだから、今は大人しくしてな?」


 試しに額に手を当ててみたが、特に熱っぽくない。


 フェルグスが「襲撃」されたから、宿の食べ物に毒を入れられた――って可能性も先生達は検討したそうだが、さすがにそれは無いらしい。


 ここは交国軍の宿泊所だ。一般人がホイホイ入ってきて、毒を盛っていくなんて事はできないはずだ。


 でも、確かにバレットの顔色は悪いように見える。


「とにかく、ゆっくり休めよ~? あんまり体調崩しすぎると、方舟に乗るのも難しくなる。せっかく実家に帰れるチャンスなんだ。自分を大事にしな?」


「はい……。本当に、すみませんでした……」


 ベッドの上で上体を起こしたバレットは、心底申し訳なさそうな表情で頭を下げてきた。もう少し話をしたかったが、副長に促されて部屋を出る。


 その後、副長に「ちょっとツラ貸せ」と言われた。


 宿泊所の外に行くようだ。


 その途上、気になっている事を聞く事にした。


「バレットの奴、急にどうしたんでしょうね。まさかネウロンの風土病とか?」


「有り得ない話じゃないが――」


 多次元世界には数え切れないほど多くの世界が存在する。


 多くがプレーローマの作った世界で、世界の「ひな形」は似たようなものだから、似た世界がいくつも存在している。


 ただ、全てが一緒とは限らない。特定の世界限定の病気もある。


 例えばネウロンでは大したことのない「風邪程度の病」が、余所の世界では猛威を振るう事もある。異世界交流には防疫が不可欠だ。


 交国軍人の俺達は、余所の世界で活動せざるを得ない。タルタリカみたいな敵以外にも、風土病にも立ち向かっていく必要がある。


 交国政府も病やらウイルスを脅威に考えているから、界外派遣される軍人(おれたち)のために色々対策してくれてるんだが――。


「ネウロンでは、これといって特別な病は見つかってない。交国のワクチンで対応できている。今回はそういうのじゃねえよ」


「じゃあ、何なんでしょうか……」


「バレットが体調を崩した時の話を、ロッカに聞いたんだが――」


 宿泊所の外に出ると、副長は周囲を警戒しつつ、宿から少しだけ離れた場所に陣取った。宿の窓も見て、誰か聞き耳立てていないか警戒している様子だった。


「バレットのアレは……精神的な問題だ」


「はあ、精神的……?」


「精神的外傷。トラウマ。アイツはそれに苦しめられ続けているんだ」


 副長は苦々しい表情を浮かべ、「ネウロン侵攻の初期メンバーとして派遣されちまった所為で……」とこぼした。


「バレットが元機兵乗りって事は、知ってるな?」


「ええ、一応は……。何故か機兵乗りから整備士に転向したんですよね?」


 かなり珍しい配置変更だ。


 交国軍の戦場で最も活躍しているのは<神器使い>かもしれないが、俺達のような「凡人」でも手が届く花形は「機兵乗り」だ。


 機兵乗りは希望したらなれるものじゃない。軍人の適正を鑑みつつ、厳しい訓練をくぐり抜けた先になれる役目だ。


 嫌な言い方になるが、整備士より機兵乗りの方がエリートだ。機兵乗りは危険も多いが、それに見合った俸給や恩給が約束されている。


「何でそうなったかは知りません。本人が言いにくそうにしてたので……」


 星屑隊の隊員は、訳ありの人間が少なくない。


 レンズが銀星連隊からトバされてきたように、俺も過去に問題を起こしている。だからお互い、触れられたくない過去は触れないようにしてきた。


 俺達はハリネズミみたいなもんだ。


 刺々しい過去を持っているが、お互いにそれに触れないよう気をつけておけば、仲良くできる。お互いに踏み込まないのが暗黙の了解だった。


「副長って、バレットが通っていた軍学校の先輩なんですよね?」


「ああ。だから、アイツの事情はある程度知っている。聞きたいか?」


「まあ、正直、気になりますけど――」


 どうも、バレットは「魔物事件前」からネウロンにいた様子だった。


 魔物事件後に来た俺達が知らない情報を知っている様子だった。


 しかも、魔物事件を引き起こしたとされる<赤の雷光>に関しても、交戦の経験があるようだった。アル達のためにも情報は欲しいんだが――。


「バレットの古傷を抉っちまう話なら……遠慮しておきます」


「そうか。じゃあ話す」


「えっ。副長、俺の話、聞いてます?」


 副長は傍にあった自販機に歩み寄りつつ、「聞いてたよ」と言った。


 それで、自販機で買い物しつつ、話を続けてきた。


「お前はまあまあ口が硬いし、バレットに対してアレコレ聞かないなら……口止め料代わりに言っておいてもいいと思ってな」


「はあ……」


「お前、ネウロンの過去について、色々と調べているだろ?」


「――――何の話ですか?」


 自販機で合成珈琲を2つ買った副長は、片方を俺に渡してきた。


 そして、微かに笑みを浮かべつつ、「トボけるなよ」と言ってきた。


「オレは星屑隊の副長。お前達を監督する義務がある。お前がヴィオラと組んで嗅ぎ回っている事なんて、とっくの昔に把握してるっつーの」


「ヴィオラとは仲良くしてますけど、嗅ぎ回るとか、そういうことは……」


 俺がさらにトボけると、副長は鼻を鳴らして「まあいい」と言った。


 そう言いつつ、話を続けてくれた。


「お前が知りたがっている情報を、少しだけ教えてやる。といってもオレも大したことは知らないが……これはバレットの過去にも絡んだ話だ」


「…………」


「オレから話す代わりに、バレットには何も聞くな。アイツに直接聞いちまうと、アイツが苦しむ事になる。今日みたいにな」


 副長曰く、バレットは昔から真面目な奴だったらしい。


 ただ、今とは少し違った。


 軍学校時代は目をキラキラさせつつ、「お国のために頑張りますっ!」と言うような学生だったらしい。真面目で愛国心が強い奴だったらしい。


「正義感も強かった。交国の『教育』のおかげだな。……だから潰れた」


「…………」



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