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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第2.0章:ハッピーエンドにさよなら
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敵と味方



■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


「あっ! ラートさんっ!」


 部屋の扉が開き、ラートさんが「よっ!」と言いながら入ってきた。


 それに続いてバレットさんも入ってきて、外でお話してたヴィオラ姉ちゃんも戻ってきた。


 近づいてきたラートさんが机の上を見て、「手紙、書いてたのか」と言った。頷き、貰った紙とペンを見せる。


 しゃがんでくれたラートさんにこっそり耳打ちもする。


「手紙出す許可が出たから……あの手紙、出そうと思ってて……」


「おぉ、例の……」


 お父さんとお母さんに手紙を出して、本物か偽物か確かめる。


 そのために、家族だけがわかる事を書く。


 その反応でわかるはず――。


「何について書くんだ?」


「んと、ピッピについて――」


「ぴっぴ?」


「ふたりでなにコショコショ話してるのん?」


 ボクと一緒に手紙を書いていたグローニャが、キョトンとした顔をしている。


 ごまかし、ラートさんには「後で話します」と説明しておく。


「手紙を書き終えたら、皆で一緒に遊ばないか? 方舟の出発時間が延びちまったみたいだからさ。バレットが遊ぶもの、見繕ってきてくれたんだぞ~」


 ラートさんがそう言い、荷物を持っているバレットさんの肩に手を回した。


 バレットさんは微笑しつつ、荷物を掲げた。それに遊ぶ物が入ってるみたい。


 手紙に書く内容は、もう決まってる。大事なことだから、「手紙で確かめる」って話をした時からもう内容は決めていた。


 だから、そんなに時間がかからないはず。


 けど……ボク、遊んでていいのかな……?


 お父さんとお母さんのことあるのに……。休暇まで……。


 そう思っていると、ラートさんが笑顔でボクの肩を叩いてきた。「いっぱい遊ぼう!」と言ってくれたので、とりあえず頷く。


「グローニャはいいや~」


「え~。何か用事あるのか?」


「むふん♪ レンズちゃんに、ぬいぐるみ作り教えてもらうのだ♪」


 グローニャちゃんはプクリと頬と鼻を膨らませつつ、嬉しそうにそう言った。


 レンズ軍曹さんもさっきまでここにいたけど、グローニャちゃんと約束をして、材料と道具を取りに行っちゃった。そのうち戻ってくるはず。


 グローニャちゃんの答えを聞いたラートさんも、嬉しそうに微笑んでいる。「それなら仕方ないな」と言い、今度はロッカ君とにいちゃんの方に向いた。


「ロッカとフェルグスも一緒に遊ぼうぜ!」


「あー……オレはちょっと、用事あるから」


 手紙用の紙を見て、ボンヤリしていたロッカ君が片手を上げ、そう言ってきた。


 用事……というか考えたい事があるらしく、「それ終わったら仲間に入れてくれ」と言った。


 にいちゃんの方は……返事をしなかった。


 毛布を被ったまま、ベッドに寝転んでる。たまにモゾモゾしているから起きていると思うけど……昨日からずっとこういう状態。


 先生に診てもらったけど、模擬戦の時みたいに体調を崩したわけじゃないみたい。……大丈夫かな?


「フェルグス? 寝てんのか? 俺らと遊ぼうぜ」


 ラートさんが笑顔でにいちゃんに近づいていく。


 それで、毛布の上からツンツンと突くと――。


「触んなっ!」


「おわっ……!?」


 にいちゃんが「ガバッ」と起きて、ラートさんを蹴った。


「馴れ馴れしくすんな。侵略者め……!」


「ふぇ、フェルグス……?」


 にいちゃん、怒ってる……?


 眉間にシワを寄せて、ラートさんをキッと睨んでる。


「に、にいちゃん。ダメだよっ……」


 椅子から飛び降り、にいちゃんのところに駆け寄る。


 ラートさんとケンカしちゃダメ。


 ラートさんは良い人なんだから――。


「にいちゃ――」


「黙れ! うそつき」


「えっ……?」


 にいちゃんは、ボクのことも睨んできた。




■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:狂犬・フェルグス


 皆がオレを見てくる。


 まるで、オレ様が「おかしい」みたいに驚いた顔して見てくる。


 違う。おかしいのはお前らの方だ。


 オレ達はネウロン人で、星屑隊の奴らは交国人なのに……馴れ合いやがって。


 巫術師(おれたち)が皆に嫌われ、憎まれ……ついには殺されそうになったのって、全部、交国人が悪いのに……!


 交国さえ来なきゃ、こんな事には――。


「アル……オレは知ってんだからな!? お前がウソついてること!」


「え…………」


「お前、自分の植毛が抜けたことでウソついただろ! 兄貴のオレにウソついてまで、クソオークに植毛を渡したかったのかよ!?」


「あっ…………!」


 アルがビクリと震え、気まずそうに目を伏せる。


 コイツはウソをついた。


 交国人に媚びるために、家族(オレ)にウソをついた。


「オレはお前の兄貴なんだぞ!? お前のこと心配して聞いてやった(・・・)のに、クソオーク庇うためにウソつきやがって!!」


「ご、ごめっ……」


「フェルグス。待った。聞いてくれ」


 クソオークが割って入ってきて、「多分、兄貴であるお前を心配しないために、咄嗟に隠しただけなんだ」「悪いのは俺だ」なんて言ってきた。


「これは家族の問題だ! 侵略者で部外者のお前は黙ってろ!!」


「う…………」


「フェルグス君。落ち着いて。そんな大声出さないで――」


「ヴィオラ姉もヴィオラ姉だよっ!!」


「わ、私もっ……?」


 割って入ってきて、アルとクソオークを庇ってきたヴィオラ姉にも文句を言う。ヴィオラ姉がビックリした様子で目を見開いている。


「ヴィオラ姉もアルも、交国人と馴れ合いすぎだ! オレ達がヒドい目にあってんのは交国人の所為だって忘れたのか!?」


「それは……。いや、ラートさん達は悪くないよ。ラートさんだけじゃなくて、星屑隊の皆さん、私達の味方だよ……?」


「交国軍人なら全員悪いんだよ!」


 そう言うと、ヴィオラ姉は少し表情を強ばらせた。


 そんで、オレを怒ろうと口を開こうとしていたが――。


「オレ、知ってんだからな!? ヴィオラ姉達が最近、コソコソしてんの!!」


「「「…………!」」」


「そこのクソオークと! アルと! 3人で何か企んでんだろ!? アルはウソつくし、お前ら全員オレに隠し事してるし……!」


「ち、ちがっ……!」


「オレはわかってんだからな!? バカにしやがって……!」


 オレが何にも気づいてないと思ってやがる。


 何をコソコソしているのかは知らないが、最近、ヴィオラ姉達の様子がおかしい。3人で物陰に集まって、コソコソ話している事が多い。


 オレの方が、クソオークよりヴィオラ姉と付き合い長いのに。


 オレはアルの兄貴なのに。


 それなのにっ……! オレを除け者にして、クソオークと絡んで……!


 オレは! アルとヴィオラ姉を守るためにも戦ってんのに……!!


「か、隠し事なんか――」


「してるだろ!? いま、ギクッしてしてたじゃんか!!」


 オレが一番詳しいんだ。


 アルとヴィオラ姉のこと。


 2人のこと、ずっと見守ってるんだ。守ってるんだ。


 オレは巫術が使える。アルほど観測得意じゃねえけど、それでも……第8の仲間の位置ぐらいは、巫術でちゃんと把握してる。


 だから、アルとヴィオラ姉がコソコソしていたら、直ぐに気づけるんだよ。2人の魂が、クソオークの魂と集まってるの……遠目でもよくわかるんだよ!


 オレが一番、お前らのこと守ってやってんのに。


 それなのにウソをついた。


 それなのに隠し事をしている。


 しかも、よりにもよって、侵略者の交国人に頼っている。


 それも、楽しそうに頼っている。


 アルは全然オレに頼らなくなった。


 いつもオレの後ろを歩いて、「にいちゃん、にいちゃん」と言ってたのに、今は「ラートさん、ラートさん!」と言っている。


 ヴィオラ姉はずっと、オレを子供扱いしている。


 クソオークばっかり頼って……そんで、クソオーク相手には……オレ相手には見せない顔、見せたりして――。


 2人のこと、ずっと守ってきたんだ。


 2人のこと、ずっと見守ってきたんだ。


 それなのに! それなのにっ……!


「フェルグス。落ち着いてくれ」


 クソオークがまた話しかけてきた。


 自分は大人ですよ、って感じの顔しながら――。


「お前が俺達、交国人に対して怒るのはわかる。でも、弟であるアルや、姉のように接してくれるヴィオラを責めるのはおかし――」


「うっせえ! お前の上から目線の言葉なんか聞きたくねえんだよっ!」


 クソオークに向け、毛布を投げつける。


 アルもヴィオラ姉も巻き込んだけど、知ったことか!


「侵略者のくせにエラそうにすんな! クズ! ボケ!!」


「ボケはお前だろ」


「あぁっ!?」


 窓際から聞こえた声の主に顔を向ける。


 ロッカがこっちを見てる。


 軽く睨んできてる。……まるで、オレが「敵」みたいな感じで……。


「ラート達は交国人だけど、エラい奴らに言われて仕方なくネウロンに来てるだけなんだ。ラートもバレットも、星屑隊の奴らは悪くねえよ」


「お前……侵略者共を庇うのか!?」


「実際、よくしてもらってるだろ。メシとか色々。繊三号の時なんて、最初は逃がそうとしてくれたじゃん。……お前だって感謝してたじゃん」


 ロッカもオレと同じ立場のはずなのに、ムッとした顔をしている。


 本当の仲間はオレなのに、交国人を庇ってきやがる。


「ラート達を責めたって、何にもならねえ。冷静になって――」


「オレはいつも冷静だ! 冷静に考えて、交国人と馴れ合うのはおかしいだろ!」


「…………」


「っ~……! グローニャ、お前もだ!!」


「ふぇ?」


 手でペンを弄びつつ、視線を泳がせていたグローニャを指さす。


 アルもヴィオラ姉もロッカも、交国人に毒されてる。


 でも、グローニャも同じだ!


「お前も交国人相手にデレデレしやがって! 侵略者共に媚びてまでぬいぐるみが欲しいのかよ!? お前ちょっと頭おかしいぞっ!」


「むぷぅ……! おかしいのはフェルグスちゃんだよっ!」


「なっ……!?」


 グローニャもロッカみたいな顔しやがる。


 オレが正しいのに、オレを否定してくる。


「ラートちゃんもレンズちゃんも、グローニャ達にやさしいじゃんっ! やさしくしてくれるから仲良くするのって、そんないけないことなのん?」


「でも、ネウロンがこうなったのは交国の所為で……!」


「フェルグスちゃんがおかしいっ! おかしいおかしいっ!」


「んだとぉっ……!!」


 拳を振り上げる動作だけする。


 すると、ヴィオラ姉が血相変えて「なにしてるの!?」と割り込んできた。


 殴る気はない。それっぽい動きしただけなのに――。


「っ…………!」


 マーリンまでオレを止めにきた。


 ふよふよ浮きながら「にゃぁ~ん」と鳴きつつ、オレの顔に体当たりしてきた。


 そんで、オレをなだめるみたいにペロペロと舐めてきた。ジャマだから払いのけると、「にゃぁ~ん」と鳴きながら向こうの壁まで飛んで行った。


「おかしいのはお前らだ! 交国軍さえ来なければ、ネウロンはずっと平和だったのに……! タルタリカが生まれて、みんな不幸にならずに済んだのに!」


 ネウロンがおかしくなったのは、交国が来てからだ。


 皆、そのことを覚えていると思ってた。


 それなのに……交国軍人相手に、コイツら……!


「交国人はクズだ! こいつも、そいつも――」


 部屋にいる交国軍人2人を指さした後、言葉を続ける。


「人殺しが仕事の軍人(クズ)だぞ!?」


「ラートさん達を悪く言わないでっ!!」


「っ…………!?」


 直ぐ近くで叫ばれた。


 オレの投げた毛布に絡まってワタワタしていたアルが――弱っちくてオレの後ろばかり歩いていたアルが、肩を怒らせている。


 震えながら、唇をキュッと結びながら、オレを見上げてくる。


「ぼ、ボクがウソついてたのは、ボクが悪いけど……! ラートさん達のことまで悪く言わないでっ! ラートさん達は、ボクらを助けてくれてるでしょ!?」


「お…………オレは、オレは! お前らのこと心配してやってんのに……!」


「ラートさん達も心配してくれてるもんっ! にいちゃんと同じで――」


 違う。


 こいつらは違う。


 こいつらは侵略者で、オレとは違う。


 立場が違う。


 行き場のないオレ達と違って、交国人は帰る家がある。故郷がある。


 オレ達より、ずっと恵まれている。


 それなのに――。


「そんなにクソオークのことが好きなら! そいつの弟になっちまえよっ!」


「えっ……!?」


「オレは! お前みたいな弟、いらね――――」


「フェルグス君っ!」


「フェルグス!!!」


 ヴィオラ姉が叫ぶ。


 けど、それ以上の大声でクソオークが叫んだ。


 メチャクチャ大声で叫ばれたから、身体がビリビリと震えた。


 ……クソオークが、メチャクチャ怒ってる顔をしてる……。




■title:<繊一号>の宿泊所にて

■from:死にたがりのラート


「お前ぇッ……! そりゃあ絶対、言っちゃならねえ事だろうがッ!!」


 フェルグスの両肩を持ちつつ、よく言い聞かせる。


 交国人(おれ)が気に入らねえのは仕方ねえ。


 何やっても許してもらえねえのは仕方ねえ。


 それでも、俺はお前らのために動くと決めた。


 けど、アルに当たるのは絶対に間違っている!


「俺のことは好きに言えばいい! けど、アルには謝れ!!」


「ぅ…………うっせえ! 何でテメエが指図してくんだよっ!」


「お前と同じ、弟を持つ兄貴として恥ずかしいんだよ!!」


 家族は大事なものだ。


 フェルグスだって、それはよくわかっていたはずだ。


 俺に対していらついたり……昨日の襲撃で心がグラついているのはわかる。


 だからといって、今のセリフは絶対に許されねえ。


 そう思い、フェルグスの身体を掴み、アルに謝るよう促していると、ヴィオラが硬い表情で俺の手に触ってきた。


「ラートさん。フェルグス君を放してあげてください」


「ヴィオラ。でも……!」


「ちょっと、フェルグス君と2人で話をさせてください」


 ヴィオラはそう言い、フェルグスを連れていった。


 フェルグスは抵抗したが、ヴィオラは絶対に手を離さなかった。


 2人が部屋から出て行く。


 フェルグスが出て行っても、部屋の空気は重苦しいままだった。





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